まよチキ! 〜チキンに噛み付くオオカミさん〜   作:パン粉

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第四章 オオカミ、狩りをする
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◆◇◆◇◆◇

 

 

 近衛親子の喧嘩期間(GW)も終わり、学校も再開した。時は流れ、5月中は特に何もなく6月に入った。今日は私が坂町と共に学校に行く日、暑くなってきた中で荷物を最小限に纏めたバックパックを背中に、坂町の家の前で彼を待つ。最初は紅羽と会い、おはようございます、という元気いっぱいな挨拶を受けて、私もそれに返した。骨折は、言った通り3日で治ったそうで。奏の計らいで、うちの系列の病院での検査をしたのだが、レントゲンはおろか、MRIでも完全に癒合していた。

 

 わんこ先輩のおかげです、と、病院で礼を言われたが。確かに、骨のズレを治したのは私だ。骨格の歪みを直したのも私。そこで何か大きなミスをした気がしなくもない。坂町の顔を見て、尚更そう思った。

 

 今に話を戻そう。学生カバンを脇に抱え、眠そうな(ツラ)をして、とぼとぼと歩き出す坂町。バックパックに眼をやれば、他愛のない会話。

 

「お前の持ってる物って、どこか古ぼけてるよな」

「物を大事に使えば、新しい物を買う必要など無い。古くても、使えればいい」

「御坊ちゃまらしからぬ、真っ当な意見だな。現代人に聞かせたい言葉だぜ」

 

 感心する彼、だが私にとっては普通のことに過ぎない。いつからこのバッグを持っているかはわからない。少なくともゲリラ時代から、武器や薬などを入れている。その名残か、7.62mmAP弾が出て来たりするのだ。ゲリラの時のメインウェポンはAK-47、信頼性は高く、必ず撃てる。そういう点では、アサルトライフルとして最高傑作だ。

 

 話をしながらT字路を通るとき、バックパックの話を遮る様に、原付自転車のエンジンがした。それはこちらに向かってきて、前方不注意のまま、私の隣にいた坂町を轢き、双方吹っ飛んでいく。坂町は受け身を取って無事だったが、原付を動かしていた人間は暫く倒れたままだった。

 

 ――そうか。ミスの理由はこれだ。紅羽のプロレス技に磨きがかかったのだ。おかげで、坂町が無傷なままでいる。

 

 いてて、と呟くものの、頑丈さはより洗練されているその身体。よく見れば、首が太い。パイルドライバーやら、DDTやらを食い続けたのだろう。それよりも、運転手の方が気にかかる。ヘルメットが取れていて、地面に横たわっている女――よく見ると、それは宇佐美マサムネ。前方不注意は減点ものだぞ。

 

「マサムネ」

「はっ!?ひ、人を轢いて――ってわんこ!」

「大丈夫か?怪我はないか?」

「うん、奇跡的になんにもない。けど人を――あ、生きてるし、無事だし、ってバカチキ!」

「バカチキ?」

「馬鹿なチキン野郎のことよ!わんこの唇奪って顔赤らめた変態チキン!!」

「あれは事故だったろう」

 

 マサムネを立たせ、地面にばらまいた鞄の中身を拾ってやる。弁当はもうダメだな、汁が垂れている。そして、バイクもフレームが歪んでいる。坂町の身体は、鋼鉄か何かに変性したのだろうか。

 

 それにしても、あのプールの一件を、未だに根に持っているとは。悪いのは奏なのだが。まあいい、あれも私のミスということにしておこう。すぐさま脳内で処理を済ませ、マサムネに声を掛ける。

 

「前方不注意、減点だ」

「おまわりさんがいたらヤバかったわね」

「俺だったからよかったな。それより……。眼鏡どこだ?」

「ほら」

「お、さんきゅ。……って、お前、プールん時の!!」

「気付くのが遅い!!」

 

