最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。 作:バナハロ
疲れた時には糖分、頭を使った後は糖分、イライラしてるときは糖分、当分は糖分、色んな糖分に関する言葉を聞いたが、それのどれも適切ではない。
糖分は、いつでも糖分だ。甘いものは本当に良いものだよ。世の中も何もかも甘くなれば必ずうまく行くというのに、何故、社会は厳しいものであろうとするのだろうか? そんなに縛り付けて追い込んで良いことある?
いや、スポーツ選手なら分かるよ? 敵とのガチンコなインファイト、それが球技であれ格闘技であれ陸上競技であれ、敵が明確に見えるのだから。甘えは負けに繋がる。
けど、別に他のことは甘くて良くね? まぁ俺がどうこう言った所で世界が甘くなることなんてないのだから。
だから、食べ物や飲み物くらいは甘くて良い……切実にそう思います。
そんな甘さマックスな俺だが、今日はその糖分を摂取しに来た。期間限定「宇治抹茶白桃パフェ」が本日から発売されるのだ。
白桃と抹茶って合うの? なんて質問は無粋である。甘いもんが発売されたら、とりあえず食うのが甘党であり、男だ。
「……」
昨日、母親から借りた金のあまりで十分、買える金額だったので、その金を持って放課後に参戦した。ちょうど他の学生も友達と寄り道している時間なのか、思いっきり丸かぶりした。
……売り切れねえだろうな。売り切れたら発狂するぞオイ。こんな事なら、漫画買う前にここに来りゃ良かった。
まぁ、待ち時間は苦手じゃない。その間にスマホをいじったり漫画を読んだりすれば良いだけの話だし。
「……来たんだね、葉介くん」
「その声は、聞き覚えがあるな」
背後から俺を呼ぶ声がした。その声は、もう何度も耳にした戦友の声だ。新たな獲物が期間限定で発売される度に、或いは期間限定の獲物がもう直ぐ終了となる度に、共に手を取り合って戦った相棒、園田智代子だ。今日は、おまけがいるらし……あ、あれ? あれ杜野凛世じゃ……。
いや、まぁ有栖川さんも樹里の友達って時点で何となく察してたが。要するに、俺の知り合いだった女の子達はみんな樹里のチームメイトなのだろう。
ま、今はそんな事どうでも良い。
「やっぱり、お前も来たか」
「勿論だよ! こんな日、逃すわけにいかないからね!」
「智代子さん……東田さんと、お知り合いだったのですか……?」
「まぁね」
凛世さんが隣から口を挟む。年下なのに「さん」をつけたくなってしまうのは何故なのだろうか。
「てか、アレだろ。お前ら、樹里のチームメイトだろ」
「えっ、今更⁉︎」
「……ということは、やはりあなたが……樹里さんの初恋の方、なのですね……?」
「それ違うからな」
あいつどんだけチームメイトに勘違いされてんだよ。なんかもう俺まで恥ずかしくなってくるまであるわ。
「一応、聞いておくけど、他の果穂ちゃんと有栖川さん以外にチームメイトはもういないな?」
「いないよ?」
いないんだ……ちょうどピッタリ樹里のチームメイトと出会ってたわけですね。どんな運命だよ。意味あるのか、このデスティニー。
「……まぁ良いや。とりあえず、一緒に食うか? なんか混んでるし、一緒じゃないと他の客に迷惑かも」
「だね。凛世ちゃんも良い?」
「はい……。ご一緒に、参りましょう……」
そんなわけで、三人で同じ席に座った。さー、これからパフェだ。白桃と抹茶のコラボレーションなんて期待しかねーよ。一体どのようなフレーバーとテイストになっているのか、とても楽しみだ。
とりあえず、三人で同じパフェを注文し、しばらく待機。あとドリンクバーも注文した。
飲み物を持って来て座ると、杜野さんが微笑みながら言った。
「……それにしても、東田さんは……とても、肝が据わった方なのですね」
「は? 何が?」
「普通、アイドルと一緒にいると思えば……少しは、その……緊張するものかと思いますが」
「あーそれ私も思った。もしかして、私達ってアイドルのオーラ出てない?」
ああ、そういう意味。
「いや、オーラが出てるかどうかは知らんけど……あんま別に気になんない。アイドルになって、こう……かめはめ波が撃てるんなら少しは……?」
「か、かめはめ波……?」
うん、俺も今自分で何言ってんのか分かんなかった。
「ごめん。何でもない」
「申し訳ありません……未熟な凛世には、東田さんの仰りたい事が理解出来ませんでした……」
「いや、俺も意味わかんないから謝らないで。かえって恥ずかしい」
とりあえずそれを止めておいた。いや、だって恥ずかしいもの。
すると、園田さんが俺の方をニヤリと微笑んで見上げてくる。
「ちなみに……久々に樹里ちゃんと再会できたわけだけど……どう思ってるの?」
「何が?」
「樹里ちゃんの事」
ああ、初恋の件ね……。そんなん言われても、別に特別な感情は持ち合わせていない。……いや、少なくともこの世で一番大切な人ではあるんだが……。
まぁ、なんであれ答えておくか。女子のネットワークは常に真偽を抜きにした最速の情報を流すから、テキトーなことは言えない。
「正直、俺は再会するまであいつの事、忘れてたからなぁ。けど、会ってからはやっぱ楽しかったし、嬉しかったから好きではあるんじゃねえの」
「わっ……り、凛世ちゃん。今の聞いた?」
「は、はい……とても、大胆な告白を為されました……」
「や、そういうんじゃなくて……こう、友達としてだよ。……てか、あんな風に俺なんかを気にかけてくれる奴、嫌いになるわけないだろ」
