最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。 作:バナハロ
樹里が風呂に入ってる間に布団を敷いて、あとは再び樹里が戻ってくるまで待機。
今更だけど……同じ部屋で良い、んだよね? うん、良いよね。泊まりに来てるんだし。
……ふぅ、なんか疲れたな。なんか、こうして落ち着いてみると色々とあったな……。四年ぶりに友達と再会して、それが男だと思ったら女で、そのまま泊まりに来ることになった。うん、わけわからん。
しかし、なんか久々に友達と話した感じがする。楽しかったわ、色々と。まんま昔と同じように遊んでたからかな。
「ん〜……」
なんていうか……でも少し疲れたな……。こういう遊びをしたのは年単位ぶりだったからか、割と気疲れした気がする。
とはいえ、だ。なんであれ楽しかったことには変わりない。樹里が良いなら、また遊べると嬉しいんだけど……まぁ、あいつも色々と忙しいんだろうし、遊べる時で良いや。
しばらく、スマホをいじりながら待機していると、部屋の扉が開いた。
「ふぅ……良いお湯だったぜ……」
「おー、それは良かっ……」
顔を上げると、そこに立っていたのは当たり前だが樹里……なのだが、なんか……こう、湯上りの色っぽさが……。
微妙に紅潮した頬、体から立ち飲める蒸気、ドライヤーで乾かしたんだろうけど、それでも湯上り後と分かる髪……それら全てが「やっぱり樹里は女の子」と語っていた。
「? どうした?」
あんまり見過ぎでいたからか、怪訝そうな顔で見られてしまった。……とりあえず、見惚れてた、なんて口が裂けても言えない。
目を逸らして、頬をかきながら答えた。
「いや……本当に樹里は女だったんだなって」
「まだ疑ってたのかよ!」
そういう意味じゃないんだけど……まぁ良いか。
「じゃ、風呂入って来るわ。あ、ベッドでも布団でも、好きな方使って良いよ」
「おう!」
とりあえず、見惚れていたなんて死んでもバレたくないので、早めに風呂に入った。
×××
風呂から出ると、重大なミスに気付いた。パジャマ部屋から持ってくんの忘れたわ。冬場は脱衣所に置いてあんだけど、春とか夏とかは早急に服を着る必要もないし、パンイチのまま部屋に戻って、そのまま着替えて寝るのが日常になってんのよ。なんなら、真夏はパンイチのまま寝ることもあるし。
まぁ、俺は見られるのは何の問題もないんだけど、向こうがどう思うか、だよな……。いや、自分でも驚いてんのよ。昔まではそんなに気を使った事もないけど、今こんなに神経質になるなんてな……。
「まぁ良いか」
俺も向こうのパンツ何度も見たし、イーブンでしょ。まぁ、一応は部屋の前でノックして、中の様子を確認、いれば取ってもらって、いなければそのまま入ろう。
呑気に廊下を歩いてると、トイレから出て来た樹里を普通に出会した。
「あっ」
「あ? ……なっ……⁉︎」
あ、ヤバい。殴られる。そして怒鳴られる。そして怒鳴られたら、リビングでお茶を飲んでる母親がキレ……それはマジでやばい!
「おまっ、何し……むぐっ!」
「待った待った。ちょっ、黙って」
「んーっ……んーっ……!」
涙目で顔を真っ赤にしている樹里を壁際に追いやって口を塞ぐのはとても良心が痛いが、背に腹は変えられない。そのまま用件を話した。
「すまん、パジャマを脱衣所に持ってくの忘れたんだ。謝る、謝るから大声は勘弁してくれ。お袋に叩き潰される」
「っ、っ……!」
頷いたので、とりあえず手を離した。ふぅ……助かった……。
「じゃあ、先に部屋戻ってるから……」
「お、おう……3分くらい待てば良いか?」
「カップ麺か俺は」
「良いから行けよ!」
先に戻って着替えを済ませると、樹里が部屋の中に入ってきた。
「悪いな、驚かせて」
「い、いいよ別に。……まぁ、少し驚いたが」
「俺も樹里に上半身裸で迫られたら驚くから……」
「お前許されたくねえの?」
ごめん、黙ります。
改めて、二人で部屋に戻り、とりあえず俺が布団、樹里がベッドに腰を下ろす。
もうようやく気を取り戻したのか、樹里が微笑みながら言った。
「ふぅ……いやー、一緒に寝んのも久々だよな」
「まぁ、うん……そうね」
正直、一緒の部屋で寝て良いのか、という疑問は晴れないが……まぁ、その辺は俺が決める事じゃないしね。
しかし、ドギマギしているのは俺だけのようで、樹里は笑顔のままスマホを取り出して明るく声をかけてきた。
「な、それよりさ、お前あそこにいたってことはポ○モンGOやってんだろ? 何持ってんだ?」
「え? あー……あんま強いのいねえよ」
「お、そうなん? じゃ、アタシが色々、教えてしんぜよー」
意外とそういう口調になることもあんのな……当時より少し明るくなったようだ。
俺もスマホを取り出し、位置情報サービスをオンにしてゲームを起動する。この起動する最中に色んなポケモンが描いてある絵がすごく好き。
「いつからやってんだ? このゲーム」
「いつからだろうな……まだ二年くらい?」
「じゃ、アタシの方が先輩だな。地元でも流行ったぜ、これ」
「ああ、あいつらか。元気にしてんの?」
「ったりめーだろ? この前の同窓会でも、お前のこと心配してたしな」
それはー……少し悪いことしたな。樹里が特別なのか、それとも他の連中も似たようなこと思っているのかは分からないが、まだ俺のことを友達だと思ってくれてんなら、会いに行ってみても良いのかもしんない。金と時間があれば。
「さて、まずは品定めを……って、は?」
「何」
「いやいや……待て待て」
そんなに弱いの? 俺のポ○モン。
「10匹しかいないのに、その10匹全部強いのはなんで⁉︎」
「え?」
「カイリキー、ケッキング、カイリュー、メタグロス、サーナイト、ゲンガー全部、最大値じゃねーか! 他にミュウツー、レックウザ、ディアルガ、テラキオンもまぁまぁだし……どうなってんだ⁉︎」
「値がマックスじゃない奴以外、全部博士に送ったからじゃね。そいつらが残ったのは偶々」
「強い奴ばっか引き当ててんな……」
そうなの?
