最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。 作:バナハロ
デートとは、一体なんだろうか? と、たまに思う。要するに男女が二人で出掛けりゃデートなのかもしれんが、俺と樹里が今の今まで、付き合う前にも二人で出かけていたのもデートなのだろうか? 多分、それはちがう。だってどちらかと言うと「女と遊ぶ」よりも「友達と遊ぶ」という意識の方が強かったのだから。
でも、この前のショッピングモールで出掛けた奴、あれはデートと言えるだろう。
しかし、この差は一体何なのか。結局、同じ奴と同じ人数で同じように出かけているというのに……。
なんて疑問が昨日まで浮かんでいたが、明らかなるデートをこれなら控えている俺には、その違いがよくわかった。
デートってすごいソワソワする……。しかも、待ち時間がとても落ち着かない。
現在、9時半。待ち合わせ時間は10時。待ち時間は1時間。つまり、待ち合わせの1時間半前に待ち合わせ場所に到着してる。俺はアホかと。
でも……夜は眠れねーし、家にいてもソワソワしてもっと落ち着かないだけだし、ここに来るしかなかったんだよ……。
……しかし、割とこの炎天下の中で待つのはキツいな……。
「……ふぅ、暑い……」
思わず汗をかいてしまったときだ。パタパタとこっちに駆け寄ってくる金髪が見えた。
「わ、悪い……! 待たせた」
「一秒も待ってねー……よ……?」
……銀色の髪飾りに、普段はやらない、もみあげを耳掛けるアレだと……? クソッ……こんな些細な変化でも可愛いものは可愛い……!
「……準備に、手間取っちまってよー……」
チラ見すんなああああ! 気づいて欲しい感じ全面に出し過ぎなんだよおおおおおお!
「あー……その、なんだ……。とても、お似合いだと……思い、マス……」
「っ、そ、そうか……? へへっ、へへへっ……!」
……く、クソ……可愛いなんてもんじゃねえ……。心臓止まるかと思うレベルだよ、もう……。
機嫌が良くなった樹里は、すぐにスパッと俺の手を取り、引こうとしたが、ふと何か違和感を覚えたのか、俺の顔を見上げる。
「お前、手え熱っ⁉︎ てか、顔も赤いぞオイ!」
「そう?」
「そうだよ! ……てか、アタシも早めに来たってのに……お前、いつからここにいんだ?」
「一時間くらい前」
「アホか! 一旦、涼みに行くぞ!」
「え、プールは?」
「後!」
そんなわけで、一度カフェに入って涼んで行った。
×××
少し遅くなってしまったが、そもそも集まった時間が早かったのでプラマイ0。
で、今はプールの更衣室前。俺はさっさと着替えを終えて、樹里のことを待った。
……うーん、ソワソワする。やっぱり、こう……待ち時間って好きじゃないわ。特に、楽しみなことを待ってる時間っていうのは、どうにもワクワクが抑え切れない。
けど……待てば待つほど、その楽しさは……。
「お、お待たせ……」
大きくなるというものだ……。
現れたのは、水着姿の樹里だ。自分で選んだ水着を褒めるのも変な話だが、クソ似合ってる。
……でも、まぁ……なんだ。自分で選んだからこそ、気にかかる事もある。
「……なぁ、良かったのか? 俺が選んだ、その水着で……」
「まだ言うか、お前」
「や、だって……正直、似合ってるんだけど……」
「なら放っておけよ! アタシが気に入ったからこれを買ったんだ!」
「わ、悪い……」
……まぁ、こう言ってくれるなら良いか。改めて、二人でプールに向かう。
「さて、まずは何するよ?」
「準備体操!」
「まじめか!」
「バカ、お前もスポーツやってたんなら準備体操がどれだけ大切か知っとけっての!」
まぁ、そう言われりゃその通りだが……。そうじゃなくてだな……。ま、とりあえず流れるプールで流されながら、のんびり楽しめば良いか。
二人でプールの中に入り、一緒に泳ぐ。樹里が前を泳ぎ、俺が後を追う形になった。……後ろから見てるとよく分かるのが、樹里ってアスリートとしては理想的な身体してるんだよなぁ……。無駄な脂肪もないし、スラッとしてて腹筋も微妙に割れてて、身長も160くらいあるし。
