最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。   作:バナハロ

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放クラ会議(1)

 六年一組の同窓会に、何故か二組の樹里が誘われたのは、本人的にも解せないことだった。

 しかし、ありがたい話でもある。唐突にあのデリカシーのカケラもなく、最後の最後まで自分を男だと思ったまま自分の前から消えた、初恋の相手でもあった少年がいなくなってから、あのクラスメートの男子達はよく自分を遊びに誘ってくれた。後半からは、男子だけでなく女子も一緒に遊んでくれた。

 ぶっちゃけ、クラスメートよりも一組の方が遊んでた子が多かったまである。

 何より、だ。当然、一組の同窓会なら彼も来るのだろう。彼とは四年間、顔を合わせていないが、だからこそ楽しみだ。自分も今は東京にいるし、普通に楽しみである。

 久々の神奈川に到着し、同窓会会場に顔を出す。懐かしい顔ぶれが揃っていた。

 

「おっす」

「お、アイドルきた!」

「おーいみんな! 主役が来たぞ!」

「お、おい……何だよ、急に……!」

 

 急に周りが持て囃し始め、思わず頬を赤らめてしまう。知り合いに「アイドル」と言われるのは流石に照れてしまう。

 

「おら、座れ」

「もうみんな揃ってるぜ」

「お、おう。アタシで最後か? ……もしかして、待たせちまってたか?」

「そんな待ってねえから。3分くらい」

 

 という事は、この中に久々に顔を合わせるあの少年がいるはずだ。ソワソワしながら、とりあえず誘われた席に腰を下ろした。

 すると、幹事と思わしき少年がグラスを持った。

 

「うしっ、じゃあ再会を祝して……!」

「「「かんぱーい!」」」

 

 同窓会が始まった。

 

 ×××

 

 正直、同窓会に憧れがあった樹里は、それはもう楽しい時を過ごした。みんなが今、何をしているのかとか、逆に自分のアイドルの話とか、自身のグループの子達が、テレビに出てる様子とプライベートじゃほとんど変わらないことなど、様々だ。

 しかし、何か足りない。理由は言うまでもない事だ。何処を見ても、自分が一番、会うのを楽しみにしていた少年の姿が見えない。

 まさか、来ていないのだろうか? いや、まだ判断するのは早い。頃合いを見て、幹事の男に聞いてみた。

 

「なぁ、葉介は?」

「あー……」

「一応、誘ったんだろ? 転校したとはいえ……」

 

 聞くと、質問された少年は少し気まずそうな顔をする。同じクラスにいたのは一学期だけとはいえ、彼はクラスの中心人物とも言えた少年だ。一学期にやった運動会では彼のおかげで優勝したとも言える。

 

「一応、電話もかけたんだけど……断られた」

「え……こ、断られた?」

 

 思わず狼狽えてしまった。あのアホほど明るくて底抜けのアホだった少年が、同窓会なんて如何にもなイベントを断るなんて、絶対に何かあったのだろう。

 

「な、なんで? 用事とか?」

「さぁ……なんか『お袋が、法事で……親父が出世で……アレだから』とか言って切られた」

「なんだそれ……」

 

 訳が分からないにも程がある言い訳だった。

 

「てか、むしろ樹里今、東京にいんだろ? なんか知らないのか?」

「知らねーよ。東京ったって広いんだしよ」

「だよなー。……にしても、電話した時のあいつの声、なんかヤバかったんだよな」

「ヤバいって?」

 

 高校生は「ヤバい」「まじで」「実際」「ワンチャン」「怠い」をやたらと使う生き物なので、それだけでは分からない。

 

「なーんか……暗いというか、悩んでるというか……喋り方も大分、変わってたし……」

「……マジか」

 

 それには、樹里も思わず不安げに顎に手をついた。彼ならどんな場所でも強く生きられるものだと思っていた。あのキャラで友達が出来ない事はないだろうし、頭が悪い事以外に弱点がないあいつなら元気でやっていると。

 でも、もし何かに躓いているのなら、今度は自分が力になりたい。

 

「……なぁ、あいつの住所とか教えてくれるか?」

「あー……まぁ、お前なら良いか。良いよ」

「よしっ……!」

「でも、あいつがどう変わってるかなんて俺にも分かんねえからな」

「ああ、分かってる」

 