「ポ○モンもやっぱ、強い奴と弱い奴がいるからな。お前の持ってる奴は全部強ぇんだ」
「ふーん……」
「ただ、お前自身のレベルが低いから、CPがさほど高くないのが弱点だな」
「どゆこと?」
「CPはプレイヤーのレベルを上げないと上がらないんだよ」
なるほどね。つまり、俺がもっと強くなれば良いのか。でも、経験値の回収に一々、レイドバトルやらないといけないんだよなぁ。気が向いた時ならともかく、毎日毎日、ゲームのために足を運ぶとか正直、かったるいんだが。
「ちなみに、アタシのポ○モンはこれだぜ」
樹里のスマホを見ると、カイリキーは勿論、ルカリオ、バシャーモ、キノガッサ、ゴウカザルなどかくとうタイプが多かった。樹里らしいと言えば樹里らしいな。
「へー、どれもカッコ良いな。特にルカリオ」
「だろ? ルカリオはアタシの相棒だからな」
クールなイメージあるしな。俺としてはカイリューの方が良いけど。デカいドラゴンの背中に乗って空を飛ぶのはいつの時代の男にとっても憧れだろう。
「……あ、そうだ。もし暇な日があったら、一緒にやりに行こうぜ。ポ○モンGO!」
「え、ポ○モンGOのためだけに出掛けんの?」
今の学生ってそういうもん? ゲーム好きなら当たり前なの? それとも俺の感性がズレてる?
「なわけないだろ。遊びに行くついでに、って事だよ」
「ああ、そゆこと。良いよ。どこ行く?」
「昔みたいに公園でバ……あー、バレーとかやろうぜ」
え、なんで急にバレー? と思ったのも束の間、すぐに分かったわ。ホント、優しい子だな。
「別にバスケ自体にトラウマはねーから。バスケでも良いよ」
「あ、そ、そうか? じゃあ、バスケにするか」
「良いね」
面白くなってきた。やっぱ俺たちはこうでなくちゃね。
「バスケ、かぁ……長いことやってねーなぁ」
「言っとくけど、前までのアタシだと思うんじゃねーぜ」
「そりゃこっちも一緒」
「どうかな? アタシはお前とまたやる為に、ちょいちょいバスケの練習してたんだ」
それは面白いな。……そんなに俺とバスケやるのが楽しかったのか。少し普通に照れるんだけど……、
あれ、でも樹里の方はバスケ部に入んなかったのかな。まぁ、その話をしようとしない辺り、話したくない事なのかもしれない。だから、聞かないでおこう。
「明日で良いのか?」
「ああ。明日、行こうぜ」
ふぅ、少し楽しみになってきた。結局、どのスポーツをやるにしても、どんな遊びをするにしても「誰とやるか」が一番、重要なのよ。
「ただ、明日は午後から仕事だから午前中だけになるけど……良いか?」
「仕事? ……ああ、アイドルか。大変だあね」
「なんだその口調。……それに、大変じゃねーよ。楽しくてやってる事だしな」
「へぇ……どんな感じなん?」
俺の中のイメージだと、アイドルなんてグループ間で誰がセンターを張るかの奪い合い、人気のためにSNSを乱用して個々のあざとい写真を上げ、バラエティでは「バカは可愛い」というバカな理屈を鵜呑みにして如何にバカなことを言えるか、表面上は仲良しグループ、裏では弱味、隠し事の探り合い、ある意味政治家みたいな世界だと思ってたから。中学の部活ですらそうだったし。
でも、樹里が平気だって言えるならそうなんだろ。こいつ隠し事がこの世の誰よりもヘタクソだし。
「アタシがいるのは『放課後クライマックスガールズ』っていうグループで、全員で五人なんだ」
「放課後ティータイムみたいだな。黒ストッキングアホの子絶対音感ギターボーカル、髪下ろした時が一番可愛いいつも走ってるドラム、初ライブでコケてパンツ晒した萌え萌えキュンベース、太眉たくあんお嬢様キーボード、あずにゃんでもいるの?」
「……お前何言ってんだ?」
「何でもない。続けて?」
まぁいないわな。
「てか、調べて良いか?」
「そ、それはダメだ!」
「なんでさ」
「め、目の前でアタシがヒラヒラした衣装着てるの見られるのなんて拷問だろ!」
