東方鉄聖竜~ブロントクエスト11 時すでに時間切れになった過去を求めて 作:F.Y
翌朝。ブロントさんたちは命蓮寺の門の前に立っていた。今日も多くの人々が寺の参拝に訪れいた。だが、今日は少々様子が違うようだ。門の前では青い頭巾を被った少女と大きな入道が列を押しとどめていた。
「皆さん、申し訳ないですが、今日の参拝は少しの間お待ちください。ただ今、問題が起きており、それが解決するまでは通行手形を渡することができない状態なのです・・・・」
「そんなこと言ったって、こっちは手形を貰わないと仕事にならないんだ」
「おいおい、勘弁してくれ。こんなところで足止めだなんて、冗談じゃないぞ」
「・・・・・何か問題が起きているみたいね。ブロントさん、どうするの?」霊夢が言う。
「む。まあ、ここのトップに会ってみるぞ。そうでもしないと何もできなさそうだからな」
ブロントさんたちは人々が門の前から去っていくのを待ってから、件の少女に話しかけた。
「おいィ、おもえは困り顔が鬼なると思った。まあ、一般論でね。一体、何が起きて居るんdisかね?」
「・・・・・・ええ?」
「おいおい、ブロントさん。これじゃ、相手も困ってしまうだろ。まあ、私たちはここの偉い人に会いたいんだが、通してもらえないか?」
「そうですか。わかりました、それにしても、あなたたちは随分腕が立ちそうですね」
「む・・・?」
「いいでしょう。では、聖に会わせてあげましょう。では、こちらへ」
雲居一輪と名乗った、尼僧のような恰好をしたその少女に続き、ブロントさんたちは寺の中に入って行った。
寺の中では多くの修行僧たちが慌ただしく駆け回っていた。どうやら、かなり深刻な問題が起きて居るようだった。
「全く、ご主人様はまたやらかしたのか。それにしても、あんなところに落っことしてしまうだなんて驚きだよ」
ネズミの妖怪の少女がショートカットの金髪の少女を見上げていた。金髪の少女は面目なさそうな表情で頭を抱えている。
「うう・・・・まさか、またこんなことになるだなんて・・・・・」
「とはいえ、ここの僧兵たちではあの辺りにいる魔物は太刀打ちできないからな。先ほど派遣した部隊も、大怪我をして戻ってくる有様だ。どうにかできないものか」
そうこうしていると、負傷した僧兵たちがやってきた。全員、負傷しており、鎧の一部には穴が空き、槍や剣は折れている。
「ほ・・・報告します。北の砂漠の魔物が再び暴れ出しました。監視していた我々が抑え向かいましたが、全く歯が立ちません。現在、少ない人数ですが、監視を続けている状態です」
「わかりました。まずは怪我人の手当を始めて下さい。これでは、次々と兵士を送るのは無駄なようですね。聖には私が報告を・・・・・・」
「わかりました・・・・」
命蓮寺の筆頭である聖白蓮は頭を抱えていた。これ以上、魔物の討伐にこの寺の僧兵たちを派遣するのは徒に負傷者を増やし、最終的には犠牲者を出すだけだというのはわかっていた。とはいうものの、西方の砂漠で暴れている魔物を退治しなければ、更に多くの人々を危険に晒し続けることになる。
魔物の第一報は、ここから北西方面へ食用となる珍しいサボテンを探しに向かった商人からあった。その商人は、仲間たちとともに目的の品を探していたが、突如として見たこともない魔物に襲われ、5人中2人が犠牲になってしまったという。
まず、白蓮は少数の僧兵の小隊を派遣し、偵察に向かわせた。だが、その僧兵たちは偶発的に件の魔物に出くわし、戦いの中で犠牲者も出てしまった。
僧兵の本隊をすぐに派遣したが、たった今、返り討ちにされて戻ってきたところだ。
おまけに、西の古いお堂から大切な独鈷を取りに向かった寅丸星がその魔物に追い回され、その独鈷を砂漠で無くしてしまうという有り様だ。
仕方が無いが、外部から戦いの腕に自信のある人妖を募るしかない。やがて、一輪と雲山が5人の客人を連れてこちらに向かって来るのが見えた。
「あら、一輪。そちらの方は・・・・・?」
「どうやら姐さんに用があるみたいのです」
「そうですか。では・・・・・」
白蓮はブロントさんたちに向き直った。
「ええと・・・・私に用というのは・・・・・」
「ええ、単刀直入に言うわ。私たちは命の大樹を目指して旅をしているんだけど、そこに行くには虹色の枝が必要になるの。ここにそれがあると聞いたのだけど・・・・・」
「うーん。それは難しいですね。実は、先日、この寺に賊に押し入られてしまい、その時に他のお寺の宝と一緒にどこかへ持ち出されてしまったのです。僧兵たちにその連中を追わせているのですが、まだ行方を掴めていないのですよ」
「その他にも問題が起きて居るみたいね」霊夢が続ける。
「ええ。西の方で狂暴な魔物が暴れていまして、ここの僧兵たちでは太刀打ちできない程強いのです。しかも、その魔物が暴れている場所で寺の者が大切な法具を失くしてしまい、探すに探しに行けない状態なのです」
そこへ一人の少女がやって来た。
「ちょっと、ここから西に向かおうとしてたのに、関所を通ることができないってどういうことなのよ!」
