まよチキ! 〜チキンに噛み付くオオカミさん〜   作:パン粉

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◆◇◆◇◆◇

 

 

 やけに今日のスバルの荷物が多いな、と思ったら、こういうことだったのか。学校で車に乗って帰らない意味がようやくわかった。早速、奏の癌の発作の餌食になったのだ。しかし、な。

 

《に、似合ってる、か……?》

「……」

 

 放課後。今日から坂町の女性恐怖症治療で、奏がスバルに女子用の制服を渡したらしい。まずはゲームセンターに行く予定だったらしく、その場所のトイレで彼女が制服に着替えて姿を表す。私は、奏と共に、近くの漫画喫茶で窓硝子越しに彼女の格好を見、その新鮮な姿に言葉を失い、そして自然と凝視していた。

 

 ――これじゃ、誤魔化しもきかんな。これだけ、可憐な女子の姿をしているのだ。

 

「流も、その格好を見たかっただろうな。似合っている」

《ほ、本当か!?》

「本当よ、とても似合ってるわ。さぁてジローくん――」

 

 スマートフォンを奏に渡し、私は水を飲みながら、植物事典に眼を落とす。指示を出し終わった奏がこちらを見て、"図書館の方がよかったかしら"とか呟いていたが、彼等の行動を見やすいここはベストポジションだろう。

 

 そのおかげか、坂町達を尾行している。ピン留めを付けた桃色の女子を見つけた。宇佐美ではないようだが、S4でもないようだ。それに視線が坂町寄り。何か訳がありそうだが、な。一応、奏に聞いておくか。

 

「あの子は?放っておいていいか?」

「ああ、いいんじゃない?危なさそうな子じゃないし」

「そうか」

「それよりあなた、植物好きだったっけ?今朝は天体に興味示してたじゃない」

「結構役に立つ。そこらに生えている雑草だって薬になったりする」

「薬局とか、ドラッグストアに行きましょうよ。なんでもあるわよ」

「傷とかは薬草の方が治りが良い。経験上はな」

「へえ」

 

 今朝の傷は既に塞がっている。それを奏に見せれば、薬すら要らない、とまで言われたが。確かに、回復は早い方だ。それは自覚している。でも、念には念を、だ。自室に練った薬草を詰めた小さいボトルを置いてあるから、明日からそれを携帯しよう。

 

 本から窓にまた眼をやる。今の坂町とスバル達の行動、どうみても学生カップルにしか見えない。うふふ、と奏が微笑ましそうに彼等をみて声を漏らし、私達もああいうような空気にしましょうか、と言い、彼女の飲んでいるオレンジジュースに、絡み合う二本のストローを入れ、私の目の前に差し出した。飲み口が二つあり、彼女がそのうちの一つに口を付けるが、私はそれを気にせず自分の水を飲む。にしても、こんなもの、呑み辛いだろうに。

 

「つれないわねえ、お姉ちゃん寂しいわ」

「そういうことは、彼氏を作ってからやるんだな」

「あなたがいいの」

「正気か?弟だぞ?」

「狼は私にとって、特別なのよ」

「――スバルから聞いたが、お前、昨夜私にキスをしたそうじゃないか。弟に発情するな」

「あら、じゃあ襲っちゃおうかしら」

「馬鹿か……」

「それよりも、今はジュースよ」

 

 強引に奏に頭を引き寄せられ、ストローをくわえさせられた。反抗は無駄な様だ、仕方なくそれを共に飲むが、何故かサングラスを外される。全く、横から手を出すな。

 

 奏の眼をふと見つめると、いつものように透き通ったルビーの瞳が、私だけを映してそれを離さない。スバルや坂町よりも、私を見る時が一番奏の眼が澄んでいる。私は彼女の命を預かっているのだから、なのだろう。強く信頼されている。

 

 とはいっても、恋愛沙汰に巻き込むなよ、奏。私は、今はお前と恋人関係になるつもりは、サラサラない。

 

