まよチキ! 〜チキンに噛み付くオオカミさん〜   作:パン粉

7 / 60
7

☆★☆★☆★

 

 

 狼がスバルと流を抱えて私の所に来たのは驚いた。2人とも気絶していて、明らかに狼がやったんだとわかって。経緯を聞けば、親子とも狼に挑んだらしくて。お馬鹿さんなのかしらね、強いってそんなにいいことなのかしら。

 

 一旦、スバルを私のベッドに寝かせる彼は、続いて流を下ろす。どうやら回復は早いみたいで、意識を取り戻してすぐ、胸を抑えながら狼に謝っていた。そして、すぐさま立ち去って、どこへいくかと思いきや、整形外科。もしかしなくても、肋骨が3本折れてた、って後から聞いて、狼が何をしたかはわからないけど、無謀な挑戦はやめよう、という教訓は得られたのかもね。

 

 そんなこんなで、彼が来てから早くも一年。年越しもパーティー、何があってもお呼ばれ。そんな中、私達はお父様の学校へ入学していたの。ええ、嵐藍学園、っていう高校にね。

 

 人生で初めて学校に行く、新鮮だとは思うけど、やっぱり怖い。スバルと狼がいる手前、弱味を見せたくないから、いつもの様に振る舞う。それなのに、狼は家に帰る度、私の心配をしてくれていた。

 

 優しい子なの、本当。いつも私を守ってくれる。仕事という垣根を越えて、スバルよりもはるかに気配りをしてくれて。本音でぶつかるのは狼しかいなくて。だから私は、彼と2人の時は、妹の様になっている。

 

「ねぇ、狼?」

「なんだ」

「どうして、私の心を見破れるの?」

 

 狼の部屋で聞いたこと。それは、あのパーティーから抱いていた疑問。殺風景な中に、ポツンと置かれたベッドに座って、彼の綺麗なエメラルドグリーンの目を見ながら、私は問いかけた。

 

 誰にもわからなかった、私の心。人を信じられない、だから演じる。そっちの方が、社会では楽。なのに、彼と2人だと、素を出していたくて、それを受け入れて欲しくて、なにも演じない。机に寄り掛かり、こちらの眼を見つめながら、狼は口を開いた。

 

「お前の眼だ。いつも濁っている」

「眼?」

「ああ。スバルを見る時でさえも、お前の眼は少し濁っている。動きも自然に見えん。なにより、匂いが違う」

 

 狼ならではの発言。匂いが違う、って?一体、私はどんな匂いがするっていうの?くんくん、と自分で服を嗅ぐけど、よくわからない。詳しく教えて、と言えば、狼はそれに答えてくれる。

 

 嘘の匂い――僅かに鼻腔を刺激する、塩素の様な匂いだそう。それでいて今は、穏やかな花の香り。気付いてはいた、狼は欺けない。嘘も嗅ぎ分けるし、眼でも判断しちゃう。やっぱり、彼だけは、全部が信じられて、素直に振る舞える。

 

 それって、私が狼に惚れている、って事なのかしら。確かに、彼と2人だと、少し胸が高鳴る。鼓動は早く、自然と血の巡りも良くなる。それでいて、何故だか彼に甘えたくなる。全てを見抜いては、無言でそれに応じる彼の気遣い、振る舞い。私の全部が、彼を受け入れていた。

 

 ――うん。私、狼が好き。こんなに優しいオオカミさんが、大好き。

 

「ろーうっ」

「なんだ――いきなりどうした」

 

 甘えた様な声を出し、彼の身体に思い切り抱きついた。確信して、私の匂いをマーキングする様に、身体を服に擦り付け。お化粧が落ちる、なんてことは気にしない。好きなものは好きなの。演じなくていい、この心には嘘をつかない。プロフィールを書け、って言われたら、狼が好き、って真っ先にペンを走らせちゃうくらいにね。

 

 こんな時にも、無表情を貫く彼。いつか、その顔に笑顔を浮かばせたい。困らせたいし、構ってほしい。仔犬みたいになった私の頭に手を置く狼。傷だらけのその手は、暖かくて、心地よい。

 

「お嬢様、狼様。お食事です」

「行くぞ。流が呼んでいる」

「ええ♡」

 

 自分の気持ちに正直に。自分が一番だ、って彼に言われたけど、それは私には当てはまらないわ。私と狼が、私の中で1番大切にするものよ。

 

△▼△▼△▼

 

 ベタベタに狼にくっついてきたお嬢様に、ボクは眼を擦って疑った。あの凛々しいお嬢様が、あんな甘えたことをするのか、って。何度見ても、夢かと頬を叩いても、それは現実だった。

