最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。 作:バナハロ
帰りのバスの中、葉介は「財布を落として東京に戻れなくなった一人旅の少年」という体でバスに乗せてもらった。流石に脚に怪我を負ったまま歩いて返らせるわけにはいかなかったからだ。
が、まぁアイドル達には大体、事情はバレている。あの子、今回雇ったスタッフだろ、と。というより、何人か助けられた心当たりがあった。
で、その少年は今、一番前の席で爆睡している。なるべく関係がバレないように、樹里は離れた席に座っていた。
「……」
でも気になっていた。不機嫌そうに窓の外を眺めながらも、チラチラと葉介の方を見る。そんな樹里の隣に座っていた咲耶は、クスッと微笑みながら声をかけた。
「ふふっ、彼が気になるのかい?」
「っ、な、なってねーよ」
「隠さなくても良いよ。君とは知らない仲じゃないんだろう?」
「……知らない仲だよ」
「彼、君を助ける時に『樹里』と呼び捨てにしていたんだ」
……あのバカ、と心の中で毒突く。いや、それだけ自分のために焦っていたのだろう、と思うと少し嬉しかったりするが。
「……まぁ、その……幼馴染み、だったり?」
「へぇ……それは、素敵な話じゃないか。地元の、だよね?」
「まぁな。小学生の時、あいつ転校して東京に来て、この前、再会したんだよ」
「え……運命かい?」
「うるせーよ!」
本当に頭の中が王子様なJKである。……とはいえ、樹里もそれを少し信じたくはなったが。
「で?」
「……それだけだよ」
「なんだ。付き合っているわけではなかったのか」
「ね、ねーよ!」
「あっ……(察し)」
なんかもう色々と分かりやすかった。ぶっちゃけ、今ここで口説いてみたくなる子であったが、想い人がいるならやめておいた方が良い。
「でも……そうか。彼が、君と……」
「なんだよ?」
「いや、彼は何度か私の胸を舐めるように見ていたからね。てっきり、胸の大きい子が好みなのだと思っていたよ」
「小さくて悪かったな!」
「いや、そういう意味じゃないんだ。つまり、彼は君の中身を見ていた、ということだろう?」
それを言われると、樹里は少し恥ずかしくなる。というか、基本、褒め言葉は何を言われても恥ずかしくなる。赤くなった頬を窓の外に向け、不機嫌そうに鼻息を漏らした。
「おや、怒らせてしまったかな?」
「怒ってねーよ」
「では、お詫びに一つ、良い事を教えよう」
イケメンフェイスのままウィンクすると、急にキリッと真剣な表情になった咲耶は、真顔のまま告げた。
「胸は……盛れる!」
「余計なお世話だ!」
「良いから、これを見てくれ」
今の流れで「良いから」と流そうとする咲耶に少しイラッとしつつ、とりあえずスマホに目を移した。載っているのは「L'Antica」の水着集合写真。バスト90以上が二人もいると、やはりインパクトが違う。
思わずギリッと奥歯を噛み締めてしまいたくなったが、咲耶が拡大して見せたのは、三峰結華と幽谷霧子の胸元だった。
「……あれ?」
違和感はそこにある。タンポポとヒマワリくらい胸囲に差があるアンティーカの面々だが、写真でそこまでの差は感じない。特に、結華と恋鐘はピッタリ20の差があるにも関わらず、写真では10〜15ほどの差しか見られない。
「こ、これは……?」
「二人は、撮影前に盛っていたんだよ。それなりに大きく見えるよう、工夫をもってして」
「あ、アタシでもここまでになれるってのか……?」
「なれる!」
「……」
さっきまで半ギレだった樹里も、今では誕生日を待つ少年のように目をキラキラと輝かせ、そわそわしていた。
「私はその現場にいたわけじゃなく、たまたま聞こえた話を記憶しているだけだ。本格的にやるなら二人に教わることを薦めるが……」
「いや、なるべくなら情報を知る奴は少ない方が良い。……頼む、教えてくれ、咲耶」
「ああ、任せて」
二人で握手をして、座っている間に出来ることを探った。
×××
サービスエリアに到着し、一時休憩。お手洗いに行く人、飲み物を買う人、色々といる中、葉介は爆睡していた。
その寝ている葉介がどうにも気になった樹里は、隣の席に座った。トイレくらいは行かせた方が良い……という建前の元、実は自身の胸を見せつけるためである。
「おい……葉介。よーすけ!」
「んあっ……?」
目をコシコシと掻きながら、薄っすらと目を開く葉介。隣を見ると、樹里の姿が目に入った。……巨乳の樹里が。
「さ、SAに着いたぞ。トイレくらい、済ませとけよ」
「……」
あくまでも葉介に気付かせるために、樹里は建前の用件を話した。
一方、寝ぼけている葉介は。小さく欠伸を浮かべながら、樹里の胸を二度見する。その後、樹里の顔を二度見した。
引くほど疑い深く樹里を眺めた後、小首を傾げながら尋ねた。
「胸に水膨れ出来てんぞ」
「死ね‼︎」
バカを殴り飛ばすと、樹里は1人でトイレに向かった。
×××
「ったく、あの野郎〜……‼︎」
イライラが止まらない樹里は、サービスエリアの自販機で飲み物を買いながら歯軋りしていた。
「だ、大丈夫かい?」
やんわりと声を掛けたのは咲耶だ。余計なことをしてしまったかも、と少し気にしてしまっている。
「大丈夫だ!」
「そ、そっか……」
大丈夫には見えなかった。胸に詰めていた詰め物などあっさりと外し、ゴミ箱にダンクしてしまう程度にはイライラしていた。
