まよチキ! 〜チキンに噛み付くオオカミさん〜   作:パン粉

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★☆★☆★☆

 

 

 狼の布団に入って、狼に抱き着きながら寝た夜――なはずなのに、起きたら、私の腕の中には真宵ちゃんがいた。とても安心そうな顔をしているこの子、私はそれを見て心がほっとしたはした。だけど、狼じゃない。なんで、どこにいったの?スバルは1人でくうくうと、そして宇佐美さんはナクルちゃんの胸の中。紅羽ちゃんとジローくんは、添い寝とまではいかないけど、とても近い距離で寝ていて。布団はこんなにいらなかったのかも。

 

 時計を見たら、朝8時。もぬけの殻の布団、綺麗に畳まれて片付けられている。狼はもう起きているのね。どこにいったのか、少しだけ不安になりつつも、彼の事だからそんなに遠くには行ってない。上に置かれた枕をぎゅっと抱き締めれば、僅かに彼の温もりが残っていて、離したくなくなる。その時に、静かに引き戸を開ける音――半裸の狼が少し汗をかきながら、部屋に戻ってきた。

 

「おはよう、狼」

「おはよう」

「どこに行ってたの?」

「少し、砂浜を走っていた。下半身を鍛えるのには、いい場所だ」

 

 その後にシャワーでも浴びたのだろうか、石鹸のいい香りが彼の身体からする。水の入ったペットボトルを、こくこく、と飲んでから、タンクトップを着る。傷まみれの彼の身体を見るのは久しぶりで、背中を向ける姿は、抱きついてください、と言わんばかりの格好。

 

 もちろん、私は後ろから抱きついた。首に腕を回し、彼に背負ってもらうような格好。とても幅広な背中だけど、それを拒む様子はない――それどころか、私の腕を取っては、真正面から抱き締め返してくれる。サングラスをかけない、彼の穏やかな瞳に、吸い込まれそうな魅力を感じる。そしてなにより、私を抱き締めるその度量。

 

「んはぁ……あ」

「あ」

「?」

 

 この光景を、起きた紅羽ちゃんに見られた。寝ぼけ眼を擦りながら、改めて見る彼女。何か問題があるのか、と狼は首を傾げているが、次第に紅羽ちゃんの顔が赤くなり、布団を被って隠れる。

 

 私はクスクスと笑いながら、紅羽ちゃんに近付いた。ぺろん、と布団をめくって、リンゴのように顔を赤くしている可愛い彼女に、おはようと伝えながら、正直な話をする。

 

「私達は毎朝してるの。姉弟の愛を確かめるためのハグよ」

「にゃにゃ……。変なことかと思っちゃいましたよぉ」

「狼は優しいオオカミさんだから、襲ったりはしないわよ?」

 

 優しい、というよりかは、知識が疎いが正しいと思うけれど、優しいのも事実よね。でも、前に私と狼のディープキスを見てなかったかしら。一つのハグで一気に目が覚めたようで、顔を洗ってきます、と部屋を飛び出す。

 

 今は、誰もいない。なら、チャンス。ちゅう、と狼の唇を奪うけれど、前と同じく無反応。でも、拒もうともしない。どうした、と首を傾げるから、私はなんでもないと嘘をついた。彼が好きだから、なんて。もう、十分伝わっている。

 

「改めまして、お姉様とお兄様っ!おはようございますっ」

「ええ、おはよう」

「おはよう。今日も溌剌してるな」

 

 紅羽ちゃんが寝ていた布団を、いつの間にか片付けている狼。残りの子たちも寝ぼけ眼のまま起き、スバルはボストンバッグを持ってトイレに向かう。そんな中でも、引き続き布団を畳んで脇に寄せるメイドさんより素早い手つき。ボディガードよりも執事の方が向いているかもね。それだと、スバルがメイドさんになっちゃうか。真宵ちゃんと仲良くできるかもね?

 

 全ての布団を片付けた狼が、スバルを呼びに行く。朝食くらいは皆で食べたいし、でもこの人数で食事って、なんだか新鮮。昨晩もしたのに。きっとスバルは今頃、お腹の虫を鳴らしているでしょう。少し冷たい仕打ちを受けている流も、ね。

 

☆★☆★☆★

 

 10時ごろまでのんびりとお茶を飲み、朝食を食べた後にそれぞれが身支度をする。今日も皆で海に出て遊ぶ予定。スバルと狼、ジロー君は別の部屋で準備をして、先にビーチで場所を取ってもらった。

 

 窓を覗けば、レザージャケットを着だ狼が、サングラスをかけて、パラソルとレジャーシートを担いでいるのが見える。後ろから、クーラーボックスを二人で持つスバルとジローくん。真宵ちゃんから聞いた話だと、日焼けの後が大変だから、ジャケットを着ているらしい。私より肌が白い分、焼けたら真っ赤になりそうね。でも、この炎天下の中でレザーは流石に暑いでしょう。あとで、日焼け止めを塗ってあげなきゃ。

 

「そしたら、私達も行きましょうか」

「そうですね!」

 

 元気なナクルちゃんの返事を聞けば、水着と着替えを持ち、ビーチに出て、更衣室に向かう。照り付ける太陽、そよ吹く風。とてもいい天気。紅羽ちゃんがナクルちゃんの胸を凝視する中で水着に着替えた後、先程の狼の足跡が残る砂浜に出る。引かれたレジャーシートは、既にジローくんとスバルが占領していて、狼は海辺を見つめる。なぜか画になる3人、その光景に、ナクルちゃんは暴走しだすけど、宇佐美さんが止めてくれる。さすが先輩ね。

 

 既に水着になっている三人。狼は私を寝そべらせ、私から言わなくても、日焼け止めを塗ろうとしてくれた。それを察した2人は、レジャーシートから離れてくれる。ゆっくりとな、とジローくんが気遣ってくれている傍で、日焼け止めをたっぷり手に取る狼、トップを外した私の背中に満遍なくそれを塗り込んでくれる。

 

 昨日のジローくんとは反面、動じず嬌声は上げないのは、狼にとっては当然かもしれない。けど、どこか残念。少しくらい反応してくれたっていいのに、勃たせたって私はなにも言わない、それどころか喜ぶわよ?

