まよチキ! 〜チキンに噛み付くオオカミさん〜   作:パン粉

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 包帯ぐるぐる巻きのわんこには驚いたけど、更に驚いたのは、わんことの放課後デートだった。買い物?そんなことはわかってるわよ。でも、二人きりなんだよ。デートって言っても差し支えないでしょ。

 

 プールはマズいかな、と一瞬思ったんだけど、本人は「傷など2~3日で治る」とか言ってたから大丈夫なはずよね。怪我なんて慣れてる、それにこの前の指の傷だって、綺麗さっぱり無くなってたし。回復力が人とは違うのね、こいつ。危なかったらアタシが止めるもん。

 

 原付の調子も、なんだか良いみたい。軽く吹けて、ぐいぐいと進んでいくから、少しスピードを抑えめに走る。わんことは店で待ち合わせだから、先に店に行っておく。ちょっと早く着いたかな、と思っていたら、既に彼はそこにいた。

 

「早いわね。女の子を待たせずに来たのは褒めてあげるわ、10点よ」

「点数が付くのか。10分前行動は基本だろう?」

「なるほど、結構マメなのね」

 

 わんこと横に並んで水着売場に行く。まずは女性用水着、というかアタシのビキニを見に来たんだけど。レディーファーストだから、と言ってアタシがわんこを連れてきたんだよね、うん。でも、あんまり高いものは買えないなぁ。流石に家計に響くものね。お弁当、作ってあげられなくなっちゃうし。愛妻弁当を……何言ってんのアタシ?とにかく水着!

 

 売り場に行けば、女性モノの際どい水着ばかり。女のアタシが見て、色んな妄想が始まりそう。なのに、わんこは無表情。こんな時までフォノンなの?なんというか……もしかしてホモ?いや、それは絶対にない。うん。気にしないで、アタシは水着を選ぼう。これ、価格的にも安そうだし。

 

「これなんかどう?」

「競泳用だが。まあ、いいんじゃないか」

「あんまり肌を露出したくないのよ。それに、お金無いし」

「昼の礼だ、私が払おう。結構手持ちはある」

 

 赤茶けたお財布を出すわんこ。意外と倹約家なのかな?というよりかは、お金を使う機会がないだけかもしれない。無警戒にもお財布を開けば、確かに蓄えはいっぱいある。

 

 なんとまあ、豪勢な中身。1万円札が、すぐには数えきれないほど入っていて。アタシの生活費よりもあるし、お坊ちゃんは違うわね……。

 

「どうかしたか?」

「なんでも、お金持ちは違うわねって思ったの」

「それほどじゃない。使わんだけだ。募金が大抵だ」

「募金?へえ、あんた募金なんてしてるんだ」

「100円で恵まれん人間に手を差し延べ、救える命を救う。こんな素晴らしいことはない」

 

 恵まれないアタシにも募金してほしいわ。それにしても、こいつの懐の深さがよくわかる。知らない事が、どんどんわかってきちゃう楽しさ。優しさが滲み出るエピソードですこと。

 

 なら、遠慮なく2枚くらい選ばせてもらおうかしらね。この競泳水着も安いから買うし、後は……。

 

「マサムネ、この緑色の水着はどうだ?」

 

 わんこが選んできたのは、緑と白のストライプのツーピースの水着。下はスカートみたいなヒラヒラが着いてる。目利きセンスあるじゃない。いつもスーツだけしか着てない印象だけど、休日はオシャレするのかな?アタシは、わんこのスーツ、結構好きだけどね。スラッとしてかっこいいし、なにより見栄えがいい。スバル様=燕尾服ってのと同じかな?

 

 わんこから水着を受け取り、競泳水着を渡して、試着室に入る。まさか、覗いたりはしないわよね?いや、わんこになら覗かれてもいいんだけど。そうしない内にも早く着替えなきゃ。――ウエスト、余裕あるわね。

 

「ちょっと大きい……かも」

「見ていいか」

「あ、うん。今カーテン開けるね」

 

 好きな人に水着を見せるなんてドキドキするけど、そうは言ってられないよね。たどたどしくカーテンを開けると、わんこはほう、と声を漏らした。

 

「似合っている。どこら辺が大きいのだ?」

「腰回りかな、ほんの少し」

「ジャージみたいに、調整用の紐はないか?」

「あ、あった。これで……と。うん、あんたが気に入ってくれたなら、この水着にする」

「そうか。では、次はこの水着だな」

 

 どこか機械的な感じが否めないけど、それがわんこだから気にしない方がいいわよね。狼チョイスの水着から、アタシの選んだ競泳水着を着てみる。無論試着の姿をわんこに見せてみると、わんこは顎に手を沿え、ふむ、と頷いた。無表情を崩さずに。

 

「美麗だな。すらっとしたラインが美を醸し出している」

「う、美しい……なんて……嫌だ……恥ずかしいじゃない……」

「スレンダーな君の姿が良く出ていると思う。でもやはり、先程の水着の方が私は好きだ」

「そ、そう?気に入ってくれてるなら、アタシは嬉しいけど」

「美人は大抵何着ても似合う」

 

 さらっと恥ずかしいことばっか言いまくるこのわんこ。嬉しいじゃない。天然だから、これが彼の普通なのかもしれないけど。無自覚にアタシを喜ばせてくれるその性格、好きよ?

