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マサムネを踊り場で置いて行った後、近くの窓から飛び降りて、最短距離を突っ走る。彼女の勇気を無駄にはしない。他人と向かい合う強さを手に入れ、勇気を振り絞った行動は、誰が見ても天晴れというものだ。一般公開の日を選ぶのは
抗争の会場である体育館につくまでには、追っ手などもおらず、完全に一人の状態だった。壁に張り付いて隠れ、入口を覗くと、覆面と黒いレインコートをかぶった人間が列を成し、中に入っていく。侵入経路を探せば、窓か、軒下しかない。悠長に時間を潰している暇はない、そう考え、体育館裏に回って、通風孔の口を外し、地下に潜った。
下はコンクリ、上は足音、どたどたという喧騒の中、ホフクをしなければ進めない狭さ。所々ハッチがあるものの、匂いを頼りにステージ下を目指す。騒めく場内、その中で、用具入れだろうか、その引出しの下に近付いていく。ステージはこの上、地上を望むハッチがご丁寧に設置してある。
ここなら中腰でも構うまい。足音を立てぬよう、用具入れの引き出しへと飛び乗り、隙間から様子を窺えば、黒いマントを覆っただけの坂町、鳴海、そしてスバル。慎重にステージへと向かう入口のドアが閉められ、これで完全に退路は立たれた。片手に
足音が近付く。軋む床、落ちるホコリ。壇上のマイクスタンドと、式典用の机とがぶつかる音。今だ、とハッチを開けて、いかにもトップの様な格好をした奴の背後に立って、マイクで話し始めようとした時。コートと覆面も剥ぎ取れば、見慣れた黒髪が現れ。
「――お前、なんのつもりだ」
「あら、バレちゃったわね。それにしても、気配を殺すのが上手いこと」
――我が義姉、涼月奏。まさか、お前が黒幕だったとは。
「ソリッド・スネーク!?」
「いや、涼月狼に、涼月奏だ!!」
より一層喧しくなる場内、それを気にせずに私は彼女に問う。恐らく、何らかの理由があるはずだ。おもちゃだけではない、何か真っ当な理由が。はず、じゃない。それを求めていた。
「答えてもらおう。どういう意図だ、これは」
「そうね。私の執事であるスバルを巡っての争いを止めるために、私が創立した――それが、S4」
「では、これはどういうことだ?」
壇上から、群集を指差した。彼女は苦笑いしながら答えるが、笑い事じゃ済まされない。誤魔化そうとしても無駄だ。
――少しばかり、こいつに腹が立っている。
「戦争ね。見守る会は、S4から分割したグループ。所謂、BL大好き集団。こちらでは制御出来ない」
「――統率力がない。なにより、S4ですら暴走している」
「それについても、私は知らない。そうね、私なりに推理をしてみれば……ジローくんとスバルが仲良くなったから、その嫉妬かしらね」
「……ふざけるな」
思わず、言葉が震えてしまった。怒りに呑まれるな、とスバルに口酸っぱく言っているのに、その言い出しっぺが遂行できていない。それに若干怯えた奏が、少し身を引き、場内の空気もたちまち暗くなり、少し寒く感じる。
落ち着け、涼月狼。そう自己暗示をかけ、唇を噛み締め、拳を握った。
「言い訳に過ぎん。結果はこれだ、坂町を血祭りにあげ、スバルを悲しませる。お前が、そんな下衆だったとは」
「――違う。私は、争いを無くしたかっただけ。それに、ジローくんを血祭りにあげるなんて、私は……」
「私はそう聞いたぞ。"坂町を血祭りにする"、と。そうだな、鳴海ナクル。貴様の口から出た言葉だ」
