最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。   作:バナハロ

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自覚は大事。

 鈍感な人間とは、どんな人間だろうか? 一、ラブコメ系主人公。アレは違う。アレは「自分なんかがモテるはずない」と決め込み、本心に蓋をしているだけだ。一条楽とか絶対そうだよね。俺は友達枠のメガネの方が良い奴だと思った。

 二、少年漫画の主人公。あれも違う。あれは何かに一生懸命に打ち込んでいるから、恋愛なんぞに気を向けている場合じゃないのだ。元々、そういう漫画でもないしね。

 俺はあらゆる漫画を読んできたわけじゃないから、この2パターンしか知らない。が、最近になってようやく一つ、真理を掴んだ。

 ……それは、姉妹に溺愛されている姉妹だ。つまり……。

 

「ひ、東田くん……見て、昨日のデオキシス……攻撃値最大……!」

「おお、すげえ」

「……」

 

 こうなるわけで。もう甘奈の不機嫌さがヤバイし、百合の中に入った男として男子達からはすごい顔で睨まれるし、踏んだり蹴ったりなんですが。

 しかし、それも今日で終わり。試験は今日までだからだ。それで明日からは夏休み。アイドルの大崎姉妹は忙しくなり、俺はバイトで忙しくなり、もう関わることはないだろう。

 ちなみに、樹里のとこは明日まで試験だそうだ。頑張って。

 

「……ね、ねぇ甜花ちゃん。そろそろ席に戻ろ? 試験前に教科書読まないと……」

「甜花なら……平気……! 東田くんに、教わったから……」

「……」

 

 もうお願いだから投爆するのやめて……。殺されかねないって俺……。ここは一つ……俺が爆撃を凌がねばならない。

 

「いやいや……戻って復習しなさいよ。油断すると凡ミスかまして結果出なかったりするんだよ」

「……ひ、東田くんが……そう言うなら……」

「ふーん……甘奈の言うことは聞かないのに、その人の言うことは聞くんだ……」

「……」

 

 避けた先にタイミングをずらしてもう一発降ってきたんだけど……。もうこれ避けられるわけなくない? 

 とりあえず、2人は席に戻ったが、去り際に甘奈が「あっかんべー」と舌を出して来た。アイドルなだけあって可愛らしい表情を見せてはいるが、割と本気で俺のこと嫌ってる辺り、全然可愛くない。

 

「はぁ……」

 

 悩みは尽きねえなぁ……。誰かと仲良くなる度に、その倍の数に嫌われる……まぁ、良いさ。人間が嫉妬深い生き物だなんてことはよく分かってる。

 とりあえず、今は試験に集中しよう。

 

 ×××

 

 試験が終わり、ホームルームも終了。さっさと帰宅する事にして、俺は足早に教室を出た。勉強が終わったから、今日は思いっきりバイトを探すぜ! 

 誰の目にもつく事なくさっさと移動を開始し、まずはコンビニに来た。バイト雑誌を手にとり、ファミレスに向かう。昼飯食わんといけないから。ついでにそこでバイトを探す作戦だ。

 いつもスイーツを食べているファミレスに入る。うわ、オーダー入ってる……待ってるのは一人……あっ。

 

「樹里?」

「あ、葉介! 久しぶりだな」

 

 その待っている客が樹里だった。確かに久しぶりだ。スマホで何度か連絡は取っていたけど、こうして顔を合わせるのはマジで2〜3週間ぶりくらい。

 

「飯か?」

「それ以外何があんだよ」

「アタシはそれに追加して勉強だ。明日で終わりだからな」

「あ、なるほど」

 

 普通の高校生はファミレスで勉強するもんなのか。捗るの? それ。

 

「じゃあ、一緒に飯食おうぜ」

「良いの? てか、勉強するんじゃねえの?」

「良いだろ、別に。……あ、予定があんなら別で良いけど……」

「や、特にないよ。強いて言うならこいつでバイト探すくらい」

「ははっ、なるほどな」

 

 バイト雑誌を見せると、樹里は微笑んで返す。こういう仕草はこいつカッコ良いんだけどな……。

 すると、ちょうど良いタイミングで店員が来た。

 

