最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。 作:バナハロ
話が逸れると主題が進まなくなるから、会議には司会進行役がいる。
真夏、それは全てを狂わせる魔の季節。暑過ぎて頭パーンってなる奴も少なくないし、熱中症でぶっ倒れる人数も年々増えている。俺から言わせれば「お前らちゃんと熱中症対策してんの?」って感じだが。
まぁ、それでも体質によるのだろうし「自分はいいの」と思っている楽観主義達を除けば、同情すべき点はある。
て、そんな事どうでも良くて。今日は引くほどの炎天下。熱中症注意報が出ていて、用もないのに外に出るのは余程、体が強い奴かバカかのどちらかという日、俺は優雅に家で涼んでいた。
両親は仕事なので、朝からクーラーをガンガンに効かせても何の問題もない。そもそも、クーラーをつけるのは決して悪い事ではない。暑くて暇な時間は何のやる気も起きないが、涼しくて暇な時間というのは何かに費やそうと思えるのだ。
今、俺のマイブームとなっているのは、料理とピアノである。母親がこの前買った電子ピアノを弾くのが地味に楽しい。
この前、バイトから帰って来たばかりで、脚の怪我も完治したわけではないので、ここでのんびりする他なかった。
……まぁ、あの数日間で色々あったわけだが。色々あったのに、樹里は翌日からきちんと仕事している。
とりあえず、ようやく今日、樹里がオフらしいので、夏休みの予定を決めることになっている。
今は、その電話待ちだ。
「……」
のんびりしていると、インターホンが鳴り響いた。誰かと思って応対しに行く。
「はーい……え」
「よ、よう……」
「お前何してんの?」
樹里が来ていた。汗だくの顔で。
「い、いや……その……せっかく、恋人になったんだし……オフの日くらい、会いたくて……」
「……え、あ、うん。じゃあ、上がって」
てっきり電話で決めるもんだと思ってたが……まぁ良いか。
家の中に案内し、リビングに案内した直後、樹里から「ああ〜……」というおっさんのようなため息が漏れた。
「涼しい〜……」
「おっさんかお前は」
「だ、誰がおっさんだ!」
「シャワー浴びるか?」
「いや、時間がもったいねえ。今日は夏休みの予定を決めるんだ。既に4分の1終わってるとはいえ、これから先は計画的に過ごさないとあっという間だぞ!」
まぁ、そうだな。特に、樹里にとってはすぐに終わってしまう事だろう。アイドルの仕事もあるわけだし。
「わーったよ。じゃあ、とりあえず飲み物だけ入れるな?」
「お、じゃあコーラで!」
「はいはい」
冷蔵庫に向かい、コーラをコップに注ぐ。それとおやつを用意して、机の上に運んだ。
「はい」
「さんきゅー!」
ニヒッと無邪気な笑みを浮かべて俺を見上げたあと、一口コーラを飲んだ。そんな仕草一つ一つが、何故か俺の目には特別に映る。もしかして……恋人になったから、だろうか?
