最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。   作:バナハロ

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プロローグ
子供は意外と純粋じゃない。


 神奈川県のとある街。小学校が終わった放課後、帰ってすぐに家を出ようとしていた。毎日のように一緒に遊ぶ友達と、今日もバスケだ。

 や、別にバスケじゃなくても良い。野球をやる日もあればサッカーをやる日もあるけど、今日はバスケを約束した。

 早速、ボールを持って家を出た。チームプレイが大好きな俺は、スポーツなら何でも好きだ。なんでかって、やっぱみんなと一緒に頑張って勝つのが楽しいのよ。

 本当は本格的にどれか一つ習いたいんだけど、うちはあんまりユーフク? じゃないから無理。でも、中学の部活からは参加して良いって言われてるから楽しみだ。

 一番乗りで学校に到着し、バスケのボールをタンタンとついて、遥か頭上のゴールを見上げる。

 

「ほっ……」

 

 シュートを一発放ち、ネットを揺らした。うん、今日も調子良いな。早く来ないかなぁ、みんな。まぁ学校までうちが一番、家近いし仕方ないんだけどね。

 そんな話はともかく、だ。とりあえず今は身体動かして……。

 

「ん?」

 

 ゴールの近くに、一人の男の子が見えた。短い髪で整った顔をした奴だ。別のクラスの奴か? そいつがこっちを見てる。もしかして、一緒に混ざりたいのか? 

 

「おい、なんか用か?」

「……別に、何でもねーよ」

「暇ならやろうぜ。教えてやるから」

「え……良いのかよ?」

 

 意外そうな顔で見られてしまった。俺そんな他人を仲間外れにするような奴じゃねえんだけどな……。

 

「一人でやっても面白くねーし、お前だって暇そうじゃんか」

「でもお前……今、友達待ってんだろ?」

「? 別にお前も一緒にやれば良くね?」

「……」

 

 何を言ってんだこいつは。友達の友達は友達で良いだろ。

 

「……じゃあ、やるか……」

「バスケのルールは分かるか? これを手でバウンドさせながら……」

「分かるっつーの。バスケ、習ってるし」

「お、マジか。……あ、俺は東田葉介な」

「……西城樹里だ」

 

 じゅり? 女の子みたいな名前だな。まぁそんな事は気にしないけど。

 経験者なら話は早いな。とりあえず、準備運動だけして1on1だ。ボールを構えて、二人で向かい合う。

 

「……覚悟は良いな? 樹里」

「っ、い、いきなり下の名前かよ⁉︎」

「え、ダメなの?」

「……や、良いけどよ……」

「じゃあ西城で良いや。覚悟は良いな?」

「お、おう……」

 

 コートのハーフラインに立ち、体育でよくやるようにまずは攻め側が守り側にボールをパスし、守り側が攻め側にボールを返してスタートする。

 ボールを地面に着きながら、一気に横から抜けようとする。

 

「よっ……おおっ⁉︎」

「まぁまぁ速ぇけど……簡単にはいかせねーぞ」

 

 マジか、抜けない。こんなの、一緒にやってる奴らからは考えらんねーのに。

 なので、逆サイドにターンして抜こうとした。しかし、すると今度は一歩引いて対応してくる。

 

「んなろ……!」

 

 仕方ない、一か八かだ。後ろにバックステップしながら、強引にシュートを放った。スリーポイントラインの上からなので入る入らない以前に届くかだが……。

 ガタンッ、とリングに弾かれ、ボールは外側に落ちる。その後、俺と西城はほぼ同時にボールを取りに行った。掴みかかろうとした俺よりも、外にはじき出す西城の方が早いのは当然だ。

 

「あっ……」

「やり! 交代な?」

「クッソ……!」

 

 こいつ、習ってるだけあって中々、上手いな……。とりあえず、攻守交代だ。

 ハーフラインに立つと、今度は西城からパスをもらい、返してスタート。

 ドリブルしながら突っ込んで来たのでカットしようとするが、バックステップで回避される。が、すぐにまた緩急をつけて俺の横を通り抜けた。

 

「このっ……!」

 

 後ろから何とか追いすがり、前に姿を現した直後だ。真逆にターンして回避された。逆サイドからゴール下に潜り込むと、レイアップシュートを放たれた。

 

