まよチキ! 〜チキンに噛み付くオオカミさん〜   作:パン粉

21 / 60
6

◆◇◆◇◆◇

 

 

 涼月グループの、しかも真宵のいる病院の処置室で、傷口の縫合を行い、包帯で固めて、今日の治療は終了した。当分右腕の運動は避けろ、とのこと。だが、手を開いたり握ったり、スナップも効く。大した怪我じゃないのは、私の自己判断に過ぎないが、それにしても深く刺してくれたな。

 

「あーあー、狼くん、またなんかやったの?」

「ナイフが刺さった」

「もう、死んじゃうじゃんか!!死んじゃダメだよ、狼くん!!」

 

 偶然にも病院の廊下を歩いていた真宵と会い、こいつも泣きそうになったが、なんとか宥めて止めた。病院は静かにするのがマナーだろう。しかも、お前は病人だ。ベッドに戻して、また来ると言ってもその場を離れる。さて、奏とスバルはどこにいるのだろうか。

 

「狼……」

「奏、ちょうどお前を探していたんだ」

「ごめんなさい……」

「謝ることはない。心配をかけてすまんな」

 

 徘徊して辿り着いた待合室に、奏が一人ぽつんと座っていた。彼女の隣に座り、泣き腫らした頬を左手でさすってやる。安心したのか、少しばかり力のない笑みを浮かべるものの、無理をしないで泣いてしまえばいい。

 

 すぐさま胸に顔を埋められる。そして、嗚咽を押し殺したような声で、また泣きながら話し出した。

 

「無茶、しないで。勝手に死んだら、貴方が死んだら、私……」

「すまん。私の命は、私のモノだけじゃないということを忘れていた」

「そうよ、あなたの命は私とスバルのモノでもあるんだから……」

「ああ。死なない、そう約束はした。……泣いておいていいぞ、好きなだけ」

「約束、したものね……。一年前も、私とスバルの代わりに、人質になって……」

「ああ、あれか。でも死ななかっただろう」

 

 簡単に死ぬわけにはいかんのでな。今、私が生きている意味も不明瞭、だが、こいつらのために命を燃やす。それは有意義なことだと思っている。血は肉を食えば戻るだろうし、傷だって縫合したし、3日あれば完治する。構造が戻るかはわからんが。

 

 だが、怪しいな。なんで高校生が、チェーンソーやサバイバルナイフを手に入れられる?年齢的には購入出来ん筈だ。通販でも無理。それに、ガバメントは。新たな悩みが頭を埋め尽くさんとしている時、泣き止んだ奏が笑顔を作る。

 

「スバルが車を用意してくれてるわ。家に早く帰りましょう」

「ああ、今日は色々と疲れた」

 

 病院の出口にはスバルが、肩を震わせて私達を待っていた。しかも、こいつも泣いていた。もう今日は散々だな。私が原因とはいえ、皆泣き虫だ。

 

「狼、落とし前はつけてもらうよ」

「帰ったら、煮るなり焼くなりしていいから。車に乗るぞ」

 

 厄日過ぎる。強がるスバルの肩に手を置いて、とんとん、と叩いてから、車に乗り込んだ。包帯でぐるぐる巻きになっている腕を見た苺は、何も反応をしない。それが彼女の気遣いなのだ。よくわかっているし、その応対のほうがありがたい。

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 屋敷に帰った途端、流が私の腕を見て驚くも、無事を確認してくれた。しかも、彼も大泣きしていた。私ごときの為に、大粒の涙を流していた。

 

 

「すまない、流」

「いえ……無事でなにより、です。狼様がお怪我をされた、なんて、珍しいですし」

 

 もう今日は休ませろ。確かに、スバルには、煮ても焼いてもいいと入った。それに、お前らに心配をかけたのは悪いと思ってる。明日にでもその埋め合わせはさせろ、だから今日は勘弁してくれ。

 

 食堂でも、コサメは珍しく私の心配をしていて。あのスバル大好きバカが、スバルに見向きもしないのなんて初めてだ。食事も普段通り済ませるが、寝返りも下手に打てん。地べたに座り、ベッドを背もたれにして眠ろうとした。しばらく風呂も無理だな。赤い汚れがつくのは私も嫌だ。

 

「誰が流していたんだ、あの武器は……」

「狼、入るよ」

「ああ」

 

 ほら、案の定だ。スバルが先の私の発言をしにきた。がちゃ、とドアと、鍵も閉めれば、すぐに私の身体に抱きついてきて。おい、こっちは一応怪我人だぞ。まあ、いい。

 

