東方鉄聖竜~ブロントクエスト11 時すでに時間切れになった過去を求めて 作:F.Y
サソリの魔物は腕を持ち上げ、唸りながらブロントさん目掛けて振り下ろした。キチン質の皮膚とと鋼鉄がぶつかって鈍い音を立てる。
ブロントさんは剣を振り、魔物に斬りかかるが、鍛え上げられた鋼鉄の剣であっても、魔物の甲羅の表面を小さく砕く程度のダメージしか与えられない。
「ブロントさん、下がってくれ!」
魔理沙が八掛炉を掲げ、魔力を錬成した。炎が勢い良く吹き出すが、魔物の体表をかるく炙る程度の効果しか見られない。霊夢がどす黒いオーラを魔物にぶつけ、更に、飛び上がって上空から踵を叩きつけるが、まるで効果が無い。
「クソッ!なんて固さだ!」
一方の魔物は、吠えながら4本の腕を振り回し、霊夢に向かって突進してきた。だが、霊夢は、まるでそれを最初からわかっていたかのように飛び上がって避ける。
剣を持った上海人形が回転しながら魔物に斬りかかったが、表面を引っ掻く程度の効果の他は何も見られない。
その人形の持ち主、アリスは、今度は魔力を集中させた。巨体なサソリが青白い光に包まれる。だが、それだけで、何かしらのダメージを与えているようには見えない。
アリスは続いて、魔力をブロントさんにぶつけた。すると、ただでさえ極太なブロントさんの二の腕の筋肉が更に盛り上がり、血管が網の目のように浮き上がる。
「ブロントさん、これでいけるはずよ!」
「む、何だかわからんが、超パワーむくむくするのがわかるんだが。調子に乗るなよ!本気で行くぞ!」
アリスが放ったのは、筋力増強の術式だった。ブロントさんは剣を振りかざし、サソリの魔物に向かって振り下ろした。キチン質の皮膚の一部が砕け、飛び散った。ついに化け物の強固な装甲に綻びが生まれる。
霊夢が飛び上がり、モンスに蹴りを食らわせた。ブロントさんの攻撃ほどの効果は見られないが、魔物の甲羅にへこみができる。
このままでは不利だと思ったのか、巨大なサソリは叫び声を上げて砂ぼこりを上げながら地中に逃げ出した。
「や、やったのか!?奴は逃げ出して・・・・・」
命蓮寺の僧兵の一人が、なぎなたを構えて周囲を見回しながら言うが、霊夢が遮った。
「まだよ!気をつけて!」
若い僧兵の一人が槍を構え、周囲を警戒する。後ろに三歩ほど下がった時、何が彼の足首を掴んだ。
僧兵は叫び声を上げ、地面に向かって槍を滅茶苦茶に突き刺す。だが、サソリの魔物は信じられないほどの力で彼を掴み、そのまま砂の中に引きずりこもうとする。それに気づいた僧兵隊の隊長が僧兵の腕を掴んで引っ張る。
「クソッ!手を貸してくれ!」
他の兵士たちが魔物に引っ張られる兵士を助けようとする。魔物に捕まれている兵士の左脚が両側から引っ張られ、真っ直ぐに伸びる。兵士は痛みに顔を歪めている。
「こいつ!」
魔理沙が八掛炉を構え、意識を集中させた。八掛炉から大量の水が凄まじい勢いで放出され、バケモノの周囲の砂を洗い流す。魔物の姿が地面から現れた。
「これでどう!?」
アリスが魔法を放つ。先ほどと同じ、魔物の甲羅を柔らかくした術式だ。槍を構えた上海人形が敵の真上から突撃し、脆くなった外殻を貫いた。
化け物は叫び、4本の腕を上げた。その勢いで、掴まれていた兵士の膝から下が千切れ、宙を舞う。兵士の傷口から、おびただしい量の血が砂の上に流れていく。
「小鈴ちゃん!」
霊夢の声に、小鈴が反応した。左脚を失った兵士に向かって術式を放つ。だが、傷口を塞ぎ、出血を止めるまでの効果しか現れず、無くなった膝から下は再生することは無い。
