最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。 作:バナハロ
南伊豆は、遊ぶ所が多い場所だ。綺麗な海が複数箇所に設置されている上に、そのどれもが「あ、海ってほんとに青いんだ」と実感する程、綺麗な海ばかりだ。都会人は絶対ビビる。
さて、そんな南伊豆だが、何も海だけでは無い。人の知恵とは素晴らしいもので、創意工夫によって観光地を生み出すのだから。東京じゃ無理だけどね。
今、俺が来ているのは、泊まっている宿からは少し離れた場所にあるサンドスキー場。砂漠のように滑らかな砂の斜面がスキー場のように角度をつけて形成されており、ソリを敷いて落下すれば夏でもサンタさんになれる最高の遊び場。
その上、斜面の下には磯があり、水着で滑れば泥だらけになった体を、そのまま相変わらずアホほど綺麗な海で洗い流すことが出来る。
そんなサンドスキー場にて、俺は一人、パラソルの下で腰を下ろしていた。正直、ついでにそんなバカンスを楽しむ体力は残っていないんです。よりにもよって、サンドスキーなんていう超ハードな遊びは無理です。
なので、今日は昨日の反省を踏まえて、最初からチャラチャラした格好で参戦。サングラスに浮き輪にハットにパーカーを装備し、海の上でプカプカと揺られながらサンドスキー場を眺める。
今日、観察する対象は八宮めぐるさん、有栖川さん、和泉愛依さん、浅倉透さん、そして甘奈の5人だ。
最初は甘奈に正体ばれるんじゃねーかと思ってたけど、みんなで楽しむことに夢中で全然、見向きもされない。
「「ひゃっほ──────ーい!」」
和泉さんと二人でソリに乗って急降下していた。まぁ楽しそう。
その二人が降りて来ると思われる落下点で、浅倉さんがスマホを構えている。多分、動画でも撮っているんだろう。
「どう⁉︎ 透ちゃん、撮れた? 撮れた?」
「やばい、めーっちゃ楽しかった! 甜花ちゃんにも送ってあげなきゃ!」
「ふふ、ごめん。電池ない」
「「ええっ⁉︎」」
……待って。まだ午前中。もう電池ないの? あの子は迷子にさせられないな……。
さて、もう一方の二人組も……。
「「きゃあああああああ‼︎」」
降りて来た。ソリに跨がり、ものっそい勢いで風を浴びている。……乳揺れすごいな。てか、なんでアイドルって巨乳ばかりなの? 樹里をいじめるのはやめてやれよ。
「すっごい! ほんとすごいわね!」
「うん! 想像以上に気持ち良い!」
「本当ね! 本当のスキーと同じくらい気持ち良いわ」
……楽しそうだなー。俺も樹里と一緒なら……や、仕事中なんだが。……しかし、暑いな……。
「ね、次は透ちゃんも滑ろうよ!」
「え……私も?」
「うん! 気持ち良いよ?」
「じゃあ……うん」
……でも、今日は楽出来そうだな……。なんかおてんばだけど子供がいないからか、節度をもって遊んでいる。今の所、俺が出る幕はない。
まぁ、昨日みたいなトラブルが何度もあってたまるかってんだよな。昨日が特殊だっただけで、普通はこう平和なもの……。
「きゃっほ────────い!」
「わー」
……浅倉さん棒読みだなぁ。表情も変わってな……いや、心なしか楽しそうには見えるけど。
そんな二人の様子を、下で待っている甘奈がスマホに納める。その直後だった。ソリが思いっきり傾いた。
「「あっ」」
まぁ、そうなるよね。絶対に転ぶとは思ってた。
ザババババッと砂煙を舞い上げて転がる。舌がコンクリや硬い土ではなく砂浜だから大きな怪我とかは無いだろうけど……まぁ、一応、見に行っておくか。
荷物の所に戻り、救急箱を手に取ってかけよった。
「痛た……八宮さん、大丈夫?」
「だ、大丈夫だよー。転んじゃったね」
「うん。……でも、楽しい」
「ね、楽しいよね!」
「二人とも大丈夫ー?」
甘奈が二人の元に駆け寄る。他二人は再び滑ろうと斜面を登っていた。……甘奈の前で顔を出すのは危険だが、怪我とか起こったら一応、見ないといけないからな。仕事優先だ。
念の為、サングラスを掛け直して三人の元に入った。
「大丈夫ですか?」
