最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。   作:バナハロ

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何事もハプニングとタイミング。

 俺は、夏が好きだった。なんでって、遊ぶの楽しいから。汗だくになって球技に励み、ライバルと勝ち負けを競うのはとても充実感があった。

 しかし、今は夏があまり好きではない。暑いだけだから。これで部活でも入っていようものなら少しは好きなままでいられたのだろう。だが、運動しない夏なんてただ暑いだけだからね。

 そんなわけで、暑くなって来たこの頃は直帰に限る。……大丈夫、暑いのはもう少しだ。それが過ぎれば、梅雨に入って少しは涼しくなる……。

 で、まぁそんな日でも運動はしたくなるわけで。今日はマラソンをする事にした。明日、学校休みだし多少走り過ぎても問題ない。

 暑いので、日が沈んでから走り始めた。イヤホンを耳につけて走る。

 

「っ……っ……」

 

 こういう時、好きな曲を流して走るととっても楽しいのよ。特に、少年漫画のopとか。

 特に、ワンピ、ナルト、銀魂辺りが激アツ。なんか、こう……流れてくる曲によっては走り方とか変えちゃったりしてね? 

 でも昼間やると通報されるから、こうして夜に走る、というのもある。銀魂とか、あのマッハのり子の回の銀さんのスクーターに乗ってる気分で走るの超楽しい。

 こう……スイッチ押しちゃって、スクーターがぶっ飛んだりしてね? 

 

「ギィィィヤアァァァァァァッッ‼︎」

 

 人の少ない道で絶叫しながら走っ……。

 

「……」

「ァァァァ‼︎」

「……」

「ァァアアッ⁉︎」

「……」

「ア、アアぁぁぁぁ……」

 

 ……み、見られてた……しかも、思いっきり知り合いの有栖川夏葉さんに……。

 唖然としながら、同じくジョギング中だったのか、ジャージ姿の有栖川さんを眺めているとふいっと目を逸らされて先に走り出されてしまった。

 いや、何その間! 待て待て待て! 

 

「ちょーっと待って! 違う、違うから!」

「誰にも、言わないから……!」

「そういう問題じゃなくて! 俺別に普段からああいうことしてるわけじゃないからね⁉︎ 今日はちょっと気分が乗っちゃってー!」

「気分が乗っちゃうとっ、ふぅ……ああいう事しちゃうのね、あなた」

「や、だから違くて! え、てか気持ち分からない? 台風の中、ジョギングしてる時に、無駄にカッコ良い台詞言いたくならない?」

「まずっ、私は台風の中で……じ、ジョギングしない」

 

 くっ、返す言葉もねえ……! てか少しは足止めろよ! 

 

「大丈夫よ、私と……あなたの間に、共通の知り合いは……いない、でしょう?」

「そういう問題じゃなくて!」

「ていうか、走ってる時に話……かけないでくれる?」

「いやいや、こんなの歩いてるのと一緒でしょ」

 

 俺は余裕で会話できてるし……なんて本音が漏れたのが運の尽きだった。ピクッと頬をひくつかせた有栖川さんは、眉間にシワを寄せて、全然笑ってない笑顔で俺を睨んだ。

 

「……言うじゃない。変態男」

「変態じゃないから!」

「上等、よ!」

 

 さらに加速する有栖川さん。ま、でも俺を相手にスタミナ勝負は、仮面ライダー1号にジャンプ力勝負を挑むようなものだ。

 俺も一緒に加速してマラソンを始めた。二人で並走する。抜いたり抜かれたりするが、俺は余裕だけど有栖川さんはそうもいかないっぽい。

 

「あ、あんた……意外と、速いのね……!」

「鍛えてあるからな。え、もしかしてギブ?」

「ま、まだまだ!」

 

 良い根性してるなぁ。実際「練習怠ぃ〜」「部活面倒臭ぇ〜」とか喧しい連中より、こうして各々で鍛えている人の方が余程、ガッツがあると言える。

 さて、もう少し付き合ってやるか、と思いながらたったかたったかと二人で走る。

 ランニングは川沿いに出て、土手を二人で並んで走る。もう日が落ちているので、足元は微妙に見通しが悪い。

 

「有栖川さん、足元気を付けてくださいよ」

「敵にっ、塩をっ……送るなんて、良い度胸ね……!」

「いや、転ばれると困っ」

 

 直後、視界が暗転した。真っ暗闇だけが瞳に映る中、頭や腰、足や背中に衝撃が走る。最後にザッパァーンっと液体の中にダイブして、ようやく状況を理解した。

 注意しておいた俺が落ちたみたいですね。

 

「あなたって、見学してると面白いわね。観察日記とかつけられそうな程、ピエロやってるわ」

「う、うるせぇ……ゲホッ、ケホッ……」

「ほら、早く上がって来なさいよ」

 

 言われるがまま、川から上がって顔を振る。もう二度と、夜に土手は走らねえ……。

 

「さぁ、帰りましょう。近くに私が暮らしてるマンションがあるわ」

「へ?」

「シャワー浴びないと風邪引くわよ。勿論、泊まりは無理だけど、さっぱりしてから帰りなさい」

「……良いの?」

「このまま置いていく方が無理よ」

 

