まよチキ! 〜チキンに噛み付くオオカミさん〜   作:パン粉

48 / 60
6

◆◇◆◇◆◇

 

 

 いつの間にか私の背中で寝ていたスバルを布団に戻す。対して眠気が吹き飛んだ私は、浴衣のまま外に出て、海辺を歩いていた。

 

 眠気が飛んだのはスバルの所為だ。あいつの唇の感触が未だに残って忘れられない。奏とのキスも、いつも感触は残るのだが、スバルのは、どこか私の心にも残ってくれていて。相棒からのキスは、また別の意味がありそうに思えて仕方がなかった。

 

「恋愛、か……」

「どうしたの、狼くん」

「真宵、寝てたんじゃないのか」

「起きちゃった。2人とも出ていくんだもん」

 

 真宵も浴衣のまま出てきて、2人で海辺を歩く。さくさくと砂を踏みながら詫びを入れるも、真宵は気にしないと言ってくれた。ほのかに笑う彼女、月光がそれを更に明瞭に映し出す。

 

「起こしてしまってすまないな。眠気が吹き飛んでしまった」

「お話相手になろうか?」

「いや、いい。だが……傍にはいてほしい」

 

 にっこりと真宵が笑うと、私に身体を預け、顔を見てくる。ああ、こいつは本当によく出来たメイドだ。そして、私の友達。両親を亡くして、家を失くして、それでも強く生きている。

 

 真宵にも、奏やスバル、マサムネに坂町と、同じ様な感情を持つことがある。愛しい、そして守りたい。傍にいてほしい。温もりを、感じていたい。それは、ごく最近の出来事。家族、それは前から意識していた。だけども、この手で両親を殺めた――その汚れた事実から眼を背けずに、真っ向から立ち向かうと決めた今は、より一層、仲間が、家族が、愛しい。

 

「なにか、スバル様とあったね?」

「鋭いな。あいつにキスされた」

「へえ。やっぱり、スバル様も狼くんに惚れてるんだぁ……」

「私に、か?」

 

 女の勘、というやつであろうか。真宵の言葉は的中している。あいつが、私に恋心を抱いている。確かに、最近スバルは私に更に甘えるようになったし、距離も縮まった気がする。こちらに踏み込んでくれようともしている。それはわかった、だからアイツの気持ちに気付いた。だが、今は応えられん。

 

 ――それは、奏もマサムネも同じか。二人とも、私に恋をしている。それを隠さずに、私にぶつけてくる。それに、いつか応えねばならんのはわかる。ただが、それに応えることは、私に許されるのであろうか。

 

 また、自分の本能を見せてしまうことがある。その時、奏は受け入れてくれた。他は、どうなのだろうか。その時の反応を想像すると怖い。やっと作れた居場所が、なくなっていく気がして。そんな中、優しい私のメイドは、声をかけてくれる。

 

「私だって、狼くんに惚れてるよ。メイドっていう、今の私の仕事をくれたし、いつも真剣に私の面倒を見てくれているし、両親のいない今、甘えられない私を甘えさせてくれる。貴方に惹かれる女の子達は、君が意識していない優しさに惹かれて、貴方に惚れてるんだよね」

「優しさ、か」

 

 ――両親を殺した私に、そのような優しさはあるのだろうか?

 

 ――多くの人間を殺した私に、他人を愛する権利があるのだろうか?

 

 

 痩せこけた良心を満足させるために、私は他人に優しくしているのだろうか。リードを引き千切り、飼い主に刃向かう私は、他人から愛されているのだろうか。今、また自分を見失う。他人のことはよく見ているのに。それは、狼が持つ卑怯さの現れかもしれない。逃げているだけ。

 

「みんな、狼くんを愛しているよ。坂町くんや、紅羽ちゃんだって。鳴海さんだって、狼くんに感謝し、友人として愛している」

「私は……人を愛せるだろうか。愛していいのだろうか?」

「いいんだよ。狼くんの過去は関係ない。あなたは、好きな人を愛していい」

「過去……。お前にも、話したいんだ。スバルにも後で話すつもりだ。私は、肉親を、この手で殺している」

「それは、あなたが自ら望んで選んだ事じゃない……。壊れていた貴方には、そうするしかない状況にいたんでしょ?」

 

