そのため、本日投稿した十九話を消させて頂きました。
ご了承ください。
「さび……と……?」
吐血する錆兎。俺と真菰、義勇は目を見開いた。
「私がただでやられるわけないだろぉ。頸を斬られる前に仕掛けたあの針。あそこに一本だけ追尾出来る針を仕掛けた。本当は赤眼のお前をやるつもりだったが、まぁ良いだろう」
俺は錆兎の首元を見た。そこには針が一本刺さっていた。俺はすぐさま抜き取る。
「無駄さぁ。もう彼には鬼の……あの方の血が入っている。鬼になるのも時間の問題……」
そう言って針鬼は灰となって消滅した。
「錆兎……おい錆兎! しっかりしろ!」
「グハッ……兄、さん……」
「喋るな! 今藤の家に──!」
「もう、いい……早く……俺の、頸を……」
「斬れる訳ないだろ! お前は大事な弟だ! 一緒に帰るって約束しただろ!」
倒れる錆兎を抱える俺。すると錆兎の身体が少しずつ鬼化していく。角が生え、目が赤くなり、牙が生える。
「早く……俺が完全に鬼に、なる、前に……」
その言葉で錆兎の意識がなくなった。次の瞬間、充血させた目を見開き、俺を攻撃してきた。俺は瞬時に躱し、錆兎と距離を取る。
「グゥウウウウウ」
唸り声をあげる錆兎。いや、これはもう錆兎ではない。鬼だ。
「そんな……錆兎……」
目に涙を浮かべる真菰。
「目を覚ませ! 錆兎!」
声を掛ける義勇。だが、錆兎は返事をしない。
伸びた爪で俺達を攻撃する錆兎。俺はそれを躱す。
──ダメだ。完全に鬼になってしまってる。斬るしかないのか? 俺は錆兎を……
「グァアアアア!」
すると錆兎は俺の肩を掴み、頸を噛もうとしてくる。俺は頭を押さえそれを阻止する。
その時、錆兎の声が聞こえた。
「兄、さん……俺を殺せ……」
「な、何を言って……」
まだ錆兎は自我を失ってなかった。錆兎も必死に鬼の血に抵抗していた。片目だけ普通の錆兎に戻っている。
「俺はもう、ダメだ……このままだと、完全に鬼になる……その前に──」
「錆兎……」
「最初は色々突っかかったよな……けど、兄さんにボコボコにされて……」
すると錆兎が昔の話を始める。
「それから兄さんに稽古をつけて貰って、俺は隊士になれた……」
「やめろよ錆兎……」
「漸く、兄さんと肩を並べる事が出来る……そう思ったのになぁ……」
俺の目から涙が溢れて止まらない。
「けどな、兄さん……これだけは言える」
錆兎の目からも涙が溢れていた。
「俺は兄さんの弟になれて、本当に良かった……」
俺は今まで錆兎と過ごしてきた事を思いだす。
最初は確かに印象は悪かった。話しかけても無視するし、話しかけてきたと思ったら、いきなり闘えと言ってくるし。
俺に負けても、何度でも挑んで来た。諦めない心。それが錆兎の強みだった。
俺が久々に狭霧山に帰ったら、錆兎は隊士になって帰って来た。その時の姿はとても立派だと思った。
そして今回、俺達が一緒に任務を受けた。最初は燿哉にああ言ったが、本心では嬉しかった。
針鬼との闘いでも頑張ってくれた。俺が場を離れていた時でも、必死に食らいつこうとしていた。
そんな錆兎が、鬼になった。悔しい。守れなかった事が凄く悔しい。
「兄さん、最期のお願い……いいか?」
「……何だ?」
「兄さんの手で、俺を、斬ってくれ。それが俺の……最期のお願いだ……」
俺はこいつ等の兄だ。弟がそう言ってるんだ。俺は、腹を決めるしかない。
「……分かった」
「お兄ちゃん!」
「真菰。これが錆兎の……弟の最期の願いなんだ……叶えてやろう……」
俺は錆兎と離れ、俺は刀を握る。
錆兎は未だ抗っている中、その場で正座した。
「義勇……俺の手足を縛ってくれ」
「……やらなきゃ、ダメなのか……?」
「頼む」
義勇の目からも涙が出ている。涙を流しながら、義勇は縄で錆兎の手足を縛った。
「……錆兎。二人に何か言うことはあるか?」
頸を斬る前、俺は錆兎に聞く。
「そうだな……真菰」
「グスッ……何?」
「あまり兄さんを困らせるなよ。愛想つかされても知らないからな……」
「うん……気を付けるね」
「義勇」
「何だ……」
「あの時、お前と会えて、本当に良かった。お前は俺の親友だ」
「ああ……! お前は俺の友だ!」
「兄さん。鱗滝さんに伝えてくれ。俺を拾ってくれて、育ててくれてありがとう、と」
「わかった。伝えよう」
「胡蝶姉妹には、鱗滝さんをよろしく、と」
「……ああ!」
「じゃあ、頼む」
俺は剣を振り上げ、錆兎の頸を狙う。
「兄さん、ありがとう……」
その瞬間、錆兎の頸は宙を舞い地面に落ちた。そして灰となった錆兎は、隊服だけを残し、この世を去った。
☆☆★☆☆
「う、うわぁあああああああ!!」
佐助はその場に崩れる。そして泣き叫ぶ。真菰、義勇も涙を流す。
大切な家族を失った。自分の手で殺した。守れなかった。
──すまん錆兎……! 俺が弱いばかりに……
錆兎を斬る時の錆兎の表情が脳裏に焼き付く。笑顔だった。自分が今から死ぬにも関わらず、笑顔だった。
──無駄にはしない……! 錆兎の死を……!
「真菰、義勇」
佐助は立ち上がり、二人の方を向く。
「強くなろう。錆兎の死を無駄にしない為にも……」
「兄さん……」
「ここで立ち止まってられない。俺達は前に進むんだ」
そう言う佐助のその眼は、六芒星となっていた。
次回
「前に進む者」