まよチキ! 〜チキンに噛み付くオオカミさん〜   作:パン粉

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第三章 オオカミ、説教する
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◆◇◆◇◆◇

 

 

「一時解雇?」

「ええ。お父様が、スバルと流、仲直りするまで屋敷に戻って来るな、って」

 

 レジャーランドに行った2日後。ゴールデンウイークの期間に突入し、仕事の無い一番楽な時期に、問題は起きた。スバルが、流が坂町をボコボコにしたことに不満を持ったらしく、一切口を聞かず、不穏な空気が流れていたのはわかってはいたが、まさかここまでエスカレートするとはな。

 

 朝食を摂りながらその話を奏から聞かされ、頭痛の種がまた増えた気がした。確かに、流のスバルへの接し方は異常だ。だが、更に異常なのは、最近のスバルがあんなに怒っていたということだ。私と奏以外に初めて出来た友達だからな。それに、実父が暴力を振るった、というのは確かに考えようではあるが。

 

 既にスバルも流も屋敷にいない。コサメの態度でわかったし、苺は流にテントを渡したそうだ。あの胸を揉むのが日課だったのに、とコサメが変態じみた嘆きをし、はぁ、とため息を付く。風説だが、女性の胸は揉むと大きくなるらしい。もしや、サラシがキツくなっていたのもコイツが原因か。

 

「確かにジロー君にも非はあるのだけれど、それを知らせなかった私とあなたもいけなかったわね」

「そうだな。おい、コサメ。私の胸を揉むな」

「いいじゃんかよぉ!貧乳なのはお前しかいないんだ!」

「少し黙ってろ。その口を縫い合わすぞ」

「YES。準備は万端」

 

 わきわきと指を動かすコサメに吐く暴言、それに呼応して縫針を取り出す苺。ああ、こいつらも騒がしい。ひえ、と怯えるコサメが奏に助けを求めるが、ハウス、と言い捨てられて尚更しょぼくれる。

 

 それにしても。スバルと紅羽、マサムネ以外に非がある、と言うことだ。確かに、あれだけボコボコにされてスバルが怒るのも無理はない。あと、と奏が更に続けた。

 

「どうせならこの際、狼が執事をやってみれば?って、お父様が」

「……なんでそうなる」

「むしろ、私がメイドでもいいんだけど」

「NO。お嬢様、それは私がやります」

 

 楽天的だな、全く。メイドは苺だけで十分だ。とはいえ、この前のコスプレ、気に入ってるんだな。ずず、とコーヒーを飲みながら、正メイドの苺に、多少困った事があるなら手伝うぞ、と声を掛ける。頼りにする、と返事をされながらも、奏は聞く耳持たず。

 

「専属メイドになるわよ?ご飯もお掃除もお洗濯も、それにお風呂のお世話も」

「馬鹿か」

「ええ、私は馬鹿よ?貴方のことになると、誰もが認める大馬鹿になるわ」

「苺。助けてくれ」

「NO。無理。嫌。男の子なら受け止めて」

「コサメ」

「嫌だ」

 

 飼い慣らされすぎではないか。メイドになったら、苺に色々仕込まれるぞ。別にそれはいいのだが、猟奇的な面は教えなくて良い。お前のチェーンソー、絶対に奏に見せるなよ。

 

 コーヒーを飲み干し、席を立つ。ゴールデンウィークならば、授業の復習と先取り学習をしておこう。とは言っても、去年で現教育課程範囲は全て独学でマスターしたので、今は大学受験の演習をしているのだが。踵を自室へと返す時に、奏に絶え間なく話しかけられる。

 

「どこ行くの?」

「部屋に戻る。勉強したい」

「真面目過ぎるのも考え物よ?」

「君と違って、私には家庭教師はついていないからな」

「学年トップなのに?」

「別に大したことはない。やれば出来るものさ」

 

 予備校にも行けないなら、自分で消化するしかない。それに学校には、教師もいるからな、聞けば答えてくれる。むぅ、と膨れる奏を尻目に自室に戻ろうとすると、スマートフォンの液晶に浮かび上がる名前はスバル。なかなかこいつらは、私に時間をくれんな。仕方ない、ボディガードはそんなものだ。

 

 タッチパネルを操作して、通話を取る。聴きなれたアルトボイスだが、少し狼狽えていて。またなにかやらかしたのか、こいつは。

 

「なんだ?」

《どうしよう、狼……。お財布落とした……》

「今、どこにいる?」

《学校の近く……》

「財布は探しておく、お前は取り敢えず、坂町の家に行け」

「スバルがどうかしたの?」

「スバルが財布を落としたそうだ」

「なにやら面白そうなことになってきたわね。ちょっと貸して」

 

