まよチキ! 〜チキンに噛み付くオオカミさん〜   作:パン粉

17 / 60
2

◆◇◆◇◆◇

 

 

 宇佐美が弁当のオカズをちょこちょこくれながら、今日の昼休憩は終了した。中々今日は有意義だったと思う。しかも、教室に戻った時には、私の机の上に鮪の頭が乗っていた。なんとまあ豪勢な馳走だろう、どこで手にいれたかは知らんが。昼休憩の時間はまだあったから、腐るといけないので、素手で額を叩き割り、脳と目玉は家庭科室の冷蔵庫に入れ、骨は揚げておいた。無論、今日の昼の礼に宇佐美にもあげよう。最初は嫌がっていたが、骨煎餅を一口食べると、満足したような顔で私に笑みをくれた。

 

「鮪の脳はトロより旨い。昔食べたことがあってな」

「ゲテモノだけどもね、美味しいのは認めるわ」

 

 骨煎餅を大量に宇佐美にあげたら、殊更喜んでいた。授業の合間に食べるとするか。適当な軽食だ。教室では大騒ぎになっていたがな。

 

 そして、また戻れば、今度はいなごの佃煮に、生きたタランチュラの瓶詰が引き出しの中に。しかも鮪の頭から垂れていた血が残っていたから酷いことになっていた。いなごもタランチュラも食べられるから別に困らないんだが、私は。

 

「狼、あなたなにかした?」

「知らん。食えということだろう」

「まさか……食うのか?」

「当たり前だ、タランチュラなどご馳走だぞ」

「よくわかるな……、流石狼」

 

 授業どころでは無くなっていたのは何故だろう、言っておくが私は悪くはないし、気も悪くしない。血はアルコールスプレーを吹いて、ハンカチでぬぐい、匂いと生臭さを取り、クラスの皆を宥め、授業に集中を向けさせた。

 

 だが放課後。私が奏の護衛に付きながら車まで案内しようとするが、奏は私の腕を引っ張り、理事長室へ連れ込んだ。すごい形相だった。なんでそこまで怒っているのかわからなかった。

 

「お父様!!」

「なんだね奏……と狼?珍しい、学校で」

「狼が嫌がらせされてるの!」

 

 お前が言えたクチか?坂町にしていることだろ?まあ、黙っておくか。

 

「ほう、それは大変だ。不埒な輩もいた者だね」

「それもかなり陰湿で……。ブーツは盗まれるし、剃刀の刃付きの封筒で指を切っちゃうし……。今日なんか、いなごの佃煮とタランチュラを机に乗せられ」

「狼、それは本当かい?だとしたら、ご飯足りてないんじゃない?」

「事実だが、食事は十分摂れている。鮪の頭と佃煮、タランチュラをチョイスしたのは、なぜなのか知らんがな。まあまあ金がかかるだろうに。骨煎餅揚げたぞ、食べるか?」

「流石私の息子、ありがとう。骨煎餅は、今日の晩酌のおつまみにでも食べようかな。いなごの佃煮も、母さんが好きだったからね。あげたらどう?タランチュラはどうしようか」

「お父様!!ふざけないで!!」

 

 いや、ふざけていない。視線が骨煎餅にいっている。しかも、顔もにこにこしている。私が呑まれたかもしれんな、この男に。当主はそういう奴だからな、この父親の血をお前は見事に受け継いでいるぞ、奏。

 

 むう、と頬を膨らます奏。それにあははと笑った当主は、宥めるように彼女に言うが、やはり私に用事があるようで。

 

「まあ冗談はおいといて……。事情はわかったよ。では、奏。席を外してくれるかい?ああ、スバルくんが廊下にいるだろう」

「――わかりました……」

「狼、ちょっとお話しよう」

 

 ドアを開け、待っていたスバルに奏を任せ、当主と向き合う。先に帰っていていいぞ、と声をかけたあと、私は椅子に座らせられ、当主は私の肩を揉みながら言ってきた。

 

