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放課後、この前の手紙の通り、体育館裏に出てみると、眼出し帽が50人程、しかも鉄パイプやらチェーンソーやら持って、しかもエンジンを回して待機していた。苺とは違い、刃を引いたものではない。ふむ、なかなかに殺気を感じる。だが、やはり素人だ。
「お前!昨日待ってたのに、逃げやがって!」
「……
「うるっせえ!」
「仕事があったんだ。昨日来なかったのは謝る」
――なんで私は謝っているんだろう。わざわざ付き合う必要もなかったのに、こんな茶番に。イジメを受けているのは私だぞ。
本題に戻ろう。チェーンソーのエンジンがブルンブルンと喧しい。なら、声を張らねば聞こえんか。頭数ばかりの素人、声だけは大きいのだから、吠えさせるだけ吠えさせるのも、また一手。
「それで。お前らに私が何かしたか?」
「冥土の土産に教えてやる。てめーは奏様ともスバル様とも仲が良い。スバカナのカップリングを邪魔しやがって!!」
「……ちょっと待ってくれ。なんだ、それは。美味いのか?」
すばかな……。そばか?新しいメニューの。食い物ならば、尚更悪いことはしていないだろうに。売店にもそんなものは売っていない。
疑問がより凍り付く。首を傾げ、答えを待つが、誰も答えようとしてくれない。なんだ、余計に訳がわからん。私が悪いのか?
「わ、わかってないんだな!まあいい、取り敢えず!!ブッ殺す!!」
「……力の差を、数で埋めようとして、一取り囲みながら戦うのは正しいがな。チェーンソーを持っている貴様」
「はっ?」
「身体が悲鳴を上げているぞ」
「なぁ、なにを!揺さ振りを掛けやがって!!」
うるさい蠅だ、黙ってくれ。戦う必要もない。スタングレネードを使ってしまいたい。ったく、面倒な仕事だ。
案の定、とろとろとチェーンソーを持って近づいてくる男。よく見れば、格好がボンテージだ。そういう趣味なのか、文句はないが、動きづらいだろうな。それに、重さに耐えられていない。そんなに緩い袈裟斬りなど、誰にも当たらんだろうて。
回転する刃の腹の部分めがけ、左拳を打ち出す。すれば刃が折れ、空に高く舞ってから、地面に突き刺さった。こうなれば、相手をするのはただのカカシだ。ふん、と右拳で相手の顎を打ち抜き、宙に舞わせる。
どよめきが起こる。私がボディガードだということを忘れていないか?タダの喧嘩如きで、私が負けるはずなかろう。浮き足立つ雑兵の群れに突っ込んでいき、5人ほど蹴り飛ばしてから、落ちたナイフを拾って相手に向ける。
「どうする。まだやるか?」
「あ、当たり前だ!負ける訳に行くかよっ!」
「ふん。死にたい奴だけ、かかってこい」
途端に10人、私に飛び掛かってくる。そうしてくれた方が、まとめて排除できるから楽だ。木刀やらバットやらで殴りかかられるも、大した強度のないナイフで、それらを真っ二つに切り落とす。刃物の扱いは慣れているのだ、こんなこと造作もない。
獲物を壊された奴を掴めば、そいつを左腕一本で群れに投げ返す。途端、ドミノ倒しのように、どんどん敵が倒れていく。足腰も弱い、だから身体がもたんのだ。こんな喧嘩、とっとと終わらせたい。
「おい、何してんだ狼」
「坂町。見ての通りだ、昨日の手紙の」
「……邪魔した?」
「ああ。邪魔だ」
タイミングの悪いところで坂町が現れた。物音に惹かれてやってきたそうだ。胸倉を掴んだ男を地面に叩きつけて、敵方に背中を向ける。だが、油断していたのは私であって。
坂町の足元に伏せっていたボンテージ。立ち上がって彼を羽交い締めにする。ああ、これはミスだ。確実に私の。しかし、坂町にも責任はあろうて。
「ふはぁ……!スバカナの邪魔者……!もう一人ヤッちまうぞォ!」
「ななななに⁈スバカナ⁈なんだこいつら、離せっ!」
「はぁ……動くなよ」
仕方ない。M9を取り出し、鞭とボンテージを見に纏った奴の額に、麻酔弾を叩き込む。サプレッサーの無駄な消耗は避けたかったんだがな。一瞬で睡眠に落とした。腕の力が抜け、坂町が解放されれば、彼は私の方に駆け寄ってくる。だが、そのまま逃げれば良かったものの。
「悪い狼、俺までお前の世話に……」
「なってしまったものは仕方あるまい。待っていろ、カタをつける」
尚更、この喧嘩を早く終わらせねば。とはいうものの、黒光りしている物が、相手の手に握られているのがわかる。
――
「坂町」
「な、なに?」
「伏せていろ」
まずは、拳銃を持った男を狙わねば。真っ先にそいつに向かえば、銃口を向けて弾いてくる。
マズルから放たれる、過剰な量の火。そして、飛び出す
なるべく校舎には傷をつけさせたくない。放たれた弾丸は私に向かってきている。ふん、この弾速ならば、掴むのも容易だ。平手で横から弾を捉えれば、そのまま走り込んで膝を相手の顔に叩き込む。手放したガバメントを手中に収めれば、マガジンを抜いてスライドを引き、中の弾を空にした。
その流れで、残りの人間も素手で倒していく。無慈悲にも圧倒される男子生徒達。牙を剥く相手を、完全に間違えたな。
「怪我はないか、坂町」
「あ、ああ」
腰が抜け、動けなくなっていた坂町を立たせる。先程奪った銃の弾丸、フルメタルジャケットではないな。ホローポイント弾、敵を痛め付けるには最適のものだ。こんなものをどうやって手に入れたのだろうか。それに、火薬の量もおかしい。通りで、撃った時のマズルフラッシュが強すぎた訳だ。強装弾など、手練れでなければ扱えん。
「物騒だな……。本当に殺す気だったのか」
「そうだろうな。どういう経路で手に入れたか、それを調べる必要がある」
「……死ぬ気か?アブナい道に入ってるぞ」
「何を今更。チャイルドソルジャーだったんだ、元々私は裏の人間だ」
この学校は、涼月のもの。それを抜いたとしても、こんな物がある限り、奏達への危険が高まる。この身を使うに最適な業務だ。
呆れたように坂町が溜息をつく。後ろのゴミ共に目をくれずに。こいつも中々、肝が座っているな。自分もこいつらに狙われていることを知ったから、だろうか――ん?