「いらっしゃいませ。一名様、ご案内致します」

「あ、すみません。二人でも良いですか?」

「あ、はい。大丈夫ですよ。では、二名様ですね。こちらの席へどうぞ」

 

 樹里が追加し、一緒に飯を食うことになった。案内された席に座り、鞄を隣の席に置く。

 

「お決まりでしたら、そちらのボタンを押してお呼び下さい」

 

 そう言って店員さんは立ち去って行った。とりあえず、メニューを開く。

 

「何食うかー」

「俺はパスタ」

「またかよ……」

「当たり前だろ。これから稼ぐんだから、今はなるべく低出費でいきたい」

「また辛味チキン食うか?」

「……半分払わせて」

「別に良いのによ……」

 

 プライドの問題です。そんなわけで、樹里は肉料理に決めて、店員さんを呼び出した。肉+肉ってどんな組み合わせよ……。

 注文を終えて、ドリンクバーから飲み物を持ってきて、料理を待つ。

 そんな中、樹里が俺に悪戯っぽい笑みを浮かべて聞いてきた。

 

「そういや……お前どうなの?」

「何が」

「成績。小学生の時は超バカだったじゃんか」

「失礼な……今はまぁまぁだよ」

 

 文系ってのもあるけど、赤点にはならないレベル。低くて40、高くて80ってとこかな? 

 

「へぇ……お前が勉強なんて何があったんだ?」

「るせーよ。……部活やってねーと勉強くらいしかする事なくなるんだよ」

「……悪い」

 

 や、別に気にしちゃいないが。むしろ気にしているのは樹里の方で、少しだけ気まずい空気が流れる。

 そんな時だった。別の客が近くの席に案内されてきた。

 

「こちらのお席でよろしいでしょうか?」

「はーい。ありがとうござ……あ」

「……あ」

「あん? ……あ」

「げっ」

 

 お、大崎姉妹……。ヤバいな……こんな所で会ったとなったら、また甘奈の機嫌が……。

 

「あれ、樹里ちゃん?」

「さ、西城さん……」

「甜花に……甘奈。偶然だな」

 

 ……あれ、知り合い? いや、アイドル同士だし交流があってもおかしくないか。何なら事務所も同じ可能性だってある。

 しかし、甘奈の物腰が柔らかかったのもそこまでだろう。俺を見たら、また機嫌が……。

 

「あ、東田くん!」

「えっ?」

 

 な、何その明るい声。気持ち悪っ。

 

「樹里ちゃんと知り合いなの?」

「一応……」

「そっかー。実はね、甜花ちゃん褒められたんだって。もう丸つけが終わった科目の先生が、甜花ちゃんが珍しく高得点だったからって」

「へー、良かったじゃん」

「にへへ……」

 

 そうかよ……てか、前の試験はどんだけ悪かったんだ。

 ま、何であれ嫌われなくなったのは良かったけど。その分、クラスメートからは嫌われそうだが。

 これから先の悩みの種が減らない事に悩んでいると、さらに甘奈は言った。

 

「だから、甜花ちゃんへの勉強の教え方、教えてくれない?」

「また高度な事言い出したな……」

 

 どんだけ甜花を自分のものにしたいんだよ……。シスコンどころか、もう結婚してるレベルの発言だぞ今の。

 

「おい、お前ら。店員さん待たせるなよ。もし話したいことがあんなら同じ席で良いからよ」

「え、良いの? 樹里ちゃん。じゃあ、すみません。ここに座るので」

「かしこまりました」

 

 ええ……男一人に女三人? いづらい……。まぁ、なんかもう決まっちゃってるし別に良いけど。

 

「甜花ちゃん、隣に座ろー!」

「う、うん……なーちゃんの、隣……」

「……」

 

 はいはい、移動すりゃ良いのね……。

 ため息をつきながら、樹里の隣に席を移すと、仲良く双子姉妹は並んで座る。全国の双子ってこんな感じなのかな……。それともこいつらが特別なの? 

