星アリサ一番かわいくない? 作:成間饅頭(旧なりまんじゅう)
スターズの一員として今日も仕事だ仕事。俳優としてのお仕事は皆がちやほやしてくれるので大変好きだが、時々俺のことが気に入らない監督さんと一緒に仕事することもある。そういう時はたいていリテイクがめちゃくちゃ厳しくなるので、俺はいつも泣きそうになる。
やめてくれ……俺は俺のことが好きな人にだけ囲まれていたい性分なんだ……。嫌われたら泣きたくなっちゃうじゃないか……。
その点千代子ちゃんはそつが無くてすごい。人の懐にスルッと入り込んでしまうのだ。コミュ力が高くて羨ましいが、あれは見た目で得してる分もでかいよな。
「恭一が見た目のこと言う? 美男美女って点じゃどっちもどっちだと思うけどな」
「いや、ルックスの方向性が違うんだよな。俺はほら、ちょっと見た目が怖いところあるじゃん? これがいけないと思うんだよな~、目も鋭いし。 その点千世子ちゃんは何て言うか、純度100%の可愛さって感じがするんだよね。天使らしくちょっと神々しいところもあってさ。何言われても許しちゃう所があるもんな。俺も目のあたり整形したいな~~。でも整形がばれると死ぬほど叩かれるんだよな」
「へー。そうなんだ。ふーん。言ってることが女子みたいだよ」
「は? 今は男の子だってプリキュアになれる時代だが?」
「許してないじゃん」
何故か俺に厳しい現場では千世子ちゃんと一緒になる確率が非常に高い。アリサさんがそこら辺考えてくれているのだろうか? 俺が嫌われてる分千世子ちゃんが好かれて、スターズとしての評価はとんとんになるみたいな。何にせよありがたい。千世子ちゃんは監督の求めていることを察知するのが非常に上手くて、俺にこっそりアドバイスをしてくれるのだ。俺がクソザコなので「もっと哀しさを前面に出して」とか言われても分からないところを、「リテイク2回目のほうが反応良かったよ」とか分かりやすく言ってくれるからマジで良い子。じゃあもうちょっと声の震えを大きくするか、とか出来るもんね。
「そういえばこの前オーディションあったんだっけ。どうだった? 私の次は見つかったかな?」
「それ俺に聞く? 見つかってない見つかってない。まだまだ天使一強状態は続きそうだね」
「ふーん。わざわざ黒山さんまで引っ張り出してそれじゃあ、アリサさんもガッカリしてそうだね」
「あ、でも黒山監督なら結構掘り出し物見つけたって喜んでたわ。夜凪景ちゃんだっけ? 結構かわいい子」
あの後結局彼女はスタジオ大黒天に所属するようになったようだが、それはかなり凄いことだ。筋金入りのエゴイストである黒山さん率いるスタジオ大黒天は少数精鋭。俺にはこれっぽっちも分からんが、彼女も相当な才能の持ち主なのだろう。スターズで取っておけばアリサさんも喜んだかもな。ちょっと残念。
「へえ」
「あれ、結構興味ある感じだね」
「……いや? ……今まで恭一がかわいいって言ってたのは私とアリサさんだけだったから、ちょっとね」
「いやアリサさんは可愛いなんてもんじゃないぞ。大理石をミケランジェロが掘り出したような一点物の神懸かりな可愛さと美しさであって」
「うるさい」
その後千世子ちゃんは撮影でアドバイスを全くしてくれなかった。俺は監督にしこたま怒られて撮影現場でマジ泣きした。自害します。
アリサさんから俺にお仕事が振られたぞ! やったね! 直接仕事が振られるということは中々の無茶ぶりであると同時に何か一つお願いを聞いてくれるという暗黙の了解がある。
前回は朝ご飯を作りに来てくれたんだけどあれは本当に良かった……もう新婚じゃんこんなの……。今回はそうだな、アリサさん安眠ボイスとか頼み込んだらもらえないだろうか。アリサさんのおやすみなさいの一言とともに眠りて~~~~~~~。いや、3Dモデリングの許可とかもありか? 夢が広がるぜ……。人間の可能性は無限大だ! どんなことだって不可能はない、諦めなければ夢は叶うんだ!