「あ……」

「っしゃ、どうだ!」

「も、もっかい!」

「良いぜ、いつでも相手になってやるよ」

 

 そう言って、また攻守交代した時だ。今日、一緒に遊ぶ予定だったメンバーが来た。

 

「葉介! お待たせ!」

「てかお前もう汗だくじゃん!」

「何してんの?」

「あ、おせーよお前ら!」

 

 校門の方から走って来る四人組が来た。それと共に、一緒に遊んでいた西城は俺の背中に隠れてしまう。隠れたんだけど……なんでお前、腕組んで仁王立ち? どんな隠れ方? 

 

「あん? 何してんだお前」

「な、なんでもねーよ……」

「誰かいんの?」

 

 一人が俺の背中の後ろを覗き込むと「げっ……」と声を漏らした。

 

「何、どうした?」

「そいつ、西城じゃん」

「あ、お前知ってんの?」

「知らないのお前くらいだよ」

 

 そう言う通り、そいつの後ろの三人もウンウンと頷く。もしかして有名人なのか? まぁあれだけバスケ上手いし、有名でもおかしくないか。や、俺の方が上手いけど。まだ全然、本気じゃねーし。

 すると、正面にいた奴が西城を指さした。

 

「そいつ、ヤンキーなんだぜ」

「噂だけど、タバコ吸ってるらしいし」

「近寄ったら殴られるって。やめとけよ」

「え、ヤンキー?」

 

 振り向くと、背中にいる奴は微妙に肩を震わせる。ヤンキーが肩を震わせるかよ。

 

「馬鹿、お前らヤンキーってのはリーゼントかアフロなんだぜ。この短い髪でそんなん出来るかよ」

「でも、そいつ口悪いし、いつも一人なんだぜ」

「俺の友達が、一人でパチンコやってるとこ見たって言ってたしよ」

 

 ……うーん、パチンコってやったらヤンキーなのか? よく分かんねえけど……でも、口悪いのは俺もそうだし……。

 

「や、でもそれ全部噂でしょ?」

「そりゃそうだけど……」

 

 ……要するに、お前らは西城と遊びたくないわけか。理由は、はやい話が怖いから。なら、怖くないことがわかれば良いんだな? 

 

「なぁ、西城」

「……なんだよ」

 

 あ、泣きそう。まぁ本人を目の前にスゲェ言ってたしな。でも、俺は西城と一緒に遊びたい。だって、こいつバスケ上手いから。

 そんなわけで、俺は小一の頃から友達になりたい奴によくやってたチョッカイを出す事にした。

 

「必殺……流星群!」

「うおわあっ⁉︎」

 

 西城の、ズボンを下ろした。お尻の形をぴっちりと表すティー字型のくまさんパンツが目の前に現れる。……こいつ女みたいな趣味してるな。

 それに、周りのメンバー全員も「ブフォッ」と噴き出す。

 

「お、西城はブリーフ派か」

「なっ……て、テメェいきなり何すんだよ⁉︎」

「ちなみに俺はトランクス派だよ」

「み……見せなくて良いっつーの! この変態野郎!」

 

 ズボンを慌ててあげてから、両手をブンブンと振り回しながら迫って来るが、俺は頭を抑えて近付けさせない。そのまま、とりあえずいつも遊んでるメンバーに声を掛けた。

 

「ほら、全然怖くないだろ?」

「お、おう……」

「いや、正直それどころじゃ……」

「ふざけんなこの野郎‼︎」

「ぐほうっ⁉︎」

 

 振り回していた腕の軌道を変え、俺の肘をはたき落としてきた。今のはクリーンヒットした……。

 そのまま思わずしゃがみ込む俺の頭をポカポカ叩いてくる西城を無視し、全員に言った。

 

「と……とにかく、俺は西城と一緒に遊びたい!」

「っ……」

 

 すると、何故か西城が手を止める。急に頬を赤らめ、そっぽを向いてしまった。てか、お前も何か言えっつーの。まぁ良いけど。それより、何とか怖くないことを分かって貰わないと。

 

