最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。 作:バナハロ
樹里は、最近の自分が何処かおかしい事に何となく気づいていた。や、ホント何かおかしい。悩みの種はあのバカ男。ここ最近……というか、小六の夏休みの後半の時と同じで、あの男のことを思うと胸が痛む。
特に、あの男が他の女の子と一緒に出掛けてると知ると、胸の痛みが増すのだ。それが原因で、自分でも訳がわからないまま、葉介に事あるごとに突っ掛かり、今ではトレーニングも買い物も甘いもの食べるのも全部一緒にこなすようになってしまった。
本当なら勉強も一緒にしたい所であったが、これから夏休みなのでその件に関しては保留。ただし、二学期の中間は絶対に一緒に勉強する。
そんな風に固く決心していると、また「なんでそんなに気にしてるんだ私は」と考えてしまい、頭の中がグルグルと回る。
「……はぁ」
そんな悩みが頭の中を回っている樹里だが、今日もフットサルをやると決まったら知らない間に葉介を誘っていた。
ため息をつきながら、足元でリフティングを数回こなしていると、そんな樹里にプロデューサーが声をかけた。
「樹里はその東田くんって人のこと、随分と気に入ってるんだな」
「まぁな。一応、幼馴染みだし、恩人でもあるからな」
「……恋してるのか?」
「は、はぁ⁉︎ なわけねえだろ! テキトーぬかすのもいい加減にしやがれ!」
うがーっと「図星です」と言うように怒られたプロデューサーは、慌てて目を逸らして黙る。その逸らした先には、夏葉がいた。
「夏葉、どうなの? 実際」
「……まぁ、そうね。ノーコメントで」
「お、おい夏葉! どういう意味だよ⁉︎」
「「気にしない気にしない」」
「するわ!」
ツッコミを入れてみたものの、二人はどういうわけか平然とストレッチをし続ける。まるで自分だけ答えがわからないままクイズ番組を見ているようで、とても悔しかったが、教えてくれない以上は諦めるしかない。
「ったく……お前らなぁ……」
仕方なく、諦めてリフティングを続ける樹里を眺めながら、プロデューサーが夏葉に声を掛けた。
「なぁ……どうなの? ジッサイ」
「無自覚」
「なるほどね……」
その一言で全てを察せる辺りはさすがだった。
「……で、どうなのよ。うちの事務所って恋愛OKなの?」
「平気だと思うけど……少なくとも、はづきさんからも社長からも何も聞いていない」
「なら良いけど……」
……とはいえ、だ。それを快く無いと思うファンもいるだろう。もし、その時になったらどうするべきかを考えた方が良い。
いや、それ以前に、だ。そもそもその男の子はどんな奴なのだろうか。ダメな奴なら、許可は出来ない。仮にも親御さんから娘を預かっている身としては。
「……少し、フルイにかけてやるか……」
「……」
そういうプロデューサーを横目で見ながら、夏葉は「失敗しそうだな……」と確信したのは言うまでも無い。
×××
ようやく来た少年と自己紹介を終え、ストレッチをしてからゲームを始めることにした。カラーコーンを一定の距離に四つ設置。
それからチーム分けである。手っ取り早い方法として、プロデューサーが全員に提案した。
「じゃ、グーパーで決めるか」
「良いなそれ」
とのことで、みんなで拳を出し合う。
「「「「グーパーグーバークーパージャス!」」」」
で、決まったチームが……プロデューサー、樹里組と夏葉、葉介組。
プロデューサーから見て、葉介の印象は決して良くない。ワックスで整えた髪、鋭い瞳、イケメンと言えばイケメンだが、何処か捻くれていそうな表情、なんというか……どこにでも居そうな高校生という感じだ。とても、割と気難しい方でもある樹里の恩人には見えなかった。
だが、見た目の割に中身は良い子、というのは事務所にたくさんいるので、それで彼の全てを判断するつもりはないが。
「樹里、彼……運動神経は?」
「私とプロデューサーと夏葉の三人で組んで勝てるかどうかのレベルだ」
「なんでそんなの呼んだんだよ……」
だが、負けるのは好きではないため、勝ちにいくしかない。そのため、プロデューサーも樹里も油断なく敵チームを睨みつけた。
