最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。   作:バナハロ

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唇は柔らかい。それがたとえ冬であっても。

 メリーゴーランドの後、昼飯を食ってからまた色んなアトラクションを乗り回した。

 ゴーカートだのバイキングだのとなんかよくわからないけどスピードが出る乗り物を乗り回した。けど、まぁ、さすがの運動神経の俺だ。すぐに慣れた。今ならさっきのジェットコースターにも負けない。

 で、今きたのはお化け屋敷だった。

 

「じゃあ、さっきの勝負のルール確認な?」

「先に悲鳴を上げた方が晩飯奢り!」

「「オーケー!」」

 

 それだけ話して、二人で中に入った。さっきまで明るい雰囲気だった遊園地から一転して真逆の世界に入る。薄暗く、不気味な空気が漂った室内。

 ……お、思ったより空気あるじゃん……。いや、全然怖く無いけど。少し思ったより本格的で驚いただけ。

 

「な、なんだよ。葉介。もうビビったか?」

「ビビってねーよ! お前こそ、顔色悪いぞ」

「わ、悪くねーよ!」

 

 うん、この調子だと樹里の方が早く悲鳴を上げそうだ。俺が気を抜かなければ。

 二人でそのまま手をつないで中を進む。薄暗いのに、ハッキリと道沿いや壁の模様が見えるのが怖かった。

 慎重に歩いていると、隣の樹里がニヤニヤと無理しているような笑みを浮かべて声をかけてきた。

 

「ど、どうしたよ葉介? ペース遅くねえか?」

「震えながら何言ってんだおめーは。走って良いんだな、じゃあ?」

「お、おう! ドンときやがれ!」

 

 よし、走るか。そう決めた時だ。ガタンっ、と何かが揺れる音が耳に響く。

 

「「……」」

 

 二人して音のする方を振り返った。ガタガタガタ……というラップ音は、徐々に大きく激しく連続して行われる。

 俺も樹里も、ゴクリと唾を飲み込んだ。何か来るのは目に見えて分かる。人間、どうして怖いのが来るとわかってて、それを見ようとしちゃうんだろうな……。見たら絶対に驚かされるってのに……。

 案の定、出てきた。窓ガラス(実際にはガラスなのかは知らんが)を打ち破ってお化けが顔を出した。

 

「「っ〜〜〜っっっ⁉︎」」

 

 悲鳴を上げかけたが、揃って口を押さえる。危なかった……悲鳴が漏れるとこだったぜ……! 

 そのまま二人揃って逃げ出してしまう。そのまま走ってとにかく奥に進む。その直後だった。前方の鏡に、自分達以外の誰か写っているのが見えた。

 

「「っ」」

 

 俺も樹里も急停止する。え、待って。俺達って誰かと一緒だったっけ? 

 ギ、ギ、ギ、と、関節部にゲート跡が残ったガンプラのようにギコちなく振り返ると、後ろに口から血を垂らした真っ白な女がいた。

 

「「ぁっ……〜〜〜ッ⁉︎」」

 

 っぶね──ー! 悲鳴漏れかけたぁ〜っ! 俺も樹里も大慌てで口を紡いだ。

 そのまま、また走って逃げ……ようとした直後だ。

 

「うあっ……!」

 

 樹里がその場で転んでしまった。慌ててそこに手を差し伸べる。

 

「だ、大丈夫?」

「あ、ああ……悪い」

「所で今、悲鳴あげたよね?」

「い、今のは不可抗力だろ! 転んだ時に出た奴だぞ⁉︎」

「悲鳴は悲鳴でしょ。……ていうか、罰ゲームは無しで良いから、そろそろ我慢するのやめない?」

「……そ、そうだな」

 

 利害が一致し、もはや俺と樹里を阻むものは何も無かった。二人揃って頷き合うと、にっこりと微笑み合い、口を開いた。

 

「「いやあああああああああ‼︎」」

 

 もう嫌だこのお化け屋敷! 普通に怖い! 