「はい。私は確かに、そう言いました。けど、それは、言葉の
鳴海は、私の怒りを察した。その上で必死に取り繕うとしている。しかし、もう遅い。吐いてしまった言葉は、もう取り戻せないのだ。
段々と、冷酷さを取り戻してきた。人を殺す様な眼をし、その場にいる者全てを威圧する。この大人数、暴れたらタダでは済むまい。人を殺しかねん。だが、怒りは思考を狂わせる。――落ち着け、涼月狼。お前は、その牙を、ここで見せるべきではない。
凍り付く会場。深呼吸をし、縮み上がった奏を見つめる。こいつだって、決して悪気があった訳じゃない、そんなことはわかっている。だから、叱ってやらねばならない。例え私の法であろうと、もう既に家族なのだから。
「――言い訳なんぞ、どうだっていい。聞きたくはない」
「狼……。ごめんなさい……」
「謝るのは、スバルと坂町へだ。私にではないだろう。――全く。いいか、この尻拭い、私がしてやる。そのかわり、お前には後でみっちり話を聞く。覚悟しろ」
壇上で、姉弟としての会話。そして、奏を退かせば、まずはその暴走した奴らへ、マイクを使って話し始める。そうだ、こいつらは、奏の意図に反した。そして、無意識に奏を傷付けた。だから、私は奏を護る。
「よく聞け、有象無象達。私の奏を傷付けたことについて、これから報いてもらおう」
「なんだお前!横からしゃしゃり出てきて、生意気な!!」
「そうですよ!わんこ先輩には関係ないじゃないですか!!」
「貴様らの身勝手な振る舞いが、貴様らの好むスバルすら傷つけている。貴様らは……。貴様らはッ……。私の大事な相棒を!姉を!家族をっ!傷だらけにしたッ!関係ないワケあるかァッ!」
――昂りは抑えられず、思わず怒鳴ってしまった。身内だから甘い、我に返ればそう思う。これは、私の悪い所かも知れん。だが、許せなかったのだ。私がようやく手に入れた家族、友人。それを外側から壊そうとする者達を。
そうして、会場のざわめきは止んだ。それと同時、奏が私からマイクを奪い、また話し始める。
――武力抗争は好まない。だからクイズで戦おう。
それが、奏の考える戦争だった。
どちらかが負けたら、どうする。もし見守る会が負けたら、坂町は血祭り。S4が負けたら見守る会のスバルをモチーフにした酷い卑猥な本の販売。中身は坂町とスバルとの過剰なアプローチ。どちらも止めねばなるまいに。別にスバルと坂町がくっつこうが私は構いはしない。スバルが幸せであれば、な。
「――変な気を起こしてみろ。貴様らの最後の日になる」
「狼……」
「私は、反対です!!」
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なんだ、このクイズ。スバルと殆ど関係ないじゃないか。ステージ上のパイプイスに座らされているが、後ろのスクリーンに、凝ったクイズのシステム。先程出題されたのは、「スバルが今朝買った自販機に、昨日ジュース缶やペットボトルを入れていたのは誰?」というもの。知るかそんなもの。しかし、こういう問題でも答えるお前等はストーカーか?解答者各団体三名ずつ出ているが、見守る会側から出ているスバル自体、まともに答えられていない。坂町も呆れている。
「ストーカーを晒しているだけじゃないか」
「あら、別にいいじゃない。でも次はスバルにしか答えられない問題よ?」
先程の私を忘れたわけではあるまい。飄々として切り替える奏。だが、やはり何処か怯えている。それよりも、スバルにしか答えられないとは。一体どういうことだ。あいつのプライベート?
