まよチキ! 〜チキンに噛み付くオオカミさん〜   作:パン粉

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◆◇◆◇◆◇

 

 

 放課後、この前の手紙の通り、体育館裏に出てみると、眼出し帽が50人程、しかも鉄パイプやらチェーンソーやら持って、しかもエンジンを回して待機していた。苺とは違い、刃を引いたものではない。ふむ、なかなかに殺気を感じる。だが、やはり素人だ。

 

「お前!昨日待ってたのに、逃げやがって!」

「……パンクチュアル(時間に正確)なんだな」

「うるっせえ!」

「仕事があったんだ。昨日来なかったのは謝る」

 

 ――なんで私は謝っているんだろう。わざわざ付き合う必要もなかったのに、こんな茶番に。イジメを受けているのは私だぞ。

 

 本題に戻ろう。チェーンソーのエンジンがブルンブルンと喧しい。なら、声を張らねば聞こえんか。頭数ばかりの素人、声だけは大きいのだから、吠えさせるだけ吠えさせるのも、また一手。

 

「それで。お前らに私が何かしたか?」

「冥土の土産に教えてやる。てめーは奏様ともスバル様とも仲が良い。スバカナのカップリングを邪魔しやがって!!」

「……ちょっと待ってくれ。なんだ、それは。美味いのか?」

 

 すばかな……。そばか?新しいメニューの。食い物ならば、尚更悪いことはしていないだろうに。売店にもそんなものは売っていない。

 

 疑問がより凍り付く。首を傾げ、答えを待つが、誰も答えようとしてくれない。なんだ、余計に訳がわからん。私が悪いのか?

 

「わ、わかってないんだな!まあいい、取り敢えず!!ブッ殺す!!」

「……力の差を、数で埋めようとして、一取り囲みながら戦うのは正しいがな。チェーンソーを持っている貴様」

「はっ?」

「身体が悲鳴を上げているぞ」

「なぁ、なにを!揺さ振りを掛けやがって!!」

 

 うるさい蠅だ、黙ってくれ。戦う必要もない。スタングレネードを使ってしまいたい。ったく、面倒な仕事だ。

 

 案の定、とろとろとチェーンソーを持って近づいてくる男。よく見れば、格好がボンテージだ。そういう趣味なのか、文句はないが、動きづらいだろうな。それに、重さに耐えられていない。そんなに緩い袈裟斬りなど、誰にも当たらんだろうて。

 

 回転する刃の腹の部分めがけ、左拳を打ち出す。すれば刃が折れ、空に高く舞ってから、地面に突き刺さった。こうなれば、相手をするのはただのカカシだ。ふん、と右拳で相手の顎を打ち抜き、宙に舞わせる。

 

 どよめきが起こる。私がボディガードだということを忘れていないか?タダの喧嘩如きで、私が負けるはずなかろう。浮き足立つ雑兵の群れに突っ込んでいき、5人ほど蹴り飛ばしてから、落ちたナイフを拾って相手に向ける。

 

「どうする。まだやるか?」

「あ、当たり前だ!負ける訳に行くかよっ!」

「ふん。死にたい奴だけ、かかってこい」

 

 途端に10人、私に飛び掛かってくる。そうしてくれた方が、まとめて排除できるから楽だ。木刀やらバットやらで殴りかかられるも、大した強度のないナイフで、それらを真っ二つに切り落とす。刃物の扱いは慣れているのだ、こんなこと造作もない。

 

 獲物を壊された奴を掴めば、そいつを左腕一本で群れに投げ返す。途端、ドミノ倒しのように、どんどん敵が倒れていく。足腰も弱い、だから身体がもたんのだ。こんな喧嘩、とっとと終わらせたい。

 

「おい、何してんだ狼」

「坂町。見ての通りだ、昨日の手紙の」

「……邪魔した?」

「ああ。邪魔だ」

 

 タイミングの悪いところで坂町が現れた。物音に惹かれてやってきたそうだ。胸倉を掴んだ男を地面に叩きつけて、敵方に背中を向ける。だが、油断していたのは私であって。

 