 

 ×××

 

「「ぜーっ、はーっ……!」」

 

 二人して、虫の息。飲み物を買ってきて、二人でベンチに座って死にかけていた。

 ふぅ……しかし、疲れたぜ……。お化け屋敷って今、こんな感じなんだな……。思ってた三倍くらい怖かった。

 

「……はぁ、怖かった……」

「……ほんとにな……。死ぬかと思ったぜ……」

 

 なんつー悪趣味な施設だよ……。もう二度と行かない。

 とりあえず、休んでからこの後の予定を決めなければならない。といっても、割と回り尽くした感あるが。

 

「で、次はどうする? ……って、もう夕方だな」

「そろそろ帰るかー」

「いやいやいや、待てよ! まだ一ヶ所回ってないだろ?」

「何処さ」

「観覧車!」

「ああ」

 

 そういや、そうだったな。でもあれ楽しいのか? 遠くが見えるってだけでしょ。

 

「もう良くね?」

「良くねーよ! お前本物のアホか? 遊園地デートのシメって言ったら観覧車って相場が決まってんだよ!」

「えー……まぁ良いけど。これあの狭い個室に何分、閉じ込められんの?」

 

 正直、気が進まない。まぁ、樹里が乗りたいってんなら別に良いけどね。乗ってる間、何話すか考えとくか……。

 なんて乗る前から暇潰しの方法を考えていると、隣の樹里が頬を赤らめながら、ポツリポツリと呟いた。

 

「……ぎ、逆に言えば……30分くらいアタシと、その……二人きりでいられるんだけど……」

「よし、乗るか」

「早ぇーよ!」

 

 それは悪く無いな、うん。

 

 ×××

 

「うおー! きれー!」

「しっかりとエンジョイしやがって! 何なんだお前は⁉︎」

 

 いや、だってすっげーもん! 高いとこから街全体を見渡せて……その上で、夕焼けも見れて……スッゲー綺麗。

 

「ったく……わけわかんねー奴だよ、ホント」

 

 ボヤきながら、樹里は椅子に腰を下ろす。で、俺と同じように樹里は夕焼けに視線を向ける。その日が当たっている樹里の表情は、やたらと大人な女性に見えてしまった。

 それはもう、思わず見とれてしまうほどに。

 ボーッと、樹里の横顔を眺めていると、俺の視線に気づいた樹里がこっちを見た。

 

「な、なんだよ……人の顔、ジーッと見やがって」

「や、綺麗だなと」

「なっ……ば、バカ!」

 

 ぷいっと頬を赤らめてそっぽを向く樹里。そう言うとこは可愛い。何つーか、可愛くて綺麗とかずるいよね、この子。

 

「な、なぁ、葉介」

「? 何?」

「今日、どうだった?」

「楽しかった。初めての遊園地だったけど、これはみんな集まるのも頷けるわーって感じ」

「そ、そっか……」

「でも、やっぱ樹里と一緒だったからだな」

「っ、そ、そういうのは聞いてねーから!」

 

 や、マジで。多分、遊園地に限った話じゃ無いけど、やっぱり仲良い奴と一緒だから何でも楽しいんだよ。

 とはいえ、俺は友達がいないから、というのもあるかもしれないが。

 

「まぁ、樹里は俺以外と行っても楽しめそうだからな」

 

 友達が多いし、放クラのメンバーも良い人ばかりだ。あの辺と行っても普通に楽しいんだろうな、とは思う。

 ……別に良いし。俺には樹里がいるし。樹里と一緒なら友達なんていらないし。

 少し涙が出そうになるのを、必死で堪えながら窓の外の風景を眺めていると、隣の樹里が緊張が混ざったような声で聞いてきた。

 

「なぁ、葉介」

「なんだよ?」

「なんで、アタシが最後に観覧車に乗りたかったか分かるか?」

「それが決まり文句みたいな感じなんでしょ」

「ちげーよ。……まぁ、それもあるが」

 

 え、他にも何か意味あるのか? デートって本当に奥が深いんだな……そう思うと、俺は樹里を楽しませてやれたのか……? 

 

「樹里は今日、楽しかった?」

「え? あ、当たり前だろ。てか、良いから黙って聞いてろよ。今はアタシが話してんだから」

「ご、ごめん……?」

 

 そ、そこまで言う……? ていうか、なんか今日のデートの序盤の時に感じたぎこちなさが戻って来たな……。

 顔を赤らめ、すごく赤らめ、また普通の赤みに戻し、視線は窓の外を見たと思ったら天井を見て、俯き、かと思ったら俺の顔を覗き込む。……何? その挙動不審さ。

 黙って樹里を眺めていると、唐突にキッと俺を睨みつける樹里。思わずビクッとしてしまうほどだ。

 急に立ち上がり、向かいに座っている俺の胸ぐらを掴んできた。

 

「っ、な、なんだよ⁉︎」

「お、お前とアタシがここに乗った理由は!」

「うん。え? その話で悩んでたの?」

「きっ……キスする為だよ!」

「ふーん。そんな事で悩ん……え、キスって言った今?」

「言ったよ!」

 

 キス……キス? 魚のじゃなくて? 違うよなぁ「キスする」って言ってるし。

 そっかぁ、キスかぁ……キス、キス……キス? 

