最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。   作:バナハロ

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思いがけない事が初体験の人っているよね。

 今日は遊園地。熱中症対策で遊園地の当たる場所に噴水器が付いていて、そこからミストになって水が溢れてくる。

 そんな場所で、俺と樹里は二人で遊びに来ていた。今日も約束の時間の一時間半くらい前に到着し、そこから樹里と合流して遊園地に来ているわけ……なのだが、樹里がやたらと気負っている。まるで大きな試合の前のように。

 

「な、なぁ……樹里。何かあったのか?」

「な、なんでもねーよ! それより、ほら行こうぜ!」

 

 まぁ、何でもないって言うなら良いか。

 微笑みながら俺の手をひく樹里の後を、のんびりと追った。こうしてると、やっぱり彼女と言うよりも親友って感じなんだよなぁ……。まぁ、そんな樹里にも、彼女っぽい所を見せる事もあるんだけどね。

 

「まず何に乗るかー」

「ジェットコースター!」

「元気だなお前……別に良いけど」

 

 そんな話をしながら、二人でジェットコースターへ向かった。この遊園地のジェットコースターは、傾斜角80度と言うイカれた角度から急降下する。

 ここで、ハッキリ言わせてもらおう。俺は、遊園地は初体験だ。小学生の頃はあまり裕福で無かったため連れて行ってもらえず、中学になってからは親と遊園地とかなんか普通に恥ずかしかったし、一緒に行く友達も彼女もいなかった。

 そのまま成長して高校生になったわけだが、そんなわけで俺は今日がすごく新鮮な感じしている。……まぁ、なんだ。デートは男が引っ張るもんって聞いてたし、そんなことは口が裂けても言えないが。

 

「樹里は遊園地とか行ったことあんの?」

「あるに決まってんだろ! 特に、チョコにはしょっ中、デ○ズニーで連れ回されてるかんな」

「ふーん……デ○ズニーねぇ……」

「行ったことないのか?」

「ない」

「マジかお前……」

 

 え、なんで? 

 

「高校生だよな? それも、東京……というか関東在住の。行ってみたいとか思わなかったのか?」

「全然。なんか東京に来てからは『クソ野郎ほど友達が多い』って印象だったからなぁ。デ○ズニーとかホント、クソ野郎の巣窟ってイメージが……」

 

 勿論、デ○ズニーランド好きな人全員がゴミと言っているわけじゃない。ただ、少なくとも俺のクラスで洗脳されたように「デ○ズニー行きたい! デ○ズニー行きたい!」って言う奴ほど最悪のゴミ人間だったってだけ。

 しかし、樹里はなんか申し訳なさそうな表情を浮かべている。

 

「……すまん」

「や、気にしてないから」

「あ、アタシは色んな場所に連れ回してやるからな!」

 

 ……だからやめろってそういう同情……。まぁ良いけどね? 気持ちは嬉しいし。

 そうこうしている間に、俺達がジェットコースターに乗る番になった。他に乗る何人かと共に乗り込み、安全ベルトが降りて来る。こんな感じなんだ、ジェットコースターって。

 

「うおー、すげーな。ビクともしない」

「したらあぶねーだろ……てか、葉介はアレか? ジェットコースター初めてか?」

「え、ぜ、全然?」

「……」

 

 あら、疑い深そうな視線。

 

「まぁ、なんでも良いけどよ……初めてなら覚悟しとけよ?」

「だから初めてじゃな……覚悟? なんで?」

「ここのジェットコースター、エグいから」

 

 その直後だった。ガタン、とジェットコースターが動き出す。身体が不気味に揺られ、一瞬だけ心臓が止まったような気がした。

 今の所、大したスピードは出ていない。ゆっくりと、一歩一歩、亀の足取りで坂道を登る。俺が走ったほうが早そうな速度だと言うのに、恐怖が増していくのは何故だろう。

 少しずつ、少しずつ角度がついていって……え、ちょっ……まだ上に行くの? もうほとんど90度じゃない? ちょっ……背中が床についてる感覚なのに、身体はどんどん持ち上げられていくんですが……。

 

「大丈夫か? 葉介。なんか顔色が……」

「え、な、何が? 顔色? いやいや、全然真っ青じゃないでしょ。むしろ真っ赤でしょ」

「いやそれはそれで心配なんだが……」

 

 そんな話をしているうちに、不意にジェットコースターが足を止めた。故障か? なんて油断した自分をブン殴りたい。

 動き出したジェットコースターが止まる理由など、考えられる要因は二つだけだ。一つはゴールについた時、そしてもう一つは……最高到達点に達した時だ。

 

「お、来るぞ」

 

 頭の中に浮かんだのは、織田信長。かの有名な第六天魔王は、桶狭間の戦いにおいて、圧倒的な戦力差を前に今川義元を下し、長篠の戦いでは火縄銃を取り入れた戦術によって武田勝頼をも落とした。

 勢い、と言えば聞こえは悪いかもしれないが、何であれ恐るべき早さで天下統一への道に足を掛け、王手への一歩に足を踏み入れた時……。

 

「あっ……あっ……」

「あ?」

 

 裏切りにより、織田の天下は一気に急降下した……。

 

「アアアアアアアアアアアアアアッッ‼︎」

「「「きゃああああああああッッ‼︎」」」

 

 車両は80度を一気に降下し、地面に直撃する勢いです走ったと思いきや、線路に沿って車両はまっすぐ前を向く。談合坂のサービスエリアより急に道が変化し、壁を走るように真横になって動く。

 グルングルンと世界が幾度も回転し、暗転し、一転し続ける。ヤベェ、単純に酔って来た。

 あ、ダメだ……ちょっ、これ……意識が……。

 

