最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。   作:バナハロ

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危機を乗り越えた男女が親密になるのは物語の中だけ。

 ザザーン……と、大人しい波の声がする。それ以外には、雨が地面を打つ連続的な音が響く。

 その雨は決して俺たちを打つことはなかった。何故なら、洞窟の裏側のような天井の下に退避したからだ。

 海の中で流されながら、なんとか泳いで上がった岸がここ。竜宮窟の内側だ。ここから見る風景は確かに幻想的で、珍百景にでも登録されていそうなものだが、豪雨の中ではそうポジティブにもなれない。

 ……さて、ここからどうするか? スマホは水没で壊れたし、多分、樹里のも同じだろう。この雨の中じゃ、物を殴って音を立ててもかき消されるし、連絡は取れない。

 自力で脱出するには階段を通るしかないが……。

 

「んっ……」

 

 隣でアロハシャツをかけられたまま寝てる幼馴染みから声が漏れる。身震いさせながら身体を起こした。

 

「ここは……」

「やっと起きたか……」

「っ、よ、葉介⁉︎」

 

 あれから30分、ようやく目が覚めたか……。意識なかったけど、寝息とか普通に立ててから気絶してるだけだってのは分かってた。

 身体を起こした事によりアロハシャツが膝下まで落ちる。

 

「へっくち」

「悪い、濡れたシャツを掛けんのはどうかと思ったけど……でも、何もないよりマシかと思って。邪魔だったか?」

「そ、そんなことねーけど……お前は平気なのかよ?」

「平気」

 

 隣に座ってる俺もタンクトップ一枚だ。けど、まぁ夏だしそこまで寒くはない。冬だったら死んでた。

 

「聞かれる前に言っとくけど、ここは竜宮窟の真下。そこに階段があるでしょ? 他のメンバーは多分、誰か呼んできてる」

「な、ならすぐに上がろうぜ!」

「無理。階段から雨水が流れてるでしょ。滑って転んで転がったら骨折じゃ済まないよ」

「で、でも転ばないように気をつけて行けば……!」

 

 言いながら俺の方を見た直後、樹里は俺の左足に目を移した。直後、大きく目を見開いて口元に手を当てる。

 いやー、滑ってた時なのか、泳いでた時なのか分かんないけど……すごい裂けてるんだね、皮膚が。ここまで這い上がる程度のことは出来たけど、あの階段を足滑らさずに登れる自信はない。

 

「まぁ、そんなわけで、俺は……」

「っ……」

 

 唐突に、樹里が壁に寄っかかってる俺に抱きついて来た。え、ちょっ……な、何してんのこの人? や、やめろよほんとに……ドキッとしちゃったじゃねーか。

 

「……ごめん」

「何が?」

「その……アタシの所為で……こんな、怪我……」

「お前の所為じゃねーよ」

「で、でも……」

「気にすんな」

 

 お前にそんな顔似合わないから。まぁこんな恥ずかしい事、足が裂けても言えないけど。

 しかし、樹里は肩を落としたまま体育座りをしてしまう。悪いね、嫌いな俺と二人きりでこんな所にいるなんて嫌だよね。その上、こんな状況じゃ不安にもなる。

 

「大丈夫だよ、樹里」

「な、何がだよ……?」

「他の四人がプロデューサーさんのとこに戻ってると思うし、すぐに戻れる。……まぁ、あと一時間はこのままだと思うけど」

「……別に、お前と一緒だし、そこは気にしてねーよ」

 

 ……え、俺と一緒だから気にしてないの? どう言う理屈? 

 

「ドユコト?」

「お、お前を怪我させちまったから、ショックを受けてるに決まってんだろ!」

 

 それこそ気にして欲しくないんだけど……。本当に樹里が無事ならそれで良いと思ってるんだから。

 すると、樹里は俺の方に向き直って責め立ててくる。

 

「……ていうか、そもそもなんで助けに来たんだよ! あ、アタシの事、嫌いになったんじゃねーのか?」

「何言ってんの? 俺がお前を嫌いになるわけねーだろ。つかそれこっちのセリフなんだけど」

「なっ……ど、どういう意味だよ?」

「お前こそ、俺のこと嫌いになったんじゃねーの」

「そ、そんなことあるわけないだろ!」

 

 え……な、ないの? ……いや、助けてもらったから今だけ気を使ってるパターンも……。

 

「む、むしろ、好……!」

「え?」

「……きっちゃあ、好きな方だよ……」

 

 ……あ、ああ……どちらかといえば、って事か……。

 ‥……でも、そっか。嫌われてなかったんだ……。そっか……そっかぁ……。

 思わず、ヘナヘナと身体から力が抜けてしまった。

 

