最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。   作:バナハロ

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人は外見ではなく中身。

 夏休みも残りわずか。遊んでいた学生は地獄を見る季節となりましたが、遊んでバイトして、もちろん宿題もしていたら俺は、なんやかんやで充実した夏休みを送ることが出来た。それもこれも、樹里のお陰だな。

 で、今日含めてあと二日。そんな日に、俺の元へ一通のL○NEが届いた。

 

 てんか『宿題、終わらない……助けて……』

 

 ×××

 

「なんでこうなるの……」

 

 現在、我が家。一緒にいるのは、樹里と大崎姉妹と俺。ハーレム? バカ言うな、彼女持ちが他の女を家に呼ぶのとかマジで死活問題。まぁ、今は理解してくれてるけど。

 

「まったくだぜ……アタシ、もう宿題、終わってんだけど。数学を除いて」

「終わってないんじゃん」

「うるせーな。てか、お前こそなんだよ! 夏休みの宿題、終わらせられないバカだったくせに……!」

「人は変わるんだよ。お前はちっとも変わってないけどな」

「るせーわ! 変わり果てた奴が言うな!」

「二人とも……! イチャイチャしてないで、手伝って……!」

「「イチャついてなんかない!」」

「いい、から……!」

 

 珍しく甜花から大きな声が聞こえ、俺と樹里は仕方なく黙って教材を広げる。……と言っても、俺は終わってるんだけどね。周りが質問して来るまでやる事はないんだこれが。

 

「樹里、わかんないとこある?」

「ねえよ。そもそも宿題が残ってんのだって仕事の方が忙しかったからだし、何よりお前には絶対教わらねえ」

「あっそ」

 

 なんだそのプライド……と思ったけど、こういう奴だったな。今でも走り込みとかで有栖川さんと張り合ってるらしいし。

 まぁ、それはそれで良いんじゃないかなーなんて適当に思ってると、くいっくいっと袖を引っ張られる。顔を向けると、甜花がこっちを睨んでいた。

 

「……何してるの? 東田くん……」

「え?」

「甜花の宿題……全科目、あるから……やらないと、終わらないよ……?」

「……」

 

 こいつは一体、どのスタンスでその口を叩いているのだろうか? ていうか何? まさか、教わるんじゃなくて、俺に解かせようとしてる? 

 

「そうだよ? 東田くん。甜花ちゃんのために、その半端な賢さを使わないと。じゃないと、甜花ちゃん留年しちゃうよ?」

 

 妹、お前もそういう感じか。ノリノリで姉の宿題やらされてんじゃん。……まぁ、自分のは終わらせているだけマシだが。

 とはいえ、俺はそのまま甘やかす気はない。てか、俺が2回も宿題やりたくないってだけだが。

 

「教えてやるから自分で解け。てか、なんで俺が二度も宿題やんなきゃいけないわけ?」

「な、なんで……! そんなんじゃ、終わらない……」

「知るかバカ。今のいままで手をつけて来なかった自分を呪いなさい。大体、答えを教えてやるだけじゃ、甜花の為にならないし」

「うう……ま、真面目な……」

 

 いや、実際はそんなんどうでも良いんだけどね。とにかくもう一度、一から解かされるのを回避するための、何かしら理由付けをしたかっただけ。

 

「思ってもないことをよく言えるよな」

「ホントホント」

「うるさいよ、そこ。余計なこと言うな」

「うう……仕方ない……教えて……」

 

 二人のヒソヒソ話は聞こえていなかったようで、甜花は素直に教えてもらいにきた。とはいえ、試験も俺が面倒見た期末はまぁまぁだったらしいし、多分なんとかなるでしょ。

 

「じゃ、まずは英語からね。不定詞と動名詞のとこから」

「う、うん……!」

「まずやってみ」

 

 言われて、甜花は問題集に目を落とす。てか、甘奈は良いの? このままだと俺、甜花にまた恩を売ることになるよ? 

 ちらっと妹の方を見ると、ニコニコしたまま口パクで伝えて来た。

 

『じ・ま・ん?』

 

 違うわ! ほんとに気遣いを後悔させやがる奴だなお前は! 

