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予想は出来たというか、なんというか。バトルロワイアルの面子は、私達の連れに、流に、他の観光客に。皆素人だろうし、それに会場もちゃちい。この祭りの会場の中、神社の周り。小さい戦場だが、物騒なものはなく、あまり目を見張るものはない。仕方ないか、街規模での祭だし。
参加者の印である手拭いを手首に巻き、武器――塗料を弾とする水鉄砲を渡される。弾にかかったら失格らしいが、弾切れの心配もないし、弾速もさほど速くない。弾道の予測も実弾より遥かに楽だ。替えのタンクは、脱落した者から拝借すればいいだろう。
スバルに頭のチビを預け、戦闘開始の合図が出ると同時、最速で5人ほどに弾を当てた。奏も流に直撃させていた。エイミングも確かに精度は高め、構える速度も民間人としては目を見張るレベル。中々のコンビかもしれん。
「ガラじゃないが言わせて貰おう。チョロい」
「まあね、実戦経験豊富な貴方からしたら余裕でしょう」
「背後を取られても気配でわかるさ」
当然だが、背後など取られるつもりはない。気配が丸出しな参加者達だ、どこにいようがわかる。その仕草までもが丸見えで、本当に勝つつもりがあるのかさえ疑問に思えた。本当はあまりやってはいけないのだが、肩越し撃ちで右斜めの人間を撃ち、こちら目掛けて撃ってきた弾道を、身を軽く動かして別の人間に当てさせる。狙いが雑すぎて相手にもならん。
ついに奏は水鉄砲を構えるのをやめた。このような舞台であっても、奏を護るのが私の役目。ならば、その役割を全うしよう。
「坂町も辟易としながら残っているな」
「あら、うさぎさんと一緒みたいよ?仲良いわね、あの二人」
「喧嘩するほどなんとやら、は正しいみたいだ。……坂町、マサムネ。ナクルに気をつけろ」
共闘する2人、軽口を叩かれながらもマサムネを守る坂町を見るあたり、流石男だと思う。ちゃんと2人は背中をカバーし合っているが、死角は必ず出てくるのだ。援護ついでに、その死角から狙っていた茶髪でピアスの男に、私は塗料弾を浴びせる。貸しひとつだ、坂町。
そうして奏と並んで歩いていると、やっつけ仕事で作ったとしか思いようが無い池の周りに、坂町とマサムネら。そして様子のおかしいナクル。木の上に隠れている紅羽。そしてこそこそとナクルの後ろに着く真宵。
「酔ってない?」
「まさか」
「あぁ゙~、くひっ、わんこ先輩ぃぃ……」
「眼がヤバいぞ!逃げろ狼!」
「なんだこいつは……炭酸?」
「ナクルは炭酸で酔うの!酔っ払ったら、他人の服を脱がす、すっごい質の悪い酒癖が……」
誰が飲ませたのか。千鳥足ながらも、眼は完全にイっている。酔っ払いの相手は慣れているが、こいつは訳が違う。奏にその魔の手を伸ばさせる訳にはいかん、と身を前に出すが、狙いは私ではなく、紅羽達のようだ。
少し、仕置きしてやるか。くいくい、とナクルを手招きして挑発する。ぐへへ、と品のない笑い声を上げ、こちらに向かってくるものの、やはり動きは緩慢の極み。身を屈め、地面を刈るように水面蹴りをしてかわさせれば、そのまま足を掴んではマサムネ達の方へ投げた。
「酔っ払い……くるなぁ!」
「酔ってませんよぉ!!ぐひひっ、そんなかんちがいぅをぅ、するうさみしぇんぱいにはぁ……」
「すきありぃ!」
「日向先輩もまとめて、お仕置きですぅ!!」
すまんな、出汁にさせてもらう。宙を飛びながら体勢を立て直したナクルは、一瞬にして、マサムネと真宵の下着を取る――本当に酒癖が悪いな、シュレディンガーも恐らくこんな風になるのだろう。それをこちらに見せびらかし、私に投げ付けて来るが、手に掴み、奏に渡した。私が持っていたらただの変態だ。
ついでマサムネの身ぐるみもナクルは引っぺがす。それは最早匠の域の速度。光さえ見え、残像がその場に残る。マサムネは走って隠れ、真宵は危機感を感じてこちらに走って来て、鳴海もそれについてこようとしたが、紅羽が足止めをしてくれた。
羽交い締めにする紅羽。こちらに真宵が着いたとき、さりげなく真宵の頬に、銃口の塗料を塗って置き失格にさせる。ずるい?戦略の内だ。それに、こいつには銃口を向けられん。例え玩具であろうとな。
「肉弾戦ならこっちに分があるよ、ナルナル!」
「あひひひぃっ、哀れな子羊がまたもや自ら生贄になりにきましたねぇ!!」
「どうしよう、狼くん……」
「ほっとけ。こちらにきたら、それ相応の対処をする」
「紅羽ちゃんまで脱がされたわよ?」
全然虚しく、紅羽までもが素っ裸にさせられてしまう。矢継ぎ早に矛先が完全に坂町に向いた、と思ったら、私に飛び込んでくる。
――容赦しないぞ。右腕を突き出して私の肩を掴もうとするナクル、それを躱せば自然と彼女の体は崩れる。その隙に、後ろに回って背中を押しつつ、足を引っ掛けて倒せば、どてっと地面とベーゼを交わすナクル。
ついでに、ナクルの眼鏡を引っぺがし、これを
