最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。   作:バナハロ

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実際、男が恋愛して痛くなるのは胸じゃなくて財布だよね。
女の子の怖い所は嫉妬。


 試験まで残り二週間。勉強が苦手な俺はこの頃から勉強を始めるようにしている。

 ……のだが、その……何? 最近、すごい疲れる。いや、だってさ……何をするにしても樹里と一緒なんだもん。

 買い物行くにしても夜中にジョギングするにしても甘いもの食べに行くにしてもぜーんぶ樹里と一緒。いや、クソ嬉しいし楽しいんだけど……ちょいちょい挟まってくる女の子らしい樹里を見るたび胸が痛むんですよ……。

 あいつに一切の自覚がない辺りがタチ悪い。

 なので、この試験期間がクールタイムも含まれていてとてもちょうど良かった。流石にあいつもアイドルと勉強の両立は大変なようで、試験期間に突入してから連絡は来なくなった。小学生の時の俺は成績悪かったから、そのままだと思っているんだろう。

 そもそも、一緒に勉強する、という考えすら浮かんでいない可能性もある。

 まぁ、でも俺だってあいつと勉強したくない。だって、問題が解けなくて悔しそうにしている樹里は絶対に可愛いから、集中出来なくて成績下がるもの。

 そんなわけで、今日は図書室に来ていた。一人で勉強しようにも、勉強嫌いな俺が家で勉強すれば絶対に漫画を読んでしまうから。

 

「……」

 

 図書室で教科書を開き、問題を解き始める。いやー、最近わかったんだよ。学校の試験って、授業中のノートが一番、使えるってことを。そのポイントを押さえておけば、とりあえず何とかなる。

 後は、教員が出しそうなポイントを抑えて赤線引いておけば、それだけで半分はいける。

 ノートを見直していると、しばらくして見覚えのある二人組が入って来た。

 

「な、なーちゃん……やっぱり、家で……」

「ダーメっ。甜花ちゃん、寮じゃゲームやっちゃって全然、集中しないもん」

「あうぅ……なーちゃん、厳しい……」

「アイドルに集中してて留年なんてしたくないでしょ? 甘奈だって甜花ちゃんと離れ離れになりたくないもん」

 

 ……来て早々うるせーな……。ここ図書室だよ? てかアイドルって言った? アイドルってこんな周りにいるもんなの? それとも女子はみんなアイドルなの? 子供はみんなニュータイプ的な? 

 まぁ良いや。音楽で雑音消そう。耳にイヤホンを差し込み、再び机に向かう。

 

「……」

「それで、甜花ちゃん。なんの科目がヤバいの?」

「……ぜ、全部……」

「……」

「ひ、ひぃん……なーちゃん、目が怖い……」

 

 ……なんでよりにもよってお向かいに座るんですかね……。予めイヤホンしておいて良かったわ。してなかったら、自分達が近くに座ったからイヤホンしたように見えちゃうし。

 とりあえず、前の二人を無視してなんとかペンを進めた。えーっと……コロンブスがアメリカ大陸に到着したのは……「いつも尻が国に見える」で1492年。

 

 ×××

 

 1時間ほど経過し、ペンを置いた。疲れたし、休憩するか……と、思って正面を見ると、双子姉妹も思いの外、頑張っていた。

 

「うん。だから、不定詞のtoのあとは、必ず動詞の原型が入るの。で、to+動詞は名詞と形容詞と副詞の三つになって、今回の場合は……」

「動詞が……ふ、不定詞で……名詞で……?」

「あー……じ、じゃあ日本語訳から……」

「日本史……?」

「ち、違うよ!」

 

 ……苦労してるなぁ。どっちが姉だか知らんけど、多分……教わってる方が姉だな。や、根拠はないんだけどね。

 

「だからね? このtoが付くと、動詞は別の品詞になって、使い方が変わるの」

「瀕死?」

「ポケモンじゃないから!」

 

 ……本当に苦労してんな。まぁ、俺が口挟む所じゃないし、邪魔しない方が良いんだろうけどね。

 

「はぁ……甘奈、ちょっとトイレ行ってくる」

「うう……ごめんなさい……」

「大丈夫だよ、別に。人には向き不向きがあるから」

「にへへ……なーちゃん、優しい……」

 

 ……それは、慰めているつもりなのだろうか。まぁ当人が「慰められている」と感じている以上は慰めているのだろう。

 甘奈という方が席を立つと、甜花という方も立ち上がった。

 

「じ、じゃあ……甜花も、トイレ……」

「ダメ。さっき行ったばかりでしょ? ちゃんと教科書読んでて」

「あうう……」

 

