東方鉄聖竜~ブロントクエスト11 時すでに時間切れになった過去を求めて   作:F.Y

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失踪事件

 昨日の試合から一夜明け、早くも準々決勝進出者を決める16組による試合が始まった。ブロントさんと萃華の試合は、今日の午後に行われる予定だ。当然の事ながら、昨日までの試合に敗れた参加者たちが見物にやって来て、彼らのために用意された特別席に敗者たちが座っているものと思われていた。

 

「あれー?変だな。何で参加者特別席に誰もいないんだろ?」

 

 萃華は満員のコロシアムの様子を、参加者控え室の窓から見て言った。

 

「怪我で療養しているんじゃないですか?昨日、ブロントさんと対戦した人も、結構ひどくやられていたみたいですし」サポーターとして参加者控室にいる小鈴が答える。

 

「いやいや。毎年闘士として参加しているような奴らは、松葉杖を使おうが、腕を包帯で吊ろうが、見物しに来る奴らばかりさ。こんなの異常だよ」

 

 萃華は少し腕組みをして、何か考え事をする。

 

「む?どうしたんdisかね?」

 

「小鈴といったよね。悪いけど、この件、あんたたちの仲間にも伝えてくれるかな?どうも悪い予感がするよ」

 

「わかりました。それでは、これについては私や霊夢さんたちで調べておきます」

 

「よろしく頼むよ。うーん、どうも嫌な予感がするな・・・・・・・」

 

 

 

「うーん。ちょっと気になるどころか、どうもイヤな予感がするわね。私たちで調べてみましょう」

 

 小鈴から事の顛末を聞いた霊夢は、何か異常なことが起きていると結論付けた。

 

「でも、どうするんだ霊夢。いなくなった参加者の知り合いとかからあれこれ聞いてみるのか?」

 

 魔理沙はこの事態の調査には懐疑的な様子だった。

 

「まずは、参加者特別席とやらの様子を見てみましょう」

 

 

 

 参加者特別席はもぬけの殻だった。豪華な座り心地が良さそうな椅子には誰も座っておらず、この席の管理を担当している者も困惑気味の様子だった。

 

「うーん、誰もいないぜ。まだ見物に来ていないだけなのかもしれないぜ」

 

 魔理沙が部屋を見て言う。

 

「萃香さん曰く、普通なら、大怪我をしてようがお腹を壊していようが、熱が出ていようが平気で試合を見に来るような人たちらしいんです。そんな人が闘技場の観客席にやって来ないというのは考えられないそうです」と小鈴。

 

 一方、霊夢は部屋を見回し、目を細める。

 

「これは、やっぱり変ね。ちょっと主催者の人を捕まえて聞いてみましょう」

 

 

 

 霊夢たちは今度は武闘大会の運営者に会いに行った。確かに、話を聞くと、負けた参加者が見物にやって来ないというのは異常な事だという。そこで、主催者スタッフが一斉に武闘大会に参加した人妖を捜索することになった。霊夢たちがそうこうしているうちに、ブロントさんと萃香の試合が始まっていた。

 

 

 

 ブロントさんと萃香の対戦相手は、物凄く太ったレスラーのような妖怪の男と筋肉ダルマのような格闘家風の男だ。妖怪と人間。おかしな組み合わせだが、ブロントさんのコンビも人の事は言えない。

 

 対戦相手は、既に萃香の情報を得ていたのか、先にブロントさんを潰すことにしたらしい。二人がかりでブロントさんに攻撃を仕掛けて来る。

 

 ところが、それこそがブロントさんの狙いだった。相棒のメイン盾となって攻撃を受け、その間に萃香が相手を攻撃する。萃香の方は、鬼、という種族らしく、相手との体格差をものともせず、強烈なパンチを食らわせて後ろに突き飛ばす。

 レスラー妖怪の方が、後ろに飛び、地面に背中から倒れる。ブロントさんは攻勢に転じ、筋肉ダルマの顔面にメガトンパンチをお見舞いし、更に追撃のグランドヴァイパで与ダメージを一気に加速させる。

 

 デブのレスラー妖怪の方は、攻撃力と防御力に優れているが、素早さは『それほどでもない』といった様子だった。ちょこまかと周囲を動き回る、小柄な萃香の動きについていけず、息切れをし始めていた。

 疲れ切ったデブ妖怪の正面に立った萃香は、そいつの胴体に爆裂拳を炸裂させた。デブ妖怪は白目を剥き、背中から地面にバタリとと倒れてそのまま動かなくなった。

 

 一方で、筋肉ダルマの方は体力が優れており、ブロントさんと互角の勝負を繰り広げていた。正面から両者はぶつかり合い、ブロントさんは盾で、筋肉ダルマの方は両腕でお互いを押し、膠着状態となっていた。

 だが、筋肉ダルマは町の酒場などで荒くれ者相手に喧嘩をしていただけなのに対し、ブロントさんはこれまでの冒険の中で、そこらにいるモンス相手にリアルな殺し合いをやって来た。そして、その両者の実力差ははっきりと現れた。