 また悪い病気だ。頭を抱えながらスマートフォンを奏に貸して、ドアに寄り掛かる。どうもこうも出来はしない。そして坂町、連絡入れるべきなのだろうが、どうせ奏に邪魔されるに違いない。許してくれ、なにも言わん事を。

 

 コーヒーのおかわり、と苺が気を利かせて持ってきてくれるも、コサメは固まったまま動かない。対照的にもほどがあろう。そんなにスバルが恋しいのなら、自室に匿えば良かったのに。八つ当たりされそうな気もするが、それはそれで受け止めてやるさ。

 

「スバル。お願いするときは、猫耳と尻尾をつけて、こういうのよ」

《はい、わかりました……》

「"もしボクを泊めてくれたら、いっぱい御奉仕しちゃうにゃんっ!"」

「お嬢様。私にも言ってください」

「お前が言う側だぞ、苺」

 

 ご丁寧に礼儀だのなんだのと嘘をついてスバルを騙す。それに惹かれて欲を出す苺。全く、いつまでたっても、悪戯好きは直らないな。

 

 私は狼にしか言わないわ、と無慈悲に切り捨てられ、しゅん、としょげる苺を放っておき、通話が終わった奏はスマートフォンを私に返すと、彼女も部屋に戻った。その時私にウィンクをして、何かを知らせる。何か、悪い予感がする。

 

「コサメ。いい加減、機嫌をなおせ」

「ろっぱい……筋肉で大っきいおっぱい……」

「……苺」

「ご奉仕されたい……。あの声で命令されたい……」

「……バカばっかりか」

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 気分の落ち込みで全く仕事をしない使用人2人に代わり、洗濯やら掃除やらを全て熟す。庭の手入れも終わり、自室に戻って机に向かった途端、秋葉原で買った猫耳と尻尾を着けているスバルの写真が、坂町の携帯から送られてきた。恐らく奏の差し金だろう。何をしているんだか、本当に。

 

 冷水を飲み干し、ペンを取ってハイペースで数学の問題に取り掛かる。約50問、1問5分あればよい。カリカリとシャープ芯でルーズリーフに引っ掻き傷を作り続けながら、アイスコーヒーをちびちびと飲み続ければ、予想以上に全問題を早く解き終わっていて。ちょうどいい、教科も変えて物理をやろう。

 

「お菓子をお持ちいたしました」

「おい、本当にメイド服を着てくるやつがあるか。奏」

「だって、構ってくれないんだもん…」

 

 ノックをせず、お盆を片手に入ってくる奏。一言だけで、彼女もしゅん、と縮まった。思い返せば、こないだのレジャーランドでも、ほとんど奏を構ってやれなかったな。確かに、彼女の気持ちはわかる。

 

 とりあえず、礼は言おう。ありがとうな、と言えば、すぐに治る奏の機嫌。手早く物理の問題を5問解いて、椅子から離れて、奏の持ってくれたお菓子を、最近導入した小さなテーブルに置き、ソファーに腰を下ろして食べはじめる。隣に奏が座り、私の肩に頭を乗せて、甘えた声を出してきた。

 

 たまには優しくしてやろう。彼女の頭を、私の白くて無骨な手で撫でてやると、更に甘い声を出し、私に引っ付いてきた。しかし、顔は少し憂鬱さが表れており。無理もない。

 

「スバルが心配か?」

「ええ。スバルも、流も心配。あの二人は、親子でしょ?」

「……流は、私の父親と変わらん存在だと思っている。スバルだって私の相棒だ。二人の仲を取り持ちたいが、厳しいな」

「やっぱり、狼の中でも、大事な二人よね……」

「ああ」

 

 ――怪我をしたときは、いつも流が私の為に泣き、心配し、気遣ってくれた。血縁関係のわからない私にとって、本当に大切な男だ。スバルも、奏も。皆、私の中の欠けてはならぬ存在である。

 

 以前は、こんなことなんて、微塵も考えなかっただろうな。やはり、彼女達と過ごしたから、変われたのだろう。人間はそう簡単に変われはしない。だが、不可能ということではない。じっくりと接していくことで、人は必ず変われるのだ。その変われるきっかけを作ってくれたのは、奏やスバル、真宵、流、坂町、マサムネ。こいつらに恩返しをするまでは、絶対に死なないし、死なせない。

 

「5時頃に出ましょうか」

「ああ。一肌脱ぐか……」

 

 ――坂町、お前には少しだけ迷惑をかける。許してくれ。

 

 クッキーを奏に食べさせられながら、そう心中で二度目の謝罪。奏もついてくることになるのは、薄々予測できていたが。

 

 今のあの2人を屋敷に残して、大丈夫なのだろうか。

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