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アキバ探索はまだまだ続く。スバルのコスチュームを元に戻し、私がメイド服に着替えて、そのままアニメグッズ専門店に行ってみる。ああ、一応ボンテージも買ったわよ。一番これが高かったんだけどね。もう一度言う、私はボンテージくんを一生恨むわ。
そんなことはさておき。漫画やフィギュアを見つけては、手に取り色々物色し、そのままカゴに叩き入れる。狼が呆れたようにそんな私を見てくるけど、別にいいじゃない。趣味は趣味、好きなものは好きなのよ?中身は……ええ、クールな少年とのラブコメ。わかってるでしょ?
「兄ちゃん、大変だねェ」
「ああ。貴様は誰だ?」
「狼、気をつけろ」
「いやいや、俺ァ、そんな危ねェ商売はしてねェンだが……。この先、アンタには試練がいくらか待ち受けてる。顔見たらわかるさ。そういうアンタに、ちょっとしたサービスを提供しようと……な」
なんか私が目を離した隙に、狼より背の高い、黒のレザーコートとパンツを身に纏った、大柄の男が、狼とスバルに絡んでいる。なにをしているのだろうか、と思っていると、男はチラシを渡し、にっこり笑いながら勧誘してきた。
「どんな悩みも気軽に相談、便利屋"Black Cherry"。いつでもどこからでも、連絡くれよ。俺が愚痴やら何やら聞いてやっから」
「あ、ああ……」
「そこの燕尾服着たお嬢ちゃんも、あそこのメイドコスした主人の嬢ちゃんにもよろしく言っといてな。ああ、兄ちゃん。お近付きの印だ……隠しとけよ。この御時世、バレたら豚箱行きだぜ」
何かまた貰ってる。怪しい勧誘かしら?でも、狼でさえも、少しだけ怖がってるんだけど。誰、あの人?
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勧誘らしき黒い男に肩を触れられた途端、私の鳥肌が立ち、しかも死さえ覚悟するほどの恐怖に飲み込まれた。が、その男はフランクに近付き、しかも洞察力に優れていて、スバルを女だと見抜き、奏を雇い主だと言い当てた。
渡されたのは、英語のチラシ。そして、
"武器密輸の商人を探してる。何か知ってそうだから声をかけた。知っていたら電話くれ。銃は純正、しかもそいつが落としていったモンだ。好きに使え。by Souryu Kamui"
ソウリュー・カムイ。確か、イギリス空軍大佐・SAS隊長で、裏稼業のスペシャリストだったな。表の名前は確か"アルトレア・ブラックモア"。そんな奴が日本に来ると思わなんだ。巷では、奴は悪魔だという話もある。どうやら本当の様だ、あんなに安々と間合いに入れて、あんなに威圧されたのだから。元々醸し出す、そのオーラに。
「な、なんであいつはボクが女だってわかったんだ?」
「――世界最強の軍人だからな、お前の偽装も一瞬で見抜ける。それにしても、この前の……」
舎弟共はタダで貰ったといっていたが、どうやらあいつが流しているわけではなさそうだ。ガバメントは傑作だが、古臭い。彼の部隊の制式サイドアームは確か、ベレッタPx4。本人はフルカスタムのデザートイーグルを使っているものの、とにかく実用性に富んだ武器以外は使わんのが特徴。
つまり、あいつが探しているということは、他にいる、ということになる。なるほど、あいつに協力した方が良さそうだ。下手に刃向かうと、恐らく瞬殺されてしまうだろう。しかし……こんなパワーの塊の様な拳銃、対人用には威力がありすぎるし、反動もデカいから使い辛い。嫌がらせか?