「なんだよ、胸に水膨れって! どこまでデリカシー捨てればそんな言葉が出てくんだよ⁉︎」
「ま、まぁまぁ……」
「クッソー……いつかゼッテー大きくなって見返してやるからな、あのバカ……!」
まだ高校二年生、まだワンチャンある。そう思いつつも、もう手遅れかも、なんて弱気になってしまったり。
どう声をかけたものか、咲耶が困っていると、二人のもとに新たな女性が入って来た。
「何騒いでるのよ、樹里。もっとエレガントになりなさい」
「……な、夏葉……今は、そういうのは……」
「ああ⁉︎」
まるでヤンキーのように顔を向けた樹里を見て、夏葉は「何があったの?」と咲耶に視線で聞いた。
「ああ……いや、私が余計なことをしてしまったみたいなんだ。樹里と幼馴染みの彼に、胸に詰め物を詰めて見せたら……」
「……デリカシーのない返事を聞いたと?」
先読みした答えに、咲耶は頷いて答えた。昨日の夜に、樹里が葉介の部屋で話しているのを盗み聞きしていた夏葉は、二人の関係が咲耶以上によく分かっている。
だからこそ、夏葉は正面から言い放った。
「……いや、あの子は胸なんか気にするような子じゃないでしょ」
「はぁ⁉︎」
「大きいのが好みかもしれないけど、あんたに限った話で言えば、それは逆効果よ」
「どういう意味だい?」
咲耶が聞くと、夏葉はスラスラと答える。
「だって、あの子は樹里の中身が好きで付き合い始めたんだもの。外見なんていくら取り繕っても……それこそ、作り物の胸なんて急に見せたところで、何なら心配されてもおかしくないレベルだわ」
「そ、そうか……?」
「そうよ」
断言され、樹里も冷静に考えてみる。確かに……こう、せめてデートの前とかにすれば良かったのかもしれない。
「……あとで、謝っておくか」
「そうした方が良いわよ。……まぁ、勿論、あの子のデリカシーの無さも問題だけど」
普通の人なら「胸に水膨れ」とは出て来ない。仮にも彼女に。
「どうやら、私は私で余計なことをしてしまったようだね」
「いや、咲耶は悪くねーよ。アタシの考えが足んなかった」
「じゃ、何か買って行ってあげたら?」
「だな」
それだけ話して、とりあえず何か甘味を購入しに行った。
「そういえば、あの彼は何が好きなんだい?」
「甘い物だな」
「なるほど……意外と女の子っぽいものが好みなんだね」
「変なとこで女々しいからな」
「それで、智代子とよく甘いもの食べてたわよね」
あのやたらと趣味が広範囲な男は、放課後クライマックスガールズの面々と趣味が被っているため、その度に樹里はイラッとしたものだ。今にしても思えば、あの時の感情はジェラシーだったわけだ。
……恥ずかしくなるから忘れることにした。
「甘い物、か……特にどんなものが好きなんだい?」
「あー……なんつーか、小学生の頃は『甘過ぎないで苦い奴が好き』とか言ってた」
「あはは、わかるわかる。『大人な味』って書かれてて、それが食べられれば大人だと思ってしまうんだよね」
「それ少しわかるわ。そういう子って、大きくなっても大体ブラックコーヒーを飲めないのよね」
大当たりだった。今でもコーヒーどころか紅茶にも砂糖とミルクである。
「じゃあ、抹茶とか良いんじゃないか?」
「お、良いな。抹茶プリンとか」
「うん。探そう」
それだけ話すと、飲食物がある辺りを見回る。ちょうど良いことに抹茶プリンを見つけた。その隣には、ミルクプリンやチョコプリンが置いてある。
「お、あったじゃないか」
「じゃ、買ってそろそろ戻りましょう?」
「だな」
言うと、樹里は抹茶とチョコのプリンを手に取った。
「二つも買うの?」
「い、良いだろ別に」
あ、これはシェアする気だな、と二人はすぐに察した。可愛い上にわかりやすいとか反則である。
ヒョコヒョコとプリンを二つ、買いに行く樹里の背中を見ながら、咲耶は夏葉に聞いた。
「……で、樹里にとって彼はどういう存在なんだい?」
「前に言ってたのは『恩人』だそうよ」
「……というと?」
「友達がいなかった樹里に友達を作ってくれたのも、アイドルに勧誘された時、やると決断できたのも、全部、彼の影響なんだって」
「……ふふ、道理で」
普段と、葉介といる時とでは表情が違い過ぎる。彼が良い人間であることも理解出来ている。恐らくだが、樋口円香をナンパした時も、ナンパ自体が目的なのではなく、彼女を一人にさせないことが目的だったのだろう。
逆に言えば、そんな恩人が転校した時は、相当ショックを受けたことだろう。
「再会できて良かったね」
「まったくよ」
そんな話をしつつ、ニコニコしながら戻って来る樹里を見て微笑ましく見守った。
×××
「樹里のチョコの奴、美味そうだな」
「美味いぞ。……た、食べるか?」
「良いのか?」
「く、食いたいんだろ?」
「じゃあ一口……」
「あ、待て待て! ……そ、その……食べさせて、やるから……」
「え、いや……え、ほ、本気?」
「お、お互いに違う味のスプーン使ったら味混ざるだろ!」
「プリンで味混ざるとかある?」
「っ〜〜〜! う、うるせーな! 食うのか食わねえのかハッキリしろ!」
「……い、いただきます……」
「……ど、どう?」
「……樹里の唾液の味がする」
「死ね!」
「ゴフッ!」
こんなやり取りを聞かされ続けたアイドル達は「やっぱお前ら別れろ」と思いながら、全力で眠るフリをし続けた。