まよチキ! 〜チキンに噛み付くオオカミさん〜   作:パン粉

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◆◇◆◇◆◇

 

 

 奏がメイド服のまま屋敷に戻ったら、流が驚き、苺が眼を丸くし、そして私は何故か当主に呼び出され、小一時間問い詰められた。あいつが勝手に選んで着ている、そういうと、『狼の写真はないの?』かだと。撮っているわけなかろう。しかも、他の写真はないのか、とも。やはり、親子か。

 

 ボンテージを買っていたぞ、と言ったら、それはそれで少し怒られ、なんでネグリジェにしない、と言われた。私が言うのもアレだが、絶対に違う。怒るところはそこじゃない。呆れて部屋から出れば、奏が私をまた心配してきたが、特になにもされていない。お前にいつもされているのと同じことだ。奏も部屋に入ろうとしたが、やめとけ、と制しておいた。スバルが絡む流並みにウザいぞ。そう、私に話しかけているこの男の様に。

 

「大変でしたね、狼様」

「もう慣れた」

「それならいいんですが……。ちょっと、私も、狼様に相談があって」

 

 何やら真剣な顔つきで流が私に話を持ち掛けてきた。なんでも、スバルは坂町の事を話したらしい。それも変にひん曲がった話し方をしていて、「誰もいない理科実験室でボクの事を押し倒して、鼻血まで出した男」、と言ったそうで。かなり誤解のある言い方をしているな、あいつは。

 

 あいつの名誉の為だ、印象は変えてやらねば。てっきり、スバルの写真をくれと言われるかと思っていたのだがな。はあ。

 

「スバルには、"その男を連れて来い、八つ裂きにして吊してやる"、と言ったんですが」

「彼は私やスバルの恩人だぞ。押し倒したのは、スバルの頭に瓶が落ちてきそうだったからだ。彼が庇わなかったら頭に大怪我を負っていたし、私の腕を応急処置してくれたのも坂町だ」

「――ですが、鼻血を出したというのが、発情した犬としか思いようがないので。私の愛する娘の胸をも触ったのでしょう。ボッコボコにしたく……」

「あれは事故だ。それに、あいつは女性恐怖症。加えて鼻血は彼の体質で、女性に触ると鼻血が出るらしい。それも、彼の母と妹がプロレス技ばかりかけたのが原因で、鼻血を出せば周りが汚れるから止めてくれる、というのでそうなってしまったそうだ」

「ですが、やはり嫌いな奴ではありますね。あ、それともう一つ……」

「なんだ?」

「ちょっと、協力してほしいことがありまして……」

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 翌日。スバルに、私が改造したスタンガンを持たせて、別行動で家を出る。水着も、護身用武器も、そして水着を入れるビニール袋なども全て持ち、歩いて駅に向かった。流には、少し心配な計画に手助けしてやり、私はマサムネと遊ぶ。そういうプランだが、果たして上手くいくのかどうか。逆にトラウマをえぐりはしないだろうか。

 

 切符を買い、目的地に着く。ちょうど待ち合わせの10分前だ。現地集合なので、既に彼女はいるかもしれない。電車を降り、入場ゲートまで歩く。その途中だった。

 

「あれ、わんこ先輩?」

「紅羽?それに、坂町?」

 

 坂町兄妹に出会(でくわ)す。兄妹揃って、だ。そういえば、こいつらも、スバルや奏と、ここに来るんだったな。思い出したぞ。

 

 私は誰を待っている、そう聞かれれば、宇佐美マサムネ、と答えた。どうやら紅羽は彼女と面識があるらしく、話を聞けば部活が一緒なのだとか。たしか、手芸部だったか。苺が部長の、謎を極める集団。

 

「へえ、うさみん先輩と。それってデートですよね?」

「恋人ではないから違うな。そういうお前らは、奏達と遊びに来たんだろう?」

「涼月と近衛でダブルデート、ってのが名目。俺にとっては拷問だよ」

「そうか。紅羽、奏の護衛は頼んだぞ。スバルも君がいれば安心だろう」

「任せてくださいお兄様!!」

 

 奏と坂町は付き合っている設定だったな。わんこやらお兄様やら、ころころ私の呼び方を変えないで欲しいが、言うだけ無駄というやつか。蔑まれるよりは遥かにマシだしな、好きな呼び方をすれば良い。

 

 ゲートに着いて、奏とスバルに再会し、彼女らを見送り、私はマサムネを待つ。日が照ってきて、少し暑い。でしゃばりな汗が少し顔を出してからちょっとすると、特徴的な髪色、ツインテールの女。宇佐美マサムネが私の視界に表れ、ゆっくり歩いて私に近付いてきた。

 