とりあえず、俺もソファーに座ろうと樹里の隣に立つ。が、すぐには座らなかった。なんか、こう……変に意識しちゃって……。こいつ、本当に可愛くなったな……。少しは、恋人っぽいことしても良いのかな……。
少し考えた後、ソファーに座る樹里の後ろに俺は座り、後ろからお腹の前に手を回した。
「っ、い、いきなりなんだよ⁉︎」
「いや……なんか、恋人になったし抱きつくくらい良いかなって」
「っ、い、良いけど……で、でも……今、汗すごいし……!」
「気にしないよ」
「こっちが気にすんだよ!」
「え……じゃあ、離れる?」
「は、離れることは、ねえけどよ……」
……可愛いなぁ、もう。だめだこれ。なんか俺の方が耐えられそうにない。
「ごめん……その、やっぱ普通に座るか……」
「な、なんでだよ……」
「いや……少し、その……もたないから」
「……」
勇気を振り絞ってみたものの……これ、思ったより恥ずかしいわ……。何より、顔が近い。
そう思って立ち上がった時だ。俺の腕を、樹里が引っ張り、無理矢理、元の位置に座らせる。
「……ダメだ」
「は?」
「だ、ダメだ! ……そ、その……恋人なんだから、少しくらい……くっついてたって、良いだろ……」
「……」
あー……尊過ぎて死んじゃう……。なんでこんなにこの子は……昔のこいつを知ってる分、尚更、胸に刺さるというか……。
「……」
「……」
クーラーをつけているとはいえ、さっきまで炎天下の中を歩いていた樹里の肌は暖かい。ていうか熱い。
にも関わらず、離れようと思えなかった。昔、肩とか組んでた時は気付かなかったけど、こいつの体はやはり柔らかい。本当に女の子だったんだな……。
「……樹里、このまま計画立てるの進む?」
「……や、やっぱり……離れるか……」
離れた。改めて隣に座り直す。
「……」
「……」
冷静になると、俺達かなり恥ずかしいことしてたなぁ。二人揃って頬を赤らめたまま顔を背けてしまっていた。
その照れを振り払うように、樹里が鞄の中から何かを取り出し始めた。目の前に置かれたのは、ルーズリーフとシャーペン。それらが、俺と樹里の前に一つずつ置かれている。
「あ……ど、どうする?」
「まずは、お互いにやりたい事を箇条書きで書いてって、一致してる奴を空いてる日にぶち込めば良いだろ」
「ああ、なるほどね……」
流石、こういうのは慣れてるなぁ。なら、このまま書くか。
とりあえず、考え始める事、10分。書くことがなくなって背もたれに身を預けると、全く同じことをしていた樹里と目が合った。
「あ、終わった?」
「おう。そっちは?」
「終わった。じゃ、見せ合うか」
そんなわけで、紙を手に取ってお互いに見比べた。その中から最大公約数を見つけて、それを予定に書き込む……。
「……おい、葉介」
「ん?」
「野球、サッカー、バスケ、テニス、バトミントン、卓球、ソフト、フットサルって、これ全部ひとつで良いだろ!」
「え、やりたくないの?」
「や、やりてーけど……せっかく夏休みなんだから、夏休みにしか出来ない事を書けよ!」
「夏祭りとか海なら書いてあるよ」
「あ、書いてある……そう、こういうのを書けよ! とにかく数増やしゃ良いってもんじゃねえからな?」
なるほどね。要するに、普段できないようなことを書けってことか。長期休暇ならではの奴だな。
「んー……じゃあスポーツ関連は全部バツかー……」
「そういうのは、たまたま空いた時間とかにやろうぜ。特に、サッカーとかバスケなんてボール1個あればどこでも出来んだから」
「だな」
そう言いつつ、二人の中で一致している部分に丸をつけていく。お祭り、プール、海、買い物、スポーツ観戦、釣り……などなどと、とにかく色々。遊園地とか夏じゃなくても良いだろうに一致してるし。
そんな中、ふと俺のリストにはあって樹里の方には無いものが目に入った。
「肝試しはやらんの?」
「え、い、いいよ別に」
「怖いの苦手だったっけ?」
「好きじゃねえけど……そんな大袈裟にビビる程じゃねーよ。お前もそうだろ?」
……確かに。そう思うと、肝試しとか楽しくないかもな。何なら夜の散歩になるレベル。
「じゃあ……とりあえず、この辺だな」
「ここから、無理そうなのを断捨離するぞ」
「無理なのある? やろうと思えば……」
「例えば、このサッカー観戦とかアタシの休みと合わないと無理だろ」
「ああ、なるほど」
まぁ、今は先を見ないでとりあえずネタ出しした段階だからな。
「葉介は基本、暇なのか?」
「基本暇だね」
「じゃあ、とりあえずアタシの休日な」