 言い訳や正当化はしない。だが、罪の意識も失いたくはない。両親を殺した、その事実は、忘れてはいけない気がする。真宵は真っ直ぐな眼で私を受け入れてくれる。それは、前に私が真宵にした眼と似ていた。専属メイドだから、恩があるから、という感情を通り越した何か。

 

「狼くん、私は貴方の傍にずっといる。私は、君に殺されたって構わない」

「私は、お前を殺したりはしない。殺したくない。私が死んでお前を守る――いや、私は、生きたい。生きながらえつつ、お前を守る」

「狼くん。優しさも、その強さも、私は好きなんだ」

 

 小さな身体で、こんなに大きな優しさを持つ真宵。私よりも遥かに優しい。こちらを向いて、私を抱き、より優しく――聖母のような慈しみを放ちながら、私に気持ちを伝えてくる。

 

 こいつが愛しい。今は何故か、真宵が愛しい。真宵を抱き寄せ、眼を見つめ返す。そのまま、互いに顔を近付け、唇を重ねた。

 

「んっ……」

「真宵。お前にキスしないのは、不公平だろう?」

「そうだよ。いつも、お嬢様とかスバル様ばっかりキスしてさ。私だって、したいのに。でも今、ファーストキス、あげられた」

「乱暴な初めてで、悪かったな」

「狼くんのキスなら、どんなものでも私は嬉しいよ」

 

 もう一度、今度は彼女からのキス。この"キス"という行為が、何故か私に安心感をもたらしてくれる。相手が真宵だからかもしれない。

 

 最初の頃は、皆が手を焼いた。だが、私は仕事を覚えるより、振る舞おうとする器量を認め、専属メイドとした。私の下でのびのびとやる方が、仕事を覚えられるとも思ったから。今は違う。家族を欲した私は、真宵の優しさに甘えている。恐らく、間違いはない。

 

「狼くん、大好き」

「私も、真宵は好きだ。だが、まだお前と恋仲にはなれない」

「やっぱり、お嬢様やスバル様、宇佐美さんとで、気持ちが迷っちゃう?」

「ああ……。恋、なのかもしれん。お前ら四人の内、誰か一人を考えると、心が暖まるんだ」

「恋、だね。狼くんが恋かあ。私に振り向いてくれるといいな」

「なら、真宵は頑張らないとな。一番頑張っているのは、お前だと思うが」

「いつも、身近で見てくれているもんね、狼くんは」

 

 専属メイドなのだ、いつも傍にいるのは間違いない。真宵だって、かなりの困難を味わっている一人だ。そんな彼女を心配できない訳がない。真宵のさらさらしたピンクの長い髪を、優しく手で触る。にっこり笑う、元気印の顔。こいつの笑顔は、失いたくない。

 

 家や家族を失っても、こいつは強く生きている。ああ――私達が受け入れたからなのかもしれない。だが、私は、それに尊敬をしている。一つも馬鹿にすることなく、慰めをすることもなく、ただ本心で。

 

「このまま、寝るか」

「そうだね。くっついてたら、あったかいし」

 

 軽い彼女の身体を抱き上げて、部屋まで戻れば、真宵を私の布団まで連れていき、一緒に寝る。彼女の身体を抱き、また真宵に抱かれる。私の背中には真宵。そして真宵の後ろにはマサムネ。私の後ろには、奏。スバルも、いつのまにか奏の布団に入っている。

 

 今日は、少しだけ、周りに甘えてみよう。暖かなこの空気、雰囲気の中で。最早暑いとは感じられなかった。この心地良さに甘えること――権利はないかもしれないが、せめてしたかった、私のわがまま。

 

 ――愛、とは。何なのだろう。今、私が感じていることをいうのだろうか。純粋な愛は。それを求める、とは。私が配れる愛、とは。優しさとは愛か。

 

 この問題に対する答えは、いつわかるのだろう。模範解答が出るわけでもない。一般解があるわけでもない。哲学的な深みにはまる。だが、その深みに溺れる事も、今の私にとっては、必要な事なのかもしれない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。