最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。   作:バナハロ

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放クラ会議(2)

「あ〜……つっかれた……」

 

 まずは寮に引き返し、着替えとシャワーを済ませてから事務所に来た樹里は、ソファーの上で横になる。流石にバスケに熱中し過ぎた。

 ……でも、楽しかった。やっぱり、バスケそのものは楽しい。相手が葉介だったから、というのもあるが。

 

「あら、樹里。女の子が人前でそんな風にダラっとしてちゃダメよ?」

 

 そんな樹里に、夏葉が後ろから声をかける。

 

「あー……悪い。さっきまで、ちょっと知り合いとバスケやってたからな……」

「あら、もしかして初恋の彼に会えたのかしら? 良かったわね」

「ち、ちげーよ! なんで分かるんだよ!」

「違うのかそうなのか悩ましい返事をするわねあなた……」

「初恋じゃねえって言ってんだよ!」

 

 まったく、どいつもこいつも他人の色恋には必要以上に反応する人ばかりである。実際はみんな箱入り娘の癖に。彼氏がいそうな人なんて、和泉愛依や桑山千雪くらいのものだろう。案外、園田智代子もいそうではある。

 

「そういうことね……でも、朝からバスケなんて健康的で良いじゃない」

「そうだけどよ……流石に全開でやり過ぎたぜ……明日筋肉痛だなこれ……」

「え、そんなに全力でやったの……?」

「そりゃそうだろ。ゼッテー負けたくなかったし」

「気持ちは分かるけど……」

 

 だからと言って仕事の前に全力を出す事はないでしょ、と呆れてしまった。

 

「でも、良かったわね。会えたのなら」

「おう。元気そうだったから良かったぜ」

 

 元気ではあったが、深い心の傷を負ってしまっていた。人間不信一歩手前、と言った所だろうか? それでも、自分に出来る範囲で「アタシはお前の事を信じているから、お前もアタシを信じろ」と伝えたつもりだ。

 

「で、その子はどんな子なの?」

「え?」

「聞きたいわ。樹里のお友達の話」

 

 まぁ、隠すような事でもないし、それにまた友達になれた今、むしろこっちから彼について話したいくらいだ。

 

「あいつは、アタシに友達が出来るきっかけをくれた奴なんだよ」

「友達?」

「ああ。小学生の頃、アタシは学校に友達がいなかったんだよ。怖がられてて」

 

 ガサツな口調は子供の頃からそうだった。その上、目つきも他の子に比べると鋭くて、髪型も短めだったから、怖がられるのも分からなくはない。人間は人と違うものに対して距離を置く生き物だ。

 

「アタシも口では『友達なんてミニバスのクラブチームの方にいれば良い』なんて言ってたけど、本当は友達が欲しくてな……その葛藤から、たまに学校の校庭でウロウロしてたりしてたんだよ」

「なんか……寂しい子なのね……」

「るせーよ。てか、分かるだろ? そういう気持ち」

「分かんないわよ。私なら声かけるくらい普通に出来るもの」

 

 しかし、怖がられていたらそうとも限らない。まぁそればっかりはその当人と同じ境遇にならなければ分からないものだ。

 

「と、とにかく、そん時に仲間に入れてくれたのがあいつだけだったんだよ。他の奴の反対を押し切って、強引に仲間に引き入れてくれた。それから、アタシにも友達がたくさん出来たんだ」

 

 それを聞いた夏葉は思わず黙り込んで樹里を眺める。その視線がどこか腹立ったので、思わず眉間にシワを寄せた。

 

「……なんか言えよ」

「いや、この前の凛世の予想、ドンピシャじゃない」

「それな……」

 

 そればっかりは否定できない。あの勘の悪そうな少女に見破られては、自分もまだまだだ。

 

「それで……その時なのね、初めて恋に落ちたのは……」

「しつこい! それは違う!」

 

 本当に何なのだろうか、このお嬢様は。少女漫画の読みすぎなんじゃないだろうか? 実際、転校されたときは悲しさと寂しさ以外の胸の痛みを感じていたし、数日は彼の顔が頭から離れなくなったが。

 今は別にそんなことはない。久々に会えて嬉しかったし、文句も不満も愚痴も含めて色々と言いたい事はたくさんあったが、やはり最初の感情は嬉しさだったのは覚えているが、断じて恋愛感情などではない。

 

「そもそも、アタシは別に恋愛とかした事ねーし、誰かを好きだなんて思った事もねーよ!」

「ええ、わかったわよ。冗談だから」

「大体、あんなデリカシーがない奴、誰が好きになるか! あいつ、この前、再会した時までアタシのこと男だと思ってたんだぜ⁉︎」

「分かった、分かったから」

「初めて会った時なんて、アタシが怖くない事を証明するために、みんなの前でズボンを脱が何でもない」

「今のは分からなかったわ。もう一度詳しく」

「私も聞きたいです!」

「え、何何? 樹里ちゃん、その男の子と一線を超えたの?」

「ふふ……凛世の言った通りだったみたいですね」

「わあ! お前らどっから湧いて出た!」

 

