最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。   作:バナハロ

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放クラ会議(キス編)

 283事務所では、樹里は慎重な足運びで移動していた。今日は罰ゲームの日。競泳5連敗を果たした樹里は、放課後クライマックスガールズ全員の額に「肉」と書いた上で写メを撮り、葉介に見せなければならない。ちなみに、葉介はもうその罰ゲームのことを忘れているのは内緒だ。

 そんな話はともかく、だ。約束は約束、と言うスタンスの樹里は、スマホと水性のマジックペンを構えて移動する。まぁ、半分くらい「面白そう」という邪心が含まれているのは否めないが。

 まずはプロデューサー……と思ったが見当たらないため、仕方なく放クラメンバーに狙いを定める。

 

「……お」

 

 丁度、智代子がソファーの上で眠っているのが見えた。好機と書いてチャンスである。

 慎重に接近し、クルクルとペン回しをしながらソファーの後ろに回り込む。で、水性ペンで額に肉と書き、写メを撮った。

 

「プッ……ふふっ……」

 

 ……思ったより面白かった。笑いを堪えるように笑みを浮かべながら、とりあえずその場を離れる。

 さて、次は誰にやるか……などと考えていると、手首を掴まれた。

 

「……何してんの? 樹里ちゃん」

「げ……お、起きた?」

「起きた」

 

 ……バレてる。何をしたのか。ジト目で自分を睨んでいる。

 

「と、トイレ行ってく……」

「逃さないよ」

「……」

 

 この後、めちゃめちゃ怒られた。

 

 ×××

 

「なるほど……要するに、罰ゲームってことね」

「わ、悪い……」

「良いよ、別に。水性だし」

 

 何とか怒りを沈めてもらった。で、大体、次はこうなる。

 

「……面白そう。私も協力する!」

 

 こんな具合に悪意は伝染するのだ。特に被害者は、同じ悔しさを他人にぶち撒きたくて仕方ないのである。

 

「……で、次は誰にするの?」

「隙があるやつだな」

 

 そんな話をしてた時だ。レッスンルームからボロボロになって夏葉が出て来た。

 

「ああ……つ、疲れたわ……」

 

 直後、樹里と智代子はギンッと目を光らせて夏葉の方を振り向く。打ち合わせも何もしていないのに、樹里は自身のスマホを智代子に手渡し、水性ペンを抜く。

 

「夏葉ちゃん、額に何かついてるよ?」

「あら、そう?」

「とってやるから、目を閉じろ」

「悪いわね」

 

 そう言って、接近した二人は、樹里が額に文字を書き、智代子が写メを取った。明らかにおかしな感触だった上に、シャッター音まで聞こえたからか、すぐに夏葉は目を開く。

 

「……何したのよ、あんた達」

「筋肉夏葉」

「消しなさい!」

 

 うがーっと掴みかかるが、樹里がその前に立ち塞がる。

 

「チョコ、その写真を葉介に送れ!」

「任せて!」

「何を結託してんのよあんたら!」

「罰ゲームなんだ!」

「知らないわよ!」

 

 ギャーギャーと騒がしくなる。それはそうだろう。レッスンでズタボロになった体を引き摺って出て来たら顔に落書きされなきゃいけないのか。

 納得いくはずがないので、そのままワーギャーと騒いでると、事務所の扉が勢いよく開く。

 

「こんにちはー! ……あっ、夏葉さん! キン肉マンですか⁉︎」

「あんたら人のおでこに何書いたのよ!」

「私も書いて欲しいです!」

「「「えっ」」」

 

 まさかの答えに三人揃って変な声が漏れてしまう。

 

「ほ、本気? これ書いたら写真撮って葉介に送るけど」

「見てもらいたいです、ヒーローになった私のカッコ良い姿を!」

「「「……」」」

 

 まぁ、もう仕方ない。それで満足するならやってあげれば良い。書いて撮ってあげた。

 

「わぁ、ヒーローです! カホ肉マン!」

「やめろ果穂。なんか危ない響きがする」

 

 とにかくこれで後二人だ。しかし、凛世もプロデューサーもいないため、今はとりあえず諦める。

 額を拭きながら、夏葉が樹里に声をかけた。

 

「で、樹里。あなた罰ゲームって何なの?」

「ああ、葉介とこの前、プールに行ったんだけどよ、その時にあいつに競泳で負けちまって……その罰ゲームで、最初はプロデューサーだけだったんだが……ごめん」

「「ごめんじゃないから!」」

 

 当然のツッコミである。そんな中、何も分かっていなかった果穂が口を挟んだ。

 

「え、じゃあこれ罰ゲームだったんですか?」

「そうだよ。嬉々として来られたから引いたよ」

「ていうか、プール行ったの。彼と」

「おう。楽しかったぜ」

 

 最近はもうあんまり隠さなくなった。L○NEのトプ画が二人のツーショットだし。

 

「実は、その時の水着も葉介が選んでくれたんだ」

「ああ、あのテンション爆上がりで写真めっちゃ送ってきた奴ね」

「はい! とってもお似合いでした!」

「10枚くらい送って来たわね」

 

 からかうつもりで智代子と夏葉は言ったのだが、樹里は頬を赤らめながらそっぽを向いて答える。

 

「だ……だろ? あいつ……アタシに似合う水着を、その……一生懸命、考えてくれてさ……アタシが、勝手に気にしてた事とかも……お構いなしに……アタシ、あいつと付き合えてよかったよ……へへへ」