 

「なにを考えてた?」

「狼って、勃起とかしないのかなって」

「生理現象のことか。特に興奮することもないからな、しない」

「それはそれで、少し傷つくんだけど」

「自分の義姉を性的な眼で見ることはない。それに、私が護るべき女性(ひと)は、純粋な眼で見つめると決めているんでな」

 

 ――さりげなく、そんなことを言うのは反則よ。口説き文句に聞こえるじゃない。

 

 喜び舞い上がりそうな気持ちを抑える。狼は、私に心を開いてくれる様になった。天然ジゴロ、なるほど。コサメの言うことは的を得ている。

 

 今度は私の番。手渡しで日焼け止めを受け取れば、彼の背中にたっぷりと広げていく。白いけど、ボロボロの背中。狼の様な傷跡を残した、彼の背中。傷という名の勲章をも守るかのように、狼の背中に抱き着けば、身体でそれを塗りたくる――その中で、ウサギさんが現れて。

 

「ちょっと、涼月奏!!」

「塗り終わったか?」

「私の愛をまだ塗り終わっていないわ」

「なるほど」

 

 ウサギさんは私を引き離そうとするけど、狼はそのままじっとしている。背中にキスを落とすと、ウサギさんはさらに騒ぎ出したが、狼は気にせず上着を羽織り、私の頭を撫でてくれた。ふふ、これこそが私だけの特権。親愛でキスをするのは、あっちの人の文化でもあるから、間違ったことはしていない。

 

「火傷などしなさそうだ」

「私のキスは魔法がかかるのよ。絶対焼けないよ」

「そうだろう」

 

 宇佐美さんを傍目に、今度は私の手を取り、立たせてくれた。わざとこけたように見せかけ、狼に抱き着くと、宇佐美さんだけじゃなく、スバルや真宵も羨ましそうな眼でこちらを見てきた。こういうところは、私の悪いところかもしれない。でも、頭を使わなきゃ、彼のハートは盗めないわよ。盗む、というよりも、私は彼を守るのだけれど。彼の心は、今は治りかけの時期だし、詳しく知っている私だから、そして、一番長く付き合っているお姉ちゃんだからこそ、彼の心を癒したい。

 

 でも、そんな私達から離れてジローくんの方に逃げる狼。この四人に絡まれると、面倒臭いと言うのがはっきりわかる。寂しいけれど、男友達っていう仲間を作れたあたりは、私はいいことをしてあげられたかもしれない。社交性よりも、腹を割って話せる、男の友情を作り上げたのは、疑いなく狼自身なんだけど。

 

「あらあら、狼はジローくんの方がいいみたい」

「バカチキのクセに……!!」

 

 宇佐美さんって、かなり狼にベタ惚れみたいね。盗られないように注意しないとね。スバルも真宵ちゃんも、要注意だけど。どれだけの女の子を惚れさせれば、気が済むのかしらね?無自覚な優しさは、いつか女の子から刺されるんじゃないかしら。私が身代わりになるけど、そうならない為にも、私が彼を奪わなきゃ。

 

 さて、遊びましょうか。折角時間もたっぷりあるし、海にいるし西瓜もある。

 

「ボールも西瓜もあるし、遊びましょうか」

「そうだな、私も付き合おう」

「西瓜で遊ぶ……いやな予感だ」

「頭を叩き割る訳じゃないから、大丈夫だろ」

「そんなことして殺されたら呪ってやる」

「――苺がいなくてよかったな」

 

 私だって鬼じゃないから、ジローくんを叩いたりなんてしないわ。勿論、死なないくらいに、だけど。私からも絶対にしない。スバルとか宇佐美さんがどうするかは知らないけど。そして、狼。苺は確かにいなくてよかった気がするわ。4月に行ったプライベートビーチで、見事な方向音痴っぷりを見せつけられたものね。しかも、ノコギリ片手に持って走り回ってたから。

 

 ――青春って、こんなことを言うのかしら。

 

 締め切られた部屋にずっと押し込まれていたら、楽しめなかったでしょう。出汁になってくれたジローくんにも、車で連れ出してくれた狼にもお礼を言わないとね。もちろん、ここに来たのは、遊ぶ目的じゃなく、スバルのため。

 

 午後からは、ここのお祭りが始まる。その時、おそらくスバルはいなくなるだろう。彼女にとって、とても大事なことがある。それを果たすため、そしてその時に、狼をそばに居させてあげるため。流も、本当は知っているわ。だから、来るのが早かったの。食事がレトルトカレーのルーだけ、っていうのは、少しかわいそうだったけど。

 

「どうした?」

「ううん、なんでもないわ」

 

 狼が声を掛けてくれる。仲間外れになんてさせない、そんな優しさが見えた。

 

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