最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。 作:バナハロ
夏休みに突入し、俺は相変わらずバイトを探していた。いくつかのバイト先に電話したんだけど、出ないのが2件、「忙しいからかけ直す」と言ったのにこちらの電話番号を聞かなかったのが1件で、もうこの社会がどうなっているのかを問いたいくらいだ。
そんな企業、給料がちゃんと支払われるかも疑問なのでパス。そのお陰でバイト先が見つかっていなかった。
「ん〜……どうすっかな……」
顎に手を当てて別のバイトを探していると、電話がかかって来た。樹里からだ。
「もしもし?」
『葉介か? 今暇?』
「バイト探してるとこ。……けど、中々決まらんし、暇っちゃ暇だな」
『じゃあ、遊びに行こうぜ!』
「えー……なるべくなら金使いたくないんだけど……」
『金は使わねーよ。実は、今から夏葉とプロデューサーとフットサルやんだよ。お前も一緒に……』
「やる」
『早ぇーな! 良いけどよ』
OKしてから気付いたわ。プロデューサーって誰?
×××
少し買い物してから指定された公園に着くと、既に全員がそこに揃っていた。有栖川さんと樹里、そして何故かスーツの男の人。
「どうも」
「あ、来た!」
パァっと表情を明るくする樹里に軽く手をあげると、とりあえずスーツの人に声を掛けた。
「あ、はじめまして」
「樹里から話は聞いてる。君が、東田葉介くん……だったっけ?」
「そうですけど」
「色々と聞いたよ。というより、聞かされたよ。樹里があまりに楽しそうに話すものだから」
「お、おい! いい加減な事言ってんじゃねーぞ!」
樹里が頬を赤らめて怒鳴るが、プロデューサーさんはガン無視して俺に告げた。
「それに、他の子達も世話になったって聞いたよ」
「世話って……大袈裟ですよ」
「そんな事ない。特に、果穂からはよく聞いてる」
あー……あの子、良くも悪くも口軽そうだもんな。とはいえ、別に知られて困ることはしていない。
すると、プロデューサーさんは急に真剣な顔になって、俺の肩に手を置いた。
「その上で、君には言っておきたい事があるんだ」
え、なんだよ急に。もしかしてお褒めの言葉がもらえるのかな? そんな大した事してないってのに参ったなオイ……。
と思ったのも束の間、肩に置かれた手に力が入る。
「……うちの事務所の子に変な気をおこしたらマジブチ殺すぞ……!」
「褒めるんじゃねえのかよ!」
思わず俺の口からツッコミが漏れてしまった。こいつ一体、何の心配をしてやがんだ!
「褒めるわけねえだろ! 一応、どの子も親御さんから、芸能界というコンクリートジャングルで生きて行けるように責任持って預かってんだ! お前みたいなガキに傷モノにされた暁には……!」
「誰が手を出すか! 出されてんのは俺の方だっつーの!」
「テメェはうちの子がみだらな真似をしてるとでも言いてえのか⁉︎」
「お前こそ俺がみだらな真似するって言いてえのかコラ!」
「男子高校生はみんな獣だ!」
「お前の高校生時代と一緒にすんな!」
チッ……これだから都会人は……! 何事も憶測で突っ走りやがって……!
「ちょっと、プロデューサー。失礼な事言わないの。彼、別に悪い人ではないわ」
「な、夏葉……! でもだな、俺は……」
「いい加減にしろよ、プロデューサー! こいつをナメてるとアタシが許さねーぞ!」
「樹里まで……!」
……ああ、やっぱ樹里も有栖川さんも良い人だなぁ……。こんな人達、他にいないわ。大体の奴は他人と対立するのを嫌うから、他人事同士の諍いに口を挟むことはしない。こんなお人好し以外は。
「いいから、やろうぜ。フットサル」
「あ、ああ……そうだな」
そんなわけで、ゲームを開始した。俺とプロデューサーの間に、新たな火種を生じさせながら。
×××
「っはぁ〜……疲れた!」
樹里が地面の上に腰を下ろす。や、マジで疲れたわ。何で俺達、こんなクソ暑い中で全開のサッカーなんてやってんの? プロデューサー虫の息じゃん。
「っ……し、死ぬ……!」
「情けないわね、プロデューサー。いつもの熱はどこに行ったの?」
「っ……ぃ、ぃゃ……今日ちょっと暑過ぎ……!」
「なんて?」
「……な、何でもない……」
……大変だな、あの人も。運動神経は悪く無いけど、やっぱ歳が歳だからなぁ……。せめて杜野さん辺りがいれば労ってもらえただろうに……。
まぁ良いや。とりあえず、熱中症にでもなったら大変だ。
「樹里、おら」
「え?」
「それと、有栖川さんと、プロデューサーも」
「な、何……?」
「……?」
投げたのは、スポーツドリンク。絶対こうなると思ってたから。
「準備が良いな、葉介」
「いや、バイト雑誌持ってくるついでだったから。今日、暑いし」
「ははっ、さんきゅ」
まぁ、その……何? 甜花に勉強を教える際に、飽きて来ると10分置きくらいに飲み物だのおやつだのと歩き回るから、それを防止するために買っておくようになったってのもある。
「あ、ありがとう……東田くん。君、良い奴なんだな……」
「殺すぞ尸」
手のひら返しどころの騒ぎでは無い。
とりあえず全員で休憩。スポドリを飲みながら、鞄から塩分チャージのラムネみたいなのを取り出した。
「あい。これも」
「あら、ありがとう。わざわざごめんなさいね」
「あー……いくらだった?」
