最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。 作:バナハロ
人は、何故生きているのだろうか?
例えば、ヒト以外の動物。アレらは「生きる」事に関して考える事はなく、ただとにかく生きる事に必死である。
それらが全ての生命の食物連鎖というサイクルの一部となり、結果的に生まれて死ぬまでに他の生物の糧となる。
が、人間はそのサイクルから外れている。食物連鎖の中から生物を摘み食いし、他の野生動物の糧にならないよう自衛する武器を作り出し、環境を汚し、死んでも墓の下に入るため植物の栄養にもならない。
つまり、完全に突然変異種と言っても過言ではない生き物だが、その生き物は武器ともいえる思考力を持ってして「何故生きるのか」をよく考える。
そんな中、俺が出した結論は「好きに生きるため」だ。ゲームでもスポーツでも勉強でも仕事でも恋愛でも、とにかく好きなことをすれば良い。
そして、俺の中のその「好きなこと」に一番該当するのは、今の所「樹里と遊ぶこと」である。
そのために必要とあれば金も稼ぐし、そのために出来ることは何でもする。
……だが、なんか知らんけど遊びの誘いをこっ酷く断られた今は、何のやる気も起きなかった。
「はぁ……」
無責任なことは決して好きではないため、仕事はこなしている。……が、この前ほどの意欲はない。
まぁ、明日でこの旅行も終わりだし、気楽に行こう。幸い、ここまで大きな災害も無いし、あとは今日の班員を無事に守れば良い。
いつものように近くのコンビニで待機していると、プロデューサーさんから今日、見張る対象のリストが送られて来た。
「え……」
そのメンバーは……櫻木真乃、市川雛奈、白瀬咲耶、大崎甜花、そして……西城樹里。
……なんであいついんの? え、プロデューサーさんのミス? いや、にしては普通に送られて来たし、訂正のL○NEも来ない……。
「……マジかよ」
や、まぁ良いけど。どの道、俺は見守る立場。序盤の風野さん以外は大した事件は無かったし、何とかなるでしょ。
……と、思ったら、もう一度、追加が送られて来た。
『午後から雨降るらしいから、傘屋さんの屋台に変装するとか工夫してね』
この人、本当はかなりバカなんじゃないの?
×××
そんなわけで、移動開始。樹里には俺がついていることが知らされていないのか、いつも通りの表情で周りのメンバーと歩いている。
その間、行く予定の場所へ先回りして、観光客のフリをする。とりあえず、傘屋のモノマネは厳しいので、用意したのは傘を2本と元々の自分の折り畳みを1つ。今回の俺の立ち位置は「ゴミ拾いのボランティアの人」だ。この傘の二本はゴミで拾ったって事にする。
本当は人数分買いたかったが、買い占めになりそうなので自重。あの五人には悪いが、俺の折り畳みも含めて3本で五人に入ってもらう。……まぁ、あの中の一人くらいは傘持ってるでしょ、と期待もしているが。
「……ふぅ」
コンビニでゴミ袋とトングも買って、このクソ暑い中を静岡まで来てゴミ拾い。そういうイベントに参加しているならまだしも、地元民じゃないのにこれをしているのは本当に凄いと思う。
で、その場所とは、再びサンドスキー場だった。まぁみんな行くとこ違うわけだし、こういうことも起こるわな。俺の観光じゃないし、別に全然、良いけどね。
で、とりあえず砂浜にビニールシートを敷いてのんびりと待機。スマホをいじりながら、ゴミも少しずつ拾う。……あんま落ちてないけどね。だから綺麗な海なんだし。
……ゴミ拾い設定は、この後に行く竜宮窟まで取っておいた方が良いかもな。
「わーっ……着いた〜!」
「ふふ、すごいね。写真で見るよりも急に見える」