 だが、アイドルをやっていて何度もLiveに参加している自分にとって、その程度は何の問題もない。

 決心を固めていると、一緒に話してた奴がニヤニヤしながら自分を見ていた。なんだよ? と視線で聞くと、すぐに答えて来た。

 

「……にしても、お前……まさか、まだあいつの事好きなの?」

「なっ……な訳ねーだろ!」

「いやー、初恋だもんなー。忘れらんないよなー。俺は良いと思うよ、別に」

「違うって言ってんだろ! おい、その顔やめろ!」

 

 この後、かなりからかわれまくった。

 

 ×××

 

 レッスンを終えた樹里はチームメイトとシャワーを浴びて着替えをしていた。なんだかんだで結局、いまだに会えていない。中々、顔を合わせる決心がつかなくて。

 

「はぁ……」

「……いかが致しましたか? 樹里さん」

 

 思わず漏れたため息に、杜野凛世が反応してしまった。

 

「あ、ああいや、大したことじゃないから、気にしなくて良いよ」

 

 最近、自分とは真逆にチームメンバーは楽しいことがあったのか、なんか楽しそうだ。そんな彼女達に、自身の悩みを打ち明けるのは気が引ける。

 が、そうもいかないのが放課後クライマックスというグループな訳で。全員が全員、仲良く優しいメンバーばかりなだけあって、そうは問屋が卸さない。

 

「何かあったんでしょ? 話しなさいよ」

 

 有栖川夏葉が靴下を履きながら口を挟む。ライバルのような立ち位置である夏葉ですらこれだ。これは……話題を逸らして誤魔化す他ない。

 

「いや、なんかみんな最近、楽しそうだなって」

「はぁ?」

「はい! 樹里ちゃん、分かりますか⁉︎」

 

 食いついたのは小宮果穂だった。小学生にして身長163センチを誇る少女だ。

 

「最近、漫画を貸してくれる人がいるんです!」

「……あ、果穂さん。ひょっとして、あの方ですか?」

「そう、あの人です! たまに本屋さんにいて、面白い漫画とかたくさん教えてくれる人!」

「ファンの人か?」

「あー……そうなんでしょうか?」

「……おそらくですが、違うと思います。あのお方は……一度も、サインや握手を求めて来たことなどございません……」

 

 つまり、果穂や凛世が芸能人であると認識すらしていないということだ。

 それを聞いて、夏葉と智代子も思い出したように声をかけて来た。

 

「私もそういう人と最近、つるんでるわね。たまにボウリングしてるわ」

「あたしも。夏葉ちゃんに蚊帳の外にされた次の日に、ファミレスで隣の席だったんだ。しかも、注文したのが偶々、同じジャンボパフェだったっけ」

「悪かったから含みのある言い方はやめなさいよ……」

 

 相当、根に持たれているのか、夏葉はげんなりしてしまう。揃いも揃って色んな奴とつるんでるんだなーと思うと、樹里は思わず眉間にシワを寄せてしまう。

 

「何だお前ら……アタシだけ仲間外れかよ」

「樹里もそういう人、見つければ良いじゃない」

「見つけようと思って見つかるもんじゃねえだろ……」

 

 実際、四人とも偶々、出会しただけだ。その上、それが同じ人物とは夢にも思っていない。

 しかし、それにしても自分のチームである四人は、同性の自分から見ても可愛い子たちばかりだ。異性にとっては高嶺の花と言っても過言ではないだろう。なのに、物怖じすることなく接するとは、意外と相手が誰であれ分け隔てなく接する人物は多いのかもしれない、なんて思ってしまった。案外、自分が好きだった彼のような人間が特別なわけではないのかもしれない。

 

「で、樹里ちゃん。何があったの?」

「あん?」

「樹里ちゃんだけ嫌なことがあったんでしょ?」

 

 智代子が改めて聞き返され、樹里はギクッと肩を震わせてしまう。

 

「な、なんでだよ……?」

「なんとなく?」

「いや、何となくとか言われても……」

「ていうか、樹里。あなたが分かりやす過ぎるのよ。あんなので誤魔化せると思ったのかしら?」

「う、うるせーよ!」

 

 夏葉にまでそう言われ、樹里は頬を赤くしたままそっぽを向いて袖に手を通した。

 

「別に、お前らが気にすることじゃねーよ。アタシのプライベートな話だし」

「良くないわよ。あなた、自覚してないようだから言うけど、今日のレッスン、所々気が抜けてたのばれてるわよ」

「えっ……そ、そうか?」

「そうよ。話すだけでも楽になるから。とりあえず言いなさい」

「……」

 