 

「え、えっと……なんだっけ……不定詞は、名詞的用法と、形容詞的用法と……ふ、不定詞的用法? あれ?」

 

 え、そこからもう記憶が曖昧なのお姉さん? ホントなんなのこの姉妹? 不定詞の不定詞的用法ってなんだよ。口に出す前に察しろよ。

 

「違う、副詞的用法」

「あ、そ、そっか……」

「それぞれどんなものか覚えてる?」

「え、えっと……名詞的用法は『歌う』を『歌う事』にしてくれて……マクロスが……」

 

 前に教えた事も、断片的に覚えてるな……。正直、マクロスはポイントじゃないんだけど。

 まぁ、覚えてただけでもマシだな。

 

「なら、名詞的用法のとこは解けるでしょ。やってみ」

「う、うん……!」

「出来なかったら声かけて。俺じゃなくても甘奈に聞いても良いから」

「わ、分かりました……先生……!」

 

 まぁ、うん。先生だな。なんか悪くないと思えるようになってしまった。

 それと同時に甘奈へのフォローも完璧……かと思ったら、なんか樹里とヒソヒソ話していた。

 

「うわあ……先生とか呼ばれて調子乗ってるよ……」

「調子こいてるなあいつ……成績だって割と普通なくせに……」

 

 うるさいってのそこ。どうすりゃ良いの俺は。てか、樹里。お前までそいつと仲良くならないでくれる? 明確な敵扱いされてるんだから。

 

「なんか飲むか?」

「お、気が利くな。さすが先生」

「樹里はいらないのな」

「だー! 嘘嘘、ごめん!」

 

 そんなわけで、ジュースを注ぎに台所に向かった。グラスの中に氷をぶち込み、さらにその上から炭酸を注ぐ。それを四人分……あ、ヤバいな。二人分、足りないかも。

 元々、遊びに来てるわけではないとはいえ、飲み物は必要だよね。しかも、俺はともかく来てる人達の中で一人だけ飲めないとかかわいそすぎるし。

 飲み物は一先ずお出ししないで、揃ってから持って行くとしよう。炭酸抜けるけど、そこは仕方ない。

 一度、自室に戻って三人に声をかけた。

 

「悪い。飲み物足りないから買って来るわ。それまで頑張って甜花に教えてあげといて」

「はーい。帰って来なくて良いからね?」

「いって、らっしゃい……あ、あと甜花、ポテチも……!」

 

 ……本当に図太い姉妹だよ。直前に助けを求めて人の休日潰して、人の家にお邪魔して、その上食べ物も所望しますか……。まぁ、世の中、可愛いが正義だからね。俺がここで正論を言っても、大多数の人は俺の敵に回るだろうからね。仕方ないね。

 三人のお嬢様方のために、一先ず家を出て近くのスーパーに向かうため、玄関で靴を履いていると、隣で樹里も靴を履き始めた。

 

「え……なんで?」

「……んだよ。アタシが手伝っちゃ悪ぃのか?」

「いや……そうじゃねえけど……」

「なら行くぞ」

 

 ……気を利かせてくれてんのか。自分だって宿題まだ終わってない癖に。まぁ、そう言うなら、甘えさせてもらおう。

 

「じゃあ、行こうか」

「おう」

 

 そう言って、二人でスーパーに向かった。のんびり歩く。なんか……なんだろう、この感じ……。手のかかる子供のために買い物に行く、みたいな……。

 いや、まぁ実際そうなんだが。しかし、本当に樹里は良い奴だよなぁ……。あのダメな姉妹と同い年で同じアイドルだとは思えない……。

 まぁ、でもそのダメさ加減のおかげで二人になれてると思うと悪くないかも……なんて思ってる時だ。さりげなく樹里が俺の手に触れた。

 

「っ、な、なんだ?」

「っ、わ、悪い……」

 

 驚いて手を引っ込めてしまうと、樹里はしゅんっと肩を落としてしまう。

 

「手、繋ごうと思って……」

「あ、お、おう……良いけど……」

「じゃあ……うん」

 

 次こそ、引っ込めないように、と手を垂らすと、再び樹里の柔らかい手が触れた。少しずつ、ゆっくりと、控えめに指と指が絡まり、続いて手のひらが触れ合う。

 

「……」

「……」

 

 ……いまだに手を繋ぐくらいでドギマギするのはどうなんだろうか……いや、仕方ないんだろうけどさ。

 