 ぐす、と鼻水と涙まみれの顔を見せるスバル。いつのも外での凛々しさは、影も見えん。ハンカチで顔を拭いてやりながら、怪我をした右腕でこいつの頭を撫でる。全く、情緒不安定か。立ち上がってベッドに座らせれば、そのまま私にしがみついていて、燕尾服の袖に涙が落ち、シミを作り。

 

「なに、やってんだよ……」

「坂町を護った結果だ」

「そういうことじゃない……!勝手に一人で突っ走って……。君の喧嘩は、僕の喧嘩だぞ……!」

「なぜそうなる」

「相棒だから。ボクたちは、2人でひとつだから……。君の力になりたいんだ!」

 

 なるほど。相棒だから、か。スジは通る。それでも私は、スバルの手を汚したくなどない。

 

 気持ちだけは受け取っておく。泣き続けるスバル、顔はもうぐしゃぐしゃで、私を見る余裕などない。心がはちきれんばかりなのだろう。仕方ないな、と思い、スバルの肩に手を添えて、自分なりに優しく抱きしめてやった。

 

「ろう、ぅ……」

「もういい。お前の心はわかった。だから、奏のそばにいてやってほしいんだ」

「ボクは……っ。君が……」

「私が離れていた時に、お前が奏を守ってくれた。一緒に喧嘩を買った、ということだ」

 

 こうすれば、こいつは落ち着くだろう。くう、と泣き疲れたのか、そのまま私の腕の中で眠り始めてしまう。そのままだと風邪をひいてしまうし、何より寝にくいだろう。

 

 ベッドに横にさせて、タオルケットをかけてやり。私は壁に背中を預け、そのまま眠り始めた。

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 翌朝。暫くボディガードは休んでいい、と言われたので、学校に行っても、奏に付くのはしないことにした。今日だけスバルに全てを任せ、歩きで学校へと向かう。奏に買ってもらった背広は、昨日の事件でビリビリになって着れなくなってしまった。大事な品だったのだがな、修繕を頼んで、今日は上はワイシャツだけでいる。

 

 学校に付くと、まず出会ったのが坂町紅羽。私の腕を見て、かなり驚いていたが、『わんこ先輩も怪我するんですね?』と、まるでサイボーグかと思われていたような言動をとられた。そりゃあ私だって人間だ、怪我ぐらいするさ。それよりなんだ、わんこ、って。誰がそんなこと言ってるんだ。

 

 階段で紅羽と別れ、自分の教室に入る。既に坂町がいて、私を見つけると、彼は頭を下げてきた。なにかしたか、こいつは?

 

「すまん、俺の為に、そんな大怪我負わせちまって」

「ん。私が勝手にしたことだ、お前のせいじゃない。それと、私の武器を隠してくれたのは礼を言おう」

 

 確かに首を突っ込んできたのは坂町だ。しかし、それでも不測の事態に対応できなかった私が甘い。それにしても、律儀なヤツだ。教室の隅で、黒いポリ袋に入れられた武器を受け取り、リュックサックの中に仕舞う。本当に迷惑をかけたな、坂町。こんな重いものを持ってきてくれるとは、ありがたい。

 

「チキンなんかとは程遠いな、お前」

「そ、そうか?」

「昨日は男気があったじゃないか」

 

 坂町が照れて、頭をポリポリと掻く。やはり人間は褒められると嬉しいものなのだな。こういう一面があるのも、普通の人間だからか。ふむ。

 

「あ、あのさ。昨日、偉そうなこと言って、悪かったよ。俺、お前のこと何も知らなくて」

「昨日?ああ……。お前は正論を言ったんだ、確かに私の命は私だけの命じゃない。あれだけ、奏とスバルを泣かせてしまったんだ」

「……反省、よりもな。お前は、もっと周りを頼っていい。俺だって、話を聞いてやることはできるから」

 

 でも、打ち明けたくないことだって私にはある。話したらあいつらが苦しむことだってある。もちろん、坂町にもだ。こいつもあまり巻き込みたくはないのが本心、奏のおもちゃになってくれているだけ、十分よくやってくれている。

 

 身近な悩みだったら、話すことにしよう。少し、肩の荷を下ろしてもいい。バチは当たらんだろう、それくらいでは。私の思いを察するように、坂町は話を続ける。

 