 有栖川さん……良い人なのか? や、でもこのご好意に甘えて良いのか? 一応、異性なんだが……。

 

「あの、俺こんなんでも男子高校生ですよ?」

「あなた、樹里の友達なんでしょう?」

「えっ……じ、樹里って……西城樹里?」

「私、その子のチームメイト」

 

 んがっ……な、なんと⁉︎

 

「そんな子が、部屋に上げてシャワー貸すだけで私に何かしてくるとも思えないし、構わないわよ」

「え、いや……え? またあいつのチームメイト?」

「果穂が喜んであなたの話してから確信したわ。外見も名前も一緒だったしね」

「ええ……あ、そうか。果穂ちゃんとも仲間って事になるのか……」

 

 なんか、ほんと世間って狭いんだな……。世の中で俺と関わる連中はみんな、俺の友達の友達なんじゃないかと思うレベル。

 

「でも、俺の不注意でこうなったわけだし……有栖川さんのジョギングの邪魔もしちまってるわけだろ? 世話になりっぱなしは……」

「気にしなくて良いわよ。今なら、格安でうちに上げてあげるわ」

「金取るのかよ!」

「お代は、樹里との思い出話で良いわ」

 

 ……ああ、なるほど。要するにあいつのことを知りたいわけね。

 

「一夏しか一緒にいなかった仲だけど、それでも良いのか?」

「だから、それで良いって言ってるの」

「あそう。……じゃあ、ありがたく世話になるわ」

 

 そんな話をしながら、その日は有栖川さんの部屋でシャワーを借りた。

 

 ×××

 

 さて、翌日。昨日の夜に思ったより話に食いつかれたわけだが、何とか夜のうちに家に帰ってこれた。

 おかげで、俺は昼に起きるハメになったが。こんなにだらしない生活をしたのは久しぶりだ。

 

「ん〜……」

 

 伸びをしながら一階に降りて、まずは洗面所で顔を洗い、髪型を直す。今日はオフなので、軽くワックスもつけておいた。

 で、歯ブラシを手に取って口の中に突っ込むと、シャカシャカ動かしながら部屋に戻った。

 パジャマを全部脱いで着替えを済ませると、再び洗面所に戻って脱いだパジャマを洗濯機に放り込む。昨日の汚れ物も全部、中にぶち撒けて、歯ブラシを終えてようやく居間に入った。

 

「あ、来た。おはよう」

「随分と遅いお目覚めだな」

「ああ……うん。いや、昨日ちょっとな……」

「昨日、何があったんだよ? 教えろって」

「いや大したことじゃないんだけど、たまに一緒に運動する人で……」

 

 って、お袋ずいぶんと声が若いな。……いや、ていうか遡って最初の二つの挨拶よ。

 

『あ、来た。おはよう』

『随分と遅いお目覚めだな』

 

 いやこれ別人でしょ。もしかして姉か? いや俺に姉はいねえよ? 妹か? 妹もいねえよ。ってことは……。

 

「え、樹里? なんでいんの?」

「よう」

「いや、よう、じゃなくて」

「朝飯なら出来てるぜ。アタシが作った」

「もう昼だけどな」

「それはあんたが言えるセリフじゃねえ」

 

 まぁね。てか、樹里が作った飯かぁ……。なんか、普通に楽しみだわ。昔はそういうのやらなかったからなぁ。精々、流しそうめんやった時に親の手伝いでネギの早切り競争やって指切って怒られたくらいだ。

 

「はい、オムレツ」

「さんきゅ。お前そっくり」

「るせーよ」

 

 そんな適当な話をしつつ、オムレツを口に運んだ。お袋は空気を読んで部屋から出て行ったようだ。

 あ、美味い。料理作れるようになるなんて……ホントに何つーか……女っぽくなったんだな。

 

「美味いなこれ」

「ほ、本当か⁉︎」

 

 ……反応も可愛いのが困る。本当、女の子っぽくなったよお前は……。

 可愛い樹里、というのはいつまで経っても慣れないので、早めに話を逸らすことにした。

 

「それより、何の用だよ」

「いや、さっきお前に暇かどうかL○NEしたのに既読つかないから、直接来たんだよ。今日はアタシ、午前で仕事終わりだったから遊ぼうと思って」

 

 ああ、なるほどね……。いや、でも直接来るこたぁねえべさ。

 

「どんだけ俺に会いたかったんだお前」

「バッ……そ、そんなんじゃねえよ!」

「いや冗談だから……」

 

 相変わらずからかい甲斐のある奴だなぁ。まぁ、その分、制裁の威力は段違いなわけだが。

 ったく……と、小声で毒づきながら樹里は、お袋が用意したのか、机の上に置いてある飲み物を口に含む。

 すると、今度は頬を若干、赤らめ始めた。怒ったり照れたり忙しい奴だな。

 

「そ、それとよ……」

「何?」

「その……夏葉から聞いたんだけど、お前……夏葉と一緒にジョギングしたのか?」

「ブフッ!」

 

 思わず吐き出してしまった。あの野郎、共通の知り合いいるのに言いやがったな! ていうか俺も迂闊でした! 何故、樹里のチームメイトと言われた時に突っ込まなかったのか! 

