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「食事?」
「ああ、そろそろその時間だ。お嬢様だけだがな」
19時ごろ、スバルは私に次のスケジュールを伝える。流石に毒味まではしないだろう。信頼のあるシェフが作っているはずだ。
私達の食事の時間はいつとれるのか?恐らくスバルは自分の家で食べるのだろう。だとしたら、私は抜きか?
別にそれでも構いはしなかった。ゲリラ在籍時から取っていたレーション――軍用携帯食のドライフードを持っているから、それを食べればいい。それと、飴玉やビスケットなども常に持ち歩いている。先程もスーツの中に入れていた。ちょうど小腹が空いたので、ビスケットの包みを開け、口に放り込む。
「お前、中々抜目ない奴だな」
「生きる上では、食物摂取は基本だ。食べねば動けぬ。スバルも食べるか?」
「ボクはいい」
彼女も私と近い歳だろう、成長期には豊富な栄養が必要だ。軽食など普通だが、スバルはそれを遠慮した。そして少ししてから、奏がドアを開けて、スバルが食卓へと付き従う。私もそれに倣い、二人と共に食卓の間に付いた。
「あら、狼もそこに座っていいのよ?」
「奏を守る仕事がある。食事中に襲われたら、咄嗟に動けない」
「ここはあなたのいた戦場じゃない。死ぬなら、多分毒殺よ?」
「毒味をしろと?」
自分でも捻くれた考えだとはわかっている。だが、先程も言った通り、信頼出来るシェフを置いているなら、毒を盛っているなどありえない。それに、さっきシェフは見た。体格の良さげな女がいたのは覚えているし、スバルに絡んでいたのも間違いなくこの目で見えたことだった。名前はコサメというらしい。
「疑わないんだ?」
「あれだけじゃれあってる奴が、毒を盛るか。気にせず食べろ」
「座りなさいな。落ち着かないのよ」
「……座るだけ座っていよう」
私が座った途端、メイドが料理を奏と"私"の前まで運んできた。なぜ私にも渡されるのかはわからない。座るだけと言ったはずだが。
スバルもそれには驚いた様で、奏にそのことを聞こうとしている。私も同時に問おうとしたら、奏はきっぱり言いきった。
「狼は、今日から涼月の人間。家族が食卓に並ぶのは当然よね」
「私が家族、か?」
「養子だもの。私とあなたはもう義姉弟よ。もちろん、私が姉だけど」
養子がボディガード、か。全く。今考えれば、頓珍漢な話だ。私は機械ではなく、玩具なのか。玩具なら今までもそうであったような気がする。しかし、扱いはそれなりによくして貰いたいが、私は奏のボディガード。そんな欲は聞いてもらえはしない。犬はどこまでも犬、変わりはしないだろう。
冷めた目付きのメイド――苺、というらしい。なにやら、私と同じ匂いがしなくもないが、彼女がフォークを置くと、すたすたとどこかへ行ってしまった。
「さあ、食べておくんなさい」
食べてもいい、とコサメはいうものの、私と奏、二人でこんな豪勢な物を食べろというのか。確かに胃に入ってしまえば、あとはドロドロに溶かされて排出されるが、この量では胃も休みを欲するだろう。
「好きに食べていいのよ?」
「……では、丁重に感謝して、いただこう」
この一切れのパンを食べるのに、前はどれだけ人を撃ったことだろう。今、簡単にこのパンを食べられるのは、とても幸せだと思う。しかもこんな温かくて綺麗なパンなど食べたことはほとんど無い。カビたボロボロのパンがほとんどだったからだ。
水もとても澄んでいて、山の匂いがし、喉にひっかかることなく入るのに驚いた。奏は私の姿を見てにこやかに笑っているが、彼女が私のこれまでの人生に同情しているなら、それは優しいことであると思う。
「……うまい」
「あら、それはよかった」
「……」
「落ち着いて食べなって、誰も取らないよ」
ガツガツと食べ物を貪る。こんなにうまい料理、食べたことなどなかった。食は生きる術、そして戦う源。のはずが、楽しむ為の食事になっていた。
◆◇◆◇◆◇
奏と私の食事が終わってから、私とスバルはまた奏に付いていく。くすくすと笑う二人だが、私の食事姿は、そんなに面白い物だったのか。
自覚はないものの、本能を晒したことに恥じらいはない。そして今度は彼女の部屋の中。これから入浴の時間らしい。二人で入ってきたらいい、私がそう言うと、奏は悪い笑みで私に話し掛けてきた。端的に言えば、至極どうでもよいことだった。
「あなたも一緒に入る?」
「なぜ?」
「ボディガードだから」
「スバルがいるだろう」
「堅いわねえ」
「お嬢様、流石に混浴はまずいです」
「気にはせん。大体ここがわかった。安全だ、ここは」
スバルが釘を刺した。彼女だって、私に裸体を見られるのは好かんだろう。私が発情して襲うことはないし、奏は恥ずかしい思いをするだけだ。ボディガードとしての職務放棄、と取られてしまうかも知れんが、執事ならば、仕えて長いのであろう。勝手を知る人間の方がよいのではないか。
「姉弟水入らずのお風呂なのに……」
「スバルと奏の方がよっぽど姉妹らしく見える。いいから二人で入ってしまえ」
更につまらなさそうに奏がし、スバルは苦笑いし。どこか、この2人の関係性がわかった。奏は、スバルを弄んでいる。今、それを確信した。しかし、どこか寂しそうな眼を奏がしているのは、見逃さなかった。
ふん、と自分自身の解釈に頷いて、スバルに聞く。これが私にも飛び火するかどうか、こそこそと。
「ああいうことは続くと思うか、スバル」
「続くよ、お嬢様の性格はそういうものだからね」
成る程。彼女は令嬢というよりは、下町の悪戯好きの子供、というのが一番似合っている。私の思う限り、窮屈な生き方を強要されているのなら、自由を見つければいい。それを見つける手助けをするのはスバルに掛かっている。
もっとも、私がボディガードである限り、完全な自由になりはしない。私に見張られているようなものだからな。
「スバル、行きましょ?ふふ、またね狼」
「了解」
ここでは拳銃を使う必要もないので、私はベレッタからマガジンを取り出した。CQCなら心得ている。それに、来るのは拳銃を持つ人間ではなく、カメラを持った覗きだろう。
――屋敷にわざわざカメラを持って入れる奴はいないと思うが。