「何したかは知らないけど、君も大変だねぇ。奏のこと、後でフォローしてくれるかい?」

「それはもちろん。だが昨日、奏が言っていた剃刀の手紙に、"一人ずつ犠牲にする"との文があった。奏とスバルは守るさ」

「……狼。なんでそれ早く言わないの?コテンパンにしちゃってくれない?」

「了解」

「怒っていいのに。もっと感情出しちゃっても、誰も怒らないよ」

「どこに怒ればいいのかわからん。烏合の衆に出来ることなんて、たかが知れとる。第一、エネルギーの無駄遣いは避けたい」

「クールというか、慢心というか……。とにかく、君の名誉のためにも、怒り狂っていいんだから」

「そうか。私はそんなものに興味はない」

 

 名誉か。そんなものの為に働くつもりはない。つまらない個人のプライドなんかの為に、わざわざ私が動く意味がわからん。大体イジメとはなんなんだ?内容もよくわからない。ただ馬鹿が馬鹿を晒す、愚かな行動だろう。

 

 標的を私にしたのは褒めてやる。奏やスバルだったら、恐らく犯人を見つけ出して、八つ裂きにしていただろう。だが、私がそれを受けていたことについては、当主も若干怒っていて。

 

「何人いるかわからないけど、好きなだけ暴れていいよ」

「その気はないんだがな。暴れる程の強さでもないだろうて、灸を据えるくらいだ」

「お灸?いる?あげよっか?」

「わざと言ってるだろ――おい、本当に出すな」

 

 言いかけている時に、ライターと灸を差し出された。油断していた、こいつも確かに涼月だ。全く、これがいわゆる"ぱりぴ"とか言うやつか。

 

 仕方ない、貰えるものは貰っておこう。片手で受け取れば、自分で使ってもいいよ、との一言。私は鍼灸など知らんぞ、してくれるんならプロを呼べ。

 

「プロのお灸って、気持ちいいぞぉ。日頃頑張ってるんだから、使ってみれば?この機に鍼灸職人でも目指す?」

「阿呆、私はボディガードだぞ」

「えー、つまんなーい」

「子供か、貴様は」

 

 右頬をぺちぺちと叩かれる。可愛がりなのだが、若干マッサージをされているような気がしなくもない。何がしたいのだ、この男は。全く、掴み所もないし、食われている。用件は済んだか、と聞くも、話をしてきたのは奏の方だよ、と言われ。確かにそうだ、私らの事情でここにきたのだ。

 

 全く、父親の相手か。何をしたいんだかよくわからん。彼は私と話す事を楽しんでいるようだが、どうもペースを握られがちな気がしている。

 

「じゃあ、帰る」

「ああ、気をつけてね」

 

 ドアを開け、家庭科室の冷蔵庫のブツを取り出して、脇に抱えるが、よく考えれば、ここに入れておけばいつでも食べられる。

 

 既に奏達は帰らせた。一人で帰ることになる。つまり、時間に余裕がある。ちょうどいい、真宵の見舞いにでも行くか。

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 涼月グループの病院。適当な果物を買って、一般病棟の方に行く。受付に面会と書いて、目当ての人間がいる部屋に入った。

 

 長い髪の少女。彼女は日向真宵。スバルの秘密を、坂町より先に知った子だ。火災で家が無くなり、涼月の屋敷の前で倒れていた所を奏が拾い、先程の件で涼月家のメイドになり、今は盲腸で入院している。因みに彼女も両親を亡くしている、即ち私と似たような境遇にいるわけだ。

 

「真宵」

「狼くん。久しぶり。あれ、どうしたの?そんなにツヤッツヤな顔して」

「当主に叩かれた」

「あはは、なんか狼くんらしい。マッサージされたみたい」

 

