最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。   作:バナハロ

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旅行中の樹里ちゃん(1)

 なるべく別のグループの子達と一緒に行動するように分けられた行動班だが、その反面、部屋割りはやはりグループごと。

 しかし、旅行で仲良くなれば部屋割りなどもはや意味をなさなくなるのが女子……というより学生という生き物であって。

 みんながみんな、色んな部屋に遊びに出ていた。唯一、学生でない桑山千雪ですら、甘奈に手を引かれて部屋を出ている。

 そんな修学旅行のようになっている宿の中で、一人、難しい顔をしている金髪がいた。

 

「……はぁ」

 

 そもそも、楽しい旅行ではあるが、微妙に樹里の胸にはモヤモヤが残っていた。それは勿論、面接を盗み聞きして葉介の気持ちを聞いてしまったから、である。自業自得とも言えるだろう。

 そんなわけで、純粋に楽しめなくなっている樹里だが、それでも旅行中はみんなと遊ぶ事に夢中になれた。でもこうして落ち着いている時間があると、余計なことを考えてしまっている。

 その上、さっきは羞恥心から、せっかく誘ってくれた遊びを断ってしまった。それが尚更、胸の痛みを増加させていた。

 

「さぁ、枕投げ大会よ!」

 

 まぁ、全員そんなこと知ったことでは無いわけだが。わんぱく小僧よりわんぱくが集まっている放課後クライマックスガールズの部屋には、暴れん坊達が集まっていた。具体的には……。

 

「やるっすー! 冬優子ちゃんも!」

「私はやらないわよ!」

「私もやります! チョコ先輩もどうですか?」

「やる!」

「あ、じゃあ私もー!」

「じゃ、私も」

「透先輩やるのー? じゃあ雛奈もー!」

「うちもやるばい!」

「お、良いねぇ、こがたん。じゃ、三峰もー!」

 

 と、少なくともバスケが出来る人数が揃いつつあった。バカばっかである。

 騒がしくて仕方ない樹里は、仕方なさそうに部屋を出て、とりあえず先にお湯に浸かることにした。どうせ枕投げ大会が終わった後、みんな風呂に入るのだろうし、混む前に終わらせる、と言う考えだ。

 

「ん〜……」

 

 伸びをしながら荷物を持って歩いていると、ちょうど部屋から出て来た和泉愛依と遭遇した。後ろには風野灯織が一緒にいる。

 

「あ、樹里ちゃん! 今からお風呂な感じ?」

「おう。愛依と灯織もか?」

「うん。良かったら、樹里も一緒にどう?」

「良いぜ」

 

 軽くそう決めると、三人で大浴場へ向かった。のんびりと歩きながら、愛依が声をかけた。

 

「ね、みんな今日どうだったん?」

「私は……そうですね。今日は妻良海上アスレチックに行きました」

「へぇ、あの海面のアスレチックか?」

「うん。私も果穂もみんな落ちちゃって……あ、でもあさひだけは器用にこなして落ちなかったな」

 

 何となくその時の絵が想像できてしまった。

 

「樹里でも落ちずにクリアできそうだったよ」

「あー確かに。うちは見てないから分かんないけど、樹里ちゃん運動神経良さそうだもんねー」

「いやいや、アタシなんて大したことねーよ」

 

 素で漏らしたつもりの謙遜だったが、他の二人からは意外そうな目で見られてしまった。「何?」と視線で問う前に、大浴場に到着した。

 のれんをくぐりながら、灯織が愛依に聞いた。

 

「愛依さんはどうだったんですか?」

「うち? うちはね、こっちで友達できちゃったし」

「え、そ、そうなんですか……?」

「いーでしょ?」

「へぇ……」

 

 恐らく二度と会うことはない友達とはいえ、そういうのは確かに楽しいものだ。……まぁ、その分、別れが辛いわけだが。

 