 まぁ良いさ。俺も、その……何? 樹里の隣とか普通に嬉しいというか……。

 

「てか、お前ら知り合いだったのか?」

 

 その隣の樹里が、甘奈に声を掛ける。

 

「うん。甘奈と甜花ちゃんは生まれる前から知り合いだよ?」

「や、お前ら二人じゃなくて、こいつと甘奈達だよ」

 

 意外と話が通じないんだな、妹……。大体、顔ほとんど一緒なのに姉妹じゃなかったらドッペルゲンガーだろ。……Twitterにありそうだな、ドッペルゲンガーと仲良くやってる漫画とか。あとで探してみよう。

 

「あ、うん。同じクラスなんだー」

「ふーん……なんだよ、友達いんじゃねーか」

 

 ジロリと俺を睨む樹里だけど、違うからね? 

 

「友達っつーか、クラスメートなだけだよ。知り合ったのも試験始まる二週間前とかだし」

「え……甜花と、東田くん……友達じゃない、の……?」

「……」

「……」

 

 ちょっ……甘奈さん? あなた俺に気を許したわけじゃなかったの? もしかして、内心穏やかじゃないながらも甜花の役に立つために距離を詰めてきた感じ? 

 そして、樹里さん? 何故、あなたまで少し不機嫌に? 君も甜花ちゃん☆LOVE勢なの? 

 

「……それより、お前ら注文しろよ。俺達もう頼んでるから」

「あ、そうだね。何にしよっか? 甜花ちゃん」

「え、えっと……甜花、パスタが良い……!」

「じゃあ甘奈もパスタにする!」

 

 磁石かよ、お前ら。二人が料理を注文したのを眺めつつ、とりあえず俺はバイト雑誌を開いた。なるべくなら、女子同士で会話をして欲しいし。

 双子姉妹がドリンクをとりに行っている間、どのバイトにしようか考えていると、樹里が声を掛けてきた。

 

「お前、友達いるんだな」

「友達っつーか、知り合い程度だっつーの。仲良いわけでもねーし……」

「友達だろ。仲良さそうに見えたし」

 

 そうかな……てか、何でお前少し機嫌悪そうなわけ? 俺なんか怒らせるようなことしたかな……。

 

「樹里、お前怒ってる?」

「怒ってねーよバーカ」

 

 怒ってるじゃん……。こいつが怒ってる時は、いっその事、壮大にちょっかいを出すか、或いはしばらく放っておくしかない。

 今回は放っておく事にした。ちょうどその時間にバイト探せるし。

 のんびりとバイト雑誌をめくっていると、アホ姉妹が帰ってきた。

 

「東田くん! 飲み物取ってきてあげたよ!」

「え、いやまだ残ってるし」

「にへへ……の、飲んで……?」

「聞いてる?」

 

 大体、コップを必要以上に持ってきちゃダメでしょうが……。まぁ、持ってきちゃったもんは仕方ないんだが。

 とりあえず、俺の前に置かれたコップを見る。……なんつーか、黒いんだけど……コーラ入れたろこれ……コーラは混ぜちゃいけない飲み物ランキングナンバー2だろ……。1位はウーロン茶。

 しかし……。

 

「「飲んで?」」

 

 甜花はともかく、甘奈は本気で飲ませようとしてやがんな……。お前、まだ甜花への勉強の教え方を教わってねえの忘れてんじゃねえだろうな……。

 正直、飲みたくないが、飲まざるを得ないだろう。仕方なくストローに口をつけ、控えめに啜る。

 ……不味い……コーラにメロンソーダに……やたらと甘いのに味が薄い辺り、水とガムシロ加えやがったな……。

 そっちがその気なら上等だよ。

 

「あ、意外と旨い」

「え……?」

「ほ、ホント……?」

「ホント」

「嘘だ! コーラにメロンソーダに水にガムシロップに少量のウーロン茶まで混ぜたのに美味しわけない!」

 

 お茶まで混ぜたのかよ……ホント、良い性格してやがる。

 

「それだよ。それがなんか良い感じにマイルドにしてる」

「ほ、ほんとに〜……?」

「疑うなら飲んでみろよ」

「え、いやそれは……」

「え……な、なーちゃんと……?」 

「い、いきなり何言い出すんだよ⁉︎ か、間接キスなんて……!」

「いやお前らのコップに入ってるストローは飾りかよ」

「「「……」」」

 

 三人揃って頬を赤らめて目を逸らしてきた。ていうか、樹里。お前は小学生の頃から間接キスよくしてたろ。そもそもお互い、気にしていなかったというのもあるが。

 