 話題作りとしてはうまくいったような気がする。口下手な私だが、先程のペチペチのおかげか、顔の筋肉はほぐれたような気がする。借りたナイフで林檎を剥いてやり、ウサギみたいな形にして、食べさせてやった。喜んでくれたのか、顔が笑顔でいっぱいになっていた。

 

 しゃく、と一口食べながら、私に問うてくる真宵。深刻に捉えてないし、話してもよかろう。

 

「学校、どう?」

「私はイジメというものにあっているらしい」

「自覚はないんだね?お嬢様は騒ぎそうだけど」

「確かに奏は騒いでいたが、よくわからんのだ。マグロやら佃煮やら偲ばせられるのは、イジメなのか?」

「他の物も入れられてそうだけど……。それより、林檎美味しいよ。ありがとう」

「ああ、それはよかった」

「なんか、変だよ?いつも優しいのが、今日はより……」

「お前の顔が見たかった、じゃ理由にならないか」

「……ううん。それだけでも私は嬉しいよ。今日はツイてる」

「毎日ベッドで寝てるのがツイてるとは、変わった奴だ」

「貧乏人はそれもが奇跡なんですー。えへへ」

 

 こいつの笑顔は結構好きだ。なんというか、守ってやりたくなる。少し荒んだ心には、真宵の笑顔はかなりの特効薬だ。

 

「すぐ戻るから、待っててね?」

「うむ。奏のおもちゃになって、また入院、ってことがないように、お前を守らないとな」

「頼もしいねー、ふふっ、ありがとう。でも、盲腸はお嬢様の所為じゃないよ?」

「確かにな、偶然の病気だ。ああ、そうだ」

「なに?」

「私とスバルに、友達が出来た」

 

‡‡‡‡‡‡

 

 

 狼くんがお見舞いに来てくれたのは嬉しい。けど、狼くんとスバル様に友達が出来たのはもっと嬉しい。ずっと友達が出来ないんじゃないか、と心配してたけど、稀有に終わってよかった。きっとお嬢様も喜ぶね、今日はツイてる。

 

 ――いや、おもちゃになった?前からだっけ。スバル様がよりおもちゃにされてるのは、想像に難くないんだけど……。いいことなのかなぁ……。

 

「一人は、坂町近次郎」

「あっ、その人知ってるよ。確かホモ――」

「女性恐怖症らしくてな、奏がそれを知ってからはおもちゃになってしまった」

 

 遮られるように、狼くんが話を割り込ませてきた。坂町先輩の保身のため、とは言えども、そんな不便な病があるなんて……私と同じ境遇にようこそ。もう先輩は普通の生活は出来ませんよ。しかもスバル様のこと知っちゃったんだね。あーあ、なんて可愛そうに……。

 

「もう一人。こいつは私しか知らないんだが、宇佐美マサムネ」

 

 宇佐美先輩。確かメイド喫茶でバイトしてた、S4の子だっけ?もしや狼くん、宇佐美さんになにかしたでしょ?ダメだよそれ、奏お嬢様が知ったら妬くよ?因このお見舞いも知られたら妬かれるよね!?知られたらヤバイじゃん!!

 

 ――あれ、でも確か、宇佐美先輩も私とほとんど同じ様な生活してなかったっけ。なら、私が復帰したときに、仲良くなれそうな気がするなぁ。お屋敷に来ることは勧めないけど。だって、お嬢様に目を付けられたら……やめよ、どこかで聞かれてるかもしれないし。

 

「退院したら、紹介してよ」

「ああ。そうさせてもらうためにも、早く治るといいな」

「うん、手術はお金がかかるから、薬で散らしてるんだけどね」

「それを早く言え。手術代なら私が出してやる」

 

 流石狼くん、さらっとすごいこというよ。でも、無駄遣いじゃないもんね。君は、私を思ってそう言ってくれてるよね。ありがとう。

 

「お前がいない屋敷は、どこか寂しいし、何より奏のターゲットが私に集中する」

「それは切り抜けてよ」

「……仕方ないか」

 

 難儀してるんだなぁ……相変わらず……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。