「どうやって出会ったんだ?」

「サンドスキーでソリで撥ねちゃったんだよね〜」

「普通に事故だろそれ!」

「しかも、透ちゃんの手当てをしてくれた人を。だから、申し訳なくてさー。でも、写真撮ったんだからもう友達っしょ?」

「なんで逆ナンみたいなことしてるんですか……」

 

 今にして思えば、確かにそのまんまだ。友達が男の子に世話になって、その子を撥ねて、手当てした挙句に写真まで撮ってる。

 しかし、かと言って別に照れるようなことではない。テンションが上がると普段より行動が軽率になってしまうものだ。

 洋服を脱ぎながら、スマホを取り出した愛依は二人に画面を見せた。

 

「あ、ほらこれ。その時の写真」

 

 見せられた写真に顔を向けると、樹里は眉間にシワを寄せる。絶対に本人の趣味ではないサングラスにパーカーを羽織ってはいるが、その程度で幼馴染みと分からない程、鈍くはない。

 とりあえず、灯織が心配そうに聞いた。

 

「……これ、平気なんですか? 変な人とかだったら……」

「ヘーキだって。この人と連絡先、交換し損ねちゃったから送れないし……そもそも、なんかアイドルだって気付かれてもないっぽかったし」

「え……そ、それは……」

 

 どこかで聞いたようなやりとりである。

 ドン引きしている灯織だが、その灯織も何かを思い出したように言った。

 

「あ……でも、私もそんな男性とこの前、会いました」

「へぇ、どんなん?」

「溺れかけていた所を助けていただいたんです。お礼したら、急に何処かにいなくなられてしまって……」

「うわっ……チョーカッコつけじゃん! カッコイイけど!」

「その方も、サングラスを掛けてどこか変わった雰囲気を出していた人でしたね……」

 

 まだちゃんとお礼も出来ていない。まぁ、これから会える可能性もゼロじゃないので、その時に改めて、と考えているが。

 そんな二人を見ながら、樹里はふと気になったので聞いた。

 

「な、なぁ……お前らその人の名前は聞いたのか?」

「あ、うん。えーっと、なんだっけ。確か、トージョーくん……だったっけ?」

「私は……名前も聞けませんでした」

 

 お察しした。あの男はなんて安直な偽名を考えるのか。恐らくだが、灯織を助けたのもあの男だろう。仕事だし。

 

「……」

 

 ……気に入らない。なんか、こう……気に入らない。なんであの男、きっちりエンジョイしているのだろうか? 自分と遊びに行くための資金集めだったのではないのか? 

 とにかく、こう……気に入らない。

 

「……相変わらず、愛依さん大きいですね」

「えー? 何がー?」

 

 ……気に入らない。

 いつの間にか裸になった三人は、タオルを巻いて大浴場に入った。それなりに広い風呂場も、今は三人の貸切。

 まずは汗や汚れを流すためにシャワーの下に座った。

 

「ふぅ〜……マジ汗だくなんだけどー。てか、他の子達はシャワー浴びないん?」

「アタシの部屋だと夏葉主導で枕投げやってたぞ」

「げ、元気だねみんな……」

 

 灯織が引く程度には騒がしかった。本当に元気な子たちである。

 

「でも、樹里ちゃんがそういうのに参加しないって意外じゃない?」

「どういう意味だよ」

「分かります。夏葉さんと競いそうですよね」

 

 そう言われると、反論は出来ない。確かにそう思われても不思議はないから。

 

「……るせーな。今は気が乗らねーだけだよ」

「何かあったんですか?」

「な、何もねーよ!」

 

 わかりやすっ、と二人とも言わないだけで普通に思ってしまった。可愛い子である、本当に。

 

「……よく分かんないけど、何かあったなら相談してくれて良いよ?」

「嫌だよ。てか、何もねーし」

「あるっぽくない? 先に『嫌』って答えてるし」

 