「今のパンチも全然、痛くなかったし」

「お前やっぱふざけんな⁉︎」

「あーもう分かったよ。西城、お前もやるか?」

「ちょうど、合わせれば人数も偶数になるしな」

 

 お、承諾してくれた。ならちょうど良いや。

 

「言っとくけど、西城俺と同じくらい上手いからな。気を付けろよ」

「さっき負けてた癖によく言うな」

「さ、さっきのは本気じゃなかったから!」

 

 その日から、一緒に遊ぶメンバーの中に西城が加わった。

 

 ×××

 

 それから、数日が経過した。今日も放課後、全員で学校の校庭に集合。俺以外のメンバーはみんな校門から逆の方向に進むため、一人で帰宅……と、思った時だ。

 

「ようっ、東田」

「え? ……あ、西城。え、お前もこっちなの?」

「ああ。家どの辺?」

「このまま、まっすぐ行って信号のところ左に行った先のマンション」

「あ、うちその隣のマンション」

「うお、マジか」

 

 スゲェ偶然。今までに何回かすれ違ってたのかも。

 

「今日、くるか? この後、校庭でサッカーやんだ」

「良いのか?」

「当たり前でしょ。3組の連中と試合だ」

「クラス別ってことか? 2組なのに参加して良いのか?」

「平気だよ。1組+1って事で」

 

 実際問題、大勢で楽しめれば良いんだから。

 

「じゃあ、行く」

「よっしゃ。西城も中々、何でもできるからな」

「お前が言うな。いつもつるんでる連中の中で何やらせても一番、うまい癖に」

「バスケはお前の方が上だろ」

「それだけだから」

 

 別に頭ひとつ抜けて上手いってわけじゃないんだけどな……。強いて言うなら、才能が違うって奴? この前、それを言ったら殴られたけど。

 

「……なぁ、東田」

「何?」

「お前……なんでそんな何でもできるんだ?」

「なんでもは無理だから。勉強苦手だし」

「いや……そうじゃなくてな」

 

 じゃあどういう事? と言ったのが顔に出てたのか、聞くまでもなく言い直してきた。

 

「だから……その、なんだ。この前、誘ってくれた時とか……他の事とか……普通は触れない所とかも、平気で飛び込んで来るだろ?」

「え? ドユコト?」

「や、だから……その、この前はバスケに誘ってくれたりとか……普通、仲間があんな風に拒否反応見せてたら、シカトするだろ」

 

 ……ああ、そういうコトか。質問の意図は分かんねえけど……。

 

「アレは単純にお前に負けっぱなしなのが嫌だったからだよ。例え、お前が人殺しでも、俺はやり返すまで無理矢理にでも挑んでたね」

「なんだその物騒な発想……」

「例えだっつーの」

「にしてもだぞ」

 

 そうかな? まぁ、そうだな。流石に例えが悪すぎた。

 

「……じゃあ、バスケが上手くなかったら、誘ってなかったのか?」

「いやいや、そんな事ないって。みんなが来るまで俺、暇してたし、あの時はとりあえず相手して欲しかっただけだから」

「……そ、そっか……」

 

 ぶっちゃけ、ウォーミングアップのつもりだったし、それに負けたんだからもうホントこの野郎って感じだった。

 

「でも……失敗したら、とか考えない、のか? 遊びに誘った奴が……すごく悪い奴だったら、とか……」

「あー……まぁ、友達には迷惑かかるかもしんないけど、悪い奴かどうかは自分で決めれば良くね。もしかしたら、そいつにだって良いとこあるかもだし、何事も、やらずに後悔するよりやって後悔した方が良いでしょ」

「……なるほどな」

「お前も一緒でしょ?」

「え?」

「友達が欲しかったから、あんな時間に校庭をうろうろしてたんでしょ?」

「いや……別に……」

「それも十分、何かしてるって事なんじゃねえの」

 

 まぁ、難しいことはよくわかんないけどね。俺も経験あるから。誰も友達が遊べない時は、他校の生徒が多い公園でうろうろして混ぜてもらうし。

 

「それより、早く公園に行こうぜ。みんな待ってるし」

「あ、お、おう……」

 

 とにかく早く行って夕焼けチャイムがなるまでに少しでも多く遊びたい。

 

「なぁ……東田」

「なんだよ。早くって言ってんだろ」

 

 走り始めた直後に何で改まって声かけてくるの。思わず睨んでしまったが、西城はこれでもか、という程、照れ腐ったような表情で聞いてきた。

 

「これからも……ずっと、一緒に遊んでくれるか?」

「……あん?」

 

 何を言ってんのこいつ? 