「……じゃあ、行くぜ」
「おう……!」
二人からキックオフした。
プロデューサーの元に転がるボール。その前に立ち塞がるのは有栖川夏葉。ドリブルで抜けるかは分からないが、そもそもまずは様子見なので抜く必要がない。すぐに樹里にパスを出した。
「よっしゃ、ナイスパ……あっ!」
が、その間に葉介が入ってカットする。すぐに樹里が背後から襲いかかったが、それを受ける前に夏葉にパスを出す。
「ナイスパス!」
インサイドで止めた夏葉は、プロデューサーの方に距離を詰める。
「勝負よ……!」
「来い」
が、まぁ所詮は素人同士だ。フェイントも何も無く、ただ夏葉がどの方向に躱すかをプロデューサーが読めるかの一発勝負。
「ふっ……!」
「はいそこ!」
「あーっ……!」
が、それは夏葉の先を読んだプロデューサーがカットする。ボールはポーンと宙に上がり、樹里の方に飛ぶ。
胸トラップしようと落下点に入ったが、その前に葉介がジャンプして割り込み、ヘディングで夏葉の方に返す。
「あっ……こ、このっ……!」
「樹里、下がって守り手伝って!」
「お、おう!」
走って樹里は夏葉の元に向かう。挟まれた夏葉は足元にボールをキープしつつ辺りを見回す。すると、葉介が走り込んでいるのが見えた。
ノーマークの葉介の方にパスを出す。いち早く気づいたプロデューサーが、パスをもらった葉介の前に走った。
「行かせない……!」
「……」
が、葉介は実に滑らかにアウトサイドで右に揺さぶると、すぐにインサイドパスを放ち、プロデューサーの股下を抜いた。そのボールは樹里にマークされている夏葉とゴールの間、二人が走り出せば、ギリギリ夏葉の方が早く着く位置だ。
「そこ!」
「あーっ!」
夏葉の軽いシュートがコーンの間を突っ走った。
×××
それから大体30分ほど休まず続けた。当然、全員揃って生きた尸状態である。
そんな中、葉介が持って来たスポドリと塩分チャージを口にしながら日陰で休憩である。
なんかよくわからないうちにプロデューサーが葉介にバイトを紹介するだなんだと話していた。
「バイトねぇ……」
バイトをしたことがない樹里は、頬をかく。どんなバイトするのか想像つかないが、そもそもプロデューサーにバイトが紹介できるのか、というところだ。
よく分からないが、そういうのって相手とのコネが必要だろうに。
「ていうか、どんなバイトさせるつもりなのよ」
同じことを思ったのか、夏葉が聞いた。
「んー……アレだ。今度、アレあるだろ。アイドル全員でお忍びで遊びにいく奴」
「ああ、あれね。なるべく別のグループの子達と行動するってやつね」
「そう。それのスタッフ」
「え、それ人手足りないのか?」
「足りるには足りるけど……まぁ、足りないっちゃ足りないな。社員旅行みたいなものだけど、連れて行けるスタッフは最小限だし、人数ギリギリなんだ」
それを聞いた直後、思わず樹里は大慌てでニヤけるのを抑える羽目になった。
何故なら、ただでさえ楽しみな旅行にもっと楽しい奴がついてくるかもしれないから。
何とか緩む唇を抑えて、なかなかに複雑な表情になっている樹里を、夏葉は呆れ気味に横目で眺めた。
「……言っておくけど、多分あなたと遊ぶ暇なんてないわよ」
「そ、そんなの誰も期待してねーよ!」
「……」
もう微笑ましい。そんな感想しか出なかった。
二人の間で話が進む中、ソワソワし続ける樹里。このままだといつ破裂するか分からないので、夏葉が耳元で囁いた。
「言っておくけど、あなたと遊ぶ暇なんてないと思うわよ」
「そ、そんな期待してねーよ!」
「いいから。そもそも、あの子はバイトで来るんだから、邪魔しちゃダメよ?」
それを言われればその通りなのかもしれない。実際、なんかよく分からないけど現地人のふりをして潜入とかスパイみたいなことさせられているし、それを成功させるには顔見知りと同じ班になるわけにもいかない。
その上、同じ宿にいるのもマズイため、十中八九、顔を合わせる機会もないだろう。
「……」
そう考えると、徐々に落ち着いてきた。というか、むしろ他のアイドル達と仲良くなってしまうかもしれない最悪の機会……。
「……いやいやいや」