 

 るんるんと上機嫌なお嬢様、相対するは無表情のオオカミ。苺が眼を丸くしていたのは、ボクと同じく驚いていたからだ。学校じゃ肩肘張っているから、なのかな。うん、多分そうだ。絶対にそうだ。じゃなきゃ、説明がつかない。

 

 お嬢様から離れて、席に着かせる彼。はぁ、と狼が溜息をつくなんて、はじめてだ。急になっちゃったのか、って聞くと、そうだ、と返してくれて。頭を打った?いや、絶対にそんなことはない。

 

「スバル、ほら」

「あ、ありがとう」

 

 恒例となった、ボクへの餌付け。今日は餃子。鬱陶しいコサメも、料理だけは認めざるを得ない。うん、美味しい。んだけれど、なんでか喉にうまく通らない。これは誰の視線だろうか?

 

 ――お嬢様⁈

 

「狼」

「ん?」

「私にもしなさい」

「自分の分があるだろう」

「いいから」

 

 妬いてた。あれは確実に妬いてた。というか、狼が妬かせた。いや、ボクも共犯。折れる狼は、餃子を掴んだお箸を、お嬢様の口元に出す。可愛らしい、小さなその口で、ぱく、っと被りつくお嬢様。途端に笑顔になっていくのは、お腹が空いていたからじゃない。

 

 惚れたんだ。何かあったか知らないけど、義弟に惚れたんだ。

 

 唐突か……いや、唐突じゃないな。今までの彼の振る舞い、態度。どれをとっても、ボクは参考にしていた。執事より執事らしいボディガード。だけど、仕事はちゃんとボクにさせてくれてたし、だからこそボクは、彼を信頼している。ボクの居場所を奪わない、って。親友なんだ、彼は。ボクの大切な、おともだち。強くて、凛々しいオオカミ。

 

 なのに、どうしてなのかな。今の姿は、本当にワンちゃん。お手、って言ったら素直にしそうなくらいだ。何があったんだろう、って思うけど、聞くだけ野暮なのかな。にしても、少し鳩尾が痛くて。そう、あの時に肘で打たれた部分。

 

 ボクも惚れている?そんなわけあるか。認めない。ボクは、狼の親友で、相棒なだけ。そこに恋心なんて、ある隙はない。うん、ないよ。ないんだってば。ないったらない。

 

「どうしたんだ、お前も変だぞ」

「君に言われたかない」

 

 ご満悦なお嬢様から目を離し、ボクに聞いてくる狼。無自覚なんだろう、そうだろう。左瞼から生える傷が、今日はやたらとカッコよく見えてる。気のせいだ、絶対。

 

 どうしたの、とお嬢様も続いて聞いてくる。しまった。ご主人様から気遣われるなんて。そんな執事、前代未聞だろう。取り乱さぬ様に答えようとするも、口が、声帯が、思う様に働いてくれない。

 

「ななななんでもないです!」

「落ち着け。疲れてるのか、なら休んだらどうだ?奏は私が見ておく」

「ダメだ!執事はボクだ!」

「――無理はするなよ」

 

 ぱくり、と餃子を食べる狼が、気遣って言葉をかけてくる。言いたい、君たちのせいだって。でも言わない、ボクは執事だから。そんなこと、絶対に言うもんか。

 

 ――なんで、意地張ったんだろう、ボク。

 

 改めて考えれば、馬鹿な選択肢を選んだなぁ。ああ、何をしているんだろう。ペースを乱され、落ち着きを失い。爛々と輝くシャンデリアが目に痛い。食べ終わった狼は席を外し、コサメにご馳走様を伝えて、スタスタとお風呂へ向かっていく。

 

 そういえば、今日は稽古をつけてもらえなかったなぁ。結構楽しみにしてるのに、彼との手合わせ。逆立ちしたって勝てないけど、強くはなれるんだし。お父さんよりも強い人がいるなんて、はじめて知ったんだもん。そんな希少な人物からのレクチャー、滅多にない。

 

 お父さんの肋骨を折った技――虎落とし。あの一撃が欲しいな、なんて考えたのは、強さに憧れたから。お嬢様をお守りする為の技を身に付けたい。最初はそうだったはず、なのに。いつの間にか、狼に認めてもらいたい、になって、稽古に励んでいて。彼がいない時にお嬢様の身を守る、それだけの力がついたのは、とうに自覚しているんだ。だけど、まだ彼に、認めて貰ってない。

 

 ――はぁ。ボクは、なにをしたいんだろう?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。