まよチキ! 〜チキンに噛み付くオオカミさん〜   作:パン粉

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■□■□■□

 

 

 宇佐美達と俺達が合流して、宿に戻った時、近衛と狼はいなかった。恐らく着替えの見張りを狼がしているのだろう。それにしても、宇佐美がテストの順位とかをわりと気にしているとは思いもよらなかった。学力特待生なる、言わゆる勉強かなりできる勢。学費免除になるのがこの学力特待生なのだが、日向も宇佐美もそれが狙いだったのだろう。ただし、うちの学年には、涼月姉妹に近衛という、絶対に抜けないスリートップが居る。まあ、3人とも、いいとこの人間だからなぁ。入学試験は、涼月の親の学校だから、受けていないらしいし。それに、近衛と涼月には家庭教師が、それで狼は持ち前の才能を活かす努力を欠かさない真摯さがある。その中に割って入るっていうのもなかなか凄いんだけどなぁ。

 

 話は変わり。部屋は今朝目覚めた部屋ではなく、大人数用のデカい部屋に移動した。これは涼月と狼に感謝しなくちゃな。特に手芸部組。おかしな部活だが、こいつらだって野宿は嫌だろう。ああ、やっぱりオッサンもこの旅館に泊まるらしい。けど、食事はお粗末な物。駆け落ちした俺たちを連れ戻しにきた、旅館の従業員の人々に知られたら、レトルトカレーのルーだけが提供されたんだとか。うん、流石に可哀想すぎる。

 

「お嬢様、お待たせいたしました」

「近衛先輩!!」

 

 着替え終わった近衛がこちらにやってくる。昼のあの可憐な姿とは一転、いつもの燕尾服をビシッと着こなす執事くん、そして凛としたアルトボイス。付き添いでいた狼はどこに行ったんだろうか。

 

「ここにいる。荷物を持ってきた」

「心を読むなよ!?」

「奏。風呂に入ってきていいか。人数が多い今、私の仕事はほとんどない」

「いいわよ。一緒に入る?」

「いやだ」

 

 ヌッと現れるボディガードさんは、9人分の荷物を一気にこの部屋に持ってきた。昼間にドタバタしていて疲れた俺たちとは違う余裕ぶり、若干近衛の顔にも疲れが滲み出ているのに、こいつは変わらない。

 

 それよりも、この中でもいつもの調子を崩さない涼月のブラコンっぷり。流石に嫌がるだろう、それは。案の定きっぱりと断った狼はレザージャケットを脱いで白のTシャツとレザーパンツだけになり、浴衣と洗面容器を彼のバッグから取ると、畳から脚を退ける。

 

 近衛と涼月が、窓際の椅子に、机を挟んで座る。そういえば、既に空も漆黒に染まっているんだな。道理で腹も空くし風呂にも入りたくなるわけだ。にしても、口を閉じている今のこの2人の光景、流石に画になる。

 

「スバル様!執事券があればなんでも話を聞いてくれるんですよね?」

「そうだが……」

 

 そんな中で無謀にもナクルが近衛に執事券を差し出した。この前の文化祭の戦争の賞品らしいが、涼月の差し金。そして頼んだのは、なんとBLは小説、しかもR-18。

 

 ここまできて、くだらないことに近衛を付き合わせるなよなぁ……。こいつらしかり、涼月しかり。少しは近衛と狼にゆっくりさせてやれ。

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 案の定、露天風呂には誰もおらず。流が来るかと思いきや、多分ショックで動けていないのだろう。しかし、いなければいないでいい。一人でゆっくり風呂に入れる。

 

 ごしゅごしゅと身体を洗い、海水の潮と汗を流してから、湯舟に浸かる。硫黄の臭いが鼻に突き刺さるが、これもまた心地好い。風流とも言えよう。温泉としての露天風呂、ここからの眺めは所謂オーシャンビュー。これはとても気持ちが良く、日頃の疲れが抜けていくようだ。大分前に坂町を庇って出来た傷も古傷も癒えていきそうな心地よさ、肉体の懲りも解れる。

 

 澄んだ星空。満天に光り輝き、電灯がなくても明るそうな気がする。美しい天空に、心が和んでいく。

 

「リベリア、か」

 

 ある地。私の地域では終わったのだが。両親と共にドイツに行きたかった。だが、そうなっていたら、奏やスバル、真宵には会っていない。親を殺した自分を恨むべきか、それとも殺された親に感謝すべきか。難しいところではある。だが、正しいことではないことぐらい、わかっている。

 