「良かったぁ……嫌われて、なかったぁ……」

「な……き、嫌われてると思ってやがったのか⁉︎」

「だってお前、電話ですごい怒るんだもん……そりゃもうお前……嫌われるって思うでしょ」

「お、お前だってこの前、アタシと目が合った直後に逃げ出しただろ!」

「そりゃお前に嫌われてると思ったし、知り合いな事、他の奴に知られるわけにいかねーだろ!」

「あ、アタシの所為かよ⁉︎」

「じゃあ俺の所為か⁉︎」

 

 思わず睨み合いに発展してしまう。あーあ……何やってんだ俺は……。また喧嘩になって……。俺は、別に樹里と喧嘩したいわけじゃないだろ。……いや、したいな。じゃれ合いみたいな喧嘩は。

 とにかく、ギスギスしたいわけじゃない。

 

「……悪い、俺の所為だな」

「え? ……いや、別にアタシも悪かったよ……」

「……」

「……」

 

 ……でも気まずい……。状況が状況だけに尚更……。下手なこと言うのは逆効果だな。樹里だってこう見えて強い奴だし、ここは黙ってた方が……。

 と、思ってた時だ。

 

「何処だったんだよ?」

「え?」

「その……あ、アタシと……行きたかった場所……」

「……それ今聞く?」

「い、良いだろ! だ、だって……あれ……で、でーとの誘い……じゃんか……!」

「やめて、改めて言われると恥ずかしい」

「い、良いから答えろよ!」

 

 ……まぁ良いけど。嫌われてなかったことは分かったわけだし、言っても平気でしょ。

 なんて、自分でも忘れかけていたそもそもの理由を、思い出しながら言ってしまった。

 

「ここだよ」

「は?」

「この竜宮窟……上から、というか遊歩道から見るとハート型になってんの知ってるか?」

「あ、ああ。甜花が『なーちゃんと来たい……』なんて大分やべーこと言ってた」

 

 本当にやべーな……あの姉妹ってまともな恋愛出来るの? 宇宙ナンバーワンと顔と優しさを兼ね備える真のイケメンが現れても無理な気がする。

 

「それだけの理由で、恋愛のパワースポットになってんの」

「へぇ……え?」

「まぁ、ご利益とかあってもなくてもあんま信じてないけど、だからお前と来……あれ?」

 

 ……これ、告白してない? なんて自覚した時には遅かった。樹里は頬を真っ赤にしてこっちを見ている。

 

「なっ……お、おまっ……や、やっぱりそうだったのかよ⁉︎」

「え、や、やっぱりって?」

「や、な、なんでもない……」

「知ってたの? 俺がお前のこと好きなの」

「……」

 

 無言で頷く樹里。そんなに俺、分かりやすかったのかな……。

 

「わ、悪い……その……実は、盗み聞きしてた」

「は?」

「お前と、プロデューサーの……面接」

「……は?」

「わ、悪いとは思ってんだよ! けど……お、お前と一緒に旅行に行けると、思うと……聞きたくなっちまって……」

「え、じゃあ隣に座ってた下手くそな変装してた樹里っぽい人って、やっぱお前だったの?」

「気付いてたんじゃねーか!」

 

 うん。まぁ。や、樹里が盗み聞きするなんて思ってなかったから、半信半疑だったけどね。正直に話してくれたから許すけど。

 

「そ、それでだな……あ、アタシも……色々と、悩んでて……その……」

「その?」

 

 そういや、今俺告白したことになっちゃったのかな? なんかもっとこう……まともな告白がしたかったんだけど……。

 となると……返事は……『その』の続き? え、ちょっ、まだ心の準備が……! そもそも俺の中での計画は今回、稼いだ金でデートを重ねて少しずつ距離を詰めていく予定だったのに……! 

 

「あ、アタシの方がお前のこと好きなんだからな! 勘違いすんなよ!」

「……いきなりなんの競い合い?」

「う、うるせー! だ、だから……その……付き合うってんだよ!」

「え……ほんとに?」

「本当だ!」

 

 ……ま、マジか……。これで、俺と樹里は……恋人……。

 

「……なんか、実感わかねーんだけど」

「な、なんでだよ⁉︎」

「いや……なんか、口滑らせた形で告白したから……」

「……ちょっと分かる」

 

 まぁ、元々それなりに仲良かったわけだし、付き合ったからって何かが大きく変わるわけでもない。

 すると、ちょうど良い事に雨が徐々に上がって来た。一瞬だったのか……或いは、一時的に雨が弱まっただけか。

 

