最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。 作:バナハロ
「うおー、でっけーな家」
うちの前に来た樹里は、目を輝かせながらうちを見ていた。確かに大きいよね、うちの家。父親がハッスルしちゃったから。基本的に地道に努力する人だし、楽して儲けたがるタイプでもないんだけど、上手くいくとすぐに調子に乗るから割と心配だ。
「てか、お前ホントに泊まっていく気かよ?」
「おう! 昔はよく泊まったろ?」
「まぁ、そうだけど……」
……今、思えば……絶対に一緒に風呂に入りたがらない理由って女だったからなんだなぁ。そうならそうって言ってくれりゃ良かったのに……。
「てか、こっちこそ驚いたっつーの。お前、本気でアタシを男だと思ってたのか?」
「そうだよ」
「……人のパンツも見といて?」
「や、それはなんつーか……ブリーフみたいなもんだと……」
「全力のアホかお前は!」
うん、俺もそう思う。当時の俺は本当にアホだね……。最近はいろんな勉強して、ブリーフと女性用の下着に違いを見いだせた。え、勉強に使った道具はなんだって? そりゃお前、肌色が多い雑誌ですよ。
……ん?
「あっ、や、やべえ」
「何がだ?」
エロ本しまわないと!
「ごめん、部屋片付けるからちょっと待ってて」
「や、お前の部屋、バスケとサッカーのボールしか無かったじゃん」
「昔は昔だから!」
「……まぁ、分かったよ」
慌てて部屋に駆け込んだ。母親に挨拶だけして、自身の部屋のものを慌てて本棚にぶっ込みながら、三冊のエロ本をどうするか考える。
……すまん、親父。お袋にバレないように隠すから、部屋を借りるぞ。
親父とお袋の部屋の、冬用のコートが眠っているクローゼットにエロ本をしまうと、玄関を開けた。
「悪い、待たせた」
「いや、いいって。急だったからな。……おばさんはいんのか?」
「……いるけど」
「久しぶりだなー、葉介の母ちゃん。今でも怒ったら口調曲がんの?」
「中学の時、覗きの件で揉めたときに顧問を泣かしちゃったよ」
「すげぇな……」
ほんとすごい。俺も親父も絶対に母親は怒らせないもん。圧巻の貫禄、覇王色の覇気を持っているまである。
そんな話はさておき、家の中に招き入れた。靴を脱いで、まずは居間に連れて来る。
「お袋、今日、知り合いが泊まって行きたいらしいんだけど、良い?」
「は? あなた、友達なんて二度と作らないって……」
「あ、おばさん。お邪魔します」
「……」
俺の後ろから樹里が顔を出すと、お袋は一瞬だけ固まる。が、すぐに思い直して声を張り上げた。
「まぁ、もしかして宮川メグちゃん? 幼稚園振りねえ」
「なんなんだよ、この親子! 西城樹里です!」
「バカ言わないの。西城くんは男の子よ?」
「マジで殴りたいこの人達!」
当時から俺もお袋もツッコミどころ満載でしたね……。一緒に風呂に入りたがらなかった樹里に「もしかしてち○ちん小さいとか思ってる? ませてるわね〜」なんて抜かしてたし。
「もうその下り良いんで! とにかく急で申し訳ありませんが、今日はよろしくお願いします」
「ということは私……西城くんにバスタオルの場所を教えてあげようと思って脱衣所の扉を開けた時、服を脱いでたんだけど……その時に胸を触ってたのって『中々、育たねーな』っていう乙女心だったのね!」
「もうその下り良いんで‼︎」
なるほど……その時からこいつは微妙に思春期だったのか……。ふふ、愛い奴め……。
「ニヤけてんじゃねーよ!」
尻を蹴られた。
まぁ、それはさておき、だ。とにかくさっさと部屋まで連れて行こう。多分、母親から話もあるだろうし。
「樹里、上に俺の部屋あるから、そこで待ってて」