「狼?あの人は?」
「悪魔、化物」
「なんでそんな人がアキバなんかに」
「わからん。だが彼は一般市民に危害などは与えんさ。そういう輩だからな」
私も、彼の戦闘技術をゲリラ兵時代に見たことがある。その時から、私は彼を尊敬と研究の対象としていた。それが意外にも気さくな人物だったとは。
――もう、今は関係ないか。こいつらと秋葉原を楽しむのには、今はこれは忘れた方がいい。
「それより、次はどこに?」
「うーん、そうねぇ……。メイド喫茶とか?」
「メイド喫茶……ってなんですか?」
「メイドさんが沢山いる喫茶店よ、色んなサービスしてくれるの」
なんだそれは。化けの皮を纏ったキャバクラじゃないか。どうせ嫌と言っても連れていかれるんだろうな。今日は奏に付き合うと言ったし、別に悪い気はしない。覚悟はしよう。
外からして、客寄せのうるさいステレオが鳴り響く。外装は、名前通りメイド服を纏った小娘の写真、そして小さなビルの中、エレベーターに乗って、店の扉を奏が開ければ。
「おかえりなさいませ、お嬢様、御主人様!」
「おかえり?ここは家じゃないんだが……」
「なんなんだろうな?」
「そういうサービスなの、ほら席に座るわよ♪」
尚更、わけがわからん。ノリノリなのは奏だけ、というかお前がその格好でメイド喫茶に入るとはシュールだな。店員さえ、奏をスタッフと勘違いしているぞ。スバルもメイド服のままだったら、私は引き込みにあったと思われるだろう。
うむ。私には合わん。腹は括ったから、逃げ出すことはせんが。
「アットホームな感じをお客様に提供するのが、ここのポリシーなんですぅ♪」
「風俗とどう違うんだ?」
「こちらはお酒をお出ししたりは出来ません♪ですが、愛と思いやりを提供することは可能です♪」
……なんだこの店。
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狼が顔をしかめているけど、こんな店、私だって初めてなのよ?別にあなたをとって食おうなんてことはしないわよ。 メイドさんにもさせない。させてたまるもんですか。
「お嬢様、こちらメニューになります♪」
「私は男だ……」
「あ、失礼いたしました♪」
「……不思議な、メニューだな」
「ああ。なんだこれ、"お絵かきオムライス"に、"萌え萌えじゃんけん"、"ポッキー懸け橋"?」
「狼は、ポッキー懸け橋は頼んじゃダメよ」
「じゃあボクが頼んでいいですか?」
「……ああなるほど。スバル、別にいいんじゃないか?」
ええ、確実に察したわ、この子。ポッキーゲームを完全に理解してる。そしてスバルはまだ気付いていない。あーあ、スバルの大切なファーストキスが、見知らぬメイドさんに渡されちゃうわ。かわいそうに。まあ、あげませんけど?
とか言いながら、ポッキーを何本か持ってくるメイドさん。あの、私達しか頼んでないんですけど。え、何?もう狙われてるの、狼?まずくない?私、また墓穴掘った?
「お待たせしましたー、ポッキー架け橋でーす♪お客様同士で繋ぎますかぁ?」
「――ええ、私とスバルで」
「では、御主人様は私としましょう?」
「私は頼んでないぞ。アイスコーヒーはどうした」
「私としましょうね~♪」
「話を聞け」
何、この店員?狼を見る目が怖いんだけど。確実に発情してない?メスの匂いがぷんぷんするし……それより、注文を聞かないってどうなのよ。それに、キスしたら……そのメイド、富士の樹海に転がす?
嫌がる狼、でも迫るメイド。スバル退いてそのメイド殺せない。弟に嫌がらせとか、いい度胸してるわね。青筋がピクピク浮いてるわよ、今。
まあ、私の心配なんて杞憂に終わるけどもね。ほら、狼がポッキーをポッキリ折って、ボリボリと食べ始めた。だけど、次の行動が余計だったわね。ポッキーを、メイドさんの口に優しく差し込んだ。あなた、本当にどうしちゃったの?ホストみたいなんだけど。するなら私にしなさい。
「サービスとして捉えておく。コーヒーを持ってこい」
「……はい♪」
「私の唇は、安くないぞ」
「はい♪」
あーあ、オトしちゃった。何をしてるの、狼。スバルがかなりキラキラした目で狼を見てるけど、私は怖い目になってるわ。仕方ない、スバルとのキスで憤りを冷ますしかないわね。
「お、お嬢さ……っ!!」
「う、きゃぁぁっ!!素敵っ!!」
「お前ら……くっ、くくっ!!」
メイドさんが眼を輝かせて私達に注目。しかも、周りのお客さんも、店員も、みんな眼を向けた。だけど。なによりも狼が、こんなに笑顔を見せたのは初めてだ。こんなに笑ってくれるんなら、もっと早めにすればよかった、かな?釣られて、スバルも私も笑ってしまった。狼の、一番人間らしいところが見れて、よかった。
少し、彼の心に、手を差し延べられたかしら。お姉ちゃんとして、彼を手助けできたかな。よくわからないけど、笑ってくれたのなら、私は嬉しいわ。