「わ〜! 雛奈、すごい感動〜」
「にへへ……でも、暑い……」
「甜花、飲んどけよスポドリ」
……あ、来た。今日の服装は下半身水着に上半身はアロハシャツ。サングラスも南国っぽい奴で、帽子はルフィっぽい麦わら帽子、口にはタバコの代わりのチ○ッパチャプスで変装は完璧である。
とりあえず、顔を背けながら無関係を装う。ジロジロ見てると警戒されるし。
……でも樹里の水着見ておきたいし……少しだけ……。
「……」
ちらっ、と後ろを見ると、特盛が目に入った。白瀬さんの。
……相変わらず大きいな。まるで、八卦掌回天が常に胸部で二つ、ぶつかり合っているようだ。白瀬さんの彼氏となった人は、さぞ幸せだろう。
と、いかんいかん。何考えてんだ俺は。自分の恋愛が上手くいかなくなったからって、ひがみはやめよう。
……なんて事を思いつつ、樹里の方を見ると、こっちをガン見していた。眉間にシワを寄せて。
「……」
「……」
え……ちょっ、これバレてる? バレてない? なんでわかんの? 普段、絶対しないような格好してんのに……。てか、樹里は上着で水着隠しちゃってるし……。
い、いやでもまさかな。もしかしたら「変な目で巨乳を見てる奴がいる」とかいう視線かもしれない。いやそれはそれで困るんだが。
とにかく、今は目を逸らしておいた方が良い。そう思った時だ。スマホが震えた。
西城樹里『すけべ』
……うん、バレてたわ。なんていうか……もう嫌われたなこれ……。
いや、まぁ切り替えないとね……。今は仕事中だ。金をもらえる以上は、あの子達に怪我が無いように気を付けないと。
雨が降る事は、アイドルの子たちも聞いているはず。つまり、今日の仕事は午後半休と見て間違いないだろう。
とはいえ、あくまでも天気予報のため、アイドルたちは雨が降らないと引き上げない。遊びたいだろうし。
よって、何かあるとしたら、雨が降り始めてから撤退までの間だろう。俺もそれに備えておかなければ。
……はぁ、嫌われたなぁ……。
「……」
とりあえず、のんびりしよう……。見守るポジションで最もベストなポイントは海の上だ。サンドスキー場を一望できる上に、こっちは涼しくて最高。炎天下に晒されているとしても、浮き輪の下の下半身はガッツリ水に浸かれているし、ここから出る理由は彼女達が何かをやらかした時以外にない。
しばらく待機しながら、ボンヤリと斜面を眺める。そこを滑り降りるアイドル達。楽しそうで何よりだ。
「ひゃわ〜〜〜! 操縦桿〜〜〜!」
「ひ、雛奈! 胸を強く掴むのはやめてくれないか⁉︎」
……や、ホントに眼福眼福……あ、樹里の眉間にシワが……。
……ダメだな。こうしていると樹里が楽しめなくなる。なるべく白瀬さんの方を見るのはやめておくか。
その樹里は、今、頂上に待機している。……自身の前に座る、甜花と櫻木さんを抱えて。……なんか、すごい鈍そうな二人と一緒にいるんだな……。ありゃ苦労しそうだ。
「行くぞー」
「う、うん……!」
「どんと、来い……!」
ギュッとソリを握る力に手を込める櫻木さんと甜花。直後、樹里が地面を蹴って一気に急降下した。
ズザザザッと三人分の体重が乗り、勢い良く滑り降りる。……気持ち良さそうで良いなぁ。
しかし、まぁ一つのソリにJK三人が乗っていれば、どうなるかは日の目を見るより明らかだ。
「うおっ⁉︎」
「ほわっ……!」
「ひぃっ……⁉︎」
「「「いゃあああああああ‼︎」」」
……はい、怪我人三人。救急セットもあるし、それ渡すだけなら平気だろ。そう思って、海から陸地に移動し始めた時だ。砂煙の中から、三人が顔を出した。
「「「あっはっはっはっ!」」」
……え、絡んで笑ってんの? 大丈夫あの子達?
