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「お前、それはバレるぞ」
「や、やっぱり……」
翌日の学校で、衣装合わせをしていると、スバルの着ることになっているチャイナドレスが、胸元が空いているものである、というインシデントが発生した。提案は言わずもがな奏、そして衣装を作ったのは苺。手芸部部長としての意地と誇りを、なんて息巻いていたが、あいつらしからぬミスだ。それより、ちゃんと手芸してたんだな。
これは、サラシでごまかせるかどうかも怪しい。胸元より、首元の方が露出している面積は広い。なにか隠すものがあれば良いが、都合良くあるはずがない。どうしたものか、と腕を組み、開口部を見て考え込む。スバルは多少顔を赤くしているものの、私にそのような気はないことから、何も言ってこない。少しは落ち着きを持った、ということか。
舎弟共に着替え場所を提供してもらっていて、誰からも彼女が女だと今はばれない。だが、人目のつく所に移動したら、この格好では流石にフォローしきれん。
「もう少し、背中側に布を引っ張ればいいか」
「それだと踏んじゃうんだよな」
「裾を上げるか」
「YES。任せて」
テキパキと裾上げをする苺、その縫針捌きは流石だ。手先が器用なのは前から知っていたが、ここまでとは思わなんだ。そうして、改めて仕立て上げられた衣装を見て、これならなんとか誤魔化しが効く、と確信をした。
しかし、私とこいつの衣装を交換した方がいい気がするんだが。振袖の生地は厚い。それでいて、胸元は確実に隠せる。難点としては、私の背丈のサイズであること。185cmの私、対してスバルは160もいかないほどか。この差はなかなかに大きい。
「大丈夫かしら、狼?スバル?」
「奏。これでバレないか?」
「大丈夫なんじゃないかしら?」
「よかった……」
「で、お前が持っているそれはなんだ?私にそのボディスーツを着ろと?」
奏の両手に、怪しげなボディスーツ。なんだそれは。女性のコスプレでないのは明らかだが、はたして。見る限り、ぴっちりとしていそうな材質に、所々プロテクターがついている。私はそんなもん着ないぞ。
嫌なシークレットミッションだ、全く。確か、メタルギア、とか言ったか。その私はソリッド・スネークかなにかにはなれない。第一、あちらは諜報員だ。伝説の傭兵には興味はないし、伝説にも、傭兵にもなるつもりは更々ない。
「どこまでゲームに犯されている」
「いいから着なさい。これはご主人様命令よ。スバル?」
「はい、お嬢様」
うっかりしていた。スバルが苺から手錠を受け取って、がちゃりと私の手にかけた。そして、奏は私のネクタイを取り、足首を縛ろうとし。――私の身体を拘束するな。ここで暴れたら、この部屋に所狭しと置いてあるキャビネットに、彼女を打ち付けてしまう。
――クソッタレ。着替えるしかないか。
「待ってろ、腹を据えて着替えてやる」
――私も甘くなったな。3人を一旦部屋から出して、服を脱ぎ、スニーキングスーツを着る。本物じゃないか、これ。身体が圧迫されているし、各種身体センサーが埋め込まれている。薄手ではあるが、私の身体能力に適応・保護しているように思えた。
どこから手に入れたのだろう、こんな代物。また武器商人からか。いや、多分ありえん。そのような感じではない。
「あら、立派な蛇さんじゃない」
「蛇じゃない、狼だ」
「これでコスプレコンテストもいただきね」
「こんなもん、どこで手に入れた」
「む・な・も・と」
胸元のポリマープレートを見る。ああ、予想は当たっていたさ。なんとなく、それだろうという気はしていた。
"
――当主の差し金か。まあ、これも仕事だ。他のことも頼む、とは言われていたから、着ないわけにはいかん。
「テスターですって。お父様が頼むって言ってたわ」
「このままスーツは着れんな」
「かといって、このまま戻って大丈夫でしょうか?」
「んん。まあ、話は通しておくわ。因みに、コスプレコンテストはクラス代表1名だから。それの代表に選ばれたからには、あなたに優勝して貰わないとね」
「君のいう"ソリッド・スネーク"に成り切れ、と」
「あ、そうそう。バンダナも付けないとね」
都合がいい、というわけか。勝負事は勝たねばならん。やることになったのなら、全力で勝ちに行くつもりだ。奏も勝つ気満々でいるし、その想いを汲んでやろう。何せ、私は
文化祭、規模はどんなものであれ、祭りだ。馬鹿にならなければ、祭りは楽しめん。女装喫茶になった時点で、そんな気持ちも芽生えていた。折角決めたのだしな、クラスメイトの為、奏やスバルの面目の為、全力でやりきるさ。
「放課後に実戦テストとか言ってたわね。頑張って貰いたい、って言っていたけど、怪我しないでね」