そう見ると、俺にとっては少し羨ましいくらいだ。俺は男にしてはタッパが無いから。
「おーい、何してんだよ。早く来いよ」
「お、おう」
泳ぎながら、顔面に水をかけて来たので、潜って回避して水中から接近する。勿論、ズボンズボン脱がしなんてバカな真似はしない。ズボンっつーか海パンか。
「良いか、葉介。最低でも、二つのウォータースライダーは回るぞ。そのために、この流れるプールに入るんだ」
「まぁそりゃ良いけどよ……でも、ほんとに勢いすごいよ? 片方は年齢制限ある程度には」
「何の問題もねーよ!」
との事で、とりあえず2人で流れるプールの中を進みつつ、でっかい建物に向かう。いきなり激しい方で来たかー……。
小さくため息をつきながら、二人でカンカンと階段を上がった。
「樹里、ちゃんと紐結んでおけよ」
「わーってるよ」
こういう忠告、樹里はちゃんと聞いてくれるからありがたい。水着の紐などを確かめ、最上階まで来た。
幸い、空いていたのですぐに降りられた。二人で係員の指示に従いつつ、浮き輪にまたがって腰を下ろす。
「アタシ前で良いか?」
「良い……え、お、俺が後ろ?」
「そうよ」
……てことは、以前のアスナロ抱きみたいなことさせられるのか……! やるよりやられる方がマシだ!
「お、俺が前!」
「はぁ⁉︎ ふざけんな! アタシ、抱くより抱かれてえよ!」
「やっぱりテメェもそういう理屈かコラ! 俺は絶対後ろヤだからな!」
「か、彼女を自然と後ろから抱けるんだぞ!」
「そういうのはもう少し育ってから言いやがれ!」
「テメェ、ぶっ殺すぞ!」
「はい、流しまーす」
「「えっ」」
浮き輪に並んで座っている俺と樹里の背中を強引に係りの人に押され、俺達は一気に急降下した。
「「いやあああああああ‼︎」」
大きめの浮き輪の穴に、二人揃って抱き合いながらお尻を埋める形で流された。体が前を向いているのと横を向いているのとでは、バランスの取り方が全然違う。それでも落ちずに済んでいるのは、俺と樹里の運動神経が良いからだろう。
……とはいえ、かなりキツイが。まぁでも、真下まであと少し……!
ん? ……というか、ですね? 俺と樹里が密着してるってことは、必然……胸も何もかもがくっついてる訳で……てか、意外と胸柔らか……!
「樹里……あの、この体勢……樹里?」
「……」
こいつも顔真っ赤にしてる……。どうやら、同じタイミングで自覚してしまったようで……。
お互いに照れるタイミングが重なるということは、当然ながらバランスを崩すタイミングも重なる。一番下のプールに着水すると共に、俺と樹里は浮き輪から綺麗に落下した。
「ぇほっ……けほっ……! じ、樹里、大丈夫……か?」
「……ぶくぶくぶく」
……照れちまって上がって来ねえ……。でも、ここにいると次の人の迷惑になるんだよな……。多少、強引にでも連れて行くか。
控えめに樹里の二の腕を引くと、放心状態であった樹里の反応が一瞬遅れる。そのまま引き込んで、肩に手を回した。
「ほら、ちゃんと歩け」
「〜〜〜っ!」
「あふん⁉︎」
爆テレした樹里の頭突きを見事に喰らった。それも顎に。
「か、カッコイイ仕草すんなバーカ! バ────カ!」
「し、小学生かお前は……」
痛過ぎて熱を帯びた顎を抑えながら、先に上がってしまった樹里の後を追う。うー……少しクラクラする……。今のは良いとこ入ったな……。
フラフラとプールサイドに向かうと、上から手が差し伸べられる。顔を上げると、樹里がしゃがんで目を逸らしながら手を伸ばしていた。
「……わ、悪かった……。少し、テンパった……」
「いや……俺こそ悪い。次は……俺が後ろになるから」
「……じゃあ、その次はアタシが後ろな」
「三回も乗るのかよ」
「嫌なのかよ?」
嫌じゃねーよ。
このあと、普通に酔った。
×××
少しグロッキーになった後は、そろそろお腹が空いて来たので、二人でお昼。一度、更衣室に戻って財布やバスタオルを持って身体を冷やさないようにしながら飯を食う。