……ほほう。
「あっ、な、なんだよそのニヤケ面!」
「なんだっけ……放課後『俺は最初から、クライマックスだぜェッ‼︎』だっけ?」
「なんだその奇天烈なグループ名! てか調べんな!」
大慌てで俺からスマホを奪おうとする樹里を、俺はひらりと回避する。
「やーめーろー!」
「恐ろしく鈍いクリンチ、俺でなくても見逃さないね」
「ブッ飛ばす!」
「やれるもんなやっ……いっづぁっッ‼︎」
ブッ飛ばすって言ったじゃん! なんで脛蹴り⁉︎
「クッ……お前の脛、硬……!」
しかも、なんでお前まで蹲ってんだ⁉︎
結局、俺が手に持っていたスマホは奪われてしまう。
「お前なぁ……アイドルが衣装を見られるくらいで恥ずかしがるなよ……」
「ファンは良いんだよ! でも知り合いに見られんのは恥ずかしいんだ!」
仕方ない。こいつが帰ったら調べよう(懲りない)。今は、とりあえず話だけ聞かせてもらうか。
「で、どんな感じなの? 放課後ス○ライド」
「クライマックスガールズだ! いい加減、覚えろ!」
そこを注意してから改めてアイドルの仕事について話し始めた。
「色々だよ。雑誌の撮影とか、ラジオの収録とか、トークイベントとか……ああ、あとCMとか。見なかった? 『銀河級にスゴい!』って奴」
「俺、テレビ見ないからなぁ」
「マジかよ。最近、あのCM以来、うちのグループじゃ『銀河級に』ってのが流行っててさ」
「何のCMだよ。グレンラガン?」
「いや、そのグレンラガンをアタシは知らない。で、その時にアタシ、カウボーイのカッコしたんだけどさー」
「銀河級のカウボーイ……?」
布団の上に座り直し、しばらく「放課後クライマックスガールズ」での仕事の話を聞いた。
その話をする樹里は、それはとても楽しそうに語る。グループ内の年齢が割とバラバラな所、ライバルみたいな社長令嬢、甘い物が好きな同い年、着物を着た一個下、自分よりスタイルの良い小学生の話など……とにかく色々。多分、俺が思ってたようなドロドロした関係はないんだろうな、と切に思う。
でも、だからこそ思う。友達も大勢出来て、信用出来る仲間も出来て、今が一番充実しているこいつに、もう、俺なんか必要無いのかもしんない。昔とは、もう関係も何もかもが違う。ボッチなのは俺の方なのだから。
樹里に、かっこ悪くなった俺の姿なんて、あまり見せたくない。そんな風に思った時だった。
「……な、葉介」
「え?」
な、なんだ急に改まって……。楽しそうに仲間の話してたと思ったら、突然、何を思ったの?
「もう、何処にも行くなよ」
「は?」
「お前がいなくなった後、本当に寂しかったんだからな。……もし、今、放クラのみんなが一人でも欠けたら、アタシはまた泣き喚くかもしんない。でも、それはお前も一緒だからな」
「き、急に何言ってんの……?」
「文句だよ。昔から何考えてんのか分かんねーやつだったけど、今のアタシがあるのはお前のおかげなんだから」
いやいや、大袈裟でしょ……。俺は所詮、夏休みの間、たくさん遊んだだけって関係だと思うし……。
「せっかく、久々に会えたんだ。毎日は無理だけど、またたくさん遊ぼうぜ。アタシも、出来るだけ連絡するからさ」
「……や、でも……」
「でも、じゃねえ! これは命令だ!」
「あれ、俺の立場ってお前の部下だっけ?」
……いや、でもまだそんな風に思ってくれているのか……。それは、正直言って嬉しい。東京に来てから、特に中学に上がってからは何をしても「そんなに先生に媚び売って楽しい?」とかわけわからん勘ぐりをされたのに。
樹里は、本当に昔から変わらない奴なんだな……。お前がそう言うなら仕方ない。こいつにだけは、俺もちっとは真摯に向き合った方が良いな。
「……分かったよ」
「っし、じゃあそろそろ寝るか。明日、朝からバスケだかんな!」
「はいはい」
それだけ挨拶すると、とりあえず布団の中に入った。
樹里ちゃんがバスケ辞めた理由が怪我だったらサヨナラバイバイ。