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「へぇ……。あいつがそんなに抱え込んでいたとはねえ」
昼休み、学校の屋上で涼月が俺に話があると言ってきたので、その話を聞いたら、どうやら狼のことで。昨晩、殴られて帰ってきたそうな。俺は、おふくろにも紅羽にも、プロレス技を組まれているから普通のことかな、と思っていたら、涼月はかなり深刻に考えているらしい。俺も、狼の顔がわずかに腫れているのを見たし、近衛にも聞いたが、口の中が切れているらしい。おいおい、流石の俺でもそこまではされなかったぞ?
それよりも、悩みの種はイジメにあるらしい。以前、仕込み刃入りの手紙に脅迫文が書かれていて、そんな不埒な奴からは涼月や近衛に手を出させない、と言っていたが、それが涼月は気に入らんそうだ。デビル涼月、お前にも人間の心はあったんだな――流石に失礼か?弟の事だもんな。
「私達が喧嘩を買う必要はない、って。そこまで私達、弱いつもりはないのに」
「別の理由があるんだろ?もっとまともな」
スジはきっちり通す奴だ。弱いだとかどうのとか、そんな陳腐な理由じゃないはずだ。考えてもみろ、自分の同業者がやったミスを、アイツが肩代わりして、菓子折まで持ってきて、しまいには土下座までしたんだぞ。紅羽からの証言だけど、土下座は。でも、やりかねないな。
もっとまともな理由だろ。少年兵だった過去の話は、アイツ自身から聞いたし。もしかしたら、そういうことか?
「お前らを見下したりしてるわけじゃない、と思う」
「そんなの、当然よ。ただ、私たちは家族なの。どうしても、私は狼を……」
「あいつも、同じ気持ちだと思うよ」
「え?」
「お前らに手を汚してほしくない、だからじゃないかな」
無愛想で無感情なフォノンだけど、なんだかんだ優しい奴だしな。紅羽もあいつは信頼してるし。そういう面もあって、特に涼月には手を汚して欲しくないんだろう。近衛だって同様、護身術とは違って、今回は喧嘩だ。俺もどうにか力になってやりたいが、本当に、話を聞いてやるくらいしか出来ない。下手に動いたら、俺が標的になってしまう。いや、もうなっているか?
ビビってるさ、ああそうさ、俺はチキンだ。狼と違って、捌いて喰われる存在なんだ。死にたくないし、変にあいつを怒らせたくない。出来れば干渉したくない。だけどあいつとは友達だ。
「俺は本当に、話聞いてやることしか出来ないけど」
「それだけでいいんだ。あの堅物も、ジローには心を開いているようだし、ボク達に言えないことも、お前には言ってくれるかもしれない」
「そうかぁ?」
あんまり期待した眼で見ないでくれ。俺はチキンだ。情けないくらい弱虫だ。下手をしたら、話だってまともに聞けないかもしれない。いや、あいつから話はしなさそうだ。
――卑怯?いや、卑怯じゃないだろ。考えてみてくれ。俺は一般人、変なことに首を突っ込みたくない。もう遅いけどさ。
「あれ、ところでその当事者は?」
「ああ、宇佐美さんって子とお昼ご飯を食べているわ。また友達が出来たみたい」
「そっか、それはいいことだ。そいつにも頼んだらどうだ?」
「そうしたいけど……、その子女の子だから、狼が取られちゃうんじゃないかって心配で」
――わー、ブラコンガチ勢を見たー。なんかヤバいお花見えるぞー。
でも、女友達ってのは、俺もいないからな。少し羨ましくはある。けど、女性恐怖症なんだよ。打って変わってあいつはモテる。近衛ほどじゃないが、何人かこのクラスでも狙ってるやつ、いるぞ。それに、あの性格。本当にコロって惚れさせてる気がしなくもない。――話、逸れたな。
「とにかく。俺は話は聞く。それだけ。あと、惚れられるのは諦めろ」
「それだけでもいい、ありがとう坂町。諦めるのは――うん、たしかにどうしようもない」
「お前も女子から惚れられまくりじゃねえか」
「ジローくんには、華がないのよ」
「おい。さらりと酷いこと言ってくれるじゃねーか。割と傷付いたぞ」
――オオカミさん。今度ごはんおごる。だからまず、俺を助けてくれ。お前の姉、やっぱり腹まっくろくろすけだ。
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今日のオオカミは、冷却シートを顔に貼っていた。しかも若干腫れていて、どこかおかしい。ヤキソバパンを買ったはいいけど、あまり食べていないし。