 

「当たり前だろ?」

「……へへ、へへへっ……!」

「何急に笑ってんの? 怖っ」

「う、うるせー! いいから行くぞ!」

「いやそれ俺が言ったんだけど」

 

 そんな風な話をしながら、とりあえず帰宅した。マンションの前で別れて、1分後に待ち合わせした。

 自分の部屋に到着すると、珍しく母親がいた。どうかしたのだろうか? 普段はこの時間はパートのはずなのだが。

 

「ただいま」

「あら、おかえりなさい。遊びに行くの?」

「行く。じゃ、行ってきま……」

「あ、待ちなさい」

「えー、何?」

 

 用あんのかよ……早くしてくれよマジで。

 

「夏休み中に転校するから」

「……は?」

「お父さん、本社からヘッドハンティングされたんだって」

 

 ……ごめん、西城。俺、これからもずっと一緒には遊べそうにないわ。

 

 ×××

 

 夏休みに突入した。俺が転校することになった話は、クラス内ですぐに広まった。まぁ、所詮、クラス内だが。お別れ会が開かれたが、夏休みの間はこっちにいられるので、お別れ会って感じがしなかった。

 ていうか、転校のタイミングがまんま夏休みだから仕方ないっちゃ仕方ないんだけどね。

 で、そういうわけだから当然、西城も知らない。まぁ、何であれ、だ。とりあえず、しばらくは平気だ。何せ、引っ越すのは8月後半だし、言う機会はいくらでもある……なんて、思っていたのだが、そうもいかないのが世の定めのようだ。

 夏休みがあまりに楽しくて、引っ越しの日まで伝えるの忘れてました。

 や、だって仕方ないっしょ。普段はバスケ、サッカー、野球、テニス、イベントがあったときは夏祭り、流しそうめん大会、スイカ早食い競争……などなどととにかく色々。

 伝えるのを忘れちゃった以上は、このまま行ければ一番だったのかもしれない。……が。

 

「おい、テメェどういう事だよ! 引越しなんて聞いてねえぞ!」

「やーごめん。伝えるの忘れてたわ」

 

 引っ越し前に、俺は西城に胸ぐらを掴まれていた。マンションが隣同士だからね。タイミングが悪ければこうなるわ。

 

「ずっと一緒に遊んでくれるんじゃなかったのか⁉︎」

「や……だから、悪かったって……黙ってたわけじゃ……いや、黙ってたのか、結果的に」

「こんな……急に……!」

「泣くなよ。もうお前には友達がたくさんいるだろ」

「な、泣いてねえ!」

 

 涙を拭きながら言われてもな……。

 友達がいなかった経緯とかの話を聞いた感じだと、こいつが俺と出会うまでは、噂を鵜呑みにした周りの連中に怖がられていたからだ。

 しかし、最近じゃ俺の友達経由でそんな噂は霧散し、ちゃんと友達も出来ている。

 

「とにかく、もう時間も無いし行くから。こっちに寄ることがあったら、その時に挨拶するわ」

「お前……! 人の気も知らないで……!」

「今生の別れってわけじゃねんだからよ……」

 

 あんまり長くいると、俺も泣きたくなってしまう。なるべくドライに行きたいもんだ。

 

「住所とかはいつも遊んでたメンバーは知ってっから。何かあったら手紙寄越せよ」

「……るせぇ」

「じゃあな、西城」

 

 それだけ言って、軽く手を振ったときだった。その手を、後ろから西城はギュッと掴む。

 

「……樹里」

「あ?」

「樹里って、呼べよ……! これから先も、また会えるんだろ?」

「……下の名前で良いのか?」

「良いんだよ! お前だけは特別だ!」

 

 ……ま、本人が良いと言うなら良いか。

 

「じゃ、またな。樹里」

「! ……おう、葉介!」

 

 それだけ話して、俺は新たな地、東京に旅立った。

 

 

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