馬鹿でかいサソリは、再び地面のなかに逃げようとした。霊夢がその動きに反応する。
「逃がさないわよ!」
霊夢は霊力をまとわせたお札を幾つも投げつける。それは、地面と魔物に張り付き、結界を作り出した。
化け物サソリは結界の霊力によって動きを封じられた。ようやくこれでまともに攻撃を入れられるだろう。
霊夢は真っ直ぐ地面に向かい、体を回転させながら、敵に何度も蹴りと体当たりを食らわせた。霊夢がその場を離れると、次の攻撃が魔物を襲う。
「やっちゃいなさい!」
「シャンハーイ!」
剣を持った上海人形が、全身を回転させながら何度も化け物を斬りつけ、次の仲間に攻撃の場を譲った。
「どこを見てる!こっちだ!」
箒に乗った魔理沙が、弾幕をばら蒔きながら魔物の上を通過した。魔力による爆撃を食らった馬鹿でかいサソリは、もう虫の息だ。
「ブロントさん!」
「うおぉぉぉぉぉ!生半可なナイトには真似できない、なんか飛び上がって回転しながら連続で斬りつける技!」
ブロントさんが剣を振りかざしながら飛び上がり、猛烈な速さで縦回転運動をしながら魔物を攻撃し、千切れたサソリの腕や脚、体組織が宙を舞う。後には、無数の破片となった砂漠の殺し屋がいた。
「は、はあ、はあ、やったのか!?それにしても、こいつ、何個の破片になったんだ?」
その場にへたりこんだ兵士がそう言うと、ブロントさんは9個でいい、と返した。
「いや、あんた。これだと9個どころじゃないだろ」
「おおーい!」
遠くから声が聞こえてきた。馬に乗った人々がこっちに向かってきた。
「あんたらは、命蓮事の人たちか?それと、この人たちは・・・・・・?」
「ああ。この旅の方々は、あの砂漠の殺し屋を退治するのを手伝ってくれたんだ」
「まあ、いいや。とりあえず、これでウマレースに参加できるようになるんだな」
「ウマレース?」魔理沙がキャラバンの先頭の男を見て言った。
「なんだ、お嬢ちゃん、ウマレースを知らないのか。命蓮寺で定期的に開かれる大会で、各地から腕自慢の騎士や旅人、そしてギャンブラーが集まる一大イベントさ。俺たちは、そのウマレースに参加するために、はるばる北の地から船を使ってまでもやって来たのさ。さて、こんな所で油を売っている暇は無いんだ。それじゃあな!」
男が手綱を引き、馬を命蓮寺に向けて走らせた。他の騎手たちもそれぞれ乗っている馬を加速させ、ブロントさんたちに黄色い砂煙を浴びせて走り去っていった。
「そういえば、何か頼まれていなかったっけ・・・・・?」魔理沙が右手で顎の下に触れて考えるような仕草をする。
「魔理沙さん、確か、命連時の人が大事なものをここで失くしたとか言っていませんでした?」小鈴が助け舟を出す。
「おっと。でも、こんなだだっ広い砂漠で落とし物を探すだって?どう考えても無理だろ・・・・・」
「言われてみれば、すっかり忘れてしまっていた感」
「うーん、ちょっとあの辺を歩いてみない?ブロントさん、キメラの翼、ありますよね?」霊夢が提案する。
「あるぞ」
「疲れたりしたら、それで命連寺に戻ればいいわ」
「なるほどな。それじゃ、ちょっくらその宝物とやらを探してみるぞ」
ジリジリと強烈な太陽が体を焼く。魔理沙とアリスが魔力で作り出した冷気が無ければ、5人ともとっくのとうに熱中症で倒れ、干からびてミイラとなり、裏世界でひっそりと幕を閉じていた事だろう。
「ちょっと、なんで私までこんなのを手伝わなきゃならないのよ・・・・・」
「シャンハーイ・・・・・」