「ふぅ……美味ぇな!」
「まぁ、そんな本格的な店程じゃないけどな」
よくあるよね、この手の施設のフードコートに必ず一品、やたらと美味い奴。うちの場合はフライドポテトだ。
「樹里も摘めよ」
「……良いのか?」
「当たり前だろ」
「さんきゅー。はむっ……え、うまっ」
微笑みながら、樹里もポテトを摘むと、ほぼ予想外かつ反射的に出た、みたいな感じで目を丸くした。
「だろ?」
「じゃがいもの風味がしっかり残ってて……その上で塩加減も抜群でサクサクホクホク……なんだこれ?」
「ポテトだよ」
いや、気持ちはわかる。俺も初めて食べた時は普通に引いた。
すると、何か思いついたのか、樹里がポテトを取り出し、俺に差し出してくる。
「あ、あーん……」
「……」
ここで「いきなり何?」なんて言えば顔を真っ赤にしてポテトを目に刺されるのは目に見えている。……でも、ホントいきなりどうしたんだろう。
……少し恥ずかしいが……まぁ仕方ないか。
「あー……んっ」
「う……美味いか?」
「美味い……」
「へへっ……」
「でも、急にどうしたんだ?」
「いや……その、なんか……食べさせ合いっこ、させたくなって……せっかくのデート、だし……」
「……」
何その可愛い理由。
×××
続いて、競泳プール。やはり体育会系といえばこれだろう。50メートルのプールが設置されていて、ただ真っ直ぐ泳ぐのみ。
で、そこにバッキバキの運動バカが集まれば、始まるのはただ一つ。
「競争な?」
「上等だ!」
「負けた方は?」
「じゃあ……あれだ。プロデューサーさんの額に肉って書く」
「OK!」
決定した。罰ゲームないと面白くないからね。
「でも、ハンデはなくて良いの?」
「いらねーよ!」
「いや、男女だからさ。この前の腕相撲で思い知ったでしょ?」
「いらねーって言ってんだろ⁉︎ アタシ、この前の伊豆とか撮影で結構、泳いでるからな。むしろ、お前の方こそ大丈夫か?」
「……後悔すんなよ?」
「どっちが! 勝つまでやるからな⁉︎」
結果、後日になってプロデューサーさんと放クラメンバー全員の額に肉と書かれた写真が送られて来た。
×××
他にも、波のプールや別のウォータースライダーなど、とにかく遊びまくり、気がつけば夕方になってしまっていた。
入場者も減り、俺達もそろそろ帰ろうか、ということになり、プールを出る。女の子は準備に時間が掛かるそうなので、その間、俺はお土産屋さんで買い物。自分が働いてる店だから割引してくれた。
で、あとは飲み物を二本買う。片方は樹里の分だ。のんびりと待機していると、遅れて樹里がやってきた。
「お待たせ」
「待ってねーよ」
「それはもうわかったっつの」
「はい」
「お、さんきゅ」
飲み物と一緒に、さっき買ったお土産を一緒に渡す。
「? 何これ」
「お揃い」
言いながら、俺はカバンを指した。付けられているのは、あざらしのストラップ。
「ぷっ……なんであざらしだよ」
「いらねーなら返せ。一人でお揃いやるから」
「いらねーなんて言ってねーだろ。さんきゅ」
そんな話を微笑みながらしつつ、ベンチに座ってラムネを飲む。炭酸のシュワシュワが喉に伝っていく。
「……なぁ、葉介」
「なーにー?」
「アタシ、今死ぬほど楽しいんだ」
「あそう」
「そんな時に、お前は突然、いなくなっちまったよな?」
「……」
そうね。あれは申し訳なかった。事情もちゃんと話さずに。
「……今度は、いなくならないよな?」
「……ああ」
「ならいい」
まぁ、一人暮らしのためのスキルも磨いてるからな。炊事洗濯家事全般。……料理は少し苦手だけど、炒め物程度ならできる。親が転勤ってなっても、マンションで一人暮らしする覚悟はある。
「うしっ、じゃあそろそろ……」
「少し、寄り道して帰らないか……?」
「……だな」
そんな目で言われたら断れないっつーの……。片手にサイダー、片手に樹里の手を握って、そのまま二人で遠回りして帰った。