「どこがお前の部屋だよ?」
「二階に上がった廊下の左手側」
「了解」
それだけ話して、とりあえず樹里を上にあげた。「で?」と、お袋がこっちに顔を向ける。
「どういう事なの?」
「ん、いやだからたまたま会ったからお話ししてたら泊まりたいって言って来て、成り行きで」
「あっそう……まぁ、良いけど。付き合ってるわけじゃ……ないのよね?」
「さっき再会したばかりだから」
「なら、変な事考えるんじゃないわよ」
「わーってる」
幸いにも、あの子の身体に色気はない。……まぁ、理性が崩壊して女の子に襲いかかる、なんてAVみたいな事が本当にあるかすら疑わしいわけだが、なんであれ変な事はしないし、考えもしない。……いや、考えはするかも。
「夜ご飯は食べたの?」
「食べた」
「じゃあお菓子……は太るからいらないって言われるだろうさ、飲み物だけ持って行きなさい」
「了解」
「……大事にしなさいよ。男でも女でも、友達って言える子なんでしょ?」
……まぁ、そうだな。あいつは相変わらず照れ屋で優しくて純情な子のままだ。昔のままのあいつなら、数少ない信用出来る人間だ。
「はいはい……」
そんな返事をしながら、炭酸ジュースを持って二階に上がった。部屋の扉を開けると、樹里が物珍しそうに本棚を眺めていた。そりゃそうだろうな、少なくとも樹里と遊んでた頃に、この大量の漫画本はなかったから。
「お前……これ、全部買ったのか?」
「ほとんど中古だよ」
ホントは新品で買いたいんだけど、学生の財力はそこまでじゃないからね。全部、新品で買ってたら破産するわ。
「読みたいのあったら持ってって良いよ」
「マジで? ……いや、読みたいのあったらここで読む事にするわ」
「は?」
「漫喫の代わりってことで」
「本人に言うのかよ……」
なんか、心なしか自由になってやがんな……。まぁ良いけど。何年経っても前までの関係で居させてもらえるのは普通に嬉しい。
「……で、なんでまた泊まろうと思ったんだ?」
「それは……まぁ、久々に会えたしな。昔はよく泊まりで遊んでたろ? 朝まで起きてて怒られまくったの覚えてないか?」
「覚えてる。あの時のお前、ワンワン泣くもんだから……」
懐かしいな。あのときは樹里を守るために俺も半泣きになりながら母ちゃんの前に立ち塞がったっけ。足震わせて涙目になってたのにカッコつけて樹里を庇って……もうダセーことダセーこと。
「あ、飲むか? サイダー」
「飲む」
コップに注ぎ、差し出す。二人でサイダーを手に持ち、昔みたいにベッドの上に並んで座った。
……なんだろうな、なんか……ヤバイ。女の子だって分かると、少し気まずいというか……クソ、なんでこいつこんな可愛いんだよ……。
今までTwitterとかでたまに見かける「男だと思ってた幼馴染が女の子だった」って話、あれ話としちゃ面白いし、俺も好きだけど……主人公側に見る目がなさすぎだってずっと思ってたんだ。
しかし、こうして体験するとマジで謝らせていただきたい! これは気付かないわ。成長しないと、男も女も大差ないってことだな、うん。
「っ、はぁ〜! うめぇなぁ。やっぱ、炭酸はサイダーだよなぁ」
……このおっさんのような反応を見ると、中身は全然、変わってねえなとも思うが。
ま、そんな話はさておきだ。せっかく泊まりが決まったんだし、何か話すか。昔の話でも、今の話でも。
「な、葉介。何かしようぜ!」
が、俺が提案する前に、サイダーを飲み干した樹里は立ち上がった。
「何かって?」
「昔やった遊び。……まぁ、バスケとかキャッチボールは無理だけど……例えばほら、腕相撲とか」
そう言いながら、樹里は腕まくりをした。良いけど……結果は見えてるじゃん?