「しないさ。したらお前らと回れなくなる」
こんな無表情でも、かなり楽しみにしているのだ。つまらぬことで怪我などしたくはない。それに、実弾などを使うわけではあるまい。久々の、ミリタリートレーニングとして、やってみせよう。
因みに、実行委員長の奏は、ウチのクラスの出し物もグランプリを狙っているらしい。そのカギを握るのは、私とスバルだそうだ。取れたらラッキー程度に私は思っているが。
奏にスーツを任せ、私はこのまま教室に戻る。文化祭が終わるまでは授業がないらしいが、この格好は流石に浮く。これで椅子に座るのもシュールなので、装飾が施されていない壁にもたれた。坂町が私に近付き、どうしたその格好、と聞いてきた。コスプレコンテストの件、仕事の件を話し、着替えるのがかなり面倒臭いから、この格好でいると言った。
「惜しいな、髪がもうちょい茶髪だったら完璧スネークなのに」
「この髪は、親がいたという証拠だ。染めるわけにはいかない」
「なら、コンテストだけウィッグを被ればいいんじゃない?」
「それなら大丈夫だ」
焦げ茶のウィッグは任せておこう。あとは放課後のテストを熟すだけだ。
間接の曲げ伸ばしが楽なこの服なら、準備もかなり力になれるだろう。それを活かし、昼休憩までの間にフルに働いた。
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まさか、わんこまでコスプレし始めるとはね……。仕事も兼ねているらしいけど、なにこのサイボーグ。見覚えはかなりあるし、それに似合ってるし。格好良さがより際立っている、けどめちゃくちゃ目立つ。アタシをその服装で迎えに来た時はびっくりした。心を本気で撃ち抜きに来たのかな、って思ったくらい。
お昼ご飯も、いつもの焼きそばパンの他に、れーしょん?とかいう軍用携帯食を持ち出していた。着火剤をヤスリで擦って、ほかほかと暖かいチキンやオムレツ、トマトスープを食べていた。なぜか手慣れてるその動作。ちなみに、これらはおまけで涼月奏から渡されたらしいわ。
「焼きそばパンより、日本のレーションの方が美味いとは」
「ちょっと食べさせてよ」
「いいぞ」
オムレツを一口貰う。彼の使ったスプーンで食べさせて貰った。間接キス――もそうなんだけど、これ、本当に美味しい。こんなの食べたことない。
「少しお高いレストランの味がする」
「懐かしい味だが。でも、私は君の料理の方が好きだ」
さらっとまた嬉しいことを言ってくれるわね。でも、これはアタシのより美味しい気がするわよ?
まあ、いっか。褒めてくれてるんだし。素直に受け取らなきゃね。ツンケンしたって仕方ない、それに、わんこの前では素直で、正直なアタシでいたい。そう思って、胸を張って、わんこに自信を持って語り始めた。
「当たり前じゃない!私の手料理には愛が詰まってるからね」
「そうか、愛か。マサムネも奏も、料理に関してはいい味を出すからな」
「あいつも料理するんだ?」
「菓子とか作ったりするぞ、あいつ。スバルはてんでダメだがな。私もそれなりには出来る。だが、コーヒーは真宵が一番だ」
「マヨイ?誰それ」
「屋敷に住み込みでいる、私の専属のメイド。去年、家が燃えて親もいないから奏が引き取った。たしか、紅羽のクラスにいる」
「ああ……。日向さんね」
あの子も絶対わんこに惚れてるわね。仕方ないか。天然で優しいこいつと1年近くいたら、そりゃ惚れるわ。アタシは1日でころっといったけどね。まあ、専属っていうところは引っ掛かるけど。多分、こいつがきちんと教育したんだろう。
優しい風になびくわんこのバンダナ。それと同時、屋上のドアを、スバル様がゆっくりと開け、こちらに近付いてきた。
「こんにちは、宇佐美」
「スバル様。こんにちは」
「狼。レーション、味見しにきたぞ」
「お前も物好きだな。……ほら」
お腹を鳴らしたスバル様に、わんこは腰回りのサイドパックからレーションを取り出し、彼に渡した。蓋を開け、20秒ほど待って、湯気が昇る。脇から覗くと、かに玉スープ。バリエーション多いわね、レーション。
優雅にスープを食べるスバル様。狼もお行儀はいいけど、スバル様はさらに美しく食べていた。流石、いいとこの執事様。小さい子へのお手本になるわね。
「美味しいな、やっぱりレーションは日本製かフランス製だな」
「食べた経験あるんですか?」
「ああ。結構狼に貰っているよ。小腹が空いた時に食べたりしてる」
通販とかで買っているのかな?成長期の男子だから、なにか食べたくなるのはわかる。この二人はかなり動いているだろうから、その分お腹が減るのも想像に難くない。
燕尾服に、変なスーツの狼。それと制服のアタシ。異様な組み合わせねえ。憧れの二人と一緒だから、あんまり気にはしないけど。