 仕方ないだろう、坂町は視力が弱いのだから。それにしても、なんだ。坂町とマサムネも、仲が良さそうだな。騒ぎ立てるウサギと、それに言い返すニワトリ。痴話喧嘩のように見えてしまう2人を余所目に、原付のハンドルを握り、それを引きながら学校に向かう。朝から本当に騒がしいが、こういうのもたまにはいいだろう。スバルのファンクラブの嬌声よりは遥かにマシだ。

 

 痴話喧嘩は終わったのか、ひと段落ついたのか、どちらかはわからんが、マサムネはこちらを見て、にこっと笑った。原付を引く私に対して、礼を言って。

 

「わんこ、ありがとね」

「気にするな。友達だからな」

「親しき仲にも礼儀あり、よ」

「なるほど」

「端から見ても、お前らはカップルにしか見えないな」

「そうなればいいけどね、ただバカチキ。アンタ、わんこに手ぇだしたらぶっ殺すわよ。スバル様を手篭めにした挙句、わんこまでなんて……」

「そういうのは一切ない、安心しろ。スバルは坂町の友達なだけだ」

「なぁんでアンタがスバル様の友達になれたのか、不思議よね」

 

 色々あったんだ、と言っておく。GWにも、沢山迷惑をかけたしな。ウチの執事の尻拭いは、最早お手の物だ。に、しても。最近、スバルはより落ち着かん。そして、なぜか引っ付こうとする。お前も奏に似てきたな、と思ってはいるが、コサメのセクハラに対しては相変わらずの対応。殴り飛ばすのはよせ、と言ったら、次は身体をかわすようにした。それだけでも僅かな成長だろう。無駄に暴力を振るのは、感心せぬしな。

 

 原付を校舎内の駐輪場に置いたあと、生徒昇降口へ。舎弟――私を襲ってきたあの集団の出待ちを適当にあしらう。坂町を『伯父貴』、マサムネを『姐さん』とか言って出迎えた時の2人の顔、どこか引きつっていたな。キーをマサムネに渡し、教室に入ると、机の上には大量の服が乗せてあった。私の背丈には合わんサイズだが、誰のものだろうか。

 

「ロック……?」

「おっ。おはよう涼月。机使わせてもらった。これ衣装のサンプルなんだ。俺のバンドのな?」

 

 坂町の親友・黒瀬が私に説明する。フリンジやファーの着いた服。やけに古臭い衣装だな。畳んでから衣装を渡してやり、席替えした後の、坂町の隣かつ奏の後ろに位置する場所に座った。

 

 少しして、奏とスバルがやってくる。そしてつまらぬ時間を過ごす。文化祭?ああ、確かそんなのあったな。昨年は奏と回って射的や輪投げなどを出し物にしていたクラスを、景品を全て総ナメにして、早期閉店にさせていた。

 

 窓際の席にいたのが幸いだった。青空を眺め、話を全て聞き流す。今日はより一層綺麗な晴天だ。この空の下で摂る食事はさぞかし美味いだろうな。さて、今日は何を食べようか。

 

「というわけで、このクラスの出し物は女装喫茶になりましたー」

「奏……。悪趣味な催し物を企画するな」

 

 ぼうっとしていた私の耳元で、奏が気色の悪いイベントを提示した。女装喫茶"どうしてこうなった"。本当に、どうしてこうなったんだ。誰に需要があるのだ――ああ、見守る会か。あの、ゲイ好きクラブの。

 

 勝手に奏は私の衣装の話をし始める。メイド服?水着?ナース服?ウェディングドレス?絶対似合わないだろう。裏方で良い、料理をするのならやるぞ。だから、コスプレはしたくない。

 

「お嬢様」

「なぁにスバル?」

「狼は、振袖が似合うと思います」

 

 奏への提案、それ即ちクラスへの提案。すこしニヤついたスバルの顔を私は見逃さず、そして男も女も、おお、と大騒ぎ。うむ、この流れは――私は、裏方には行けんようだ。

 

●○●○●○

 

 

 昼休み。教室に行ってもわんこがいないから、屋上に行ってみると、うなだれながら焼きそばパンを食べているわんこがいた。はぁ、とため息をつくなんて、珍しい。なにかあったのかな?