「言っとくけど、甘く見るんじゃねーぞ。アタシだって中2まではバスケやってたし、今はアイドルでバリバリ鍛えてんだ」
「ふーん……まぁ良いけど。関節外れてクセになっても知りませんよ?」
「外れんのは、お前の方だ!」
そう言って、机を出して肘を置き、手を組んだ。……手、柔らかいなぁ……。女の子の手って感じするわ。
そんな事を考えながらも、顔だけはニヤリと好戦的に微笑み、俺は樹里に声を掛けた。
「スタートのタイミングはそっちで良いぜ」
「後悔すんなよ。スタート!」
直後、お互いの力がグンッと真逆の方向に交差する。……あ、ダメだ。これ勝ったわ。まぁまぁ強いけど……まぁ、普通だよね。
「ん〜っ……!」
「……」
「っ、はぁっ……んっ……!」
「……」
「ハッ……ッ、んんっ……んぁ〜!」
「……」
喘ぐなよ……。なんか悪い気がするわ。……うん、身体に色気はなくても、やっぱり女の子なんだな……。そういう反応されると、やっぱ色気というか……こう、何かを感じるというか……。
しかし、片手で余裕なんだな……。こうして差を感じると、やっぱり樹里って女の子なんだな、と思うわ。
「……」
「ふんっ……ぎぎっ……!」
それに、全開で歯を食いしばって力んでいる表情も、昔と一緒のはずなのに、何処か「ああ、女の子なんだな……」と納得させる何かがある。率直に言えば、力んでても可愛い。
「……」
「んぐっ……あっ……んああっ……!」
あ、少し顔赤くなって来た。力入れ過ぎじゃない? なんであれ、このままじゃ熱くなりすぎるな。
……とはいえ、手を抜かれるのは樹里が一番、嫌いなことだ。
「そろそろ良いか?」
「何が!」
「ふんっ……!」
「あがっ⁉︎」
一発で勝負を決めた。もう1秒。少しずつグググッ……と、とかそういうんじゃなくて、もうアンバランスに立ってる棒を押して倒したレベル。
「ってぇ〜……お、お前……強くね? 大地と腕相撲してんのかと思ったぞ……!」
「なんだよ、大地と腕相撲って。……てか、そりゃそうだろ。部活辞めても普通に身体は動かしてるし」
「そうなのか? 最近、何してんだ?」
「ボウリングとか、バッティングセンターとか、ゲーセンのフリースローとか……普通に筋トレとか、親父の9番アイアンだけ持って打ちっぱなし行ったり……」
「くそっ……運動好きは健在なのかよ……!」
そんなに悔しいかな……まぁ、悔しいわな。俺もつい最近、顔も名前も知らなかった人とボウリングで競ってたし。
「で、もう終わりか?」
「バッカ野郎、リトライだ!」
「両手でも良いよ」
「言ったな⁉︎」
全戦全勝した。
×××
「クッソ〜……アタシの鍛え方が足んねーのかなー……」
いや、性別の壁だと思う。女性がそれなりに鍛えている男性に勝つには、もうアスリートになるしかないよ。それこそ、霊長類最強の女子レスラーのように。
「女性でそんだけやれたら十分でしょ」
「そんだけって……片手に負けたんだが」
「両手使われたときは、それなりに本気出したから」
「それなりなんだよなぁ、それでも……」
負けず嫌いという性分は本当に大変だなぁ。や、俺もだが。多分、立場が逆なら俺が熱くなってただろうし。
「……じゃ、樹里でも勝てそうなゲームに変えるか」
「おい、腕相撲じゃ絶対、アタシが勝てないみたいじゃねーか」
「勝てないよ」
「今に見てろよお前!」
「はいはい。期待しないで待ってるよ」
そう言いつつ、俺はクローゼットを開けた。確か、この中の下の方に……あ、あった。
取り出したのは、緑の布とプラスチックの穴が空いた台が合体している「パターゴルフ」の練習台だ。これも親父が買ったもので、部屋に置けないから俺の部屋に置いてる感じ。
「次はこれ」
「あ……あれだろ。パターゴルフって奴」
「そうそれ。先にミスった方が負けな」
「簡単だろ、そんなの」
「とりあえず練習してて良いよ。あと分かってると思うけど、強く打ち過ぎて床に傷つけるなよ。新築なんだから」
「わ、分かってるって!」
壁に立てかけてあるクラブを手渡しながら言うと、樹里は練習を始める。その間に、とりあえず床に置いてあるカップとサイダーだけ回収して勉強机の上に置いた。
樹里の方を見ると、やはりというか何というか……未経験者っぽかった。野球とかテニスとか、その辺のスポーツもそれなりにこなせる人の癖だ。道具を使うスポーツは手首のスナップが重要だから、ゴルフも同じと考えているようだ。