「だ、大丈夫かい? 三人とも」
「人間弾頭ミサイルみたいだった〜」
白瀬さんと市川さんが慌てて駆け寄るも、三人とも意外とけろりとしている。
「う、うん……甜花、楽しかった……!」
「私も楽しかったです……! もう一回……」
「本場のスキーと一緒で転ぶのが醍醐味みたいなとこあるみたいだな」
……俺の出る幕じゃないっぽいな。それに、なんだかんだ樹里も楽しそうにやっている。部外者の俺が、しゃしゃり出る所じゃない。
「……」
そのまま、海の上でぷかぷかと浮いたままその様子を眺めた。
×××
続いて、やはりサンドスキー場と言えば、竜宮窟のようで、五人はそのままパワースポットへ。
その間、俺はゴミ拾いのお兄さんに変身し、竜宮窟付近を歩き回った。あの五人は遊歩道を歩いて、竜宮窟を外側から見て回っている。
しばらく待機している間に決めたわ。今回のお金は、旅の費用にする事に決定した。失恋はもう決まったようなものだし、これから樹里と遊ぶ事もないかもしれない。
なら、今回の給料でぶぁーっと旅行にでも行こう。京都とか。……5万ちょいで行けんのかな? まぁ、そこは調べてからってことで。
そんな事を思っていた時だ。ポツッ、と鼻の頭に水滴が落ちて来た。
「……きたか」
雨降って来た。さて、ここからは迅速に行動しないとな。遊歩道はグルリと一周して来るようになっている。つまり、入れ違いを回避するにはここで待機するのがベストだろう。
しばらくここで待っている間に、雨はドンドン強くなっていく。こりゃ、早く戻らないと砂利道とかぬかるんで来るぞ。遊歩道なんて一発だ。
迎えに行った方が良いかも……とちょうど、思った時、アイドル達が戻って来た。しかし、人数が少ない。甜花、市原さん、櫻木さんの三人だけだ。
「あっ……ひ、人……いた……!」
「ねー、そこの人ー! ちょっと手伝ってー!」
「た、大変です! 樹里ちゃんが……友達が……!」
「え?」
「て、甜花のね……サンダル、取ろうとして……」
「崖から、落ちそうに……!」
「……どこだ?」
チッ、気を抜き過ぎた。
奥歯を噛み締めながら、遊歩道に引き返そうとする甜花の肩を掴む。
「いや、待て。方向を教えてくれるだけで良い。君達はここで待ってなさい」
「え、でも……!」
「雨で遊歩道がぬかるんでる。ここ歩くのは危険だよ」
「……途中の分かれ道を、右です……」
「じゃ、そういうことで」
それだけ話すと、傘を二本とも渡してさっさと救援に向かった。分かれ道を右に曲がり、転ばないように走る。こういうとき、速く走れる辺りは運動やってて良かったと思うわ。
すぐに白瀬さんの姿が見えて、隣に座った。
「! き、君は……?」
「樹里は何処だ?」
「え……あ、そ、そこに……!」
手摺から眺めると、90度に近い斜面で木に掴まっている。このままじゃ、手を滑らせかねない。
「君は鳥居の方に戻ってて」
「え……君は、どうするんだ?」
「雨で斜面がぬかるんでる。あの子みたいになられると困るから。15分経って俺達が戻って来なかったら、誰か呼んできて」
そう言うと、俺は斜面から身を投げた。
「なっ……⁉︎ ち、躊躇なく……!」
驚く白瀬さんを無視して、木や石に掴まりながら徐々に距離を縮めていく。そして、樹里が掴まっている木が生えている真上までくることができた。
「ばっ……よ、葉介⁉︎」
「何してんだよ、お前は……」
「う、うるせー! 良いから早く上がれよ! お前まで……!」
「うるせぇ」
そう言いつつ、俺が掴んでいる木に両膝をかけた。その上で、樹里の方に手を伸ばす。掴んだら、腹筋を使って足で掴まっている木に掴まり、少しずつ上がれば……と、思った時だった。
「あっ……!」
樹里が、とうとう手を滑らせた。そこから先に俺の頭に考えなんてものはなかった。気が付けば、反射的に足を離していた。
下になった手で樹里が掴んでいた木に掴まり、足を下にして体勢を整えると、再び手を離して斜面を滑り落ちた。
転がる樹里に追い付くと、何とか手を掴み、自分の方に抱き抱える。
「っ……!」
ヤベェ、真下が地上だ。ぶつかったら怪我じゃ済まない。が、その先には海がある。あそこが浅瀬じゃなけりゃワンチャンある。
強引に足の裏を斜面につけると、蹴り上げて身を乗り出した。俺と樹里の体は宙に投げ出され、そのまま水の中にドボンと沈み込んだ。