 ブロントさんが盾で激しく筋肉ダルマを突き倒した。筋肉ダルマは背中から倒れたが、すぐに起き上がる。

 筋肉ダルマがブロントさんに思いっきり右ストレートを放ったが、それはバックステッポで避けられ、お返しのメガトンパンチを顔面に食らって後ろに倒れ込んだ。

 

「勝負あり!伊吹萃香、ブロントが準々決勝に進出です!」

 

「さんを付けろと言っているサル!」

 

 だが、ブロントさんの声は盛り上がって歓声と拍手を轟かせる観客によってかき消された。

 

 

 

 ブロントさんと萃香が試合を終え、参加者控え室に戻ってきた。そこで待っていた小鈴がブロントさんと萃香にコップに入った水を差し出す。

 

「おいィ、レイモたちはどこへ行ったんdisかね?」

 

「実は、ちょっと問題が起きていまして。この武闘大会で負けた参加者の人たちが行方不明になっているらしいんです。霊夢さんたちは、それについて調べに行っていまして」

 

「ああ、それについてか」萃香が言う。

 

「霊夢さんに言わせると、嫌な予感がするのだそうです」

 

「確かに、これに参加するようなのは簡単に人さらいに遭うような連中じゃ無いはずだけどね。うーん・・・・・・」

 

「おいィ、誘拐とか間接的に言って犯罪でしょう。そんなことをしたら、ムショで9年は臭いメシを食うことになる」

 

「9年どころじゃすまないと思うけど、まあ、まずいことになっているのは確かだね。今日の試合はもう終わりだし、準々決勝も控えている。霊夢たちが戻って来たら、ちょっと話を聞いてみよう」

 

 

 

 結局のところ、ブロントさんたちは武闘大会に参加している人妖が行方不明になっていることについて、一切の手がかりを得ることができなかった。

 

「明日は一応、休息日だし、知り合いにも声をかけてみるよ。この大会が始まって、こんなことが起きたのは初めてだよ」

 

「おいィ、ここに天狗ポリス的なのはいないんdisかね?」

 

「ここの連中は、公権力的なものを酷く嫌うんだ。殆どが、自由気ままに生きていたいという鬼や妖怪、そしてはみだし者の人間ばかりでね。こういう武闘大会も、そういう連中の集まりだからこそできることだし、それに、あの賞品、随分豪華だろ?ああいうのも、実際は出所のわからない盗品だったりする場合がほとんどさ。勿論、普通の町だったらこういうのは許されないけど、この旧地獄街道ははみ出し者やつま弾き者、はぐれ者の集まりさ。基本的に、殺し以外は許される。ここはそういう所なのさ。それじゃ、準々決勝の日に会おう」

 

 萃香はそう言って自分の家へと戻って行った。町行く人妖は、武闘大会の話ばかりしており、酒場や賭博場に向かう者も少なくない。それほどにまで、この件の話は広まっていないのか、人妖の関心を集めていないかのどっちかだ。

 

「私らもとっとと宿へ行こうぜ。この調査は明日になってからでもいいだろ?」

 

 魔理沙はこの件について、それほど関心を寄せている様子は無かった。だが、ブロントさんの仲間のうち、一人、この行方不明事件に、並々ならぬ異様さを覚えている者がいた。

 

「ねえ、ブロントさん。どうもこの行方不明事件、やっぱり嫌な予感がするわ。明日になったら、ちょっと調べてみましょう」

 

「でも、人さらいを探すだなんて、どうやってやるんだ霊夢。武術大会に参加している奴のうち、誰か一人を追跡して、人さらいに遭遇したところを捕まえるとでも言うのか?」魔理沙は霊夢の意見に懐疑的なようだ。

 

「そのまさかよ。いなくなっているのは敗者だけなんでしょ?次のブロントさんの試合に負けた人を見張って、人さらいがやって来たところを捕まえるの」

 

「そうね。霊夢の言う通りだわ。この件を解決するには、残念ながら、それ以外の方法は思いつかないわ」アリスは霊夢と同じ意見のようだ。

 

「うむ。それでは、そうしてみるか。つまり、人さらいがやって来るのを待って、拉致監禁をしようとしたところを俺たちで捕まえれば良いのだな」

 

「そういうこと。次のブロントさんの試合に負けた人がいたら、その人たちが誘拐されないように私たちが護衛するってこと」と、霊夢。

 

「そうか。それで、どうやってやるんだ?」

 

「次のブロントさんの試合の時、私たち全員で控室に入るの。そして、試合の途中、2人で対戦相手の控室の近くで張り込んで、人さらいがやって来た時に捕まえるのよ。勿論、試合が終わったら、ブロントさんにはすぐに駆け付けてもらうわ」アリスが作戦を説明する。

 

「よし、任せたぞ。俺は試合が終わったらすぐに誘拐犯がやって来る前にとんずらできょうきょ駆けつけて、誘拐犯の顔面にメガトンパンチを食らわせればいいんだな?」

 

「そういうこと。そうそう、私たちの方は、必ず二人で行動しましょう。一人でいて、誘拐に巻き込まれたんじゃ、元も子もなくなるわ」


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