「あ、雨が……」

「いや、にしても階段を上がるのは厳しい。樹里、先に上に行って誰かいないか呼んできて」

「わ、分かった……!」

 

 数分後、プロデューサーさんと白瀬さんが降りて来て、肩を借りて救出された。

 

 ×××

 

 病院で診てもらい、消毒してもらったり縫ってもらったりと色々と治療を受けた後、部屋でおとなしくすることになった。バイキンが入らなかったのは奇跡だそうです。

 ホッと胸を撫で下ろしつつ、プロデューサーさんと七草さんに怒られてお礼を言われて謝られてを繰り返した後、一人で部屋にこもっていた。安静にしてろ、との事だ。

 

「ふぅ……」

 

 眠い……。てか、暇。こうして待機する時間はとっても退屈だ。スマホいじるくらいしやることがない。

 眠いので、しばらくダラダラしている間も、騒がしいアイドル達の声は聞こえる。さすがだよね。こういう状況でも楽しめるっていうのは。

 ま、それも友達と一緒だから、なんだと思うけど。あーあ……暇だ。

 そんな事を思っている時だった。扉が控えめに開いた。ノックも無しに誰だコノヤローと思いながら目を向けると、樹里がひょこっと顔を出した。

 

「は?」

「よ、よう……」

 

 何してんの? と、聞く前に、そそくさと中に入って来た。

 

「おい」

「暇してんだろ? その……遊びにきてやったぞ」

「バカ、お前がこんなとこにいんのバレたら……」

「バレねーだろ。入るとこと出るとこさえ見られなきゃ」

 

 そう言われりゃその通りだが……いや、にしてもプロデューサーさんか七草さんに来られたら終わりだ。

 

「チョコ、持って来てやったけど……それでもここにいちゃまずいか?」

「……少しだけだからな」

 

 ありがたく甘いものを受け取り、そのまま樹里は部屋で落ち着く。寝転がってる俺の隣に腰を下ろす。

 

「俺んとこにいて良いのかよ」

「平気だよ。少しここにいたらすぐ戻るし」

「あそう」

 

 まぁ良いけど……。

 

「で、どうしたの?」

「いや……だから、お前が暇してると思ったから。……その、そういう役割も……か、カノジョの……役目だろ……」

「……」

 

 ちょっ……樹里さん? あなた、いつからそんな女の子になっちゃったの……? 小学生の頃は女の自覚もなかった癖に……。

 ヤバイ……ギャップという名の水爆が胸で弾けてやがる……。

 

「……お前、なんかほんとに女だったんだな……」

「どっ……どういう意味だよ⁉︎」

「か……可愛くなったって意味だよ……」

「なっ……こ、この野郎! からかってんじゃねーよ!」

「うごっ⁉︎」

 

 座布団で顔面を叩き潰された。

 

「て、テメェこっちは怪我人なんですが⁉︎」

「う、うるせーバーカ! バ──ーカ‼︎」

「子供か!」

 

 この野郎め……! そっちがその気なら……と思ったが、怪我してるので無理。テメェ治ったら覚えとけよ……。

 

「お前は正直言うとカッコ悪くなったけどな」

「るせーよ。自覚はある」

「……でも、根の部分は変わってねーよな」

「は?」

「常に、誰かと自分のために動くとことかだよ」

「そう?」

「そうだよ。アタシはお前のそう言うとこが好きで……」

 

 ちょっ、い、いきなりなんだよ……。恥ずかしいこと突然言うなや……。

 なんて顔を背けた直後、また座布団が降って来た。

 

「ぼふっ! て、てめっ……何しやがんだコラァッ‼︎」

「な、何言わせんだよお前!」

「勝手にお前が抜かしただけだろうが‼︎」

 

 理不尽の極みかこの野郎! 

 恥ずかしさが天元突破したのか、樹里はすぐに立ち上がり、部屋の扉の方に歩いていく。

 

「もういい! じゃあな!」

「通り雨の如く騒がしい野郎だなお前は!」

「うるせーよ!」

 

 怒鳴ってから扉に手をかけた後、まだほんのり赤くなったままの顔で、ポツリと呟くように言った。

 

「……暇になったら、連絡寄越せよ。相手してやるから」

「……お、おう」

 

 ……どこまで可愛い奴なんだよ、お前は……。まぁ、俺もそう言う不器用で優しいとこが好きなんだけど……。

 ぎこちない返事を返すと、樹里は部屋の扉を開けた。部屋の前には、有栖川さんと果穂ちゃんと園田と杜野さんがいた。

 俺は怪我してる足を一切、気にせずに高速で部屋の扉を閉めて、鍵をかけた。

 その後、樹里がどうなったのかは俺も知らない。

 

 

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