 

「じゃあ、お会計頼んで良いんだよね?」

「ああ」

 

 お値段ざっと2万円也。結構良い値段するわよね、女性用の水着って。ただ、値段より気になったのは、他の女性客が狼に視線を集中させていること。こいつ、顔は女顔で綺麗だからね。いや、心も結構綺麗だけど。アタシのまわりにも、わんこのファンの子は何人かいるし。それに若干名の男もいる。耳にしたとこだと、クールな立ち振る舞いで、忠実に涼月奏を護っている姿や、スバル様と一緒に風格を醸し出しているところが、男心をくすぐるんだとか。こんなわんこの彼女っぽいポジションにいるアタシは少し鼻が高いわ。

 

 お次はわんこの水着。なんかこいつ、何着ても似合いそうなんだけど。取り敢えず、アタシが適当に選んだサーフパンツを渡すと、試着室に入って、5秒で着替えて、私に見せた。

 

 綺麗にハンガーにかけられたスーツ一式。半裸の彼は、やはりいい身体付き。保健室の時よりもじっくり見られる余裕がある。鎖骨がかなりいいアクセントだし、サーフパンツの柄の右足の狼の頭が、筋肉質の彼の太腿に似合って、かなりかっこいい。モデルみたいな風格の彼を、今はわんこって呼べないわね。

 

「か、かっこいい……」

 

 言葉を漏らした。意識はせずに。

 

「そうか、ではこれにしよう」

「う、上なんかも、買ってみてもいいんじゃない?羽織り物とか流行ってるし」

「では、あのシャツでも」

 

 わんこが指差したのは、緑色のストライプの、ジッパー付きのウェットパーカー。この柄、好きなのかな?もしくは、お揃いにしてくれたり、とか。後者だったらアタシは泣いて喜ぶわよ。

 

「いいんじゃない?今取ってきてあげる」

「ありがとう……ん?」

 

 言葉を詰まらせるわんこ。彼の視線の先には……涼月奏――彼のお姉ちゃんと、スバル様がいた。

 

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「いいじゃないか、自由なんだから」

「ふんっ、昨日心配して損したわ。水着のチョイスくらい、私を誘ってくれたっていいじゃない。それも、行くところは一緒なのよ?」

「宇佐美さん、すまない。狼とお嬢様の内輪揉めに巻き込んでしまって」

「え、いいい、いや!?わ、アタシは構わないですよ!?」

「そうか、よかった」

 

 まさか憧れのスバル様と話せるなんて!!しかもわんこと一緒のスバル様なんて!!なんてラッキーな日……。ただ涼月、あんたはいつまでわんこと話しているのよ。あ、姉弟だから当たり前か。

 

 でも、なんで頬を膨らませてるの。嫉妬?アタシに嫉妬?へぇ……。

 

「スバルの水着も見てたのに」

「そうか。マサムネも見たかっただろうな」

「え、うん。すっごく見たかった、けど……」

「まあ、行く日には見れるし、楽しみにしてなよ」

「はいっ!」

 

 ああ、やっぱスバル様はわんこと違う凛々しさがあるわ。あと、いつも孤独な……孤独?もう、孤高なんて言葉は似合わないか、スバル様には。坂町もいるし、全然孤独じゃないわね。あ、でもアタシも一人ぼっちじゃなくなった。わんこが友達になってくれたから。

 

 スーツを着直したわんこは、お姉ちゃんの機嫌を取ろうとはしない。ぷくー、とフグみたいに膨れたままの涼月奏を見て、なんだろうか、少し可愛いって思ったのは内緒。そこに意識を取られて、スバル様に唐突に声をかけられた。

 

「狼の友達なら、ボクやお嬢様、ジローの友達だな。よろしく」

「はっ、はひ!」

「はひだって……。かわいいうさぎさんね!」

 

 機嫌を直したのだろうか、アタシを見ては弄り始める。なんかこの目、アタシに似てる。けど、それよりも、このテの性格は手を焼きそう。

 

 おもちゃ?アタシおもちゃ?もう逃げらんないかも。

 

「うさぎさん、オオカミに食べられないようにしなきゃね」

「食べられるって、どういうことだ?兎は確かに食えるが」

「あ、アタシは……寧ろ食べられたいというか……」

「マサムネが食べられてしまうのか?人肉は羊に近いが、食う気はしないな。毒もある」

 

 まるで経験があるような言いぶりだけど、そういう事じゃないの!!もー、本当鈍感なんだから。それよりも、食べられたい発言。なんてことをアタシは言ったんだか。はぁ、発言はもう取り消せないよね。それに、なんかまた不機嫌そうな顔をしてるし、この悪魔。なんなの?弟に惚れてるの?マジで?

 

 察するのは早い。スバル様がわんこに耳打ちする。少しだけ聞こえるけど、内容が。

 

「狼、ボク達は黙ってようか」

「いや、だがマサムネは私から誘ったんだが」

「え?」

「そうです、わんこ……あいや、狼から誘われました」

「そう……」

 

 より涼月が暗くなる。尚更弟に妬いた。なんだこの姉。わんこが絡むと、途端に可愛くなるのね。今日は渡すつもりないけど。主導権は私。それに、スバル様も、少しだけしかめっ面してるし。ねぇ、BLなの?見守る会お望みのそれなの?ネコとかタチとか、そういう関係なの?

 

 ――ダメよ宇佐美マサムネ。(よこしま)な気持ちは捨てなさい。変態に身を落としてはいけないわ。

 

 ウサギは万年発情期なんて風説があるけど、それは嘘っぱち。私は人間。抑えるところは抑えなきゃ。覗かれてもいいだとか、犯されてもいいだとか、なんとか言ってるけどさ、純粋に、このわんこが好きなだけなんだから。その覚悟ができている、っていうだけ。

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