「待った?」

「いや。今から5分前に着いた。君も早く来たから、時間に余裕がある」

「少しあんたを見習って、時間に気をつけてみたのよ」

「そうか。別に休日だから、そこまでパンクチュアルにならなくていいのに」

「そういうあんたも、いつもマメじゃん。でも、そういう性格なら仕方ないわね、ふふっ。私服、似合ってるじゃない」

 

 いつもより彼女は明るい。一体どうしたんだろうか。私と遊べるのがそんなに嬉しいか?私も、マサムネと遊べるのは悪い気はしない。

 

 さ、と自然に手を出される。これは、繋げということだな。その小さく可愛らしい手を握れば、にこやかに彼女はゲートへと連れて行ってくれる。窓口で応対するは、熟年の女性。愛想を振り撒き、私達を案内してくれる。

 

「大人2人でいくらだ?」

「お代なんか取れないよぉ。涼月の経営よ、ここ。二人とも、存分に楽しんでちょうだいね?」

 

 涼月の名は便利なものだ。タダなものほど高いとは言うが、その質が高い、稀な例がここにある。財布を開けることもせずに、マサムネとゲートを潜って、更衣室で別れた。中に入ると、スバルと坂町がキョロキョロしているが、着替え場所を探しているのか。

 

 ーー大体察しはつく。男の身体など、スバルは見慣れていない。それに、個室じゃなければ、着替えられん。

 

 なぜこいつは、屋敷で準備をしてこなかったのだろう。こういう展開は予想できたはずだが。まあ、トイレの鍵を閉め忘れるなら、着替え忘れるのもおかしくはないか。スバルには失礼だが、そういうことだ。全く、面倒をかけ続けてくれる。別に嫌ではないがな。

 

「屋敷で着込んでくればよかったものを」

「う、面目ない……」

「個室の更衣室があそこにある、そこで着替えるといい。坂町、周りに人が来ないか見張ってくれないか?」

「あ、俺も着てないんだよな」

「なるほど。では私が見張ろう」

 

 個室にスバルを押し込んで、カーテンを閉める。坂町が腰にタオルを巻いてサーフパンツに穿き替えている間、私はレザーを脱ぎ、穿いてきた水着に、上のフードを取り外したパーカーを羽織り、ロッカーに衣類をしまった。

 

 さて、スバルはどうなのだろう。何事もなければ良いが、と一抹の不安を胸に、個室のカーテン越しに聞いてみる。

 

「スバル。終わったか?」

「て、手伝ってくれないか?上のサラシが……」

「ぶふぉっ」

「入るぞ」

 

 坂町が鼻を押さえている。鼻血だな、ティッシュを投げてやり、私は個室に入り、スバルに両手を上げさせて、サラシをナイフで切った。

 

 ――ふむ、ここまで育っていたか。胸の自己主張は、通りで自己主張を続けるわけだ。胸を抑えて隠そうとしているが、それじゃあ巻き辛いし、なにより隠し切れていない。唯一幸いなのは、奏より小さいサイズだということ。どうするか、と考える時に、スバルが一言。

 

「あ、あんまり見るなよ……!恥ずかしいんだからさ……」

「すまんな。どうしてやろうか考えていた」

「……揉む?」

「何言ってるんだ。坂町、私のバッグをくれ」

「ほいよ」

 

 上から投げ入れられる、私のバッグ。中に救急用の道具が一通り入っている。こういうときのため、ではないが、サラシも、血を拭いたりするときの為に長く綺麗な物を入れてある。

 

 不幸なのかどうなのかは置いておき、取り敢えずはスバルをどうするかが先。そう決め、サラシを片手にスバルの胸を上から手で抑える。弾力ある肌の張り、脂肪とはいえ、その下にはヒッティングマッスルも備えられ。

 

「ろろろ、狼っ!何して……っ!ここじゃダメだよっ!」

「勘違いするな。いいから、手を挙げろ」

「え?」

「サラシを巻くんだ」

「う、うん」

 

 胸が潰れる程キツく巻く。ぐにゅ、というゴムみたいな感触が、サラシ越しでも伝わってくる。女性の身体的特徴ともいえる胸、それを触られるのはさぞかし嫌だろうに、スバルは大人しいままでいてくれた。

 

 サラシをナイフで切れば、サージカルテープでそれを止める。そのままパーカーを羽織らせ、カーテンを開けて彼女を出した。性徴期だ、もうそろそろ誤魔化すのも厳しい。プールなど尚更だ。柔肌を晒せるくらいの身分だったら、どれだけ楽だったろうか。少し、スバルが気の毒に思えてくる。

 

「これで大丈夫だな」

「ああ。ありがとう」

 

 スバルはニカっと笑う。そして、坂町と共にシャワーを浴びて、プールサイドへ。私もミニナイフを懐にしまい、未開の地へ。鼻を突き抜ける塩素の臭い、華やかなディオラマの景色、それを彩る人々の色彩豊かな水着姿。ふむ。これがプールか、なるほど。

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