 意外と厳しくそう言い放つと、今度こそトイレに向かった。残った甜花という方は、甘奈が図書室から出て行ったのを見ると、すぐにスマホを取り出した。この子中々良い性格してんな……。

 俺はちゃんと勉強してからの休憩なので、心置きなくスマホを取り出した。しばらくツイツイとポケGOをやっていると、ふと正面に座っている甜花が目に入った。

 

「ぁっ……あの……東田くん……だよね?」

「何?」

「この前……えっと、調理実習で……一緒だった……」

「ああ、うん。そうね」

 

 そういや、そんな事もあったな。……あの班員で一回も喋らなかった奴ね。ある意味理想の班だよね。言わずとも通ずるとか。

 

「あ、あの……実は……あの時に、本当はお話ししたくて……」

「俺と?」

「う、うん……あ、いや……佐伯くんとでも、良かったんだけど……」

「誰それ」

「……お、同じ班の……男の子……」

 

 あいつそんな名前だったんだ。どうでも良いけど。

 まぁ、要するに男と話したかったって事か? 意外と男好きなのかな。

 

「すれば良かったじゃん」

 

 終わった事だからこう言うけど、百合の間に挟まる男は蹴られるから、決して本音ではない。むしろ絶対に一緒に飯とか食いたくないわ。

 

「で、でも……甜花、人と話すの苦手なの……直したい、から……」

「……」

 

 なるほど。それで、誰とでも良いから話したい、けど話しかける勇気がなかった、と。じゃあ男好きってわけでもないんだな。

 

「まぁ、休憩中だから良いけど……ここ図書室だから。話すなら出よう」

「あ、そ、そっか……」

 

 甜花はあたりを見回す。勉強している生徒は他にも何人かいる。

 

「じゃあ……廊下に……」

「はいはい」

 

 それだけ話すと、とりあえず図書室を出た。と言っても、勉強の合間の休憩時間なので、食堂で飲み物を買いに往復する程度である。

 さて、俺も別に会話が得意なわけではない。まさか樹里と同じ気やすさで話しかけるわけにもいかないし……。

 けど、まぁ簡単な事で良いよな。こういう時は、大体、向こうの好きそうな話題を挙げれば良い。

 

「えーっと……大崎? 甜花? どっちの方が良い?」

「あ、うん……えっと……どっちでも……あ、そ、そっか……なーちゃんが、いるから……」

「じゃあ大崎一号で」

「え、て、甜花……仮面ライダーじゃない……」

 

 面白いツッコミをするな……まぁ、冗談のつもりだったし別に良いけど。

 

「じゃあ、甜花で。甜花の妹って、どんな子なの?」

 

 決して下心ではない。しかし、アホみたいに仲が良いこの二人なら、どちらかの話題を振れば必ず……。

 

「な、なーちゃんはねっ……え、えっと……優しくて、何でも出来て……甜花には勿体無いくらいの、良い子で……!」

 

 と、水を得た魚のように元気になるのは目に見えていた。

 

「甜花ね……なーちゃんとはずっと、昔から……というか、羊水に浸かってる時から一緒なんだけど……」

 

 その生々しい表現いる? 

 

「甜花とは真逆でね……なーちゃんは、活動的で……なーちゃんは、甜花と違ってお友達もたくさんいてね……」

「よう分からんけど……甘奈の友達は甜花の友達なんじゃねーの?」

「う、ううん……甜花は、その……あんまり……」

 

 そうなのか? まぁ、そうか。友達の友達は友達、が通用するのは小学生までだよな。

 

「甜花は……インドア派だから……その、あんまり……みんなで、外で遊ぶのが苦手で……おうちで、ゲームやってる方が……楽しいから……」

 

 うわあ、俺とは真逆。共感できそうにないな……。いや、今はそこじゃない。妹の話だ。

 

「でも、真逆の趣味嗜好を持ってんのに仲良くしてくれる辺り、やっぱ良い奴だろ」

「う、うん……。甜花、なーちゃん大好き……!」

 

 羨ましいなぁ……。俺にも弟がいたらこんな感じなのかな……。

 そんな事を思っている間に食堂に到着し、自販機の前に立った。俺は……サイダーで良いや。

 サイダーを買うと、甜花も飲み物を二本買う。多分、片方は甘奈の分だろう。本当に仲良いですねあなた達……。

 そのまま二人で引き返した。その帰り道、ふと思い出したので聞いてみた。

 

「……で、不定詞が分からんの?」

「……」

 