「坂町近次郎ォッ!その首ィ、貰ったァ!」
「な、お、俺か――⁉︎」
油断をしていた。伏せっていた男がナイフを持ち、坂町の背後から突っ込んでくる。ここで坂町の前に立てるか――いや、間に合わん。そのまま、腕のリーチ分を活かして、ナイフを突き立てようとしてくる。
――こうする他ない。
坂町を左腕で引き寄せて自分の身体の後ろへとやる。と同時、右腕でナイフを受け止めた。ザクっ、とそれなりに深く刺さり、地面に朱い水溜まりができる。久々の痛みだ、だが私の中の狼は、こんなことでは目覚めん。取り乱す事もなく、左ハイキックを側頭部に見舞えば、一撃で気絶し、そのまま床に崩れ落ちた。
突き立てられたナイフ。それを見て呆然とする坂町。それでも私は表情を変えない。
「すまん、私のミスだ。怪我はないか?」
「腕にナイフ生やして言うことかよっ!馬鹿野郎、早く手当てしないと……!」
「気にするな。怪我がないならいい」
ネクタイを取り、右腕に巻き付けてきつく締める。そしてナイフを抜けば、ぴゅう、と血が吹き出す。痛みは消えていたが、これは病院行きか。全く、
「待ってろ、今救急車――」
「いや、呼ばんでいい。自分の脚で病院に行くさ」
「黙ってろ!そこまでで倒れられたら、近衛や涼月に合わせる顔がねぇんだ!」
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腕刺された、っていうのに、なんでこいつは冷静なんだ。取り乱す俺がバカらしく見えてくる。だけど、こいつは気づいていない。
涼月狼の肉体は、もうこいつだけのものじゃない。あれだけ近衛と涼月が慕っているんだ、慕っている奴等の身体でもあるんだ。だから、独断で動かすわけにはいかない。とにかく、こいつを下手に動かしちゃいけない。
「……坂町」
「もうしゃべんな、お前は休んでろ」
「……ああ、そうする」
取り敢えず、俺は涼月に連絡を入れた。電話に出るあいつ、事を話せば動揺し。すぐに近衛に変わるも、こいつも動揺していて。メインのフォノンはジャケットから小瓶を取りだした。青緑の綺麗な、粘り気のある液体が中に入っていて、それを指で取って、傷口に塗り始めた。
「奏達がくるのか?」
「ああ。心配かけまくりやがって」
「……あとで謝っておく」
フローラルな香りの薬草。避けたジャケットの袖を千切れば、包帯がわりにクルクルと巻き始め。手慣れたもんだな、と思うも、じっとさせなければ。
フォノンの腕を取る。そして、座れ、と言って、壁にもたれながら座らせて、ジャケットを一旦外してから、俺の鼻血用で持っていたガーゼを貼り付けた。そしてまた、包帯がわりにきつく、ジャケットの袖を縛る。
「いい腕をしている。救急隊員にでもなれるぞ」
「喋るなって」
「それくらいの余裕はあるさ、慣れているからな」
「慣れてるから、って。生命のやりとりまでする必要あるか?」
「必要があればする。死ぬつもりはないが」
「馬鹿野郎!やりとりをする事自体、涼月と近衛を泣かすんだぞ!」
「狼!?」
感情が昂った。涼月狼に一喝していた。黙々と血をガーゼで、それでも足りないから俺のワイシャツで拭いてやってる所に、涼月と近衛が駆け寄ってきて。咄嗟に先程のハンドガンとナイフを隠し、俺の鞄に入れる。
泣きじゃくりながら、狼の胸に飛び込む涼月。近衛は泣くのを堪えている。その小さな拳を握りしめ、怒りか、悲しみか、どちらとも取れる感情で、身体を震わせていた。
「俺を庇ってくれたんだ、俺の所為なんだ」
「何を言ってるんだ!?ジローの所為なんかじゃない、悪いのはこいつらっ……」
「スバル。私のミスだ。奏も、私は大丈夫だ。心配かけてすまんが、それより坂町のことを気にかけてくれ」
こんな時まで、お前は自分を犠牲にするのか。優し過ぎるんだよ、お前は。フォノンの無感情なんて嘘じゃないか。
涼月を優しく撫でる狼。そして身体を離してやり、去り際に俺に礼を言う。どうやら本当に、一人で病院に向かうらしい。それを制す近衛に行く手を阻まれれば、仕方ない、と溜息をつきながら、近衛の手配した車に乗り込んでいった。
「坂町。応急処置、ありがとう」
何が応急処置だ。俺には何も出来なかった。血を流すことさえ、俺は止められなかった。うかうかして、勝手に足を踏み入れて、あいつを傷つけた。原因は俺だ。
後悔の念が残る。それを、近衛と涼月に、俺は打ち明けた。