まよチキ! 〜チキンに噛み付くオオカミさん〜   作:パン粉

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★☆★☆★☆

 

 

 脱衣所でイチャイチャしたいな、と思ったら、狼は気にせずさっさと脱いで、先にお風呂場に入っちゃった。私の身体を見る間も無く、ね。なにかしてくれるのか、なんて思っていない。彼のことだから。にしても、つれないのは少し寂しいわ。

 

 私も、いつもの服を手早く脱いで裸になって、お風呂場へ突撃して、すぐさま狼を見つける。広い背中に抱き着いて、胸を押し付けたら、狼は動きにくい、離れてくれ、と何の焦りもなく私を押し退けた。この予想も、もちろん出来ていたわ。焦りもなく、毅然とした態度で、ね。スタイルに自信がある私だけど、そんなことは狼には関係ないの。

 

 改めてよく見たら、彼の身体には、首筋から足まで、色んな傷痕が付いていて、ああ、本当に戦争してたんだな、って解った。そして、この傷痕も狼の魅力。ワイルドな感じがとてつもなく出て。スーツを着ている時は華奢で、顔は女の子みたいなんだけど、脱いだら凄いのね。盛り上がっている背中に、見事に割られた腹筋。見惚れてうっとり眺めていたら、狼は私の顔に手を被せてきた。

 

「あまり見るな、君が見ていていいものじゃない」

「かっこいいじゃないの」

「……そうか」

 

 その大きな掌にも傷がある。拳はゴツゴツして男らしい。私の感想を聞くも、やっぱり無表情。どうしたら、その余裕を壊せるのかしら?手当たり次第、色々やってみましょう。ええ、マチガイが起きても、私は大歓迎よ。

 

 わざとその厚い胸板に顔を押し付け、甘えてみる。やっぱり女の子と違って、硬いわね。鼓動も落ち着き払って。なにより、とても落ち着いてしまう。ふふ、狼。この胸に抱かれる時を期待しているわよ?

 

「なんだ」

「いいじゃない、裸の付き合いって。姉弟(きょうだい)なんだし、ね?」

 

 流石に15,6にもなって一緒にお風呂に入る兄弟なんていない。節約という、我が家には無縁の言葉が家訓の世帯でも、異性同士ならば絶対あり得ないでしょう。でも、私たちならありえるの。というか、私がするの。ええ、わがままよ?そのどこが悪いの?ふふふ。

 

 でも一転、急に視界が変わった。狼が私の肩を抱きながら、くるりと半回転し、椅子に座らせてくれた。シャワーヘッドを取り、お湯を優しくかけた後は、シャンプーを泡立てて、その大きな手で丁寧に私の髪を洗い始める狼。なにこれ……!私、今すごい体験してる……!ドキドキが止まらない……!

 

 労るようなその手捌き、指遣い。エステとは比べ物にならない、気持ち良く感じるこの手。思わず、私の口から声が漏れちゃう。しかも、今まで出したことのない様な、少しエッチな声が。

 

「嬌声を出すな」

「ええー、だって気持ちいいんだもの」

「全く……。流すぞ、眼を瞑れ」

 

 怒られちゃった、でも嬉しい。怒られたことなんて、狼以外にはないもの。先ほどの狼の言葉通りにして、泡が全て流れるまで、目を瞑ってじっとしている。そして、髪の次は身体。この艶肌を、狼はどのように洗ってくれるのかしら?どこを触るの?どこから洗うの?期待しか胸にない。

 

 ふふふ、と勝手に顔が綻んじゃう。それに気づく狼から、またもや気遣いの一言。この状況でも、ずっと彼は自分を貫いていて。私にはできないことよ、特に彼の目の前はね。

 

「優しくしてやる」

「うん。揉んでもいいのよ?」

「お前の腹の中、全部漂白してやりたい」

「冗談よ」

 

 背中、腕、首、胸、そして……。身体の隅々まで、柔らかいスポンジで、傷付けないように洗ってくれる狼。さすがに二度目は叩かれると思ったので、ニコニコしながら口を塞いだままでいた。でも、凄い気持ちいいわよ?はしたないけど言うわね――ほぼイキかけました。

 

 私は狼と違って、背中も手も小さい。さぞかし洗うのが楽なのでしょう。彼の体格に肩を並べる人なんて、そういないけど。流やコサメより大きいのよ?