「え?」
わぁ、不審者を見る目。善意に対してそういう感情しか向けられないのって、その人よりも社会が悪いと思うんだよね。
とにかく、負けじと声をかけておかないと。
「あ、すみません。遠くから派手にヘッドスライディングかましてるのが見えたので。良かったら使って下さい」
言いながら、とりあえず絆創膏と消毒液を手渡した。
「ありがとうございまーす☆」
甘奈が笑顔で挨拶してくれる。変装しているとは言え、一切気づかれない辺り……本当に俺の事なんてどうでも良いんだな、この子。
その間に、八宮さんが浅倉さんの肘と膝を手当てする。
「ったぁ……」
「染みる?」
「ううん、平気」
うん、平気だな。そこまで俺が手を出すと通報だし。
絆創膏を貼っている間に、使い終えた消毒液と絆創膏のゴミだけ受け取って挨拶した。
「じゃあ、気を付けてね」
「ありがとう」
浅倉さんのお礼に小さく手を振って返し、救急箱を自分の荷物の所に置きに戻った。
「「きゃああああああ! あぶな────ーい!」」
有栖川さんと和泉さんのソリに撥ねられた。その後の意識はない。
×××
「う……ん……」
目を覚ますと、パラソルの下だった。真下にはビニールシート、微妙に足がはみ出ているが仕方ない。てか熱い。
「あ、起きた?」
「え?」
身体を起こすと、声が掛けられる。隣に座っていたのは、有栖川さんだった。
「大丈夫?」
「あ……はい」
「ごめんなさい。少しはしゃぎ過ぎたわ」
「いえ、どちらかと言うと俺が轢かれに行ったようなものなので……」
「交通事故も撥ねた側の責任なのよ」
……でも、気にして欲しくないなぁ。……ん? てか、グラサンは⁉︎
「あれっ……やべっ」
「大丈夫よ。他の子たちには顔バレないように私だけ付き添ってるから」
「あ……た、助かります」
良かったぁ……てか、有栖川さんがいて良かった……。特に甘奈にバレた暁にはマジで吊し上げられるレベル。
「じゃあ、私もう合流するから」
「あ、はい。……え、もう?」
「そりゃそうよ。……あまり私と長く一緒にいない方が良いでしょう? それに、早く遊びたいし」
うーん……だいぶ、気を使わせてしまったみたいだな……。ま、仕方ないか。気楽に考えないとやってられない。
「じゃ、また」
「ええ。またね」
とりあえず、気付かれなくて良かったと思っておくか……。
ほっとしつつサングラスをかけた時だった。
「おーい、オニーサン!」
「へっ?」
声が掛けられる。走ってきたのは、おっきなお胸を揺らしている褐色美少女、和泉さんだった。
呆気にとられている間に、和泉さんは座っている俺の方に前屈みになって額に触れる。おかげで目の前に大きな谷間がある。
「ダイジョーブ? さっき、思いっきり撥ねちゃったから」
「あ、大丈夫ですよ。生憎、身体は丈夫なので」
それより今の状況が大丈夫ではない。あんまり関わりすぎると雰囲気を覚えられてしまう。
「良かった〜。透ちゃんの手当てしてくれた人、殺しちゃったらちょっと立ち直れないじゃん?」
「人生もな」
「あはは、面白〜」
ブラックジョークのつもりだったんだけど……よく笑えんな。
「ね、写真撮っていーい?」
「え、写真?」
「そっ。ほら、旅先での出会いは……い、イチゴイチエ? って言うじゃん? 要は記念!」
……うーん、まぁ良いか。ダメとは言われてないし。
「了解」
「じゃ、もっとこっち寄って!」
スマホを取り出した和泉さんは、俺の腕に腕を絡める。二の腕に胸が当り、思わず鼓動が跳ね上がる。
「はい。こっち向いてー」
「は、はい……」
「チーズっ。よしっ」
……い、良い匂いしたぁ……。汗だくになってるほど遊んでた人なのになんで……。
本人はさほど気にしていない様子のようで、平気な顔で聞いてきた。
「名前は?」
「え? えーっと……」
本名は言って良いのか? 一応、偽名使っておくか。偽名……偽名……。
「と、東城です……」
「とーじょーくん、ね? うちは和泉愛依。こっちにいる時はたまに連絡するから、また遊ぼーね」
「えっ」