「シャンハーイ!」
ブロントさんたちが後ろを見た。その人物は、昨日、劇場で人形を操っていた少女だった。
「すみませんアリスさん。あの関所の向こうには凶悪な魔物が暴れていて、人間であれ妖怪であれ、通すことができないのです。退治が終わるまでこちらで待っていて貰えますか」
「どちらかと言えば大反対」
口を開いたのはブロントさんだ。
「ここでネガを吐いている暇があったら、俺は手を出すだろうな。と、いうことで、魔物退治は俺たちがやるんだが?」
「ああ。ここでじっと待っていても、埒があかないだろうからな。私はブロントさんに賛成だぜ。霊夢、小鈴、どうだ?」
「うーん、確かにここで待っているよりは現実的ね。ついでに失くした宝物とやらも回収してしまいましょう」霊夢は少し考えてから答えた。
「し、しかし、皆さん。あの魔物は、僧兵の一個小隊を返り討ちにするほど強いのですよ!あなた方だけでは・・・・・・」
「それなら、私も行くわ。いずれにせよ、魔物を倒さないと次の目的地にたどり着けないし、それに、ここに来るまでに伊達に魔物と戦ってきた訳じゃないのよ」
「シャンハーイ!」
「おいおい、大丈夫なのかよ。人形使いだと?」
「あら。私はあなたと違って生まれながらの魔法使い。つまり、私の魔力は先天的なものよ。魔物程度に遅れを取ることは無いわ」
「うーん、どうする?ブロントさん」
「戦いは数だよ、と俺に格闘術を教えてくれた先生がいたからな」
「囲んで袋叩きね。まあ、いいんじゃない?それに、件の魔物は随分と強いみたいだし」
「それに、こんな状況では、年に一度のあの行事が開催できないと判断したので、魔物退治をしようとしていたのよ」
「年に一度の行事?何だそれは?」魔理沙がそう言った一輪を見る。
「町の中心に大きな闘技場みたいなのがあったでしょ?あれは年に一度の競馬会を開催するための場所なの。明日がその日で、今日は各地から腕自慢の騎手たちが集まるはずなんだけど、今年は妙に集まりが悪いと思ったら、西の砂漠の魔物にみんな足止めされているんだわ!」
「なるほどな。ブロントさん、戦いの準備を終えたら、早速出発するか?」魔理沙が訊く。
「うむ。アイテムを買い込んだら、カカッととんずらできょうきょ参戦するぞ」
「ブロントさん、と言いましたか。それならば、この寺で一番脚の速い馬を貸しましょう。寺の者には、私から伝えておきます」
街で道具や装備を整えたブロントさんたちは、白蓮に言われた通り、寺のすぐ近くにある厩戸に集まった。そこでは、1人の妖怪の少女が馬たちの管理をしていた。その少女は三股の槍を持ち、背中には三対の触手のようなものが生えている。彼女は封獣ぬえ、と名乗った。
「あんたらが聖が言っていたブロントさんたちかい?馬は一頭でいいのか?」
「ほう、俺をさん付けで呼ぶ奴は本能的に長寿タイプ。ジュースを奢ってやろう」
ブロントさんは、まるで手品のように袖の下から瓶入りのジュースを出してぬえに差し出した。
「お、ありがとさん。それじゃ、気をつけてな」
ブロントさんは馬に乗り、荒野を西に向かった。魔理沙たちは、そのすぐ上を飛んでいる。サボテンボールやさまよう鎧、ブラウニーは馬の速さに追い付かず、ブロントさん一行を見逃すしか無かったが、キメラや怪しい影といった飛行型のモンスは追い付いてきたため、その都度、魔理沙たちが弾幕を放って退けた。
しかし、だ。やはりとにかく暑い。強烈な太陽の光が鎧を加熱させ、ブロントさんを蒸し焼きにする。ブロントさんはスカーフで汗をぬぐい、水筒からちびりちびりと水を飲む。
「ちょとsYレならんしょこれは。砂漠が暑いのはずるい」
「うーん、仕方が無いな。ほら」
「む・・・・・?」
「魔力で冷気を錬成して、身にまとわせてみたのさ。ちょっとはマシになっただろ?」
「これはえごいな。素晴らしい魔力だ素晴らしい!」
「へへっ、それほどでもないぜ!」
「それにしても、魔物はどこにいるんでしょうか?さっきから、サボテンボールやウィングスネークすら見かけませんが・・・・・」
「ブロントさん、ちょっと待って・・・・」
「む?」
霊夢たちが一旦着地した。そして、目を正面に向かって凝らす。よく見ると、砂丘の上で槍や剣を持った10人ほどの僧兵たちが円陣を組み、周囲を警戒しているようなそぶりをしている。
突然、凄まじい砂ぼこりが立ち上ったかと思うと、巨大な黄土色のエビともサソリともつかない魔物が砂の中から現れた。兵士の一人が反応する間も無くその魔物の鋭い爪で文字通りバラバラに切り裂かれた。
別の僧兵がなぎなたで斬りかかった。魔物の甲羅の一部が砕かれ、傷口から紫色の体液が飛ぶ。だが、彼ができたのはそこまでだった。4つの爪が体に突き刺さり、彼は傷から大量の赤黒い血を流しながら絶命する。
もう一人の僧兵が剣を持って斬りかかったが、どう考えても彼は武器の扱いに慣れているとは思えない動きだった。
「ブロントさん、まずいぞ!」魔理沙がその様子を見て叫ぶ。
「うむ。加勢するんだが・・・・・・一気に行くぜ!」
ブロントさんは勢いよく魔物に斬りかかった。