「……そういや、葉介」

「な、何?」

「悪かったな……その、あの大崎姉妹」

「え?」

「いや、何でもお前にやらせちまって……けど、二人とも悪気はねえんだ。甜花は単純に引きこもり寸前な奴だし、甘奈は姉離れできない奴で、プロデューサー以外の男が甜花と仲良くしているの見ると嫌みたいで、お互いに共依存で必死になってるだけなんだ」

「ああ……そういうこと。別に気にしてねーよ」

 

 こっちにいる人間なんて基本そんなもんだ。他人に気を回す事をしない……或いは、他人に気を回す余裕がないか。何れにしても、樹里みたいな奴の方が珍しい。……正直、それで良いのか日本、と思わないでもない。

 

「なら良いけどよ……」

「それより、樹里も宿題まだなんでしょ? さっさと行ってさっさと帰って来よう」

「え……」

「え?」

 

 なんだよ今度は……なんて聞くまでもなく、樹里は頬を赤らめたまま答えた。

 

「……せ、せっかくだし……ゆっくり、行こうぜ……」

「……」

 

 こ、こいつはホントこいつもう……しばらく会ってない数年の間に何があったのよあんた……。

 

「……わ、分かった……」

「へへっ、へへへっ……」

 

 嬉しそうにはにかむ樹里と、手を繋いだままのんびりスーパーに向かった。

 

 ×××

 

 戻って来た俺と樹里は、飲み物とおやつを用意し、アホ姉妹の元に戻った。

 その後はもうとにかく勉強。甜花に教え、素直になった樹里に教え、楽しそうにしている甜花を見て義憤に駆られた甘奈に甜花への教え方を教え、また樹里に教え……と、続き、気がつけば日も傾いていた。

 

「終わったー……!」

「お疲れ様、甜花ちゃん」

 

 まず、甜花の課題が片付いた。まぁ、ほんとはあと一科目残ってるんだけど、学校の教員が大好きな丸写し系なので、家でやるそうだ。

 ……で、だ。樹里の方は……。

 

「悪い、アタシまだ終わりそうにないから、もう少しここに残るな」

「にへへ、西城さん……頑張って……」

「じゃ、またね」

 

 それだけ話して、双子姉妹は帰っていった。さて、あとは樹里だが……まず確認だ。

 

「お前、本当に宿題終わってないの?」

「本当だ! ……あと一問だけ」

「……あっそ」

 

 それくらい家でやれ、とは言わない。なんで一問残したかくらい、察しがつく。

 さっきまで甜花がいた俺の隣に樹里はそそくさと移動し、肩に頭を置く。

 

「あと一問、解かないのか?」

「……うるせ。良いんだよ、後で」

 

 ホッとゆっくりしたまま、二人で一息つく。

 

「ホント……大変だったんだからな……。事情は分かってて、許可出したとしても……甜花に教えるお前を眺めるのは……」

「ああ、悪かったよ」

「そう思うなら……そろそろ、良いんじゃないか?」

「? 何が?」

「……今じゃないと、お前からキスするタイミングもうないぞ」

「え……」

 

 そ、そういやそんな話してたな……。確かに、夏休みはもう終わりだし、学校が始まれば会える日もさらに限られて来る。

 明日は? なんて事は聞かない。明日、樹里はオフだが、多分ここで明日に延ばすようでは、俺からキスなんて出来そうにないから。

 

「……わ、分かったよ……」

「んっ……」

 

 目を閉じ、微妙に口を尖らせる樹里。……正直、緊張する。それでも、やるしかない。いい加減、チキンは終わりだ。どう言う経緯があったにせよ、俺の中の勇気が小学生の頃よりも遥かに少なくなっているのは確かなのだから。

 樹里の頬に手を当て、俺も口を近づけようとした直後だった。

 

「わ……忘れ物しちゃっ……」

「もう、甜花ちゃんってばそそっかしいんだか……」

 

 アホ姉妹が入って来た。ほぼ同時に、俺と樹里は顔を真横に向ける。

 ええ……ちょっ、なんでお前ら……せっかく、勇気出して頑張ったのに……てか、なんでお前らまで頬赤らめて……。

 

「「……お、お邪魔しました……」」

 

 結局、その日はキスなんて出来なかった。

 

 

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