「却下よ」
「なぜ!? 3Dは仕方がないにしても安眠ボイスまで却下されるのは何故です! 昨今のASMR業界の隆盛をキャッチしてらっしゃらないのですか!? その市場規模の大きさからアマゾンなどの大手企業まで参入しているのです、スターズが遅れをを取ってはいけないと思いませんか? 台本は自分が書きますよ、もちろん完成品は俺だけで独り占めしますがね!」
「市場に出ないじゃないの」
「俺が100億で買います!!!!!!!」
「……」
あっ、アリサさんが眉間を抑えて黙り込んでしまった。仕方がない、本当に仕方がないが諦めるしかないか……。きっと恥ずかしがり屋なのかもしれない。元女優なのにと思わなくもないが、声だけの演技はまた分野が違うのだろう。
「詳しい話はスミスがするわ。あとはよろしくね」
「待ってください、そろそろ清水さんと俺のW秘書体制を取りませんか? 実は最近秘書検定1級も取ったんですよ、これからの伸びしろが大いにある俺を今のうちに手元に置いておきたいと思いますよね?」
「スミス」
離せ!!! くそっ清水さん体格もいい、やはり秘書として格上……! 俺の精進が足りなかったか……。
清水さんからの説明によると、どうもこの度のオーディションで不採用となった夜凪景ちゃんをアリサさんは気にかけているようだ。なんでも彼女の演技はメソッド演技とか言う凄い奴で、あまり多用すると精神を病んじゃうらしい。あんまり分からなかったが、つまり魔剣を使いすぎて反動が出る主人公のようなものだろうか。
そこで俺や千世子ちゃんの演技法を景ちゃんに教えてあげて、不安定な彼女の演技のバランスを取ってほしいと言う。光の力で魔剣を制御する的な事?
ということでスケジュールがギチギチになっている俺ではあるが、合間を縫って映画『デスアイランド』の撮影にも参加してそこら辺をお願いしたいようだ。なるほどね。アキラ君にも苦笑いされたくらいには演技をおしえるのは苦手なのだが、アリサさんに頼まれたとあっては何とかしようではないか。
「説明はこんなところですね。何か特別に聞いておきたいことはありますか?」
「思うんですけど、アリサさんが優しすぎませんか? いやもちろんアリサさんの優しさは大海のように深く、この
「……確かにそう思われるかもしれませんね。もちろんデスアイランドの興行的成功や、鬼才黒山墨字に貸しを作ることも理由にはあるでしょうが、一番はやはり夜凪さんに昔の自分を重ねているのではないかと思います」
「というと?」
「社長も昔、無理な演技で心を壊した方ですから。同じ境遇にある夜凪さんを救うことで、自分も救われた気分になれるのではないでしょうか」
「なるほど……初耳でした。アリサさんの過去については知らないようにしていたんですよね」
「おや、意外ですね。何か事情があったんですか?」
「いや、うっかり過去の旦那について知ったら辛さのあまり切腹しちゃうので……」
「よ、弱いオタク……」
夜凪景の育成は、そこそこ順調であるといえる。レベル1で最強武器をブンブン振り回すだけ、みてーなことしてたアイツも、まあまあ役者としての立ち回りを理解し始めている。今回参加するデスアイランドの撮影で千世子と他の奴の技術を喰って、さらに成長してもらいたいと思っていたが……どうも状況が変わった気がする。
鳴川恭一。スターズ事務所のトップクラスをいきなりババアがねじ込んで来やがった。俳優のねじ込みは別に良い、この業界よくあることだからな。俺も夜凪をむりやりねじ込んだみたいなもんだ。だがそれが鳴川となると、何か意図を感じざるを得ない。ババア、こっちが千世子を喰おうとしていることを察知してゲテモノも喰わせようとしてるのか? ……わかんねえな。思考材料が足りなさすぎる。
「黒山さん、どうしたの? さっきからウンウンうなってて気持ち悪いわ」
「うっせえ、引っ込んで―――いや、ちょうどいい夜凪、お前に話しときたいことがある」
俺は夜凪のポテンシャルを確信している。いずれアイツは、世界で通用する大女優になるだろう。だからこそ喰わせるものも慎重に選びたいが……鳴川は吉と出るか凶と出るか判断がつかない。
あいつの演技はメソッドの対極だ。声を荒げれば怒っているように見えるし、笑えば喜んで見える。ただそんな基礎的な事を狂気じみた精度でやっているのがあいつだ。本気でそう思っているように見えるのが余計たちが悪い。この話を手塚にしたら哲学的ゾンビだの中国語の部屋だの言っていたっけか。
「今度お前がする映画の撮影に、鳴川恭一ってやつが出てくる。俺はお前に一流の役者を吸収して来いと言ったが、そいつはよく考えろ」
「? 一流じゃないからってことかしら」
「いや、その逆だ。あいつは劇薬みたいなもんだ、取り扱いは慎重に行かねえとな」
「ふーん……でも大丈夫よ、黒山さん。私もっとお芝居がうまくなりたいもの。ちゃんとその鳴神って人の事も学んで見せるわ」
「鳴川だアホ」
こりゃ言っても聞かねえだろうな……まあいいか。夜凪の中に役者としてのエゴが芽生えているのは予想外の幸運だった。良い監督ってのは役者を心から信頼するもんだ。ただ怪物同士の喰い合いを見物するのも悪くないだろう――。
「あ、もしもし黒山監督! 今度アリサさんからそっちの景ちゃんに俺の演技を教えてあげてって言われたんですけど、俺そう言うの下手なんですよね~~~、なんかいい方法とかありませんか?」
「台無しだカス」
黒山墨字
かわいい娘の食育を頑張ってたらゲテモノの方から口に飛び込んできた。