最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。   作:バナハロ

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浮気移り気デートに遅刻、樹里は丸っとお見通し。

 その日の夜、俺は家に着くまで……いや、着いてからもずっと放心状態だった。唇に残ったあの感触が忘れられない。16年(あと一週間で17年)で初めての感覚だ。

 ……あー……どうしよう。明日のバイト集中できるかな……いや、無理。一先ず気休めでも無い限り無理。

 ……柔らかかったなぁ。出来ればもう一回……って、だからぁ! もうダメだ……なんか、なんか頭おかしくなりそうだ……。

 誰かに、相談を……いや、でも誰に? 俺、友達いないし……親には相談したく無いし……バイト先の人? 無理無理無理、そこまで仲良く無い。

 どうしようかな……。このままじゃ、肘を曲げて関節作ってキスの練習を始めるのも時間の問題……。

 

「ああああああああもおおおおおおお!」

 

 ベッドの上で慣性を疑っていると、スマホが震えた。樹里からだった。

 

 西城樹里『今日は楽しかったな。また行こうぜ!』

 西城樹里『観覧車も、また乗ろうな!』

 

「ああああああああもおおおおおおお‼︎」

 

 この後、母親に久々にキレられた。

 

 ×××

 

 翌日、とても幸運なことに雨が降ったので、バイトは暇だった。うちのプールは屋外なので、ノリがとち狂った学生くらいしか来なかった。

 なので、俺の仕事も少なかったので不調を知られずに済んだ。……のだが、まぁ、その……なんだ。根本的な部分は解決していないのであって。

 

「はぁ……」

 

 ダメだ。樹里の顔を思い出すのも恥ずかしいと言うか……。……し、舌と舌が絡めあったの、思ったより嫌じゃなかったなぁ……。

 って、いやいやいやいやだーかーらー! アホかと、俺は! どうしよう、本当にどうしよう……なんか、このままだと樹里とのデートにも行けなくなるんじゃ……。

 

「だーもうっ、情けねええええ!」

 

 どうしたら良いのかさっぱりわかんねーよ! こんなに悩むならもう少し友達でも友達もどきでも良いから人間関係築いておけば良かったー! 

 一人で帰宅しながら悶えていると、またスマホが震え始める。

 

「……?」

 

 誰だ。この人が悩んでいる時に連絡してきやがって。マジでぶっ飛ばすぞこの野郎。

 

 有栖川夏葉『樹里の仕事がかなりぎこちないのだけれど、昨日のデートで何かあったのかしら?』

 

 あいつ自滅してんのかよ……。……いや、これは使えるか? この人になら、相談に乗ってもらえるかも……。

 

 東田葉介『その事でちょっと相談があるんですけど、時間取れますか?』

 有栖川夏葉『ごめんなさい、今も休憩中だから今日は無理なのよ。またの機会で良いかしら?』

 

 うーん……まぁそうだよな。普通に考えりゃ。向こうはアイドルで忙しいわけだし。

 

 東田葉介『すみません。お仕事頑張って下さい』

 有栖川夏葉『ありがとう』

 

 さて、どうしよう。今、樹里の話をしたから尚更、全てを思い出してしまったんだが……。

 真っ赤になった顔を隠しながら歩いていると「あれー?」と近くから聞き覚えのある声が耳に届いた。

 

「東城くんじゃーん☆」

「はい?」

 

 別人の名前を呼びながら肩に手を添えられた。人違いですって言った方が良いかな……と思いながら振り返ると、和泉さんがいた。

 

「……はえ?」

「何してんの⁉︎ 静岡の人じゃないの⁉︎」

「……あー」

 

 しまった、アイドルの人か。帰りのバスの中では真っ先に寝落ちして、プロデューサーさんによる俺の紹介に一切、耳を傾けてなかった人。

 そういや、そんな偽名使ってたっけ……まぁ、訂正すんのも面倒だし、東城で良いか。

 

「久しぶり。実は俺、こっちに遊びにきてて」

「えー、マジー? 運命の再会ジャーン。ね、写メ撮らん?」

「え、良いけど……」

「じゃ、こっち寄ってー」

 