「ああ、そういう……」
「東田さんは、初恋もまだなタイプなのですね……」
良いだろ、別に。
飲み物を口に含んでいる間に、園田さんと杜野さんは耳元で何か二人で話始める。
「……どう思う?」
「どうでしょうか……いえ、やはりそっとしておくのがベストなのでしょうが……」
「……やっぱり、東田くんも自覚なさそうだよね」
「……はい。何か、お二人の間できっかけがあれば良いのですが……」
……なんの話をしてんのか知らねーけど、なんとなく俺が知って良い話じゃなさそうってのは分かるな……。
とはいえ、このまま一人のままなのも少ししんどい。話に割って入って、別の話題を刷り込むか。
「何の話してんの?」
「んっ……いや、葉介くんも樹里ちゃんのこと大好きなんだなーって」
「え、ちょっ……智代子さん……」
「え? あ……」
……え、好き? 俺が? 樹里を? あ、いや……うん。えっと……え? いや、えっと……あ、うん。いや、何が好きって……ああ、樹里か。いや、え? 好き? 好きってなんだっけ? ……ああ、その人に対して色んな情を浮かべる、的な感じか……。えーっと……うん、つまり……。
「い、いや……好きじゃ、ねえし……」
「「……え」」
苦し紛れにそう漏らすと、二人はピタリと固まって俺を見る。……なんだよ、その目。飛んできたセミを見つけた猫みてえな……。
二人は俺を見た後、顔を見合わせて頷き、再びこっちを見た。
「ところで、葉介くん。樹里ちゃんってとても可愛いよね?」
「え、な、なんだ急に? べ、別にそういう目であいつのこと見た事ねーから。めちゃくちゃ可愛くなってた。色気はないけど」
やべぇ、テンパって言ってることがまとまらん。俺、今なんて言った? 少なくとも、目の前の二人のJKが喜ぶような事言っちゃったのはわかる。
「……どのような部分が……可愛いと思うのですか?」
「え、いやだから別にそういうんじゃなくて、単純に昔とのギャップを切に感じたって感じ。あいつもいろんな面で女の子っぽくなってたから……」
だから俺何言ってんだ⁉︎ ちょっ、マジで黙れよ、俺!
「ね、葉介くん。他にもいろいろと聞かせてくれない?」
「いや、聞くな。それより、今からスイーツを……」
「そんなの来てからで良いから」
「……それとも、凛世達が樹里さんのお話をしましょうか……」
「あ、それ良いね!」
その後、JKの無尽蔵なトークを聞かされた。
×××
はぁ……疲れた……。糖分とってこんなに疲れたのは初めての経験だ。
……とはいえ、だ。俺って樹里のこと好きなのかなぁ。いや、初恋もまだな俺に「好き」って感情がどんなもんなのか分からんけど……。
あーもうっ、なんかすごく恥ずかしい思いをした気がする! 死にたい! なんだよ、初恋とか好きとか! わっけわかんねーよバーカ!
結局、あの後、園田さんから大量のURLが送られて来た。放課後クライマックスガールズのライブ映像だ。
「……」
せっかくだし、見るか。アイドルのライブなんて、親に見られるのは恥ずかしいし……今見ちまおう。
近くの公園に立ち寄って、ベンチに座ってスマホにイヤホンを刺し、URLを押す。正直、アイドルのライブとかあんまり興味ないんだが……まぁ、さらっと流し見すれば……。
「……」
……と、思っていたが、それは小さな画面の中で舞う5人の少女達が許さなかった。
聞いたこともない曲ばかりだが、それを会場に来ているファン達に向けて全力で歌い、踊っている。それは、会場にいない俺の胸にも強く刺さった。
あれが、大きく変わった幼馴染みの姿だからかもしれない。俺の知らない面を見たからかもしれない。どんな理由であれ、少なくとも思いっきり胸が高鳴るのを感じた。
「……樹里」
前々から思ってはいたよ。こっちにきてカッコ悪くなった俺なんかと、昔と変わらずに接してくれて、必死にまた遊ぼうと声をかけてくれて、何とかして盛り上げようとしてくれた。
その上で、こうしてあいつ自身もキチンとやりたい事を見つけて、多くの人を魅了している。
いつのまにか、すごくカッコ良い奴になっていた。俺とは真逆だ。
「っ……」
ライブの映像を途中で切った。これ以上、樹里の顔は見ていられない。胸が痛むから。
何となく、分かってしまった。多分……これが、初恋って奴な……。
「っ」
うおっ、電話かかって来た。しかも、その人物から。何つータイミングだよ……いや、まぁ良いんだけど。ただ、今の状態でまともに会話できるか……ただでさえ、さっきも変な事たくさん言っちゃったのに。
でも、シカトはしたくないし……。
「……もしもし?」
『テメェ、今日はチョコと凛世とパフェ食ったんだってな⁉︎ アタシも連れて行け!』
「……」
……こんな子供っぽいとこも可愛いとか感じちゃってるのは何なんだろうか。これも初恋の影響か?
「……別に、連れてったわけじゃねーよ。たまたま店で会っただけで……」
『運命かよ! とにかく、一緒に行くからな!』
「……あっそ」
……まぁ、どの道、告白なんてしない方がお互いのためなんだ。振られたらもう会わなくなるだろうし、俺はまたボッチに逆戻りだ。
なら、しばらくは樹里の残念な部分を思い出して、好意に蓋をして床下に隠しておく事にしよう。
『とりあえず、今からジョギング行かねえか?』
「はいはい……」
『で、その後に疲れた身体を引き摺って甘いもの食べに……』
「それは金無くなるから勘弁して」
そんな話をしながら、とりあえず好意を隠すことにした。