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文化祭が終わり、夏期休暇――休日。ボディガードに休日は殆どないが、学校に行かなければ、仕事も少ない。朝早く起きてシャワーを浴び、脱衣所の鏡を見て、少し笑顔の練習をしてみる。も、どこか不自然であった。私には似合わん。
そして、私の部屋で、夏期休暇中の課題を終わらせ――といっても、解らぬ問題を写しただけだが――、朝食を摂ってから、部屋を掃除する。手伝ってくれていた真宵が伸びをして、ソファにいる私の首に腕を回してきた。
以前、仕事で調達したPCに、この前の火器類のデータを入力し、スケジュール調整をしながら、コーヒーを飲む。メイド服の真宵が、PCの横にあるクッキーをつまみ、私の口に運んできた。じゃれあいか、まあいい。
「暫くおやすみ?」
「出掛ければ、また仕事が出来るさ。ただ、海外旅行に行くらしいから、どれくらい護身用武器を持ち込めるか」
「流石に、他のボディガードさんも来るでしょ?」
「奏とスバルの隣は、私と決まっている」
うわ、と顔を少し赤くする真宵。口説き文句なのかもしれんが、私は意識をしていなかった。奏にスバル、もしかしたら真宵も連れて行くのかもしれない。3人いっぺんに護衛か。腕が鳴る。
真宵にコーヒーのおかわりを注いでもらっている中、奏がドアを開けてきた。苺も一緒に入ってきて、奏の分は苺が淹れる。向かい合うようにソファに座り、苺は真宵と一緒にベッドに寝転がる。『性癖チェック』とか言っている馬鹿、ベッドの下や枕元を探しているが、あるわけないだろう。私にそんな本は必要ない。
「海外旅行はキャンセルとなりました」
「?」
「国内旅行になったの。もちろん、お父様もお母様も来ない」
「なぜに」
「ま、ちょっと訳ありでね。あっちに着いたら、話すつもり」
「アテはあるのか」
「ええ、もちろん。涼月の旅館に、ジローくんも出汁に使って、ね?」
――坂町、またお前を巻き込むことになりそうだ。すまんが少し付き合ってくれ。
奏はまだ続ける。クローゼットまで漁り出した苺、そこには服しかないぞ。やめろ、私の下着を触るな。真宵もノリノリに漁るんじゃない。そっちに興味を持つな奏。
「スバルには、あなたのハンカチを持たせて、ジローくんを落としてもらうわ」
「渡さんぞ」
「既にもう、スバルが持ってるわよ。今頃ジローくんは夢の中かしらね」
「殺人未遂で捕まらないか、スバルは」
「大丈夫よ。紅羽ちゃんにも連絡は入れておいたから。というわけで、今から行くわよ」
仕事がまた一つ増えたか。聞くところによると、どうやら海の近くの、涼月系列の旅館だそうだ。家出、と言ってるから、車は勝手には動かせまい。苺が聞いていただろうし、キーを――渡してきた。奏の水着の写真と交換、という条件付きで。怒られるのは嫌だぞ。
取り敢えず、着替えをバッグに詰め、スーツに着替えようとする。が、奏にそれを止められ、私服で来なさい、と言われたので、私服に着替えた。マサムネに選んでもらった水着も一緒に持って。
「真宵ちゃんにも、旅行の準備をさせないとね。っていっても、もう私が勝手に詰めちゃったんだけど」
「相変わらず準備はいいな」
「そう褒めない褒めない。さあ、あなたには車も運転してもらうから、早くしてね」
仕方ないな。車庫に行ってセンチュリーのエンジンをかけ、車内をクーラーで冷やしておく。苺がカメラを渡しながら、頑張ってと言ってくるが、何を頑張ればいいのだろう。そこにわざわざ詰め寄ってくるコサメも、スバルの写真をよろしく、だと。私は写真家ではない。
「もしかしたら、うさみんとも会うかも」
「うさみん?マサムネか」
「YES。手芸部の合宿してるから」
「――なあ。前から気になってたんだが、手芸部のあたおかの原因って、なんなんだ」
「全部シュレのせい。私のせいじゃない」
「誰だ、それ」
「鳴海ナクルのお姉さん。多分、近いうちに会うと思う」
◆◇◆◇◆◇
奏が助手席に、そして後部席に真宵と荷物が座る、という配置で、涼月家の車庫から車を出し、坂町の家に向かう。道は覚えているし、ナビゲーションシステムもあるから大丈夫だ。5分もしない内に着き、スバルが坂町とその荷物を後部席に乗せ、そのまま彼女も乗り込んだ。広々とした車内だから、余裕に乗る。トランクに坂町を載せようとするな、スバル。熱中症で死んでしまうぞ。