 ぐいっと片腕を引かれ、スマホを構える。体と体がくっつく距離にまで近づき、腕に胸が当たる。樹里の胸からは感じ取れない感触だった。

 

「はい、撮るよー。チーズ☆」

「トムジェリ?」

 

 てか、なんで急に写メ? キョトンとしていると、和泉さんは俺の手を引いた。なんか知らん間に2人で写真を撮らされてしまう。

 

「……えーっと、なんで?」

「再会記念。ね、この後は暇?」

「え? ま、まぁ暇」

「じゃあ、ご飯行こうよ。ちょうど、友達が今近くのカフェで働いててさー」

「いや、あの……」

「けってーい!」

 

 引き摺られる形で連行された。これだからギャルは困るってんだよ……。

 

 ×××

 

 さて、連行された先はメイド喫茶だった。

 

「「「おかえりなさいませ、ご主人様、お嬢様!」」」

 

 なんで? ねぇ、なんで? 

 

「なんで?」

「ん、イベントで、ここで働いてる子が……あ、いたいた! 樹里ちゃん、夏葉ちゃーん!」

 

 こいつ今、なんつった? なんで慌てて横を向いた時にはもう遅かった。店の奥の方で、樹里がものっそい形相で俺を睨んでいた。

 

「……」

「あれー? 樹里ちゃん、機嫌悪くね?」

 

 それはお前の所為です。

 

「まぁ良いや、二人で!」

「畏まりました。こちらへどうぞ?」

 

 ああ……樹里の視線が鋭くなっていく……。眉間なんて、第三の目でも開眼するんかって感じ。

 そのまま奥の個席へ案内され、二人で座る。和泉さんがアイドルであったおかげで、二人で個席を使わせてもらえたのはありがたかった。周りの客からの視線は塞げる。

 ……でも、すごく居心地が悪い。だって、彼女の前で別の女の子とメイド喫茶ってどういう事なの……? 

 

「ねぇ、和泉さん……知り合いってもしかして……」

「そー! 樹里ちゃんと夏葉ちゃん」

「……」

「何、知り合いなん?」

「……まぁ、ちょっと……」

 

 恋人です、とは言えなかった。や、だってそんな答えを言ったらどんな反応されるかわからんし。

 

「何々、どんな知り合い?」

「え、いや……まぁ、幼馴染み的な?」

「ラブラブじゃん!」

 

 なんでだよ……。どんな思考回路したらそうなるの? 

 

「へー、幼馴染み……あれ? でも、東城くんって、静岡出身じゃないの? 樹里ちゃんは確か神奈川出身だった思うんだけど……」

「あー……えーっと……」

「ドユコト?」

「お帰りなさいませお嬢様、ドゲス野郎」

 

 唐突に割り込んで来たのは、樹里だった。俺と和泉さんの間に座り込み、メイドなのにどっかりと足を開いていた。

 

「……樹里ちゃーん、可愛いー!」

「……そりゃどうも」

 

 うわあ……すごく怒ってる。

 

「こちら、メニューになります」

「さんきゅー」

「あ、ドブネズミ様にはこちらの専用メニュー表がありますので」

 

 明らかに樹里の手書きのメニュー表を手渡された。ていうか今、ドブネズミって言わなかった? 

 とりあえずメニューを見ると、内容はかなり酷かった。

 

 ・浮気バカ撃退インド風青酸カリー

 ・ナンパ野郎殺害用オムライス

 ・生ゴミ

 ・ニトログリセリン

 ・イボテングダケ

 

 ……殺意が満ちたラインナップだな……。後半適当だし……。

 

「……おい、樹里。違うぞ」

「何がでしょうか。ゴミカス……ご主人様」

「お前、今ゴミカスって言いかけなかった? てか言ってたよな」

「言ったよゴミカス」

 

 ……すごい怒ってる。いやまぁ気持ちはわかるが。さっきのラインナップを見れば分かるが、浮気してると思われているみたいだ。

 