「じ、じゃあ……いただきます……」

「て、甜花も……」

 

 二人揃ってカップルジュースのように飲み物を啜る。はい、サヨナラバス。

 

「「ぶふっ!」」

 

 二人揃って吐き出した。リアクションを予測できていた俺は身体を横に倒して回避するが、樹里には甜花の唾液入りミックスジュースが直撃。それに気にする余裕もなく、甘奈は俺の胸ぐらを掴み、甜花は涙目で咳き込んだ。

 

「だ、騙したなああああ!」

「騙される方が悪い」

「ひぃん……ま、不味い……」

 

 もうファミレスからしたら迷惑な客でしかないが、俺はやられっぱなしで黙っていられるほど大人ではない。真顔のまま二人からの一斉口撃を上手いこと躱していると、不意に隣からキュッと腕を引っ張られるような感じがした。

 隣を見ると、樹里が窓の外を眺めていた。その割に、右手は俺の左手首を摘んでいるが。

 

「……」

「……」

 

 あー……マズいな。仲間外れになっちまってたか? 昔から入れて欲しくても「入ーれーてー」が言えない奴だったからな。

 

「樹里も飲むか? これ」

「……いらねーよ。不味いんだろ?」

 

 まぁね。

 

「ていうか、樹里ちゃんと詐欺師田くんはどういう友達なの?」

「その前にどういう渾名の付け方?」

「別に、大した関係じゃねーよ。小学生の時、一夏だけ遊んでただけだ」

「わ……それ、幼馴染み……ってこと……?」

「そんなとこだ」

 

 話を振られたものの、少しまだ不機嫌そうだ。面倒臭いぜ、相変わらず。

 

「東田くんにも……お友達、いたんだ……」

「何気に刺さる事いってんじゃねーよ」

「だ、だって……いつも、学校だと……一人だから……」

 

 るせーよ。一人で悪いかコラ。

 

「え……こいつ、学校じゃいつもどんな感じなんだ?」

「何ていうか……すごく目立たないようにしてるよね」

「うん……教室だと……一人で、携帯いじるか……トイレ行ってるかだけで……」

「あ、たまに本も読んでるよね」

「なーちゃん……あれ、漫画……」

「……」

 

 やめろ。樹里、すごく可哀想な人を見る目で見るな。

 

「お、お前……」

「で、でも……これからは、甜花も一緒に遊ぶから……!」

「……」

「……」

 

 やめろ! 同情するな! 刺さるわ、色んなものが! 

 このままじゃマズい。非常に。どうしたら良い? この危機的状況を打破するには何をしたら良い? 

 ボッチの現状を知られれば樹里が同情し、そのボッチ的状況を唯一、打破できるのは甜花のみ。しかし、甜花が何か声をかければ他の二人がキレる。

 かと言って、甘奈は内心、俺が憎たらしいはず。ボッチ的状況の打破に協力してくれるとは思えないし、そもそも俺はその状況が嫌なわけではない。好んでもいないが。

 なら、残る一つ……どう転ぶか分からない起死回生の逆転の一手は、ほぼ賭けだが乗るしかない。

 

「気にしなくて良いから。俺には、樹里がいるから」

 

 その直後だった。水を打ったようにシンッとその場が静まり返る。世界が止まってしまったのではないか、と思ったほどだ。

 何が起こったのかと思って三人を見回すと、アホ姉妹は微妙に頬を赤らめたまま口元に両手を添えて「ひゃー……」と吐息を漏らし、樹里は一気に顔を真っ赤に染め上げた。

 

「なっ……な、何をいきなり言ってんだテメェは‼︎」

「え……いるじゃん」

「そ、そうだけどよ……で、でもこっちにだって色々と心の準備が……!」

 

 え、俺今何したの? 告白? ってレベルで照れてテンパる樹里。そんな時だった。

 

「お待たせ致しました」

「あ、きた……!」

 

 机に並べられたのは、パスタが三つに肉が一つ。その肉は樹里の。つまり、残りのパスタ三つは俺とアホ姉妹のもの。

 

「……」

「……」

 

 いや、狙ってない。狙ってないよ、樹里さん。

 

「あの、樹里……辛味チキン……」

「あげねえ」

 

 ……お前ほんとどうしたの? 

 

 

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