 坂町の足元に伏せっていたボンテージ。立ち上がって彼を羽交い締めにする。ああ、これはミスだ。確実に私の。しかし、坂町にも責任はあろうて。

 

「ふはぁ……!スバカナの邪魔者……!もう一人ヤッちまうぞォ!」

「ななななに⁈スバカナ⁈なんだこいつら、離せっ!」

「はぁ……動くなよ」

 

 仕方ない。M9を取り出し、鞭とボンテージを見に纏った奴の額に、麻酔弾を叩き込む。サプレッサーの無駄な消耗は避けたかったんだがな。一瞬で睡眠に落とした。腕の力が抜け、坂町が解放されれば、彼は私の方に駆け寄ってくる。だが、そのまま逃げれば良かったものの。

 

「悪い狼、俺までお前の世話に……」

「なってしまったものは仕方あるまい。待っていろ、カタをつける」

 

 尚更、この喧嘩を早く終わらせねば。とはいうものの、黒光りしている物が、相手の手に握られているのがわかる。

 

 ――M1911(ガバメント)、か。モデルガンかどうか、わからんな。

 

「坂町」

「な、なに?」

「伏せていろ」

 

 まずは、拳銃を持った男を狙わねば。真っ先にそいつに向かえば、銃口を向けて弾いてくる。

 

 マズルから放たれる、過剰な量の火。そして、飛び出す45口径(フォーティー・ファイブ)。なるほど、実弾か。夜のあれといい、こっちは入手ルートを詮索しなければな。

 

 なるべく校舎には傷をつけさせたくない。放たれた弾丸は私に向かってきている。ふん、この弾速ならば、掴むのも容易だ。平手で横から弾を捉えれば、そのまま走り込んで膝を相手の顔に叩き込む。手放したガバメントを手中に収めれば、マガジンを抜いてスライドを引き、中の弾を空にした。

 

 その流れで、残りの人間も素手で倒していく。無慈悲にも圧倒される男子生徒達。牙を剥く相手を、完全に間違えたな。

 

「怪我はないか、坂町」

「あ、ああ」

 

 腰が抜け、動けなくなっていた坂町を立たせる。先程奪った銃の弾丸、フルメタルジャケットではないな。ホローポイント弾、敵を痛め付けるには最適のものだ。こんなものをどうやって手に入れたのだろうか。それに、火薬の量もおかしい。通りで、撃った時のマズルフラッシュが強すぎた訳だ。強装弾など、手練れでなければ扱えん。

 

「物騒だな……。本当に殺す気だったのか」

「そうだろうな。どういう経路で手に入れたか、それを調べる必要がある」

「……死ぬ気か?アブナい道に入ってるぞ」

「何を今更。チャイルドソルジャーだったんだ、元々私は裏の人間だ」

 

 この学校は、涼月のもの。それを抜いたとしても、こんな物がある限り、奏達への危険が高まる。この身を使うに最適な業務だ。

 

 呆れたように坂町が溜息をつく。後ろのゴミ共に目をくれずに。こいつも中々、肝が座っているな。自分もこいつらに狙われていることを知ったから、だろうか――ん?

 

「坂町近次郎ォッ!その首ィ、貰ったァ!」

「な、お、俺か――⁉︎」

 

 油断をしていた。伏せっていた男がナイフを持ち、坂町の背後から突っ込んでくる。ここで坂町の前に立てるか――いや、間に合わん。そのまま、腕のリーチ分を活かして、ナイフを突き立てようとしてくる。

 

――こうする他ない。

 

 坂町を左腕で引き寄せて自分の身体の後ろへとやる。と同時、右腕でナイフを受け止めた。ザクっ、とそれなりに深く刺さり、地面に朱い水溜まりができる。久々の痛みだ、だが私の中の狼は、こんなことでは目覚めん。取り乱す事もなく、左ハイキックを側頭部に見舞えば、一撃で気絶し、そのまま床に崩れ落ちた。

 

 突き立てられたナイフ。それを見て呆然とする坂町。それでも私は表情を変えない。

 