 

「な……何か聞いたか? あいつから……」

「絶叫しながら走ってたなんて聞いてねーよ」

「殺せよおおおおおお!」

「いや、別に気にしてねーよ……お前、小学生の頃からそういう節あったし」

「え、そ、そう?」

「あった」

 

 そ、それはそれで……地味にショックだな。主に自覚がなかったあたりとか特に。

 

「って、そんな事よりよ。……その、次から……アタシも連れてけよ」

「何処に」

「だから、その……ジョギングだよ」

 

 なんでだよ……。今の話の流れでよく今それ言えたな。

 

「言っとくけど、お前の前じゃ絶叫しねえよ」

「そんなもん期待してねーよ! てか、絶対すんなよ⁉︎」

「振りか?」

「違う! ……ど、どうしてもやるってんなら、アタシも一緒にやる!」

「え……正気?」

「悪いのかよ!」

「良くはないよね」

 

 ……まぁ、俺もそういうノリは嫌いじゃ無いけど。とはいえ、住宅街でやったら通報待った無しなので、やるならー……アレだ。まさに昨日の土手みたいな場所がベストだろう。

 

「まぁ、一緒に走るくらい良いけど」

「ほ、本当か⁉︎」

「嘘ついてどうすんだよ。まぁ、お前もアイドルとかやってんなら体力使うんだろうし、スタミナはあって損するものじゃないだろうし」

「お、おう……よく分かったな? アイドルが割と体力使うって。ライブとか行ったことあんのか?」

「つべで映像見ただけ。でも、歌いながら踊ったり楽器弾いたりすんのが大変なんてことは見てりゃ分かるよ」

「相変わらず、身体動かすこととかに関しちゃ勘が良いんだな……」

 

 いやいや、見りゃ分かるでしょ。カブトムシのオスとメスくらい見分けがつきやすいぞ。

 呆れたような表情の後、樹里はニヤリと唇を歪ませた。意地悪そうな笑みを浮かべると、まんま意地悪そうな声音で言う。

 

「……それに、アタシが見たいのはどっちかっつーと、土手から転がり落ちて川の中にダイビングする方だしな」

「るせーよ……もう転ばねーよ」

「ほんとかー? 小学生の時だって、お前たまにドジやらかしてたじゃねーか。そういうとこ、ホント変わってねーのな」

 

 喧しいわ。

 

「ちなみに……怪我とか無かったのか?」

「無かったよ」

「どんだけ丈夫なんだよ……。人によっちゃ骨折してるぞ」

「シャワー浴びた後に有栖川さんも見てくれたけど、背中と足に青タンが出来たくらいだな」

「え?」

「ん?」

 

 昔から丈夫なんだよ。風邪はたまに引いてたけど、骨折、捻挫、ヒビ……病気系ならインフル、ノロ、熱中症、日射病、脱水症状とか、その辺のは予防接種しなくてもなった試しがない。

 ……そんな俺でも引いたことのある風邪はどんなウイルスだったのだろうか? そっちの方が気になるな。

 しかし、樹里が引っかかっていたのはそこではなかったようだ。

 

「え……シャワーって……?」

「え? 聞いたんじゃないの? あの後、有栖川さんのマンションでシャワー借りたのよ。川の中にダイブしたから気を使ってくれて……」

 

 説明したものの、樹里には覚えのない話なのか、頭上に大量の「?」が浮かんでいる。

 あー……これは、もしかして……やらかしたパターンか……? いや、まだ間に合う。あいつが言葉を全て理解する前に、なかったことにする! 

 

「いや、嘘嘘。何でもないヨー」

「無理だ! お、おい、どういう事だよ⁉︎」

 

 うん、無理でした。知ってた。

 こうなったら、樹里はもうしつこい。それこそ踏んだ足の裏のガムのようにしつこい。なので、早めに折れることにした。

 昨日、起こった事を全て説明すると、樹里はジト目で俺を睨む。

 

「……本当か?」

「本当だよ。だからやましいことは一切してねーよ」

「なら良いけどな……あんま他の人に見られたらまずい事してんじゃねーよ」

「お前に言われたくねーんだよ。普通にうちに泊まりにきた奴が」

「アタシは良いんだよ!」

「どういう理屈⁉︎」

 

 いや、まぁ幼馴染だし良いじゃん、と言われたらその通りなんですが。一応、情状酌量の余地はあると思ってる。有栖川さんとかの場合はそうもいかないが。

 

「それより、これからどうする? せっかく遊びにきたんならどっか行くか?」

「……ボウリング」

「は?」

「夏葉と行ったんだろ? アタシとは行けないってのか?」

「あの、せめて金があるときとかにしてくれない? 俺は普通の……いや、普通より成績低めの学生だし、バイトは長期休暇中じゃなきゃ出来な……」

 

 直後、俺の机の前に五千円札が降って来た。母親からだ。

 

「返すのは夏休みで良いわよ」

「……」

「うしっ、行くぞ!」

 

 このあと、滅茶苦茶二人でボールを転がした。

 

 

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