まよチキ! 〜チキンに噛み付くオオカミさん〜   作:パン粉

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第二章 オオカミ、尻尾を掴まれる
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◆◇◆◇◆◇

 

 

 身体測定当日。私は、急に奏に呼び出されて、至急女子の身体測定会場に向かう。体操服に着替えていた途中だったので、仕方なく体操服のまま彼女の元に着くと、身体測定中のボディガードをも頼むということだ。

 

「確かに忘れていたのは悪い。だが……場が悪すぎるだろう」

「あら、そういうわけもなさそうよ?」

 

 周りの目が私に集中している。これが嫌なのだ、そう言っているのだよ、私は。全く、仕事とはいえども、頭を悩ませてくれる。

 

 仕方なく奏の脇に立ち、測定中に担当が変なことをしないか見張る。ただ、こいつらは涼月グループの医者達だろう、別にこんなことしなくていいんじゃないか。気になるなら、スバルを連れてくればよい。女とバレなければよいのだ、なら適任だろう。あいつは男に慣れていないだろうから、より適当な配置だ。

 

「聴診が終わったら、戻っていいわ」

「了解」

「ただ、聴診も横で見るのよ」

 

 こいつ、わかってやってるだろ。体重、身長、胸囲……。わざと見せ付けるように動いては、胸囲測定の時はわざと大袈裟に服をめくるし、聴診なんか、わざとこけて私に胸を押し付けてきた。なにがしたい、理解ができん。

 

 聴診が終わって、すぐに男子の会場に向かう。足を踏み入れた途端、なにやら騒がしいな。これまた聴診の場所で、坂町がスバルに抱き着いて失神しているではないか。恐らく、彼はスバルが女であることをバレないようにしたのだろう。

 

 全く、律儀な奴だ。約束を守る為に、してくれたのだろう。今日はスバルを知っている医者だから、別にそんなことしなくていい。のだが、私が伝えていなかった。奏に口止めされていたのだ。

 

「あっ、狼」

「続けてくれ、私は坂町を運ぶ」

「あ、ああ。助かる」

 

 漢気は買おう。口止めされていたとはいえ、私にも非はある。その落とし前をつけるべく、彼を抱き抱えて保健室へ。どうやら養護教諭も出払っているみたいだ、私が傍にいてやるしかない。

 

 自分も、まだ測定は終わっておらん。身長計、体重計はこの部屋にあるから、自分で計れそうだが、胸囲と聴診はどうしようか。一人じゃ中々辛いものがある。胸囲は目盛りが見えないし、聴診は知識がない。まあ一人で出来るところまでやるか。恐らく後で呼ばれるだろう。

 

「身長……185cm」

「へえ、あんた結構デカいのね」

「宇佐美?なぜここへ」

「あんたがそいつおぶって保健室に入っていくのを見たから、どうしたのかと思ってね。それにアタシ、保健委員だしさ。手伝うわよ」

「ふむ。恩に着る」

 

 身長計から足を離せば、宇佐美がドアを開けて入ってきてくれた。運が良かった、のだろうな。保健委員会所属、それが特に好都合だ。宇佐美、本当にありがとう。

 

●〇●〇●〇

 

 

 やった、オオカミと二人きりで保健室。これこそチャンス、本当にラッキー。どうやら彼は、身体測定中に失神した坂町をおぶってここに連れて来る為に抜け出して来たみたい。 坂町様々ね。ああ、そういえばこいつ、紅羽のお兄ちゃんなんだっけ。鼻血出して寝てるけど、それ以上の事を毎朝されてる、そんな予想ついてる。だって、紅羽から聞いてるもん。

 

 さっきは女子の会場に乱入した、って聞いたけど、思った通り、涼月奏のボディガードに付いていただけらしい。女の子に興味なさそうだし、女子の会場に入っても別に害はなさそう――彼にはあるのか、うるさくなりそうで。困ったご主人様ね、そのわがままをちゃんと聞くオオカミも、らしいというか、なんというか。

 

 それにしても、オオカミの身体付きを見ると、凄く逞しくて、思わず見惚れちゃう。水着とか着たら凄いんだろうな、プールとかで視線を独り占めしそう。スーツ着たらそこまででもないのに、どうしてなんだろ?

 

 体重は……75キロ。やっぱり筋肉があるのか、少し重い気がする。標準体重がどうかは知らないけども。でも太ってる訳じゃない。さっきも言ったけど、スーツを着たら細身に見えるもん。それに……、その顔付き、女装したら女の子よ?

