まよチキ! 〜チキンに噛み付くオオカミさん〜   作:パン粉

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 予定より1日早く狼の抜糸が行われる、そう電話が入った。その当日、彼を病院に連れて行って、処置室で私とスバルとで立ち会った。うちの病院のお医者さんの実力は折り紙付き、それは知っている。抜糸も、まるでパズルを壊すかのようなスピード。それもすごいのだけれど、彼の腕の傷がほとんどなくなっていた方が驚いた。驚異的な再生力ね、悪魔の血でも流れているんじゃないかしら。

 

 一昨日のうさぎさんの買い物デートで腹を曲げた私の機嫌を取ろうと、今日は私とスバルに付き合ってくれるらしい。明日が約束の日だったかしら。その時も狼と遊べるかしらね。シャドーボクシングのように、しゅぱっと剃刀のような右ジャブを打ち出し、無事をアピールする狼。

 

「何も問題はない」

「じゃあ、お風呂も大丈夫ね」

「ああ。一緒に入る、とかはせんぞ。どうせ言ってもお前は聞かんだろうし」

「洗ってあげるわよ?」

「だから、一人で洗えると言ってるだろう」

 

 ナイフで狼を刺した、そのことすら狼は水に流した。その漢気――っていうのかしら――からか、他の子達は狼の舎弟になっちゃって、昨日の朝や昼休みなど、狼にタオルやら食べ物やらを渡していたけど、ジロー君が毒味しても大丈夫だったから安心ね。私が強要したわけじゃないわよ、彼自身から買ってでたの。

 

 にしても、カリスマって凄い。自ら身体を張って発揮しちゃう、この子の魅力。男が惚れる男、って多分狼のことね。

 

「スバルやマサムネがウザがってたな」

「私は、あの舎弟さんたちは好きよ?」

「いきなり土下座し始めたから、何事かと私は思ったが」

 

 強さで黙らせたのもあるでしょう。それよりも、やっぱり漢気だと思うわ。それに、また反乱を起こすようだったら全員退学と狼が忠告したのもあるから、当分安泰でしょう。そうそう、ブーツはボンテージくんが履いてたらしいわ。その子、昨日もボンテージを着て、鞭を持ってたから、狼がその鞭で叩いてあげてたわ。変なことを知ったわね、あなた。誰が教えたの?

 

 閑話休題。さて、無事に治ったことだし、遊びに行きましょうか。ね、狼?

 

「付き合うとはいったものの、どこ行くんだ?」

「どこへ行きましょうか。お茶でもする?プラネタリウムにでも行く?」

「どちらでも……」

「じゃあ、プラネタリウムね」

 

 病院に出て、苺の車に乗る。けど、狼が、たまには私が走らせる、と苺に言えば、そのまま彼女は助手席に座った。えー、私がそこに座りたいんだけど……。免許も、偽造?したものがあったし、そこは安心かな。

 

「無駄に飛ばさないでよ」

「法定速度は守る」

 

 センチュリーのエンジンが静かに動き出す。揺れも少なく、快適な乗り心地。苺と同じ、丁寧な運転ね。一つ違うのは、狼がサングラスをかけてスーツを着て、ハンドルを握ること。なんか……、ヤクザの車に勘違いされない?不幸にも、後ろから追突されたりしないわよね?

 

★☆★☆★☆

 

 

「綺麗だったわね、初めて見たわ」

「ボクも楽しかったです。心洗われました」

「センスいいのね、狼」

「3人揃って、一気に喋るな。わからん」

 

 サングラスをしてない狼が笑うことはなかったが、楽しんでくれていたらしい。表情が乏しいのは今に始まった事じゃないけど、険が取れた顔をしていたので、リラックスも出来たのだろう。いつもその顔でいればいいのに。私より女らしくて美人な顔立ちを、サングラスと険で隠すのは勿体ないわ。

 

「私の顔に何かついてるか?」

「見惚れてただけよ」

「そうか」

 

 素直に好意をぶつけたつもりが、彼には届かないみたいね。まあ予想は出来ていたわ。今日一日は、ひたすら狼にアタックするんだから。スバルには負けないわよ。

 

「お嬢様、ボクの顔にも何か?」

「いえ、なんでも」

「スバル、もう車はいい。歩こう」

「そうね。こんなに天気もいいし、のんびり歩きましょう」

 

 いつも車は私が飽きるし。本当、過保護って、時には迷惑になるものね。あら、狼になら迷惑かけられたいわ。普段は逆だもの。

 

 流を呼んで車を屋敷に戻してもらい、この前買ってあげた服を着ている狼の左腕に引っ付き、恋人感を出してみる。ほら、道行く人々が私達に注目してるわ。恋人みたいに見えてるわね。よかった。スバルがなにか羨ましそうな眼で見てるけど気にしない。

 

「次はどこに行きましょうか」

「君達が行きたいところでいい」

「秋葉原は……どうでしょう?」

「あの電気街か」

「いいじゃない、アキバ。行きましょう」

 

 無論車は無いので電車だ。うーん、電車も新鮮ねえ。自動改札も初めてだし、きっぷも買ったことないから乗り方がわからないけど。ま、狼に着いていけば問題ないでしょう。

 

「300円か。3枚……と」

「よく買い方わかるわね?意外に難しくない?きっぷ買うのって」

「あの上の掲示板を見れば解る。それに券売機が案内してくれる」

「こんなぐっちゃぐちゃな路線図でよくわかるな」

「わからなかったら行きたいとこも行けないからな」

 

 電車は降りる人が先、それぐらいしかわからないんだけど。あと優先席ではどうたらこうたら。マナーモードも忘れずにとか、車内での通話は控えろとか?