落ち着いて首を横に振った。それはあくまでも「葉介がカバーしなければならない事態が起こった時」に限る話だし、そもそも今の寂しい葉介に友達が増えるのは良い事のはずだ。いつから葉介に友達ができない方が良い、なんて思うようになったのか。
「はぁ……」
「お疲れね」
「るせーよ……」
なんか同情するように肩に手を置かれ、思わず毒を吐いてしまった。
×××
数日後、樹里は一人でカフェに来ていた。何故なら、ここが葉介とプロデューサーの面接会場だからだ。とても気になったので、ついつい見に来てしまった。
勿論、変装して。夏葉にサングラスを借りて、凛世に髪を貴婦人っぽく結ってもらい、普段は絶対に履かないスカートまで履いて、変装は完璧である。
さて、早速、面接の様子を眺める。
「すみませんね、俺なんかのために時間とってもらって」
「いやいや、形だけとは言え社長に履歴書提出しないといけないから。せっかくだし、少しお話しして行こうよ」
要するに、人間を見るためである。この前のサッカーで大体の事は把握したとはいえ、面と向かって話をするのも人を雇う上では大事なことだ。
とはいえ、大体のことを知っている樹里からすれば、何だか友達が疑われているようであまり良い気はしない。
「で、一応確認ね。名前は?」
「東田葉介です」
「学年は?」
「高校二年生です」
「うん。うーん……じゃあ趣味と特技」
「趣味は身体動かすこと全般と甘いもの食べること。特技は……そうだな。やっぱり身体動かすこと」
「なるほど」
ハキハキと答えられるのは良いことだ。とにかく身体を動かすことが出来るあたりも、いざという時に任せられる。勿論、そんな機会はない方が良いのだが。
「じゃあとりあえずこの辺にしておいて……とりあえず仕事の内容を話すよ」
「はいはい」
「日給一万円、現地に着くまでの交通費とかの必要経費、着いてからアイドル達を見張るのに掛かるお金も出す。お釣りは回収するけど」
「了解です」
返事をしながらメモを取る葉介。
「基本的にアイドル達との接触は禁止。緊急時のみ可。その時は現地人のフリをすること。見てもらう班に東田くんの知り合いはいないようにするから」
「放クラはいないって事ですね」
「そういう事」
夏葉の読み通りだった。それならほとんど絡めないんだな……と、樹里は内心で少し落胆する。
「これが俺の携帯番号とアドレスね。何かあったら報告する事。無事で済んでも、だ」
「分かりました」
「君自身に何かあっても、だよ」
「あ、はい」
少し意外そうな顔をしてしまったが、雇う側の責任として当たり前のことかもしれない。
それから色々と話は進んで行くのを、樹里は黙って耳を傾ける。というか、もう採用は決まったようなものだ。なら、とりあえず自分もそろそろ立ち去ろうか、そう思った時だった。
「最後に……あ、これは全然、仕事とは関係ない話なんだけど」
「? なんですか?」
「君、樹里のことどう思ってんの?」
「はい?」
思わず吹き出しそうになった樹里だが、何とか堪えた。が、冷静になって考えると、何故、吹き出しそうになったのかがわからない。そんなの、答えは決まっている。
「好きですよ?」
そう、好きと答えるに決まっ……。
「はえっ?」
「「?」」
「ーっ」
間抜けな声で隣の席を見てしまい、慌てて顔を背ける。危なかった。もう少しでバレるところだった。
「好きって……え、どゆこと?」
「東京で初めて俺に優しくしてくれた人ですからね」
このしれっとした感じ、多分、恋愛的な意味で言っていない。そう直感したプロデューサーは「いやいや」と前振ってから聞いた。
「そうじゃなくて、初恋的に」
当然、盗み聞きしている樹里は「なんてこと聞くんだ」とさらに赤面する。だが、二度目の冷静になった。あの男にそんな情緒があると思えない。思春期予備軍とも言える小学校六年生の時に、平気で女子のズボンを脱がし、下から出てきたパンツをブリーフだと思うほどの男だ。
だから、落ち着いて……と、思って横をチラ見すると、頬を赤らめたまま俯いていた。
「い、いや……恋って……それは、うん……まぁ……」
「……」
恥ずかしくなった樹里は、走って逃げ出した。