 ピシッ、と固まる甜花。わかりやすい奴だな。

 

「う、うん……甜花、勉強嫌い……」

「好きな奴なんてごく稀だよ。寿司屋でかっぱ巻きを好んで食べる奴と同じレベルの希少さ」

「そ、そんなレベルなの……?」

「でも、考え方次第でそんなに難しいものじゃなくなるんだよ。……要するに、不定詞は時と場合に応じて使い方が変わるんだよ。動詞にtoを付けるだけで名詞、形容詞、副詞にもなる」

「う、うん……?」

「例えば……そうだな。『歌う』が動詞なのは分かるな?」

「うんっ……」

「英語で?」

「そ、そんぐ!」

「singな」

 

 うっそだろオイ。てか、発音も平仮名に聞こえたのは気の所為だろうか。アイドルなんだよね? 

 

「これにtoを付けると、to sing。『歌う事』になる。はい、日本語で『歌う事』を使って短文を使いなさい」

「え……え? えっと……ま、マクロスの戦いを止める手段は『歌う事』……とか?」

 

 何故マクロス。俺マクロス見た事ないんだけど……まぁ合ってるわな。

 

「そういう事。toがないと『マクロスの戦いを止める手段は歌う』ってなんか日本語的に気持ち悪いでしょ? toは『歌う』を『歌う事』と名詞にする事で、その気持ち悪さを消してくれるんだよ」

「あ……そ、そういう事……」

「それだけ」

 

 まぁ今のは名詞的用法で一番、わかりやすい奴な。副詞的用法はそれでもわかりづらいが……その辺は甘奈さんに任せよう。

 

「す、すごい……! ひ、東田くん……もっと教えて……!」

「え?」

 

 そ、そう……? 俺、すごい? や、まぁ確かにあの妹教えるの下手だなーと思ってたけど……そ、そっか。俺すごいんだ……。

 

「オーケー、任せろ。次は形容詞的用法だが……」

「う、うん……!」

 

 そのまま説明しながら図書室に戻った。

 ……あれ? てか俺……今思ったけど、クラスメートと話してんだよな……なんか、こういうの久しぶりな気がすんな……。久しぶりだから、こういうのも悪くないなんて思ってしまっている。

 いや、まぁ帰ったら多分、恥ずかしくなってるんだろうけど……まぁ、何事もノリとタイミングだよな! 今は気分が良いし、説明しちゃおう。

 なんて思っている時だ。図書室の前で、甘奈が腕を組んで仁王立ちしていた。

 

「あ、なーちゃん……」

「甜花ちゃん! 何処に行っ……は?」

 

 えっ、こっわ! 何その目? 樹里が怒ったときの5倍怖い! 

 

「……なんであんたと甜花ちゃんが一緒にいるわけ?」

「え、いや……おたくの姉に、誘われたからだけど……」

「誘っ……⁉︎ え、えっち!」

「どの辺が⁉︎」

「甜花ちゃんがそんなふしだらな真似するわけないじゃん!」

 

 誘うの一言で何を想像してんだこいつ⁉︎ えっちはお前だろ! 

 

「な、なーちゃん……ほんとに、甜花から誘ったの……」

「え……そ、そうなの?」

「う、うん……ふ、不定詞のことが、聞きたくて……あと、喉渇いたから……」

 

 お、意外と誤魔化すのうまいな……。順序は逆だが効果的だ。

 

「ひ、東田くん、すごいの……! 甜花、不定詞理解した……!」

「え、ほ、本当に……?」

「うん……!」

 

 理解したかどうかは後で試してみれば良いだろう。とにかく、俺がおたくの姉に手を出したわけじゃないという事が分かれば少しは機嫌が……。

 

「……」

 

 ……まだ睨んでる……。ああ、もしかしてこの子アレか……嫉妬深い方のシスコン。

 これはー……うん。やっぱり友達は作らないに限るよね。良い関係を築いた相手の知り合いに恨まれることもあるし。

 

「じ、じゃあ……俺そろそろ帰るわ」

「え……もう帰っちゃう、の……?」

 

 やめてー! 甜花ちゃん、そのセリフはやめてー! 妹の血圧が上がってる! 

 

「このあと、日課のランニングしないとだから……」

「そ、そっか……じゃあ、またね……」

「あ、ああ。うん。じゃあまた……」

 

 挨拶だけしてその場を足早に立ち去った。もう二度とあの姉に関わってはいけない……そんな気配を敏感に察知したからだ。

 ……よし、とりあえず帰ったら本当にジョギングしよう。

 

 

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