 

 幸せそうな顔をして何をぬかすのだろうか、この女郎は。もう惚気にイラつく気にもならない。

 

「はぁ……何ていうか、幸せそうね……あなた達」

「あ、ああ……まぁな」

「で、チューとかしたんですか?」

「「「バフォっ‼︎」」」

 

 当然のように投げ込まれた地雷に、三人揃って吹き出した。本当に子供というのは無邪気という名のハリケーンで場も空気も全てを滅ぼす悪魔である。

 とはいえ、それは夏葉も智代子も気になる所だ。恋人になってまだ2週間ちょいだが、キスくらいはしてても良いものだろう。気が早いカップルなら、もうその先も……と思うのだが……。

 

「恋人同士はチューするんですよね⁉︎ したんですか⁉︎」

「え、あ、いや……そ、それは……」

「え、まだなんですか?」

「ま、まだ……」

「えっ」

 

 声を漏らしたのは智代子だ。

 

「まだしてないの?」

「してねーよ! そ、そんなこと出来るかよ!」

「……あ、キスってあれか。ベロチューがまだって事?」

「べっ……な、何言ってんだお前⁉︎ ふ、普通のキスもまだだっつーの!」

「えっ……」

 

 今度は夏葉が声を漏らす番だった。智代子と顔を見合わせると、お互いに何かを察したように頷き合い、改めて聞き始めた。

 

「ハグとかは?」

「そんなんするわけ……! ……あ、いや……ウォータースライダーでハグしながら落ちたっけ……」

「いや、お互いに意識的に」

「……して、ない……」

 

 自分と葉介が正面から抱き合う……想像するだけで顔が真っ赤に染まってしまう。

 そんなウブ過ぎる反応を見て、果穂がニコニコしながら聞いた。

 

「手は繋いだんですか⁉︎」

「そ、それは繋いだぜ!」

「いばれることじゃないわよ。二週間で手を繋いだだけ?」

 

 全くなツッコミに、とうとう樹里は顔を真っ赤にしながら怒ってしまう。

 

「な、なんだよ! そこまで言うからにはお前ら経験あるんだろうな⁉︎」

「ないけど、あったらあんたらよりは進行早いわよ」

「うん。私もそう」

「くっ……い、言いやがったな……!」

 

 とはいえ、そもそも相手がいない二人は証拠など見せられない。それに、そもそもそんな話はどうでも良いのだ。今は樹里の話である。

 

「そういうの、したいとか思わないの?」

「う、うるせーな! 別に良いだろ!」

「あ、あるんだ」

「何でわかるんだよ⁉︎」

 

 実際、ある。ていうか、ついこの前のプールの帰り、あの時こそキスをしたかったものだ。が、その辺の情緒に疎い葉介は、おそらく「今は二人で楽しければ良い」といった感じなのだろう。

 だが、ガッツリ年齢通りに精神も育っている樹里としては、むしろそういう……「恋人ならではのこと」に当然、興味津々なわけだ。

 

「なら、あんたからすれば良いじゃない」

 

 夏葉が当然のように口を挟んだ。

 

「そ、そうかぁ……? そういうのって……」

「別に、女性側からしても良いんじゃない? 私はあんまり『そう言うのは男から』って考え、好きじゃないのよ」

 

 実際、どちらからやったって構わないことだ。男からリード、だの何だのと色々と言う奴もいるが、そんなのは先にしたいと思った奴がすれば良いだけの話だ。

 そして、実際の話、樹里もどちらかと言えばそっち派だ。

 

「で、でも……その、なんだ……アタシからそう言うこと言うと……エッチな女って……思われないか……?」

「何を気にしてんのよ」

「そうだよ! むしろ普通の女子高生……いや、男子高校生でもキスとかしたがるよ!」

「そうです! よく分かりませんけど、キスしちゃえば良いと思います!」

 

 一人だけわかってないのに煽ってる奴がいたが、まぁそこまで言われれば仕方ないと思うしかない。

 

「わ、分かったよ……」

「いえ、お待ち下さい」

 

 が、そこで口を挟んだのが最後の放クラメンバー、杜野凛世だった。急に現れた、とか何処から湧いて出た、とか誰しも思うところがあるとったが、凛世は気にせずに言った。

 

「……果穂さん、その額のマークは……?」

「ヒーローのマークです! 凛世さんもどうですか?」

「そうですね……お願いします」

「なんでだよ!」

 

 もう罰ゲーム感なく罰ゲームを済ませると、話を進めた。

 

「少女漫画では、焦って強引にキスを迫ったカップルは大体、別れてしまいます……」

「そりゃ男から女にする時の話だろ?」

「はい……。しかし、現実では、また逆も然り、と思うべきではありませんか……?」

 

 それを聞いて、全員が全員「確かに」と俯いてしまう。

 

「周りに惑わされることありませんよ、樹里さん。あなた達は、あなた達のペースで、距離を縮めれば良いのです……」

「凛世……」

 

 そんな時だ。樹里のスマホがヴヴーっと震えた。何かと思って開くと、メッセージと画像が送られてきた。

 

 東田葉介『二の腕を曲げると胸の谷間に見えるらしいんだけど、見える?』

『 東田葉介 が 画像 を 送信しました』

 

「……やっぱり多少強引にでもキスしちゃったら?」

「だな」

 

 こいつのペースに合わせていたら、いつになるか分からない。

 

 

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