毎回スバルと私は彼を見上げてるわ。彼も屈んでくれているけどね。

 

 さあ、交代。私のご奉仕の番よ、狼?

 

「今度は私が洗ってあげるわね」

「もう洗った」

「いやいや、貴方の身体の隅々まで……」

 

 私の身体を洗ったスポンジで、そのまま狼の身体を舐め回すように洗う。傷痕には十分注意して。そして、悪ノリして、胸で背中を洗い――だけどやっぱり、狼はノーリアクション。流石、フォノン。ちょっとくらい慌てて欲しかったけど、ここまで意識されないと、悲しいわね。でも、やめるわけないでしょ?

 

 ざばっと流して、一緒に湯舟に浸かる。狼は湯舟の壁に背中をもたれ、顔を上に向け、リラックスしている。あら、この時は、険が取れるのね。こんな顔も出来るなんて、流石狼。

 

「奏」

「なにかしら、狼?」

「なんで私の膝に座っている」

「貴方の顔が見たいのよ」

「面白くはないぞ」

「いいえ、面白いわ。私は、貴方の顔"も"好きよ」

 

 一番好きなのは、狼の優しい心。ずっと私を気遣ってくれて、私の心を見抜いて、私の支えになっている。本人には、自覚はないのでしょうね。正直にいつも生きているから、行為の全てが本心からなのでしょう。

 

 うん、考え直すと少し妬けちゃう。私にだけ、ってのは、わがまま過ぎるかしら。いいもの、2人きりだったら独占できるし。私だけの特権よ――スバルは許してあげる。

 

「ねえ、そんなに私は魅力がないかしら?無反応なんて悲しすぎるわ」

「興味がない。坂町に聞いたらどうだ、きっと求めていた答えが返ってこよう」

「私は、貴方から聞きたいの。もう……人生の半分は損してるわ」

「……そうかもな」

 

 人生、という言葉を聞いた途端、狼の顔が少し哀しみを帯びた。彼の人生は、私が買っているようなもの。だけど、その半生は彼が望まずして踏み込んだ悲惨なもの。

 

 戦争なんて、可哀相な孤児なんて、無くなってしまえばいい。苺も孤児で、お父様が引き取ったし。だからなのかしら、狼と苺は仲が良い。そして、狼も、あれだけお金と言っているのに、孤児院や発展途上国、紛争地帯に義援金を送り続けている。自ら経験した哀しみは、新たな世代には経験させたくない――そんな気持ちが、何も知らない私にもわかっていて。

 

 少しナイーブになった私を察し、狼は私の頭を撫でてくれた。狼に撫でられるなんてはじめて。しかも、好きな人の手よ?本来は、お姉ちゃんである私が撫でる側なのに。でも、そんなのは些細な事。無骨な手が、私にはとても新鮮で、温かい。

 

「今が楽しいから良い。君にスバルもいる。2人に会えなかったら、もっと損をしていたかもな」

「貴方がそんなことを言うなんて、珍しいわね。私も、貴方に会えなかったら、今の人生がつまらなかったかも」

「ふ、出会えてよかったな」

 

 私も、貴方に出会えてよかったわ。初恋がスバルかと思っていたら、本当の初恋の相手は狼、貴方だもの。優しく厳しい、クールなオオカミさん。そんな貴方に、私の全てをあげたいわ。

 

☆★☆★☆★

 

 20分程して、ぽんぽん、と頭を軽く叩かれた後、狼は湯舟から上がった。シャワーで汗を流して、脱衣所で古ぼけた迷彩柄のズボンを穿く狼。私も彼に続いて、パジャマに着替えて、狼の腕に引っ付きながら、彼の部屋に入る。

 

 本当に、殺風景な部屋。絨毯に、机に、ベッドに、さっきの服。それしかない。去年より、いくらか物は増えたけど、シンプルっていいわよね。狼もシンプルなことは気に入っているみたい。効率を考える、ってのが彼のモットーだからかしら。

 

 壁掛けの時計が、そろそろ11時になることを教えてくれる。狼は半裸のままでベッドに入った。なるほど、彼は寝るときは上は裸なのね。海外には、結構全裸で寝る人もいるんだけど、半裸、ね。なんか、より色っぽく見えるのはなぜ?