「ナクルよ、これはなんだ?」
「そ、それはナクルの!!」
「これが欲しいか?」
握り締め、壊さない程度に力を入れる。メシメシと音が鳴るが、まだ壊れないだろう。その音は、ナクルにとっては悪魔の笑い声に聞こえることだろう。お遊びでの拷問は、私にとっても楽しんでいるところだ。
奏の寝返りと坂町の不意打ちに注意しながら、鳴海と駆け引きを続ける。奏は坂町の方に、笑顔を見せながら近付いていく。私はこいつに似たな。今、ものすごくあくどい顔をしているだろうな。現に今、楽しみ始めている。
「わんこ先輩!返してくださいよっ!」
「ふむ。なら、返してやろう。――欲しいなら、取ってこい」
私の後ろにある池の真上に投げれば、予想通りナクルは眼鏡に飛び掛かる。眼鏡を掴めたはいいが、そのまま彼女は池にどぼん、水柱が立ち昇って、その飛沫と音がナクルの断末魔かのように聞こえた。
そして、坂町は奏に抱き着かれて気絶。女性恐怖症、という、治療中の病につけ込まれたのが敗因だな。それにしても、流石は奏。これで、私と奏のデスマッチとなったわけだが。――やはり、こいつに銃は向けられん。
「構えないの?」
「お前を守るのが、私の役割だ。即ち、こうする」
「ふふ、潔いこと。その姿勢、尚更惚れさせてくれるわね」
取った行動は、私の手に塗料をつけること。ぴゅる、と黄色い絵具が塗られ、奏はふふふと笑う。その顔は、満足そうな顔であった。私の『ボディガード』としての筋を通したこと、それに一途であったことが、彼女を喜ばせる理由になったのだろう。
まだ私がいる、と真宵が胸を張って言う。しかし、パンツを穿いていない女に、しかも私の戦術にまんまとハマったやつに、そんな言葉を言う権利はもうない。顔を見てみろ、と言うものの、聞かない真宵に対して、奏はコンパクトを渡した。
――ふん。チョロすぎたな。
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戦いの経験者にはやっぱり勝てない、だから覚悟はしていたんだけど、流石、私のボディガードね。その献身的な態度により惹かれてしまうのは、当然のことで。狼の実力が垣間見れたけど、本気の彼はこんなものじゃないでしょう。そんなことは誰でもわかるし、だからこその態度でもあったのかもしれない。
ふ、と笑いながら、壇上で、スバルのキスを頬で受け止める。そこから見る狼の姿は、やはり気高くて、でも頭のオオカミくんはどことなく柔らかい雰囲気を出してくれていた。肉球を合わせてぽふぽふと拍手するなんて、本当に賢いのね。
気絶したジローくんと、びしょ濡れのナクルちゃん。両方とも、私達涼月姉弟の毒牙にかかった人達。狼がジローくんを背負い、スバルはタオルを持ってこちらにやってくる。そして、そのナクルちゃんは宇佐美さんと紅羽ちゃんを探しにいってしまった。
「はっちゃけすぎたわね」
「そうですね。でもいいんじゃないんですか?」
「お祭りだから?」
「はいっ」
「それよりあなたはパンツを穿きなさい、真宵ちゃん」
「あっ……。と、トイレ行ってきます!!」
真宵ちゃんと、隣り合わせで話をする。お祭り騒ぎはまだまだ終わらなさそうね。ジローくんの背中が気に入らなかったのか、またすぐ狼の頭に乗ったおチビちゃんが可愛げに吠えた。狼が余程このオオカミに懐かれているのが判る。その鳴き声がジローくんの目覚ましになったみたいで、はっと気づいた時には、おチビちゃんが彼の頭をぺんぺんと叩いていた。
背中からジローくんを下ろせば、すぐに狼はこちらに寄ってくる。塗料で汚れた手でオオカミくんを掴んで、宙ぶらりんにしながら。その子はハンドバッグじゃないのよ。
「結局こいつの親は見つからない、か」
「まだ探してもいないでしょう。でも、森に返せば、勝手に親元に行くんじゃないかしら」
「……放すか」
木々が生い茂る入り口の、適当なところにオオカミを置く彼だけど、その子は狼のズボンの裾を噛み、離れまいと必死になっている。困ったわね、狼?動物にまで必要とされるなんて。狼はオオカミの口を引き離し、そのままその子から離れるが、オオカミは必死について来る。お父さんと勘違いされてるのかしらね。ふふ、仲が良いことで。
「なんだ、こいつ」
「何にでも好かれるわね、あなた」
「嬉しく思ったほうがいいのか?」
結局また頭に乗るオオカミ。狼は諦め、荷物を抱えながら、私の相手をし続けてくれる。その時、私を狙わなかったことに対しての質問を彼にぶつけてみる。予想の範疇は超えないだろうけど。
「私のこと、狙わなかったわね?勝ってもいい、って言ったのに」
「遊びだろうと、君に銃口は向けたくない。それに、
「ふふ、やっぱり優しい。そんなところ、私本当に大好きよ」
「なに、私にとっては当然のことをしたまで。しかし、嬉しいな。君に好き、と言われるのは」
さりげなく言うけど、どんなに手加減しても、未来永劫、私はあなたには勝てないわね。勝てるとするなら、恋、かしら。