(おいおい、バカップルかよ……)

(死ねリア充)

(ヲタクカップルで御座るか?拙者は応援するで御座るよ)

 

「注目の的ね♪」

「当主に知られたら私はクビだぞ」

「あら。お父様は逆に応援するらしいわよ」

 

 やはり、血を分けた親子だな。流とスバルしかり、あいつらも頑固なところはよく似通っている。当主も奏も、どこかハプニングを心待ちにしている。全く、面倒な2人に仕えてしまったものだ。だが、後悔は自然とない。

 

 ――私の血縁はどんなのだろうな。少しばかり、興味はある。ただ、混血のルーツを探るのは骨が折れそうだ。

 

「あら、羊のぬいぐるみを持って出て来たわ。UFOキャッチャーで取ったのかしらね。スバルもなんか嬉しそう」

「趣味が悪い……。なんで吐血してるんだ、ファンシーなのか、ショッキングなのか、よくわからん」

「あの子のセンスは独特だから。パンツも猫ちゃんでしょ?」

 

 なんで知ってる、お前。それよりも、坂町が困惑しているのが目に見える。全く、スバル、お前の感覚は……。

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 ゲームセンターを後にしたスバル達を、ストーキング女子も見つつ尾行して、夕暮れの公園に入ったところに、奏がスマートフォンでスバルに指令を出した。嗚呼、坂町。お前はなんて不幸なんだ。そして、スバル。お前が玩具にされる光景は何度も見てきたが、いつも私はお前を気の毒に思っている。

 

 この私の隣の悪魔の所為だ。こいつが動きすぎなのだ。今は私の腕にくっつき、しかもそのまま腕に頬擦りしている。こんな公園の茂みの中で、スバル達をのぞき見しながら。本当に奏はいい根性をしている。が、仕事で付いている私が言えたことではない。現にこうして、2人を尾行している訳だし。

 

「ミッション1♪」

「……視線が泳いでいるな」

 

 私達もそうだが、それよりも奴らの近くの植え込みに隠れた桃色少女の眼は、スバルと坂町二人をずっと見つめている。しかも坂町ではなく、スバルを睨み付けている。狙いはそっち、だとすると厄介なあの2団体の回し者ではない。

 

彼女に何か危害があったら、と思い、私は念の為に麻酔銃を胸元から出し、サイトを女子に向け、狙いを定めた。レーザーサイトやフラッシュライトは外して。クロムフィニッシュでなくてよかった。もしそうだったら、夕陽の反射でバレて、狙っていることが気付かれ易くなる。

 

「大丈夫?鼻血は出てない?」

《ああ、なんとか》

「そう、よく耐えたわね?ふふ、ご褒美に……お昼に渡した執事券、使っていいわよ」

「あれを渡したのか?」

「ええ、だって面白そうじゃない。ペットが言うことを聞いたら、ご褒美をあげるのは当たり前でしょう?」

 

 歪んでいる。最早ここまで、とは。スバルはともかく、坂町はお前のペットじゃないんだぞ。オモチャにどこまでもしたがる。殆ど手遅れなその性格、誰がコイツを止められるのか。

 

 ああ、解説しておこう。執事券というのは、『その券1枚につき、スバルがなんでも言うことを1つ聞く』、という物だそうで、幼少期にスバルが奏に渡してから、奏は大量生産して持っているらしい。因みに使用する人物は問わないのだそうだ。アイツの真心、弄ばれている。

 

《な……何か御用でしょうか、御主人様……》

「お前の命令以外は聞きたくないスバルが、あそこまでやるなんてな。執事券もあるが、坂町……。お前は面白い男だ」

「顔が物凄い引き攣ってるけどね、スバルは」

「当然だ。嫌々だからな」

 

 銃の狙いをぶらさず、坂町の表情を見る。何やら顔が緩んで、鼻の下が伸びている。スバルでいかがわしい妄想をしている――性の妄想ごときにワクワクするな、坂町。お前の顔に、今踏んでいる土をぶつけ、そのニヤニヤを止めてやりたい。