「スバルのファーストキスの相手は、誰でしょう?」
――こいつ。
スバルのファーストキスの相手。それは恐らく私だ。あの日、あの部屋で。あいつが礼と言ってしてきたこと。
「お嬢様!?」
スバルの顔が真っ赤に染まり、立ち上がってボタンを押すと同時に私に助けてという視線を送り始める。私にはどうすることも出来ん。時間切れを待つしかあるまい。
現状では、S4がリード。彼等が勝ったら坂町を血祭りにするらしいがな。私がいるから止められるはずだ。
「お願いだ近衛!俺を助けるためにも!」
「別に、S4が勝とうが私がいるから大丈夫だ。それに両団体とも壊滅させるからな」
だが、スイッチを押した以上、答えねばならんだろうな。奏に聞いてみたところ、時間切れはないらしい。奏がニヤニヤしながらスバルを見る。そして、スバルは眼を瞑り、ふるふるとしながら、私へ人差し指を向けた。
奏の顔から笑顔が消え、驚きが現れる。奏だけじゃない、スバルと私以外の皆が、驚愕している。そして、大騒ぎ。
「貴様ァ!我らを潰す理由は、スバル様と自分が恋仲になるためだったのか!?」
「そんなつもりはない」
「嘘付けェ!!クソ犬が!!」
「――誰かしら?今、私の弟を侮辱したのは」
「――誰だ?今、ボクの相棒を馬鹿にしたのは」
クソ犬。その単語に、スバルと奏は噛み付いた。額に青筋を浮かべ、S4と見守る会メンバー全員を睨みつけ。こんなに怒る二人を見たのは初めて。しかし皆は私に視線を集中させ、更に私に対して集団で襲い掛かってくる。
――いい頃合いだ。全員、潰してやる。勘違いだろうが何だろうが、力で抑えつけてやろう。
「知るかっ!あんなのがスバル様の相棒なんて絶対認めない!!やっち――きゃんっ!!」
「殺せるものなら殺してみろ。貴様らごときがいくらかかってこようと私の相手ではない」
この言葉に怯む人間が多数。だが、いなかったのも事実で、それに当て嵌まる人間は、無謀にも私に挑んで来る。奏をスバルに任せれば、特攻してくる有象無象を、容赦なく叩きのめしていく。
――もっとこい。私の怒りは、こんなものでは収まらん。
「やられ――ああっ!」
「こ、こうなったら……」
何人かを蹴り飛ばしたり、殴っている間、1人が奏の方に向かって行った。スバルがカバーをしてそいつを投げ飛ばしたものの、隙が生まれて、坂町すらも狙う。それを見逃す私ではない、咄嗟に彼の目の前に立てば、振り被られた木刀を平手で掴み、そのまま前に引っ張りながら蹴飛ばす。
助かった、というような顔をする坂町。最低限、自分の身は自分で守ってほしい。だが、仕方ないか。彼は心が優しい、恐らく人を殴り慣れていない。ドタバタとステージに群がる人間達を、奪った木刀を投げつけて一気に薙ぎ落とす。が、掻い潜った男が一人、スバルの隙すら付いて、奏に近付き。
――貴様。
「涼月かな――ぅえっ……」
「奏に触れるなッ!」
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S4のメンバーが私の身体に触れそうになると同時、爆音が私の耳に飛び込んでくる。鼓膜を
割り込んできた狼が、私を護るために殴った。この男子生徒を、殺人的な威力を誇る拳で。それも、力加減を考えずに、だ。首がおかしな方向に曲がり、気絶さえしている。倒れる生徒を私は避け、眼の前にいる狼の背中を見る。
――
真剣に私に怒っていた彼、それに確かに怯えていた。でも、今は違う。いつも以上に凛々しく、気高く見える。私を護る、ただそれだけの為に、本気になっている。彼は静かに、怒気を含んだ口調で言い放つ。
「奏には、指一本触れさせん」
ボディガードとして、ではないように思える。これだけ怒っている狼を初めて見た。怒りに呑まれるな、というのが彼のポリシーだったはず。だけど、今は、この前のスバル以上だ。感情を閉じ込めていた檻を自ら壊し、殺意すら剥き出しの彼。殴られた人間の末路――息はあるけれども――を見て、双軍ともに縮み上がり、狼に恐怖心を抱く。
「
「……取り敢えず、見守る会に10ポイント。見守る会の勝利です」
勝利はいい。でも、これで双軍ともに恐らく解散だ。狼のあんな行動を見せられたら、解散するしかない。誰だって命は惜しい。恐らく、下手をすれば本気で狼は殺してしまうだろう。
そこから立ち去ろうと、私は脚を動かす。その時に、何かに気付いた狼はいきなり私を押し倒し、身を伏せさせた。
「えっ……どうしたの、狼?」
「……奏。ここから先は、絶対についてくるな」
遮蔽物に身を隠させる彼、そして彼の顔を見上げた時に見てた、1センチほどの風穴がスクリーンに、そして赤色のレーザーポインタが一つ。
――狙われている。
一般公開の日であったからか、私の生命を狙っている。それを察した狼は、いつもの拳銃を取り出して、実弾の入った弾倉をセットしながら、一人で飛び出した。