そう言って、樹里はツラツラと休日を書く。うーん……やっぱ少ねえな……。想像はしてたけど、アイドルって忙しいみたいだ。
「これは全部は無理だな……」
「とりあえず、海とプールはどっちかにしねえか?」
「だな。どっちが良い?」
「ん〜……」
聞くと、樹里は難しそうな顔で唸る。が何を思ったのか、すぐに頬を赤らめて俯いてしまう。
「どした?」
「……なるべく、人目を気にせず……イチャつける場所……」
「……」
……何恥ずかしいこと言ってんのあんた……。
「……お前さ、いつからそういう感じだったの?」
「なんだよ、そういう感じって」
「その……い、いちゃつきたい、みたいな……」
「し、知らねーよ! いつだって良いだろ!」
「や、だって……そんな事、言う子じゃ無かったじゃん」
「な、なんだよ! 嫌なのかよ!」
「嫌じゃ、ないけど……」
……いや、でも……何? 恥ずかしいでしょ、そういうのは。人前じゃ俺もいちゃつくのに勇気いるわ。
「なんだよ。お前、もしかして家じゃ抱きついて来る癖に人前じゃそんなことする度胸もねえのか?」
「……」
OK、その喧嘩を買おう。
「お前に言われたくねーんだよ。少し後ろから抱き締められたからって顔真っ赤にしやがって」
「あ、あれは不意打ちだったからだろ! 人の隙を突くことしか出来ねーセコい野郎が!」
「じゃあ、されるって分かってたらお前は照れねーんだな?」
「照れねーよ! アスナロ抱きでも壁ドンでもなんでも来いよ!」
「アスナロ……?」
「あの上からギュってする奴」
「もしかしてお前、少女漫画とか読んでた?」
「……」
ホント可愛くなったなぁ……こいつ。
まぁ良い。とりあえず、お前がそう言うなら俺は乗ってやるだけだ。
「じゃあ、今から……その、アルパカ抱き?」
「アスナロ抱きだ! どんな抱き方だそれは⁉︎」
「そうとも言う。それやるから」
「そうとしか言わねえよ! ……え、今から?」
「うん」
軽く返事をすると、俺は再びソファーの上に乗った。背もたれの部分に腰を下ろし、後ろから樹里を眺める。無防備で綺麗なうなじが目に入り、思わず唾を飲み込んでしまう。俺はこれから、この背中を抱きしめ……っと、バカ! 変な事考えるな! これでも、樹里は俺の事を信用してくれてるんだから!
「すぅ……はぁ……」
「おい、早くしろよ。それともお前がビビったのか?」
「……」
OK、容赦という言葉が蒸発した。
後ろから樹里の両肩前に腕を垂らした。で、お腹の前でギュッと手を絞め、顎を頭の上に置く。
「ーっ……!」
あ、これやってる側も恥ずかしい……。樹里の身体を上半身で体感できるという、なんか、こう……悪いことしてる感が……その上、直でシャンプーの匂いが漂って来て……。
「〜〜〜っ……!」
……でも、樹里が俺以上に照れてるので、なんとか正気は保てた。
「っ、は、はっ……大したことねえな……!」
「照れてんじゃん」
「て、照れてねーよ!」
「顔赤いぞ。りんごかお前は」
「っ……こ、攻守交代だ!」
「?」
「やられっぱなしでいられるかよ!」
……なんだよ、もう。まぁ好きにしたら良い。女の子にはわからんかもだけど、やる側はやる側で神経使うんだからな。
が、それを聞くつもりもないようで、樹里は俺の両腕に手を掛ける。一瞬、名残惜しそうに手を震わせたが、すぐに振り払う。で、後ろに回り込んだので、俺は普通にソファーに座った。
「い、行くぞ……!」
「どーぞー」
声震えてんじゃん……。大丈夫かこいつ? いや、気持ちはわかるが……まぁ、樹里もそこまでメンタル強いわけじゃないからな。特にこういう事に関しては。
恋人って関係になった所で何も変わらないとか思ってたけど……その肩書だけでここまでお互いに照れちまうとは思わなかった。
ま、そういうのもこれから少しずつ慣れていけば良いでしょ。幸い、親の転勤があっても、俺がここに残りたいと言えば一人暮らしさせてもらえる程度には、うちの親父の稼ぎは良い。
樹里だってアイドルを続ける限りは東京にいるだろうし、少なくとも俺が進学する大学が地方だった場合を除けばいつでも顔を合わせられる。お互いに少しずつ距離を縮めるには良い機会だ。
……ていうか。
「……まだ?」
「う、うるせーよ! ……か、果穂……チョコ、凛世……そして夏葉、アタシに勇気を……!」
「……」
……まぁ、亀の足取りで縮む距離かもしれないが。気長に待つことにしよう……。
「うおおーブフッ!」
「ゴフッ⁉︎」
唐突に後頭部に樹里の顎辺りが直撃し、しばらく二人揃ってその場で蹲ってしまった。