「や、別にいいですよ。気にしないで」
「ダメだ。年下……それも学生に準備力で負けた上に、金まで出させたとあったら大人の男としての立場がない」
何故か涙目でそんな風に言われてしまった。大人ってそういうもんなのかな。
「だが断る! 貴様は男子高校生に奢られるような情けない男なのだ!」
「頼むから! なんなら君の分も樹里や夏葉の分も俺が出す!」
「ええ〜……どうしよっかな〜?」
「この野郎!」
いやーだってねぇ? さっきあんな無礼を働かれたあとですしぃ……そう簡単にはねぇ? むしろ貸しにしといた方が良いかもしんない。
「じゃあバイト紹介するから!」
「よーし、許可する」
それは助かる。バイト見つかんなくて困ってたし。
「いくらだった? てか、レシートある?」
「ありますよ」
会計の後には必ずレシートをもらう。一応、個人情報だし、あと会計が合ってるか確認したいし。家に帰ったら破いて処分する。
「えーっと……千円で良いか」
「え、いや多すぎますよ」
「気にしなくて良いから。や、ほんと仕事外だと思ってキチンと準備しなかった俺が悪かったから」
「……」
まぁ、ありがたくもらっておくか。さすがは大人って事で。
「なんか、すみません」
「いやいや。こちらこそだよ」
……とはいえ、少なからず裏はあるだろうけど。そのバイトがどんなものなのか、想像するだけですしんどい。
「ていうか、どんなバイトさせるつもりなのよ」
有栖川さんが口を挟む。確かにそれは気になる所だ。
すると、プロデューサーさんには既に考えがあるようで、何か思いついたように言った。
「んー……アレだ。今度、アレあるだろ。アイドル全員でお忍びで遊びにいく奴」
「ああ、あれね。なるべく別のグループの子達と行動するってやつね」
「そう。それのスタッフ」
「え、それ人手足りないのか?」
「足りるには足りるけど……まぁ、足りないっちゃ足りないな。社員旅行みたいなものだけど、連れて行けるスタッフは最小限だし、人数ギリギリなんだ」
……それ俺も行って良いの? ファンに知られたら袋にされない?
「いや、前に行った事あったんだけど、何人かのアイドルが宿を抜け出してあの世に連れて行かれそうになったりしてるから、今度はしっかり見張ってて欲しいんだ」
「誘拐未遂って事ですか?」
「や、俺もそんな詳しく聞いたわけじゃないから分かんないんだけど……」
なにそれ。むしろボディガード雇えよ。……いや、アイドルに気を使わせると思うと雇えないわけか。
「……え、でも良いんですか? 費用もそれなりにかかる上に、その旅行って要するに慰安旅行ですよね? 利益が発生するもんでもないでしょうし、旅費も事務所の機密費から出ると考えても、日給1万ちょいのバイト雇う金なんて出せないでしょ」
「何さりげなく日給決めてんの? てか、大丈夫だよ。……本音的な部分を言うと、チャラチャラしたナンパ野郎がいたり、迷子の子がいた時のための捜索要員だから、万が一の時を考えるといてくれた方が良いんだ」
ああ、なるほどね……。まぁ、俺一人居たところで焼け石に水だと思うけど。
「……特に、果穂やあさひみたいな少しアホっぽいロリっ娘に何かあったら、俺は世界を滅ぼしかねない……!」
何言ってんだこの人。もしかしてロリコンか? 一番、危ないのこの人じゃね?
「実際、変な人には頼めないからさ。普通のバイト募集じゃ信用できないし、ボディガードじゃあアイドルの子達も楽しめない……というかボディガードは普通に高いし」
「なるほど……や、俺がいれば安心ってわけじゃ……」
「他の子よりマシでしょ。何処の馬の骨かも分からない人なら、樹里の幼馴染みで、放クラのみんなと友達の君の方が信用出来る」
……なるほど。まぁそういう捉え方も出来るわな。
「君には現地人のフリをして、アイドルの子達の動向を伺って欲しいんだ。危険な地域に踏み込みそうなら現地人のフリをして邪魔をし、ナンパされそうになっていたら現地人のフリをして助け出し、迷子になりそうなら現地人のフリをして道案内して、熱中症になりそうなら現地人のフリをして飲み物を差し出してあげて」
「あんたにとって現地人って何なの?」
アンパンマンか何かなのかな。万能過ぎるだろ、現地人。てか、現地人のフリって……顔見知りの放クラと会ったらその時点でアウトなのでは?
「てか、そんなスパイみたいな事しなきゃいけないの? 俺ってCIA?」
「班は大体、四つに別れて、俺とはづきさんと君で別れて三班の様子を見る」
「聞いてる?」
「あと一班は千雪さんっていう、アイドルなんだけど、その人は大人の方だから多分、平気だから、基本的にこの四人で周りの面倒を見ることになると思う」
……なるほど。はづきさんというのはおそらく事務員で、プロデューサーさんとその人は普通にバカンスに混ざりながら且つ、友達同士を邪魔しないよう遠巻きに見守るつもりなのだろう。
千雪さんとやらに至っては、アイドルそのものだから歳上でも友達的なポジションで見守れるのだろう。
つまり、スパイ映画のような負担をかけさせられるのは俺だけというわけだ。
……普通のバイトじゃ、絶対に経験できない事だな。面白そうだ。
「やります」
「よしっ。詳しい話は……とりあえず、形だけ面接をするから、その時にね」
「はい」
そんなわけで、なんかバイトが決まった。