「浮気じゃないからな?」

「言い訳は閻魔様の前でしやがれ」

「いや本当に。……和泉さんとはー……その、なんだ。少し複雑な関係で……」

「見て見て、樹里ちゃん! さっき、東城くんと写真撮ったんだー」

 

 お前少しは空気読んでよ……ってレベルで、隣の和泉さんは俺とのツーショット写真を樹里に見せる。おかげで、怒りの度合いさらに上がった。

 

「へぇ? これで浮気じゃねえと?」

「そ、それはほぼ半強制みたいなもので……」

「そもそも、東城ってなんだよ。偽名まで使って何言ってんだコラ」

「それはだから……」

 

 説明させて欲しいんですけど……。でも、すごく怒っちゃってるし、何を言っても言い訳臭くなりそうだな……。

 まぁ、他の女の子と一緒に遊んでたのは事実だし、ここは謝った方が良い奴だろう。

 

「……樹里、悪かったよ。でも、本当に浮気じゃないから。……お前がいて、浮気なんてするわけないだろ」

「……口じゃ、何とでも言えるだろ……」

「だから、お前が望む事、何でもするから。だから……」

「……じゃあ、キスしろ」

「ふぁっ⁉︎」

「はえ……?」

 

 隣から間抜けな声が漏れるほど、俺はビックリした。和泉さんなんて顔真っ赤だ。

 

「え……ふ、二人って……」

「ああ、そうだよ。こいつは、アタシのだ」

「……ひ、ひゃー……」

 

 口元に手を添えて目を丸くする和泉さん。頬を赤く染め上げて、チラチラと俺と樹里を見比べる。

 

「……え、じ、じゃあ……その、二人は……ちゅ、チューとか……」

「「……」」

「き、きゃ〜……」

 

 俺と樹里がほぼ同時に顔を背けると、小さな悲鳴をもらす和泉さん。が、すぐにはっとして、頬に汗を流しながら聞いてきた。

 

「あー……じゃあ、もしかして……うち、割と爆弾投げてた……?」

「……」

「ご、ごめーん樹里ちゃーん!」

「いや、問題ねーよ。こいつが割と女に誘われたら断らない奴だって分かったから」

 

 そこで俺に飛び火するのかよ……。

 

「だ、だから本当、浮気とかそんなんじゃなくて……」

「私がサンドスキー場で撥ねちゃったんだよね」

「……本当にそれだけか?」

「それだけだよ」

「本当の本当に?」

「本当の本当」

 

 すごく不安になってんな……。まぁ、小学生の頃に俺がいなくなったの、本当にトラウマになってるっぽいし、相当、離れ離れになりたくないんだろうな……。

 女の子を不安にさせて喜ぶ趣味は俺にはないし、素直に謝ろう。もう何度も謝ってるけど。

 

「……悪かったよ。もう2度と有栖川さんと園田と果穂ちゃんと杜野さん以外と女の子と二人で出かけたりしないから」

「そいつらもダメに決まってんだろ! ふざけんなお前⁉︎」

 

 だよね、知ってた。

 

「冗談だよ」

「ま、まぁ今日は良いけどよ……」

 

 そう言うと、樹里を呼ぶ声が店の奥から聞こえる。そういや、元々こいつは仕事中だったな。

 ツカツカと歩いて行く樹里に、せっかくなので俺は後ろから声を掛けた。

 

「樹里」

「あん?」

「メイド服、似合ってるよ」

「なっ……う、うるせーバーカ! バ────────カッ‼︎」

 

 怒鳴り散らしながら店の奥に引っ込んでいった。相変わらず可愛い奴……と、思ったら、チラリと戻って来て、首だけはみ出させる。

 

「……キスの約束、忘れてねーからな……」

 

 それだけ言って引き返した。そんな樹里と俺のやり取りを眺めながら、和泉さんが声を掛けてきた。

 

「……ちょーラブラブじゃん……」

「……喧しい」

 

 とりあえず、邪魔するといけないので早めに帰宅することにした。

 そんな事をすれば当然、約束は果たせなくて、結局、L○NEで喧嘩は続いた。

 

 

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