しかし、パターに限ってそれはないんだなぁ。ていうな、普通にオーバーしてっから。そろそろ一階に固いゴルフボールが転がる音が響いて親がキレる頃だ。
「あっれ〜? 入んねーなー」
「樹里、球打つ前に軽く振ってみ」
「いや、敵からいらない借りは作れねーから」
「アホか。下から母親が怒りを煮え滾らせてやってくんぞ」
「……教えてくれ」
樹里もあんまりやんちゃしてたらお袋に怒られてたからなぁ。あの時のがトラウマになってるんだろう。素直に教えをこうとはなぁ。
まぁ、でもバスケ以外のスポーツは昔から俺が教えてたしな。俺も独学だから、それが正しいのか分かんないけど、樹里もそれで楽しそうにしてたし。
「まず、クラブの握り方な。ちょい貸してみ」
「おう、はい」
「や、お前の手ごと」
クラブを握る手を上から掴み、胸前まで上げさせた。
「野球みたいに両手はくっ付けるんだけど、左手の人差し指と右手の小指を組み合わせて……よし、おk」
「ん、おお……」
「で、振り方だけど……距離の調整は振り幅でしろ。大きく振りかぶれば、それだけボールは遠くに行くから」
「なるほど……」
「手首は曲げるなよ。肩から、クラブの先までが一本の棒のつもりで……」
「ひゃわっ⁉︎」
「うおっ⁉︎」
分かりやすいように、後ろから樹里の肩に人差し指を置き、クラブの先までは届かないので手首まで一筋になぞって説明をしたら、何故か変な声を出されてしまった。
「な、なんだよ」
「こっちのセリフだ! くすぐったいだろ⁉︎」
「え、あ……なぞられるの弱いの?」
「よ、弱くねえけど……! き、急にやられたらびっくりするというか……」
「ふーん……」
そういや、昔はくすぐり合いっことかはしなかったな。今、こうして一緒に遊ぶだけでも、少しずつ樹里のことを知っていけるんだな……。そう思うと、再会できて良かった気もする。
……ま、何はともあれ、だ。一先ず、せっかく見つけた弱点をつかない手はない。
人差し指を立てると、一気に首筋から腰あたりにかけて一直線になぞり下ろした。
「デスビーム!」
「ひゃわあぁああっ! て、テメェ葉介!」
変な悲鳴が漏れて恥ずかしかったのか、それとも単純にくすぐったかったのか分からないが、クラブを手放して俺の頭にゲンコツを入れようとする樹里。
が、俺はそれをひらりと回避する。
「おおっと、恐ろしくはやい拳。俺でなければ見逃しちゃうね」
「あったま来た! 勝負の内容変更だ。ゴルフじゃなくて相撲で勝負だ!」
「え、いや良いけど逆に良いの?」
「はっけよーいのこった!」
問答無用かよ! と思ったのも束の間。歌詞を比較した特攻は見事に俺の重心を崩し、ベッドの上に押し倒す。いや、あの……これちょっと流石に予想外というか……てか、お前パーソナルスペースとか無いの? お前にとって俺は昔と変わらなくても、俺にとってあなたはカイトくらいの変化が起こってるんですが……!
「っしゃ、どうだおら! 押し倒しだ!」
「え、いや……まぁ、うん……押し倒されました……」
「はぁ? もう負けを認めんのか? 意外と根性なくなっ……」
そこで、まるで一時停止ボタンを押したようにセリフが止まる樹里。しかし、表情は止まらず、一気に顔が真っ赤に染まった。
いや、まぁ……うん。悪いね。俺も……その、何。お年頃なんで……会話だけならともかく、実際にそういう事されちゃうとサラッとなかったことにして受け流すほどの器量はなくて……。
「……わ、悪い……」
「いや、まぁ……うん。大丈夫」
「……」
「……」
あー……うん、まぁ、あれだ。何も変わってない、なんて言ったけど、思春期を超えて高校生になったんなら、やっぱ多少は変わるわ。例えば、押し倒したり押し倒されたりすると頬が赤くなるとことか……。
いや、そんなのどうでも良くて。てか、違うから。とりあえずこういうドギマギした感じはやめよう。
上から樹里を退かし、タンスの方に歩いた。
「あー……樹里、先に風呂入って来いよ。とりあえず、いつでも寝れるようにしとこうや」
「あ、そ、そうだな!」
「はい。これジャージ」
タンスから取り出したジャージを手渡した。
「お、おう……サンキュー」
「ちょっとでかいかもだけど……まぁ、あんま変わんないし平気だろ」
「おう」
「下着はどうする? ブリーフ履く?」
「死ね!」
見事な廻し蹴りが俺のボディに直撃し、再びベッドの上に投げ出されたが、樹里は怒ったまま部屋を飛び出して行った。うん、まぁ……とりあえず変な空気にならなかっただけ良しとしよう。