「お疲れ様でした〜。コースターが完全に止まってから、安全バーを外して下さい」

「ふぅ……面白かったなぁ、葉介! ……あれ、葉介?」

「……」

「ちょっ、葉介? なんか白目剥いてね?」

「……」

「お、おい……? よ、葉介⁉︎ 葉介ー!」

 

 ×××

 

「はっ!」

 

 目を覚ますと、真上には樹里の顔があった。あれ? 真上? なんで? ……てか、俺……なんで寝てたんだっけ? 確か、まぁまぁな規模の竜巻に巻き込まれてたような……。

 とりあえず、身体を起こそうとするが、脳が揺れてフラフラしてしまう。そんな俺の身体に、樹里が手を添えて再び寝かせてきた。

 

「もう少し寝てろよ」

「え……な、なんで……?」

「まだ気分悪ぃーんだろ」

 

 そ、それはまぁそうだが……。え、ていうかさ……これって……。

 

「な、なぁ……樹里、これって……」

「おい待て。言うな、その先は」

「膝枕?」

「い、言うなっつったろーが!」

「痛い⁉︎」

 

 額に手刀を貰い、頭痛がさらに増される。し、しかし……マジかよ。これ、樹里の膝枕か……あ、ヤバい。なんか恥ずかしくなってきた……。

 ……じ、樹里の太もも、柔らかいけど硬くて、ちょうど良いな……。何つーか、良い感じの座布団みたいな……。

 

「お、お前が照れんなよ!」

「痛い! 一々、殴るなよ!」

「う、うるせーバーカ!」

 

 いや、殴れば殴るほど頭痛は増すから、長いことここにいられて良いんだけどさ……でも、なんか申し訳ないんだよな……。

 

「わ、悪かったな……」

「な、何がだよ?」

「その……気絶したから」

「まったくだっつーの!」

 

 や、やっぱり怒ってる……。まぁ、大幅に時間ロスしちまったからな……。樹里にとって休日なんてものは四葉のクローバー並みに希少なもんなのに……。

 

「お前の事だから、どうせ『樹里にとって休日なんてものは四葉のクローバー並みに希少』とかなんとか思ってるかもしんねーけどな」

「なんで一言一句コンプリートしてんの」

「違うっつーの! 遊園地に来たことないなら、素直に言いやがれ! そしたら、ちゃんとそんな感じで回ってやってたからよ」

「……初心者向けのまわり方とかあんの?」

「あるわ! 少なくとも初めて来た奴といきなり本命のジェットコースターは乗らねえよ!」

 

 ……な、なるほど……。てか、本命だったんだこのジェットコースター。道理で傾斜角80度とか頭おかしいこと書いてあると思ったわ。

 

「そもそも、アタシは別に『こういう時は男がどうの』みたいなのは気にしねーから。お前に経験がねえんなら、アタシに頼ってくれ」

「ああ、そうするよ」

 

 まぁ、とりあえず任せるとするか。最初から俺がグイグイ引っ張る、なんて考えちゃいなかったが。

 とりあえず仕切り直し、と言った感じで樹里が聞いてくる。

 

「で、次どうする?」

「どうすっかー」

「何か乗りたいのねーの?」

「そうだな……。とりあえず、ゆっくり休める奴」

「やる気ねえなお前……や、分かるけどよ……。じゃ、まぁ任せろ」

 

 そんなわけで、次に案内されたのはメリーゴーランドだった。馬や馬車の形をした乗り物の上に乗り、時間になるまで回り続けるあれ。要するに、子供向けの乗り物だ。

 

「……これ?」

「嫌ならベンチに座ってるしかねーぞ」

「そういうもんか? てか、あれは?」

 

 俺が指差して先にあるのは観覧車だ。

 

「あ、あれに今、乗るのかよ……?」

「え、なんで?」

「このダメ男……」

 

 急に罵倒されたんだけど……どういうことなの? 

 

「アレはシメに乗るもんだからな」

「そうなん?」

「そうなの! ほら、良いから来いよ!」

 

 言われて、メリーゴーランドの前に引き摺られた。子供達の群れの中に、二人だけいる高校生カップル。やべぇ、これクソ恥ずかしい。

 

「なぁ、樹里。やめない? これ乗るの」

「お、お前が言ったんだろ。楽な奴って」

「いや……で、でもさ……もう少し、こう……子供の中に紛れないで……」

「ゼッテー乗るからな!」

「なんでさ……」

 

 元気だなお前……。手を引かれる形で、メリーゴーランドの列に並んだ。ジェットコースターと違い、すぐに順番となった。俺と樹里が乗ることになったのは、馬一頭分のみ。

 

「これ乗れなくね?」

「……詰めればいけるだろ。アタシ先に乗るから、早く来いよ」

 

 言いながら、樹里は馬の上に跨る。その後に、俺も乗ろうとしたが……そういうことかこの野郎。

 

「……後ろから抱えろ、と」

「お、お前が言ったんだろ……」

「え、抱かせろなんて言ったっけ?」

「ちっげーよ! あ、憧れてんならそれをやれ、みたいなこと言ったのお前だろうが!」

「……憧れてんの?」

「察しろ!」

 

 ま、マジかよ……。まぁ、うん。そう言うなら……良い、けど……。

 仕方なく、後ろから樹里を抱えるように馬に飛び乗る。うーん……相変わらず、目の前に樹里の後頭部……良い匂い以上に、やはり罪悪感が……。

 

「では、発射しま〜す」

 

 お姉さんのアナウンスにより、メリーゴーランドが回り出した。子供達が楽しそうに馬の上で回る中、一つの馬に二人で跨る高校生カップル……。

 

「……」

「……」

 

 お互いに、一言も喋らずに回り回った。さぁ、今。

 

 

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