 意外と鋭い愛依だった。

 しかし、樹里としても言うわけにはいかない。彼が協力者であることは他のアイドルには内緒なのだから。

 なので、バレない範囲で言ってみることにした。愛依も灯織も人を茶化すタイプではないから。

 特に、愛依は恋愛のエキスパートっぽいし、頼りになるかもしれない。

 身体も頭も洗い終え、三人で湯船に浸かった。

 

「大したことじゃねーんだよ。……ただ、その……幼馴染みがアタシの事を好きって言ってる場面に、たまたま居合わせちまって……」

「「えっ……」」

 

 二人揃って頬を赤らめ、樹里は「えっ?」と声を漏らした。

 アドバイスは? と思ったのも束の間、二人は頬を赤らめたまま俯く。

 

「い、いや……うちは、恋愛とかちょっと……」

「わ、私も……そういう経験とか、ないし……」

「えっ」

「て、てか……樹里ちゃんってそういう感じなんだー。す、すごーい……」

「わ、私達なんかより余程、大人みたいで……き、キスとか……した事、ありそう……」

「ねーよ!」

 

 予想外の反応だった。灯織はともかく、愛依までもと言った具合である。相当、二人を驚かせてしまったのか、浸かったばかりの湯船から立ち上がってしまった。

 

「う、うちじゃ力になれそうに無いから、冬優子ちゃんに聞いてくるね!」

「わ、私も私なんかよりめぐるや真乃に聞いた方が良いと思うから……!」

「え、ちょっ……誰にも言うなって! 秘密にしときたいんだから……!」

「「まぁまぁまぁ!」」

「まぁまぁじゃねえ!」

 

 大浴場から二人が出ていくのを慌てて追った。

 

 ×××

 

「はぁ……ったく」

 

 浴衣に着替えた樹里は、ため息をつきながら宿の中庭に出た。軽く伸びをしつつ、辺りを見回す。のんびり出来るのはここだけだ。

 とはいえ、だ。すこし休んだらすぐにみんなの元に遊びに戻る予定だ。

 実際、今はどうしようもない事だし、みんなと遊んでいる間は悩まずに済む。……まぁ、シャワーを浴びた今、枕投げは勘弁してほしい所だが、それでものんびりとおやつパーティーはしてみたい所だ。

 

「……ふわぁ……」

 

 とはいえ、彼がもし告白して来たときの事は考えなければならないが。

 自分は彼の事が好きなのだろうか? いや、確かに嫌いではない。むしろ好きな部類と言えるだろう。この前のフットサルの時だって、自分はなるべく活躍せずに夏葉にボールを多く回していた。

 こっちに来て嫌われて理不尽を受けて大きく捻くれても、やはり根にある部分は何一つ変わっていない。自分だけじゃなく他人も楽しませようとする所だ。

 ……だが、正直に言うと葉介が彼氏になった時、というのは想像し難い。なんか、恋人同士になっても何も変わらない気がするが……。

 実際に恋人になったとしても、別にキスしたいとか思わないだろう。そこまで自分は大人じゃないし、経験もない。

 

「……」

 

 が、そこでふと愛依のことを思い出してしまった。もし、あのまま愛依と彼がなんか色々あって付き合う事になったとしたら、どうなるのだろうか? 

 ……それは、なんかすごく嫌だ。自分が恋人っぽいことしたいとは思わないが、他人と葉介がイチャイチャしてる所を見るのは、耐えられそうにない。

 だとしたら、もう答えは決まっているようなもの……と、結論が出そうになった時だ。

 

「あ」

「? ……あ……!」

 

 後ろを、ちょうど葉介が通り掛かった。久々に顔を見ただけで、少し嬉しそうな声が漏れてしまう辺り、もう結論など出すまでも無いのだろう。

 せっかくの機会だし、ほんの少しで良いからお話を……と、思った直後だった。

 葉介が、ダッシュで逃げ出してしまった。

 

「え……」

 

 仕事だから、なのだろうか? それとも、昼間に照れ隠しで言ってしまったことが響いているのだろうか? 何にしても「逃げられた」という事実だけが、樹里の胸に深く突き刺さった。

 

 

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