「具合悪いの?」
「口の中が切れてた。ソースが染みる」
「うっわ、痛そう……。ならなんで焼きそばパンを選んだのよ」
「好きだからだ」
馬鹿ね、このオオカミ。本能のままにご飯食べてるの、なんか面白いわ。それに好きな物なら仕方ないか。でも牛乳は染みないみたい。よかったよかった。
昨日も会ってた、惚れちゃった異性が怪我してる。そんなの、心配しない人いないでしょ。お姉ちゃんの涼月奏も、きっと心配してるに違いないよね。保健委員として、何か手当てをしてあげたい。けど、彼は多分要らないって言うだろう。
「めんたいパンは流石に食べられん」
「そうでしょうね、あんなの口内炎の時に食べたら飛び上がるわよ」
「ソースよりも辛味の方が辛いからな。塩にぎりが一番落ち着く。塩は控えめだし」
「結構考えてるのね」
「それに、塩にぎりがおにぎりで一番美味い」
今度買ってみよっかな、余裕がある時に。コンビニおにぎり、おいしいのわかってる。けど、買ったら高くつくもん。だからアタシは、毎日自炊でお弁当。
――お弁当、今度オオカミの為に作ってあげようかなぁ。どんな顔をするだろう?喜んでくれるかな?腕に縒りをかけて、張り切って作らなきゃっ。うん。勿論それも余裕がある時、だけど。貧乏なのはしょうがない、自分で選んだ道だもん。
会ってから、睨む顔と、この無表情しかお目にかかれたことがない。フォノンってあだ名は伊達じゃないのね、なんか感心しちゃうわ。まだ知り合ってそんなに日も経ってないから、当たり前かな。
「ねえ、オオカミ?」
「ロウ、だ。私はオオカミという名前じゃない」
「漢字だとそう読むじゃん?それにアタシ、オオカミが好きなの」
嘘じゃないよ、オオカミが好き。勿論、目の前の銀狼がね。変わり者?そんなことないでしょう。こいつにもファンがいるの、アタシ知ってるもん。S4みたいに過激じゃなく、見守る会みたいにBLを意識していることもなく。
――アタシも、そっちに入るべきだったなぁ。そしたら、ほのぼの過ごせたのかもね。いや、部活変えない限り無理だ。手芸部って名ばかりだけ、本当は武闘部みたいなもんだし。
「変わった奴だ、オオカミが好きだなんて」
「ええ、でもあんた以上に変わった奴なんていないと思うけど?」
「フッ、かもな」
あ、初めて笑った。嘘、こんなに綺麗な顔で笑うの?険が取れた顔で笑うオオカミから、気高ささえ感じるんだけど。すごい新鮮。
フォノンの1つ、崩れたじゃん。無表情、無愛想。この2つ、アタシクリアしてない?攻略ルート、うまく構築してる!
――って、恋愛ゲームじゃないんだから。全く、落ち着きなさい宇佐美マサムネ。ちゃんと、目の前を見て。このオオカミは、まだアタシに気があるなんて、そんな確証どこにもないんだから!
「でも、君には狼と呼んでほしい。友達だからな、名前で呼んでくれないか」
「と、友達ね。いいわよ、ならアタシのことも名前で呼びなさいよね」
友達より一歩超えた関係がアタシの希望だけど、まあ今は友達でいいか。それだけでも、前進してる。昨日よりも、ね。それに彼も友達が欲しい顔をしてるし。
「マサムネ」
「……ろ、狼」
――名前で呼ばれた!!やった、やった!!すっごい嬉しい!!
アタシはこいつがやっぱり大好きだ。今すぐにでも抱き着きたいし、キスしたい。それに――いや、それ以上はダメよ。アタシはまだ未成年、健全なJKなんだから。でも……って、茶番を頭の中でしてる場合じゃない!
それより、なんでこんなに積極的なんだろ、今日の狼は。まあいっか。これ、日頃の行いのご褒美かな。だとしたら、今日だけ神様の存在、信じちゃう。
「マサムネ、君の――」
「あ、アタシの?」
「弁当が零れてる」
顔を近付けて話す彼。よく見れば、本当に女の子みたいな綺麗な顔してて……って、油断してた!制服にかかっちゃってるし、絶対これシミになっちゃうよ!!もう……!クリーニング代なんて、アタシが持ってるわけないじゃない!
あんたのせいよ、あんたがアタシをドキドキさせるから……!でも、制服の汚れなんて、その貴重な瞬間に比べれば、些細なこと。うん、もう気にしない。
「大丈夫か?拭いてやる」
「ふぇ?あ、ありがとう」
「じっとしてろよ」
狼は咄嗟にハンカチを取り出して、アタシの服を拭いてくれた。優しい心遣いありがとう、流石わんこ。