 まぁ、そこまで言われれば樹里としても渋る理由はない。言い方を工夫すれば、大した話というわけでもないのだ。素直に白状してしまおう。

 

「大した話じゃねーよ。ただ、小学生の時の同級生に会いに行くってだけだ」

「それだけ、ですか?」

「そうだよ。……まぁ、久々だから楽しみだけど……少し緊張してるってだけだ」

 

 嘘ではない。実際「変わってた」と言われてもどれだけ変わったものかなんて想像もつかないし、それ以上に楽しみ過ぎてソワソワしている、という方が大きかった。

 

「ちなみに……そのお方は、殿方でいらっしゃいますか?」

「ん? おう」

 

 凛世からさりげなく聞かれた問いに何となく答えたのが運の尽きだった。凛世の意外な趣味は少女漫画。つまり、その手の話には普通に敏感なわけであって。目を輝かせながら、樹里の前に迫って来た。

 

「と、いうことは……もしかして、樹里さんも……この少女漫画のように恋する少女、なのでしょうか?」

「えっ、こ、恋⁉︎」

 

 樹里も頬を真っ赤にしてしまう。

 

「ち、ちげーっつーの! あいつとは別にそんなんじゃ……!」

「凛世が思うに……おそらく、樹里さんは不器用でしたから、子供の頃は友達が少なかったとお見受けします……。その上で唯一、樹里さんの心を溶かしていったお相手が、今回、お会いする方と見ましたが……如何でしょうか?」

「いや、如何でしょうか、とか言われても……」

 

 残念ながら、その通りだった。図星過ぎて怖いくらいだ。とはいえ、そんなことは口が裂けても言えない。少なくとも、他のメンバーが周りにいる間は絶対に嫌だ。

 

「と、とにかく、集中できてなかったんなら謝るよ。ただ、お前らが気にするようなことじゃないから、あんま気にしないでくれ」

 

 興奮気味の凛世を抑えつつそう言うと、四人の間にも「まぁ本人がそう言うなら良いか」みたいな雰囲気が流れた。

 

 ×××

 

 事務所の直ぐ近くに寮があるわけだが、その日の樹里は少し遠回りしていた。ポ○モンGOをやっているからだ。実はゲームが趣味な樹里だが、別にそこまでガチでやっているわけではない。

 それでも、レイドバトルくらいは参加しようと思うのは当然なわけであって。近くの駅まで来ていた。レイドが始まるまで待機しつつ、腰がおろせそうな場所を探す。

 ここ数日、彼の話をよくしていたからか、久々にあの時の幼い顔を思い出す。よく一緒に遊んだものだ。あの夏休みは樹里もよく覚えている。後にも先にもあんなに遊んだのはあの夏だけだろう。

 一緒に花火をして、お祭りに行って、家の縁側に座ってスイカを食べて、親に怒られるほど服がビショビショになるで川で遊び、虫取りに行って森の中で迷子になったり、どっちの方が力持ちか揉めて相撲をしたり、意外と甘いものが好きなあの子と一緒にかき氷を作ったり……などなどと、とにかく遊んだ。

 もし、またあんな風に遊べるのなら……なんて思うと、彼がどんな人間になっていてもしつこく声をかけるつもりだ。

 

「……」

 

 とりあえず、それは明日から……いや、次のオフから頑張ろう、と思いつつ、近くの手すり丸い一人用の腰掛けに腰を下ろそうとした時だ。お尻が腰掛けに当たる前に、別のお尻にぶつかったように押し出された。

 

「うわっ……」

「あ、すんません」

 

 悲鳴をあげてしまったからだろうか、先に謝られてしまった。こちらこそ、と謝ろうとしながら振り返った時だ。

 思わず、手に持っていたスマホを落としてしまった。声音だけでは、声変わりしているから気付かなかった。完全な不意打ち、という奴だろう。

 当時は、自身より少し背が低かった少年が、そのまま成長して自分より拳一つ分ほど高くなった、そんな印象だ。

 が、今はそんなことどうでも良い。いくら何でもこれはない。急過ぎる。キックオフでPKから始まった気分だ。

 呆然とした表情のまま、その少年の名を口から漏らした。

 

「……葉介……?」

「はい?」

 

 間の抜けた返事とともに振り返ったそいつは、間違いなく自分と一緒に遊んでいた奴だった。

 

 




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