アリスは不満そうに黄色い砂の上を眺めながら歩き回る。しかし、だ。そもそも、その宝搭というものがどういうものであるのか、ちっともわかっていないという問題がある。
砂漠をうろつきまわっていると、サボテンボールやおおさそりが襲ってくるので、その都度、退けねばならなかった。
それから、この日、十何回目かのサボテンボールの群れに遭遇した時だった。普通、薄い緑色をしているはずのサボテンボールの群れのうちの一匹に、なんと、全身金ピカのサボテンボールが現れたのだ。ブロントさんの言葉を借りれば、さしずめ『黄金の鉄の塊でできたモンス』といったところか。
「おい!あいつは転生モンスターとかいう奴じゃないか!」魔理沙がやや興奮気味に言う。
「何よそれは」そう返したアリスは冷静そのものだ。
「魔物の中には、転生モンスターといって、ああいう見た目が変わる奴がいるんだ。勿論、そんじょそこらの魔物に比べたら強いが、珍しいお宝を持っていることがあるとかいう話だ。さて、やっつけるか!」
魔理沙は開口一番、八掛炉を敵に向けた。そこから猛烈な勢いで水が放たれ、魔物を突き飛ばす。サボテンボールは反撃とばかりに鋭い棘を伸ばし、ブロントさんたち目掛けて転がってくる。
ブロントさんはサボテンボールの体当たりを盾で弾き、剣で真っ二つに切断した。他のサボテンボールは全く怖気づくことなく、襲ってくる。
霊夢が放った弾幕により、何体かのサボテンボールが皮膚が黒焦げになって倒れた。だが、例の金ぴかのモンスは同じように攻撃を食らっているはずなのに、それほどダメージを食らっている様子は無い。
「流石は転生モンスターと言うだけあって、他より頑丈ってやつか!」
魔理沙が魔力を凝縮させ、炎の帯として八掛炉から放った。小鈴が小さな竜巻を発生させ、サボテンボールの群れを切り刻む。
「行くぜ!生半可なナイトには使えないホーリー!」
ブロントさんが剣をかざすと、金ぴかの魔物が白い光に包まれて爆発した。が、まだ倒れた訳ではなかった。恐ろしく頑丈な魔物だ。
「これならどう!」
アリスが先ほど、サソリのバケモノの外殻を軟化させた術式を放った。金ぴかのサボテンの皮膚がこれで柔らかくなったはずだ。
「行くぜ!ハイスラァ!」
ブロントさんが剣をかざし、勢いよく振り下ろした。金ぴかのサボテンの魔物に大きく切り傷が刻まれるが、まだ絶命した訳ではない。
「しぶとい野郎だ!これを食らえ!」
魔理沙が八掛炉を構えた。それから無数の氷の刃が飛ぶ。金ぴかのサボテンはとどめを刺され、砂漠の上に転がった。
「ふう。さて・・・・・おや?これは何だ?」
魔理沙は金ぴかのサボテンの魔物が何かを持っていることに気づいた。それは、屋根のついた筒のようなもので、金色に光っている。
「うーん、もしかしたら、これがお寺の妖怪が失くした、宝塔とかいうやつじゃない?」霊夢がそれを拾い上げて言う。
「まあ、とりあえずこれは貰って行くぞ。これが例の宝塔だったらLSみょんれん寺に返してやるぞ」
「あーあ、もう、いつの間にか夕方じゃないの」
アリスが空を見上げて行った。太陽は西に向かって傾いており、空もオレンジ色に染まりつつあった。夜になれば、砂漠の気温は急激に下がる。
「じゃあ、これを使うか」
魔理沙が鞄の中からキメラの翼を取り出した。これを使えば、一番近くにある町に瞬時に飛ぶことができる。冒険者の必需品の一つだ。
「うむ。さっさと戻って、宿屋に行くぞ。それじゃ、頼んだぞ、魔理沙」
「ああ、任せてくれ」
魔理沙はキメラの翼を空に向かって放り投げた。