ま、また遊ぶの……? という俺の冷や汗を他所に、写真を撮った和泉さんはみんなの群れに引き返していった。
×××
サンドスキー場で遊んだあとは、近くにあるパワースポットに来た。竜宮窟というハートの形をしたビーチで、ビーチ自体の立ち入りは禁止されているものの「なんか縁起良さそう」っていう理由でパワースポットと化している場所である。
入り口の鳥居近くにある駐車場には、龍宮窟をグルリと一周することができる遊歩道があり、水質ランクAAの海を一望できる。
さて、そこに行くにあたって女子達はがシャワーと着替えを済ませている間に、俺は変装。髪型を変えて、服装も変えて、サングラスも変えて準備万端。
こっそりと五人が行く前に先回りして移動する。
一先ず、今は入り口の鳥居の前で待機。まるで「知り合いと待ち合わせしている」風だ。
「……」
しかし……ハートの形をしているだけでパワースポット、か……。なんか、世も末だな……。ハートの形してるだけでパワースポットなら、この世の桃畑は全部パワースポットだろ。
そういうのに踊らされてるようじゃ、科学がどんなに発展しても人類の愚かさは変わらんよな。
「……」
……恋愛が上手くいくお賽銭箱みたいなのあんのかな。いや、でもさすがに経費としてもらってるもん使うのは……。
うだうだ考えている間に、キャイキャイしたアイドルの女子グループが来たので、顔を背けて海を眺めているセンチメンタルな男を演出する。自分で言っててゲロクソ恥ずかしいわこれ。
「へぇー! じゃあここって恋愛が上手くいくかもしれないんだ!」
「根拠どころかご利益の存在自体が不明だけどね」
「恋に興味がない女性はいないからねー。この中に、好きな人がいる人がいたりして?」
「いや、いなさそう」
「透ちゃんが言うの? それ」
そんな話をしながら、鳥居の下をくぐって行った。ここから下はすぐに行き止まりだし、俺は行かなくても平気かな。問題があるとしたら遊歩道の方だろう。
そのため、しばらくその場で待機。スマホでプロデューサーさんに連絡していると、スマホがヴーッと震えた。表示された名前は、西城樹里。
「……もしもし?」
『あっ……葉介か……?』
「なんで小声?」
『ひ、人の目を盗んで電話してるからだよ……!』
なんで人目を盗む必要があるの……と、思ったが、まぁ気持ちは分からんでもないのでスルー。
「どうしたの?」
『いや……その、今……どうしてるかな、と……』
「今は竜宮窟前で待機中。出て来たらストーキング開始してバックアップ」
『そ、そっか……。……な、なぁ』
「にしても、すごかったわ、ヒリゾ浜。めっちゃ海綺麗なのな! 私用で来てたらめっちゃ泳げんのに! あと、サンドスキー場もヤバいのな! 超急降下すんの!」
『羨ましかったのはわかったから少し落ち着け……』
うるせえ。楽しそうだったんだよ! いや、全然、羨んでなんかないけど!
「……何のようだよ。どうせお前は楽しめてんだろ?」
『あ、ああ。まぁな。聞いて欲しい話は山ほどあんだけど……とりあえず、声が聴きたかっただけだ』
なんだそれ。彼氏が出張中の彼女かお前は。
……ふむ、彼氏と彼女……か。ふーむ……。チラリ、と竜宮窟の入口である鳥居を見上げる。
「……あー、樹里?」
『な、なんだよ! 笑うなら笑えよ! 笑ったらぶっ飛ばすぞ!』
「ぶっ飛ばしちゃうのかよ……。や、そうじゃなくて」
コホン、と咳払いしてから聞いてみた。
「もし、万が一……いや、億が一の可能性として、二人になれる時間感あったら……行きたいとこあんだけど」
『は……?』
……あれ、なんだ? 急に黙り込んで……。いや、まぁ機会があれば、だけどね? 多分、そんな機会ないし。
けど……ほら。100パー無いとも言い切れないじゃない。勿論、無理にとは言わないけど。
まぁ、なんだ。向こうにとっちゃ幼馴染みと遊ぶ感覚かもしんないが、俺としてはデートのつもりで……。
『なっ……いっ、いいいいきなり何言ってんだよバーカ⁉︎ い、行くわけねーだろ!』
「えっ、い、行かないの?」
『じゃあな!』
……切られた。心も。