 

「……っ〜〜〜…………」

「そ、そこまで照れるなよ! アタシの方が恥ずかしいに決まってんだろ⁉︎」

「そ、そんな事、言われましても……」

 

 い、いやキスとかいきなり言われても、それはそれであれであれだし……。

 

「き、キス……キス……」

「お前どこまで純情なんだよ! てか、やめろよ。連呼すんな!」

「キス……き、キス……」

「おーい、もどってこーい!」

 

 ガクガクと身体を揺らされ、ハッと意識が戻る。

 

「わ、悪い……放心、しかけてた」

「してたっつーの!」

「で、何の話だっけ? 魚?」

「そのキスじゃねえよ!」

 

 と言うと……やはり、チューの事だよなぁ……。いや、でも……そういうのは少し早いと言うか、普通に恥ずかしいし……まず、キスってなんのためにする事なのか分からないし……。

 ウダウダと考えていると、樹里が胸ぐらを掴んでいる拳に、さらに力を入れる。

 

「わ、私とキスするのが嫌だってのか?」

「い、いや……そんな事、無いです……」

「な、なら……もう、分かるだろ」

 

 そこから先、樹里は何も口にしなかった。代わりに、瞳を閉じて、微妙に唇を尖らせる。キス待ち顔、と言う奴なんだろう。……ほ、本当に色っぽくなったな、こいつ……。

 いや、そんなことはどうでも良くて。え、てか……え? 俺からするの? いや、良いけど……。

 き、キス……キス、かぁ……。柔らかそうな唇……って、いやいやいやいや。待て待て待て待て落ち着け俺。本当に良いのか? そんなことをしちまって。いや、良いのか。恋人だし。

 いや、でも……その、何? こんな急に言われても……もう少し俺に心の準備期間が欲しかったと言うか……え? 普通は観覧車に乗った時点で準備は整ってる? そんなこと言うなよ……。

 って、落ち着けよ俺。そんな事どうでも良くて。こうなったら、もう待たせちまってるし、するしか無いのか? キス……ないんだろうな……。というか、樹里のこんな顔を見ちまったら、むしろしたいとか思うようになったし。

 キスしたい、とか言う感情は今の今まで理解出来なかったけど、ここにきて初めて理解できた。

 ……って、だから話を逸らすなよ俺! ここに来てダサいぞ俺! しゃんとしろ! 恋愛のイロハとか俺にはさっぱりだが、ここで引いたら男が廃るってのはよく分かる! 樹里にここまでさせてんだ、勇気を振り絞りやがれボケカス! 

 ……で、でも……口を近づけるの、とても恥ずかしくて顔からヒューマントーチ……って、ギャグにも逃げるな! とにかく頑張れ! 樹里と俺は恋人同士でキスするのも自然な関係! 後は度胸だけだ! 

 いつから俺はこんなチキン野郎になった! 大丈夫、キスくらい普通! 恋人同士なら! 舌を入れるわけでも無いんだし、観覧車の中で誰も見てないんだから、今しかむしろチャンスはない! 

 頑張れ俺! 負けるな俺……んんっ⁉︎

 

「んっ……!」

「っ……!」

 

 え、今……樹里が、胸ぐらを引っ張って……キスして……しかも、舌まで入って……。

 そのまま数十秒、グググッと唇がくっ付く。舌が絡み合い、唾液が混ざり合う。頭から煙が出そうになり、オーバーヒートしそうになる直前、口と口が離れた。つぅ……と、透明の液が名残惜しそうに俺と樹里を繋ぎ、落ちた。

 

「っ……え、い、いま……」

「……次からはお前からしろよ。このチキン野郎……!」

「……」

 

 観覧車が下りに入った後は、お互いに一言も話さなかった。

 ……これが、ファーストキス……。レモンの味とかよく分からなかったけど……なんか、気恥ずかしくて、背徳感があって、余韻があって……すごく、良かった……。

 

 

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