 

「どうしたのよ、そんなしょげた顔して」

「最悪だ……。文化祭が、私のクラスの出し物が女装喫茶だ」

 

 ……それは、確かに最悪だわ。誰が、わんこ以外の女装を見たいのか。外部の"そういう人達"か、見守る会か。物好きしか興味なさそうだけどね。

 

 ――そういや、もう文化祭なんだ。

 S4の集まりに久々に出ても、わんこのことで頭いっぱいだったし、そんなの考えてなかった。でも、文化祭って、一気に距離を縮められる大チャンスよね。千載一遇の機、到来。

 

 S4とスバル様をうんたらかんたらの抗争はどうでもいい。なにかそんな話が出ていたのは、うっすらと覚えている。そんな仁義なき戦いには興味ない、アタシはわんこを落とすためのあの手この手を考えねば。

 

「わんこ?よかったら、文化祭、一緒に回らない?」

「すまん、無理なんだ。和服でずっと当番に入れられた。しかも奏のボディガードは外せない。和服で彼女の隣を歩くのは……。なんとか時間を見つけてみるが、スバルとも強引に回ろうと言われ……。いや、マサムネとスバル、一緒に回ればいいか」

 

 ――それなんてサービス?両隣にスバル様と和服を着たわんこ?その2人と一緒に歩くなんて、キャバクラでいうアフターじゃん。絶対見に行こ。

 

 少しだけ元気になったわんこだけど、アタシは今朝の一件で元気が有り余りすぎてテンションマックス。前日、ウチの出し物のコスプレ喫茶の為ではないけど、念入りに身体を洗って来なくちゃ。何の為、いやナニのため――ナニって何よ!

 

「ふふっ」

「嬉しそうだな」

「まあね?プールの時、アタシ寝ちゃったからさ。その埋め合わせ、できるかなって」

「そこまで気にせんでも。お前と一緒にいた時は楽しかったさ」

「――恥ずかしいこと言うな」

 

 照れ隠しで、少しだけ悪態をつく。天然って怖い。こんなにも、アタシの心に食らいつくんだから。

 

 それにしても、文化祭……。去年、射的屋と輪投げ屋・ストラックアウトやらのアトラクションは全て廃業に追い込まれた、って話があったっけ。もしかしてその犯人はわんこ?

 

 ――うっわ、想像するのは難くないわね……。マジでやらかしてそう。

 射的屋は避けようかな。撃ち抜くのはアタシのハートだけにしなさい。なんでもあげるわよ、この身体でも――バカじゃないのアタシ。

 

 1人だけで良からぬ妄想。それとは別の、わんこの悩み。それは、衣装のことであって。振袖自体はスバル様の提案、って聞いて、やっぱりセンスがいいよなぁ、って感心した。

 

「振袖なんか着たこと無いしな。どれだけ動けるか」

「普通着ないわよね。出し物だし、仕方ないわよ」

「それで奏やお前を守れなかったら、笑えんよ」

 

 やっぱお姉ちゃんが大事なのね。でも、それに並んでアタシも守られる対象に入ってるなんて嬉しい。もう、あんたのその優しさ、誰にも見せないで欲しいんだけど。

 

 それにしても、和服のわんこ……ねえ。こいつ、私よりも綺麗な、女の子みたいな顔だし、スタイルもいいから、かなり似合いそうね。ぱっちり二重に、艶めいた肌、キラキラ光る瞳に、細くぷっくりとした唇。薄化粧したら、学園の女子より遥かに綺麗な人になるわね。

 

 言ってて悔しくはない、むしろかなり楽しみなんだけど。アンタのアイデア、今回は買うわ、涼月奏。

 

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