 

「少し屈んだ方がいいか」

「ええ、そっちの方が胸囲を計りやすいし」

 

 体操服を脱ぎ捨てるオオカミ。傷いっぱいの身体だけど、男の子ってみんなこうだって聞いたことあるから、気にしない方がいいわね。小さい頃は多分腕白だったんだろうね、今はこんなクールだけど――そのクールさ、かなり惹かれてる。

 

「87.5……厚いのかな?」

「厚いんだろうか。奏が胸板厚い、って言っていたし」

「へえ、あんたの姉さんも知ってるんだ」

「姉弟だしな」

 

 姉弟だったら、お風呂とかも一緒に入るのかな?でも、流石に16・7になってそういうことはしないわよね――してそう。今日のアレを見たら、尚更。どうなの、物心ついた男女2人が混浴って。アタシもしたい――なに言ってんのアタシ。

 

「聴診は後でいいか。出来ることは全てした、スバルに坂町のことは教えておくか」

「なんでスバル様に?」

「あいつの友達だぞ、坂町は」

 

 なるほど、変な関係じゃなく、友達だったってわけね。S4も見守る会も、色々勘違いしてるわけか――アタシにはもう関係ないけど。でも、見守る会の妄想は捗るわけよね、なんてったって、会長はあいつだし。

 

 またな、と言って、オオカミは服を着て、教室に戻り始めた。アタシもそれに付いていく。アタシは制服でここに来たから、着替える必要はない。それに、アタシの身体測定は、既に終わってるもん。でも、ここで帰すのは、なんかもったいない気がするなぁ。よし、宇佐美マサムネ、勇気を振り絞ります!

 

「ねぇ……?良ければ、一緒にお昼でもどう?」

「別に構わん。奏も、今日はスバルと坂町と共に食べるらしいから、昼の護衛は必要ない」

 

 やった……!スバル様、意識してないところでチャンスを作ってくれてありがとうございます!!それじゃ、善は急げ、ね!

 

 そうして、オオカミの教室の前で、オオカミがスーツに着替えるのを待つ。なんだか、新鮮な感じ。人を待つ事なんて、あんまりしなかったから。ワイシャツで現れた彼、いつもの紺色のジャケットは着ていないけれど、爽やかなオオカミに胸がきゅんとした。うん、そっちの方がいいわよ。

 

「少し暑いな」

「もう初夏だからね。ネクタイもいらないでしょ」

「まあな。少し緩めてる。それより、昼食、買いに行きたいんだが」

「あれ、お弁当は?」

「ない」

 

 いいとこのお坊ちゃまは、お弁当も豪華なものだと勘違いしてたけど、ないのね。買って食べるんだ。普段どんなもの食べてるんだろ?お弁当を作ってきてあげたいけど、ウチにはそんな余裕ないし……。

 

 というわけで、購買でオオカミが坂町から薦められたっていう惣菜パンを珍妙なモノを見る目で買ってるのは少し面白いと思った。 お坊ちゃまだから、庶民のパンは見慣れないのかもね。でも、おにぎりも一緒に買ってたけど、具がしゃけとか昆布とか、庶民的なモノを好むみたい。お坊ちゃまなのか庶民なのかどっちなんだろう?でも、おにぎりの方が好きってことよね。迷わず買ってたし。今後のためよ、ちゃんと彼の好みはチェックしなくちゃ。

 

 見晴らしのいい屋上で、地べたに座って、二人並んで食べる。さりげなくアタシがオオカミの隣にくっついているのだけれども。だってアタシ、オオカミ好きだし。食べられたし。餌だもん、アタシは。

 

「君は、奏やスバルと違って大人しいな」

「家では賑やかなの?」

「奏は私にベタベタしてくるし、スバルは何かと落ち着かない」

「仲の良い姉弟と同業者ですこと」

「家では落ち着きたいんだがな、まったく。私の休息は、今か、坂町と二人でいるときか、一人の時間だけだな。なんというか、君と一緒だと落ち着く」

 

 アタシと一緒が、かぁ……。無表情でサラっと言わないでよ、ドキドキするじゃない。悪い気はしないけど。今、絶対アタシの顔は真っ赤。だって、顔が熱いもん。サングラスをかけたその顔で、アタシを見つめないで、恥ずかしい……。

 

「君は、自分で昼食を作っているのか?」

「へ?」

「君の服から、その弁当と同じ匂いが微かにする」

「そうだけど……よく匂いがわかるわね?」

「狼は嗅覚が鋭いんだ」

 

 口説いてきた!?ウソ、なんか積極的じゃない……。すると、次は"オオカミはウサギを襲う"!?きゃ~っ!!この晴天の下で⁉︎

 

「君は偉いな、自分のことは自分でやる。私なんか、それをさせてもらえない」

「あ、ああそう……。でも、恵まれた環境にいるんだから、贅沢言っちゃダメでしょ」

「……今はな」

 

 期待してた反応と違ったわね……。いや、別に構わないわよ?会って二日目だし、勝手に舞い上がってるのはアタシだけだし。でも、今の台詞、どこか不満そうだったのは気のせいかな。

 

 細かいことは忘れなきゃ。オオカミが唐揚げパンを食べ終え、次はヤキソバパンをオオカミが口にした時。彼のサングラス越しの目が大きくなり、柄にもなく一気にがっついて食べはじめたときはびっくりした。

 

「んまい。気に入った」

「へ、へえ……」

「坂町も中々味覚がいい」

「結構アタシら庶民は見慣れてる食べ物だけどね」

「ほお。パンにモノを挟むのか。ならパンに明太子も合うかな」

「あるわよ、それ」

「本当か?」

 

 なにこのオオカミ。つーかワンちゃん。無茶苦茶可愛いんだけど。 尻尾があるなら、今絶対フリフリしてるわよね?

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