「すまん、私のミスだ。怪我はないか?」

「腕にナイフ生やして言うことかよっ!馬鹿野郎、早く手当てしないと……!」

「気にするな。怪我がないならいい」

 

 ネクタイを取り、右腕に巻き付けてきつく締める。そしてナイフを抜けば、ぴゅう、と血が吹き出す。痛みは消えていたが、これは病院行きか。全く、

 

「待ってろ、今救急車――」

「いや、呼ばんでいい。自分の脚で病院に行くさ」

「黙ってろ!そこまでで倒れられたら、近衛や涼月に合わせる顔がねぇんだ!」

 

 

■□■□■□

 

 

 腕刺された、っていうのに、なんでこいつは冷静なんだ。取り乱す俺がバカらしく見えてくる。だけど、こいつは気づいていない。

 

 涼月狼の肉体は、もうこいつだけのものじゃない。あれだけ近衛と涼月が慕っているんだ、慕っている奴等の身体でもあるんだ。だから、独断で動かすわけにはいかない。とにかく、こいつを下手に動かしちゃいけない。

 

「……坂町」

「もうしゃべんな、お前は休んでろ」

「……ああ、そうする」

 

 取り敢えず、俺は涼月に連絡を入れた。電話に出るあいつ、事を話せば動揺し。すぐに近衛に変わるも、こいつも動揺していて。メインのフォノンはジャケットから小瓶を取りだした。青緑の綺麗な、粘り気のある液体が中に入っていて、それを指で取って、傷口に塗り始めた。

 

「奏達がくるのか?」

「ああ。心配かけまくりやがって」

「……あとで謝っておく」

 

 フローラルな香りの薬草。避けたジャケットの袖を千切れば、包帯がわりにクルクルと巻き始め。手慣れたもんだな、と思うも、じっとさせなければ。

 

 フォノンの腕を取る。そして、座れ、と言って、壁にもたれながら座らせて、ジャケットを一旦外してから、俺の鼻血用で持っていたガーゼを貼り付けた。そしてまた、包帯がわりにきつく、ジャケットの袖を縛る。

 

「いい腕をしている。救急隊員にでもなれるぞ」

「喋るなって」

「それくらいの余裕はあるさ、慣れているからな」

「慣れてるから、って。生命のやりとりまでする必要あるか?」

「必要があればする。死ぬつもりはないが」

「馬鹿野郎!やりとりをする事自体、涼月と近衛を泣かすんだぞ!」

「狼!?」

 

 感情が昂った。涼月狼に一喝していた。黙々と血をガーゼで、それでも足りないから俺のワイシャツで拭いてやってる所に、涼月と近衛が駆け寄ってきて。咄嗟に先程のハンドガンとナイフを隠し、俺の鞄に入れる。

 

 泣きじゃくりながら、狼の胸に飛び込む涼月。近衛は泣くのを堪えている。その小さな拳を握りしめ、怒りか、悲しみか、どちらとも取れる感情で、身体を震わせていた。

 

「俺を庇ってくれたんだ、俺の所為なんだ」

「何を言ってるんだ!?ジローの所為なんかじゃない、悪いのはこいつらっ……」

「スバル。私のミスだ。奏も、私は大丈夫だ。心配かけてすまんが、それより坂町のことを気にかけてくれ」

 

 こんな時まで、お前は自分を犠牲にするのか。優し過ぎるんだよ、お前は。フォノンの無感情なんて嘘じゃないか。

 

 涼月を優しく撫でる狼。そして身体を離してやり、去り際に俺に礼を言う。どうやら本当に、一人で病院に向かうらしい。それを制す近衛に行く手を阻まれれば、仕方ない、と溜息をつきながら、近衛の手配した車に乗り込んでいった。

 

「坂町。応急処置、ありがとう」

 

 何が応急処置だ。俺には何も出来なかった。血を流すことさえ、俺は止められなかった。うかうかして、勝手に足を踏み入れて、あいつを傷つけた。原因は俺だ。

 

 後悔の念が残る。それを、近衛と涼月に、俺は打ち明けた。

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