 

「乗り換えるぞ」

「え?何?」

「乗る電車を変えるらしいです」

 

 なるほど、ホームに降りて電車を変えるのね。人混みの中で移動するのは結構骨が折れるけど、これもまた社会勉強の一つ。割といい体験かも。

 

「すぐ着く。都内は駅間が近い」

『秋葉原、秋葉原。御乗車ありがとうございます』

 

 私より外に出てないのに、よくわかるわね、この子。でもちょっと文句もある。

 

 ICカード、使えば早かったんじゃない?

 

★☆★☆★☆

 

 

 秋葉原。そこはヲタクの聖地。結構私もアニメや漫画は見るから、来たかったのも事実。そしてスバルも恐らく可愛いもの目当てでここを選んだのでしょうね。メイド服とか買って、着せ替えさせてみせようかしら。猫耳とかもいいわね。

 

 そんな妄想を他所に、スバルは視線をお店の中に集中させる。顔を向ければ、見覚えのあるキャラクター。

 

「ひ、ひつじ……」

「ああ、この前坂町がお前にプレゼントした"沈黙ヒツジ"か?これが欲しいのか?」

「うん!」

 

 油断した、スバルとゲーセンに狼を取られた。というか、貴女ホントにそのヒツジとUFOキャッチャー好きね。狼が500円を入れて、5回プレイ中全て沈黙ヒツジを取って、スバルが埋まるくらいのプレゼントを彼女に贈ってるけど、それは逆に困るんじゃない?スバルは前見えてないし。狼も無駄な才能持ってるわね。

 

 店員さんがご丁寧に袋をくれた。スバルがヒツジをその袋に詰め込んで、すっごくニコニコしてる。なんかスバルの笑顔を見てると、こっちも嬉しくなってくるわね。

 

「ねえ、ゲーセンもいいけど、スバルの服も見に行かない?」

「お嬢様、ボクはこのヒツジだけで……」

「私が、買ってあげたいの」

 

 狼は薄々感づいているみたい。そう、その服屋さんは、コスプレ衣装。もしや、とまた更に狼がいう。そうよ、スバル大改造計画!!

 

「スバル」

「なに?」

「せめて、楽しんでこい」

「嫌だ、狼ったら。貴方も付き合うのよ?」

 

 勿論、この前の二件の報復というかお仕置きよ。このくらいは妥当でしょ?まだまだ、優しい方でしょう。さて、このオオカミをどんな風に仕立ててあげましょうかね。

 

 コスプレショップに入って、まずはスバルに一番似合いそうなネコミミを付けてあげた。うん、破壊力抜群ね。無茶苦茶可愛い。

 

「お嬢様、これは?」

「とっても可愛いわ、スバルにゃん。ああそう、それを付けたら、語尾ににゃんを付けなきゃいけないんだにゃん♪」

「わ、わかりました、にゃん」

「嘘を教えるな、嘘を」

 

 ツッコミに回っている狼には犬耳を付けさせているが、銀髪に黒は浮いちゃうわね……。続いて、スバルにメイド服を着せてみよう。真宵ちゃんみたいになるかしらね、あの子かなり似合ってて可愛かったし。スバルが猫耳を付けたまま、私の選んだメイド服を、試着室に入って着替えている間、狼に燕尾服を押し付けた。流石に犬耳執事、とはいかなかったけれど、着替えの早い彼の執事姿は、スバルや流とは違い、別のかっこよさが表れていた。

 

「眼鏡もかけてみて?」

「こうか」

「お嬢様、着替えおわ……狼っ!?」

 

 いやはや、恐ろしいものを作り出してしまった……。スバルの猫耳メイドに、イケメンオオカミ執事。店内の視線を総ナメしてるわよ、あなたたち。特にコスプレイヤーの女の子達がすごい。そしてスバル、貴女の目も凄いわ。星が浮かんでるわよ?プラネタリウムの影響?

 

「なにここ、天国?」

「か、可愛い……。男の娘、萌え~!!」

「あれここコスプレ喫茶だったっけ」

「イケメンコスプレなう!」

 

 狼が眼鏡を外し、どこからかサングラスを着ける。ダメよ狼、そんなことしたら、更に注目を浴びてしまうわ。スマートフォンのフラッシュが止まないし、きゃあきゃあと黄色い声。私の作戦ミスね。

 

「うはっ!!執事さん第二形態キタコレ!!」

「なあ奏、着替えていいか」

「狼、似合ってるよ……悔しいくらいに」

「ああ、狼はいいけど、スバルにゃんはあと一着あるわよ。チャイナドレスがね」

「奏。お前に選んでやろうか」

 

 レザーに素早く着替えた狼が、いつの間にか私の隣に、服を二着ほど持って差し出してきた。内容はメイド服と……

 

「ボ、ボンテージ……?」

「これを着ていた舎弟をかなり見つめていたじゃないか。好きじゃないのか?」

 

 ボンテージ君、私はあなたを一生怨んでやるわ。

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