「俺には言ってくれよな。友達だろ?それに、俺は口が堅いつもりだ。あいつらに言いたくないことを、漏らすことはしねぇ」

「ふむ。気に入った、頼りにさせてもらうぞ」

「おう、任せろ。男に二言はないからなーー噂をすれば近衛達が来たぜ」

「そのようだな」

 

 頼もしい男だ。やはり、チキンとは程遠い。女性恐怖症は、こいつが奥手だとか弱いとかいう材料にはならん。ふむ、良い男を見つけたものだ。そうして現れる、見慣れた燕尾服と黒いドレス。スバルと奏だ。今日はあまり接点はないがな。

 

「狼、早くない?」

「暫く自由なんだ、自由にさせてもらう」

「そう。では今日はボディガードってこと抜きに、私と一緒にいない?」

「それでは、いつもと変わらん。今日は、すべてをスバルに任せるさ。もっと自由に学園を歩きたい」

「うん、わかった。襲われたりしないように、注意するのよ」

「肝に命じておく。スバル、よろしく頼んだ」

「任せといてくれ。大船に乗ったつもりで、さ」

 

 昨日の泣き虫な執事は、どこかへ行ってしまった。自信に満ちた表情、いつもの凛々しい姿。それに心を預ける、私の大切な姉。だが、慢心は皆無だ。

 

 襲われる可能性は、ほぼ無くなった。あれだけ派手なことをやらかしたのだ、涼月狼に歯向かえば消される、それを思い知らされただろうに。堂々と校内を歩いてやろう。

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

「なんかまた怪我増えてるし……。かなり痛々しいんだけど」

「10針縫ったからな」

「はあ!?大怪我じゃない!!このバカわんこ!」

 

 昼休みにて、今日は中庭でマサムネと昼食を摂る。彼女が私の為に作ってきてくれた塩にぎりと肉じゃがを食べながら、怪我の話をするも、右手は包帯だらけだからな、流石に目立つか。というか、私はわんこではない。

 

 そうか。こいつがタネなのだな。紅羽が私を『わんこ』といったのは。同じ手芸部だったか?手芸の方ではあまり目立たんのだが、うちの部は。部長の苺から聞けば、『あたおか』とさえ返ってくる。あたおか――頭がおかしい、だったか、一体何をしているんだろうな。

 

「仕事上のミスだ、労災は下りる」

「下りなかったら不等雇用よ。全く、どんな仕事したら、そんな怪我するんだか。無茶しすぎで、わんこに会えなくなったらつまらないじゃない」

「すまんな、心配かけて。それより、唯一の友人だったか、私は」

「そ、そうよ!あんたしか友達いないのよ、アタシは。お昼休み、楽しみにしてるんだから!何か文句でも――」

「ない。信頼出来る友は少ないものだしな。友達を選ぶのに、注意深すぎる、なんていうことはない」

「そうよそうよ、流石わかってるじゃない」

 

 私も友達は少ない方だからな、なんとなくわかるさ。マサムネ、お前の気持ちもそれなりにはわかってるつもりだ。身近な人間が怪我でもしてくれたら、それは心配する。

 

 そのことを私は忘れていたな。例え、些細な怪我でさえも、悲しむやつは悲しむ。奏なんかが良い例だ。それよりも。

 

「料理、うまいな。肉じゃが、気に入った」

「そう?嬉しいこと言ってくれるじゃない。作ってきた甲斐があったわ。あ、ああそれとさ」

「なんだ?暫く仕事は休みだから、時間の融通は利くぞ」

「そ、そうなんだ。じゃあ、今度の休みに、一緒にどこかに遊びに行かない?」

 

 ――遊び、か。

 

 小さい頃から、私は遊びとは無関係だったが、もちろん遊んでみたい気持ちはあった。地元では、竹馬、ゴム跳び、追いかけっこ、ステルスゲームなどが、幼子達はやっていた。それに比べ、私の遊びといえば、狩り、ロシアンルーレット、潜入行動。どれも物騒だ、振り返れば子供のすることじゃない。

 

「ちょうどバイトも休みなのよね。それで、よかったら、近くのレジャーランドにでもどうかなー、って」

「ああ、あそこか。わかった。確かあそこは水着だったが……」

「み、水着に興味あるの?お、男の子だから、わからなくもないけど……」

「興味?私は水着を持っていないんだが」

「あ、そう。……マジで?」

「嘘をついてどうする。放課後、買いに行くか。少し、見繕ってもらっても?」

「うん、勿論いいわよ!!断る理由もないし!!」

 

 よかった。一人だと何を選んで良いかわからなかったしな。相手は女子だがいいとするか。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。