 

 しかし、直前の問題はそこではない。今は、坂町に狙いを定めている女子に集中すべきだ。坂町が羊の鳴き真似をスバルに要求し、スバルが律儀にそれに応え、そして報復として坂町に仕掛けようとしていた。その命令の魂胆ははたまた読めん。それと同時、桃色少女が飛び出し、坂町目掛けてドロップキックを放ったのだが、よく見たら、非常に彼女は坂町と顔が似ているのに気付いた。

 

「妹か?」

「やっぱりおかしいと思ったんだよ!!今朝からずっと尾けてたら……ま、まさか近衛先輩が……」

 

 見事に坂町に命中。ああ、兄妹喧嘩が始まるのか。なら、私が手を出すのは無粋だな。懐にM9をしまって、その光景を静観することにした。隣の小悪魔の病気が、少しうつってしまったのか。面白い、そう思ってしまった。

 

 途端、静寂を、ソプラノボイスが切り裂く。意外や意外、勘違いは誰だってすることではあるが、予想は覆され。

 

「女装趣味のある変態さんだったなんてー!!」

「は?」

「はぁ?」

 

「女装……趣味……ふっ」

「よかったわね、あの子勘違いしたわよ」

「普段を見てたら、女装だと思うのは当然か」

 

 何はともあれ、事は丸く収まりそうだ。スバルを泥棒猫と言ったりしたり、しかもスバルに襲い掛かったりしていたが、彼女の動きではスバルに攻撃は当たらないだろう。逆に、坂町妹の身が心配だ。

 

 案の定、するっと身を捌いてかわし、そのままスバルは彼女の頬に蹴りを放って吹っ飛ばしたのを確認した。はあ、またか。護衛とはいえ、力加減を間違えてはなかろうか。

 

「こ、こんなのって……聞いてないよぉー!?」

 

 大泣きしながら坂町妹は走って去っていったが、スバルの顔に、後悔の表情が現れていた。そんな顔、今更しても遅い。力加減も考えていなかっただろうに。とにかく、場の収拾を。私は奏を引っ張り、彼等二人の前に現れて、私はスバルに話し掛けた。

 

「私はお前に、喧嘩を教えた訳じゃないぞ」

「うああ……。やりすぎかな……」

「いんや、紅羽はああでもしねえと止まらなかったよ」

「坂町、妹さんには悪いことを……」

 

 ふむ、やはり妹だったか。名前も知れた、紅羽(くれは)だな。

 

 鞭のような蹴りを受け、吹っ飛ばされ。それを目の当たりにする兄は、こんなに冷静にいられる。妹を良く知っている兄だからか、昨日の記憶から思い出す。そういえば、中々乱暴な妹だと言っていたな。

 

 鼻血を拭いて、また明日な、と坂町は帰路に着いた。またスバルの尻を拭うのか、これで何度目だ。全く……。ともかく、スバルにやらせるのはあまり良くなさそうだ。そう思えば、すぐさま苺に着信をかけて車を手配し、奏をスバルに任せた。

 

「ろ、狼?怒ってる……?」

「何。怒ることじゃないし、悪いのは誰でもない。原因は奏だしな」

「てへぺろっ」

 

 いらっとしたので、奏の頭に軽く拳骨を落とした。頭を抱える彼女だが、全然痛そうに見えない。

 

「先に君達二人で帰れ。今日のことは、私がなんとかしておく。が、スバル。ちゃんとお前自身でも、ケジメはつけろ」

「うん……。ごめん、狼」

「わかればいい。奏、スバルは任せた」

「おまかせあれっ♡」

 

 逆なのは気にしない。スバルのメンタルも、今は弱っているからな。彼女らを車に乗せ、苺に予定を話し、遠くなっていくテールランプを見送る。さて、私は菓子折りでも買って、謝りに行くか。

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