 それよりも。昼の疑問点――小鳥遊とこの地についてのロジックが気にかかる。駆け落ち、とは。流が駆け落ちでもしたのだろうか。よくはわからんが、解明を焦る必要はないのかもしれん。そんな中。

 

「――ん?」

 

 目の前に、人が落ちてきた。よく見ると、それは浴衣を着た鳴海――ナクル。彼女の頭の先にはBL小説。グラスメモリーズ、というタイトル、坂町とスバルをモチーフにした表紙画。まだやっていたんだな、お前。痛みに苦悶しながら、鳴海は起き上がった。こちらに顔を向け、彼女は叫ぶ。濡れたままの浴衣のままで。

 

「げぇぇっー!?わんこ先輩が、裸ぁ!?」

「当たり前だろう、ここは風呂だぞ。空からダイブしてくるお前がおかしい。せっかく綺麗な夜空を眺めて、ゆったりしていたのに」

「ご、ごめんなさい!!スバル様に、大事な大事なBL小せ――核弾頭⁈」

「いや、だからここは風呂だと言ってるだろ」

 

 立ち上がってそれを取る。ナクルが私の股間を凝視する中、本の中身を見ると、明らかにスバルと坂町をモチーフにした官能小説――くだらん。真っ二つに引き裂き、丸めて策外に投げた。ナクルがああっと悲痛の叫びを上げ、湯舟に私はまた浸かるも、ナクルの顔は焦りと失意を行ったり来たりしている。

 

「くだらんのだが」

「人の趣味はそれぞれでしょう……。でかい……」

「なにが」

「それは……わんこ先輩のおちん――」

「海に沈めるぞ」

「は、はい!失礼しました!!」

 

 結局はS4も見守る会も解散せず、こいつはまだ止まるどころか暴走を続けていた。全く暇な奴め。一目散に出て行くナクルの背中を見送り、はぁ、とため息を漏らす。

 

 のんびり、とはさせてくれないみたいだな。まだ、誰も。鳴海が出てから10分後ほどに風呂から上がる。身体を拭いて浴衣を着、脱衣所から出たところに、真宵が牛乳を持って待ってくれていた。

 

「いつものお返し」

「ありがとう、真宵。礼をするのは、こちら側だと思うんだがな」

「何だかんだ言って、狼くんには奢ってもらってるし、助けてもらってもいるし」

「メイドを助けたり、施しを受けさせてやるのも主人の勤めだ」

「なら、メイドじゃなく、日向真宵として、恩返し」

「純粋な礼か。有り難く頂戴するよ」

 

 部屋に戻ってからゆっくり飲もう。真宵に礼を言い、彼女とともに、騒がしい奴らの檻の中に脚を踏み入れる。既にナクルは戻っているし、なぜか私の股間の話になっている。思春期どもめ。真宵も耳を傾けるな。そしてお前も股間を凝視するな。

 

「そりゃあもう、バズーカみたいでした」

「――狼くんの……」

「わんこって……へぇ……?」

「宇佐美さんには手に負えないわよ?」

「――なに言ってんだこいつらは」

「狼……。お前は悪くないぞ。全部ナクルが悪い」

 

 坂町は拉致され、私は足に使われ。確かに午前中は楽しかったが。やたらと下ネタに走る女共、しかも男の目の前で。妄想癖の真宵も大変なことになっている。そしてスバル、お前も顔を真っ赤にするな。お前が朝方見ていたのはなんだ。

 

「そんなことより、狼?今朝の約束、忘れてないわよね?」

「今朝?」

「今夜、一緒の布団で、添い寝♪」

「はぁっ!?涼月奏、アンタ……」

「どうせ雑魚寝だ。だが、この人数だと布団が足りないだろ。だから私は椅子で……」

「あらやだ、本当に布団が7つしかないわ。1枚足りないわね、ちょうどいいから私の布団で……」

「仕方ない、か……」

 

 これも確信的犯行の気がする。8人部屋に、7枚の布団。そして、ニヤニヤとする奏の顔。ああ、こいつめ。この小悪魔め。ここでもそんなことをするのか。

 

「ボディガードなら、就寝時も警護しないとね」

「……はぁ」

「にゃにゃっ。お姉様は、いつもわんこ先輩と寝てるんですか?」

「ええ、もちろん。だから、ジロー君と結婚しても、狼と添い寝するのは大目に見てね?」

 

 可愛らしく舌をペロリと出す奏、しかしマサムネにはそのデタラメを見抜かれている。だけど、どうやらマサムネもこれだけは多目に見るらしい。気をつけなさいよ、と言いながら。

 

 大人しく寝られればいいが、な。恐らくそれは叶わぬだろう。

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