乗り込む途中、助手席に乗っている奏にスバルが気付けば、荷物を潔くトランクに詰め込んだ後に、後ろへと案内する。確かに、いつもはそこに座っているからな。だが、今日は少し違う。
「お嬢様、後ろにお乗りください。前には真宵が……」
「狼の隣は、私の特等席よ?」
「へ?狼が運転……、本当だ」
「行くぞ。その前に日焼け止めが欲しいが」
「私、持ってるわよ。貸してあげましょうか」
「そうさせてもらう。こうも肌が白いと、火傷になってしまう」
アクセルを開け、目的地までゆっくりと走る。追跡もなにもされないことを祈りたい。もし運転していることが私だとバレたら、こいつらもかなりの仕置きを喰らうだろうからな。
流石に、運転中はまずいと気にしたのだろう、奏は大人しかった。ソワソワとしていたのはスバルだが、トイレでと我慢していたのか、わからない。ふぅ、と落ち着かせる為に、カーステレオを弄ってみれば、誰の趣味かはわからんが、やたらとアップテンポの曲が流れてくる。
『素直にI love you!!届けよう!きっとYou love me!!伝わるさ!』
「24時間シンデレラだ」
「は?」
「お父さんが気に入って聞いてた曲だ。なんでまた」
「流か……」
あいつは、こんな曲を聴くのか。全く趣味がわからん。CDかと思っていたら、MV付きのmpegデータ。降りてきたモニターに映される、ローラースケートを穿いた、キラキラしている服の眼帯の男。いや、こいつ堅気じゃないだろ。刺青が見えているし、どうみたってヤクザだ。それを見て喜ぶスバルだが、まあいい。曲が変わっても楽しんでいるし、な。
『Breaking the law!!Breaking the world!!壊せ!』
「切り裂け、Tenderness!」
「……スバルがあんなに笑ってるなんて」
「楽しそうだからいいんじゃないか?」
2時間程走って、スバルのワンマンカラオケが終わると同時に目的地に着けば、駐車場に車を停め、旅館に荷物を入れる。この車は車体が長くて停めにくい。ジープや装甲車の方が動かしやすいな。慣れもあるんだろうが。
今回の旅のお供は、M9にFive-SeveN、M500。バッグにはM4A1も一応入っている。が、使う機会はないと思う。あの男を倒したのだから、暫くは安全だろう。狙うなら、落ち着いて対処してやる。
「狼くん運転うまいね?どこかで習った?」
「昔、な。ジープ、戦車、ヘリの操縦なら出来る。カサッカなども可能だ」
「ヘリなら実用性はあるけど、戦車は……」
流石に私も、市街地で戦車を動かすなどはしないし、機会もないだろうな。だが、乗り物を動かす技術は、あればあるだけ良い。その分、移動手段が増えるからな。もちろん、免許を抜きにすればの話だが。
未だに寝ている坂町を、ファイヤーマンズキャリーで運んだ。奏に指示を受けながら、既に布団が敷いてある部屋で、そこに寝かせ。そうして部屋に踏み込む奏、治療をしましょう、と言う名目で。
「私、ジロー君の部屋で」
「無茶なことはするなよ」
「ふふ。いいのよ、私を襲いにきても」
「坂町を救出しにはいくさ」
眼は本気だった。それに呑まれる訳がなかろう。ただ、坂町と一緒の部屋なのが、少し癪ではある。む、と私が膨れていたのは間違いない。
そして、私と真宵とスバルは、同じ部屋か。和室かと思ったら、何故か洋室。何故ベッドが2つしかない。嫌がらせか、奏。私はベッドには寝ないぞ。置いてあるソファで寝る。というか、普通は私と坂町ではないのか?
「狼くん。一緒のベッドで寝ない?」
「あ、ダメだぞ狼。真宵とはボクが寝る。もし……どうしてもっていうんなら、ボクと一緒に」
「私はソファでいい」
奏の確信的犯行。私が好きだと言っておきながら、坂町と一緒の部屋だし、私とスバルと真宵が一緒になったらこうなるのはわかっているはずだ。狙われすぎている気がしなくもないのだが、ふむ。まあ、仕方ないな。諦めはついていた。
着替えや風呂はどうするべきか。涼月の旅館だから、気にしないでいいのだろうか。それとも、気にするのであれば。真宵を付き添わせようか。取り敢えず、少し息をつこう。