 

「明日も早い、早めに寝ておけ」

「うん。今日はいつもよりぐっすり眠れそう」

 

 狼の右からベッドに入って、狼の胸に頭を置く。やっぱり、ここが落ち着くわね。一番好きな所かもしれない。ふふ、これも私だけの特権。だけど、さらにわがままも言ってみましょうか。

 

「こういうときは、男性は女性を抱き締めるもの――あ」

「これでいいか」

 

 言いかけている私を、右腕で優しく抱きしめてくれる。いつもより優しい狼。これも素だろう。いつも彼は私に本音でぶつかるから、このハグも本心からだと思う。間違いない。

 

 暖かい腕、身体。そして、彼の真心。狼の温もりに、私はいつでも、いつまでも抱かれたい。本当に私は狼が好きだ。周りから馬鹿にされようが、何を演じていようが、誰が相手でもそれだけは隠さない。

 

 気が付いたら、彼は険が取れた優しい顔で、既に眠りに付いていた。私は気づかれぬ様に胸に頬擦りをしてから、寝ている狼の唇に、ゆっくりと私の唇を重ね、ファーストキスを彼に捧げた。

 

「好きよ、狼。貴方を愛しているわ」

 

 

 

△▼△▼△▼

 

 うわぁ、お嬢様大胆だなぁ。思わずボクまで赤面しちゃうよ。お風呂から見てたけど、狼はよく理性を保ててるね――ああ、興味ないんだっけ。

 

 すっごい気持ち良さそうに寝てる、狼とお嬢様。そんな可愛い顔をするんだ、って思いながら盗見してるボクは変態かな。どこか罪悪感を感じるし、少し胸がワクワクドキドキしてる、し。なんでだろう。

 

 ――なんだろ。胸がチクってする。

 

 いやいやまさか、ボクが狼に惚れるなんて、あるわけがない。お嬢様――カナちゃんにだろう。うん、きっとそうだ。きっと――。

 

▲▽▲▽▲▽

 

 流です。若いっていいですね、私も若かりし頃を思い出しました。しかし、これは見過ごして……、まあ、狼様とお嬢様がこうなることは判ってましたし、逆に応援します。例え旦那様がお怒りになられても、って逆に楽しんでるんでしょうねぇ。長らく仕えていればわかります。ええ、何も問題はありません。流はなにも知りません。

 

 壮大な廊下に並ぶドアから、狼様と奏様のキスを覗いているのは、我が愛娘・スバルではないですか。いけませんよスバル。ここから先はR指定――つまり、ゲットアウトなわけで。親心から、スバルの後ろから声をかけました。

 

「プライベートな事に、あまり首を突っ込むんじゃない」

「あ、お父さん」

 

 顔を見れば分かります。妬いているんですね。ええ、お前は顔に出やすいです、本当に。パパは許します、狼様に惚れること。抱かれてしまいなさい、お嬢様より先に。

 

 

「なあ、スバル。お嬢様達が羨ましいか?」

「……わからない。でも、少し胸がチクってするんだ」

 

 年頃ですね、私の愛娘も。やはり、狼様に初恋でしょうか。あれだけ、互いを相棒と言って親しんできていましたが、流石に相棒だけじゃ満足いかなかったようですね。年頃の悩みを持ってくれて、父親としては嬉しいぞぉ。悩みはいつでもウェルカムだぞぉ構ってくれ。頼むから。

 

「カナちゃんが、取られちゃうんじゃないかって」

 

 それは、必死に誤魔化したつもりなんでしょう。わかりますよ。お前は狼様に惚れているのです。視線、どこに行ってますか?狼様の寝顔ですよね?可愛いですね。ええ、一番は私のスバルですけど、

 

 ――頑張れ、少年少女。命短し、恋せよ乙女。執事になれなくとも、お前が幸せになってくれれば、俺は幸せだぞ。

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