 夢中になり過ぎて索敵を怠った。周りにはいつのまにかいつものメンバーが集結している。オリマーが笛を吹いて集まるピクミン達と同じレベルだ。

 そんなピクミン達は、目を輝かせて樹里に迫る。腕を掴まれ、くすぐられ、小突かれ、その他諸々、色々された挙句……。

 

「だー分かった、話すから! 話すからこれ以上、ちょっかい出すのはやめろー!」

 

 陥落してしまうのであった。

 

 ×××

 

 で、出会った当初の話をした。この際だから、愚痴ってるような口調で言うことにした。掻い摘んで言うと「あいつ私のこと男だと思ってたのよ? 酷くない?」って具合である。

 その作戦はうまく行ったようで、四人とも微妙な顔をする。

 

「確かに……それは酷いですね」

「樹里ちゃん可愛いのに……酷いです!」

「確かに口調は荒いけど……でも樹里ちゃんだって女の子らしい所あるのに」

「胸は小さいけどね」

「夏葉、お前表出ろ!」

 

 一人だけ慰めていなかった。確かに85様からすれば75なんてアリンコ同然かもしれないが、そもそも樹里にとって胸なんて運動するときには邪魔にしかならないので小さくて結構なのだ。負け惜しみではない。

 

「でも、大事な人なんですよね? 仲直り出来て良かったです!」

「別に喧嘩してたわけじゃねーぞ、果穂」

 

 そこを一先ず注意すると、智代子がニヤニヤしながら聞いた。

 

「で、どうなの? ジッサイ」

「何が?」

「好きなの?」

「ちがうっつーの!」

「いやーだってさ、こう言っちゃ冷たく聞こえるかもしんないけど、小学生の頃の友達なんて、普通は転校しちゃったらもうそのまま会わなくない? 会っても声をかける程度で、わざわざ朝早く起きてバスケするー?」

「っ……」

 

 それはその通りだ。相当、大事な相手で無いとそこまでしようと思えない。

 

「そういえば……樹里さん。昨夜は帰って来ませんでしたが……今朝、共にその殿方とばすけをされたということは、お泊まりでもなさったのですか?」

「ちょっ、バカ凛世お前……」

「え……お、お泊まり?」

「男の子と?」

「わー! 本当に仲良しなんですね!」

 

 分かってない果穂はともかく、夏葉と智代子は苦笑いを浮かべる。大人になったのね……と言わんばかりの反応に、大慌てで樹里は声を掛けた。

 

「ちょっ……バカ、何もねーよ! 何想像してんだ!」

「や、だって……前はパンツ見た仲なんでしょ?」

「何もないはずなくない?」

 

 二人とも、おそらくそう言った経験が無いのだろう。頬を赤らめたまま顔を見合わせる。分かっていない果穂の耳を、後ろから微妙に赤面させた凛世が塞ぐ。

 

「わっ、な、なんですか? 凛世さん!」

「果穂さんには……まだ、早いです……」

「聞こえませーん!」

「ちょっ、凛世! お前までやめろって! ホントなんもねえんだから!」

「寝てる間に……実は胸に秘めた想いを告げるため、密かに頬に口付けをするのは……鉄板です……」

「アタシがする側かよ! てかしねーし想いなんて秘めてねえから!」

 

 このままではどんな噂が広まるかわかったものではない。仕方ないので、もう全部を話すことにした。

 

「はぁ……もうわかったっつーの。……アタシは、あいつに感謝してんだよ」

「感謝?」

「そもそも、アタシがアイドルになったのだって……もしかしたら、葉介のお陰かもしんねーんだから」

「……男女間では、下の名前で呼ぶようになれば交際が始まったようなものだと……」

「おーい凛世ー! お前はその世界観から離れろー!」

 

 とりあえずそこにツッコミを入れておいてから話を続けた。

 

「昔、あいつに言われたんだよ。『何事も、やらずに後悔するよりやって後悔した方が良いでしょ』って。子供に言われた事だし、普通は説得力なんて感じねえんだろうけど、実際、あいつはそう言ってアタシに声を掛けてくれて、あいつには新しい友達が出来て、アタシにはたくさん友達が出来たんだ。だから、それはアタシの信条にもなりつつあるし、それでアイドルの世界に飛び込んで、お前らと会えた」

 

 それを聞いて、四人とも目を丸くする。自分達の話が出てくると思わなかったのだろう。

 

「あいつ自身はそんな大層な事、考えてなかっただろうし、そんな話をアタシにしたことさえ忘れてると思う。……でも、それで今のアタシがあるんだ。だから……その、何? あいつとの縁は切りたくねえし、出来る事ならいつまでも一緒に遊びてえんだよ」

「わぁ……なんだか、素敵な話ですね!」

「「「……」」」

 

 一人感動している果穂はともかく……他の三人は顔を見合わせる。

 

「え……これ、え?」

「好きじゃん……超好きじゃん……」

「まるで少女漫画の長台詞を聞いているような気分でした……」

「小学校の頃からの初恋、ダラダラと長続きしちゃってるわよねこれ」

「急に消えた分、切ない思いだけが残ってしまったわけだよね……」

「……当時、無自覚だった事から、このままダラダラと続いてしまった、と見るべきでしょう……」

 

 そこまで話してから、三人は再び樹里の方を見る。何も分かっていない果穂と、仲良くお喋りしていた。

 

「じゃあ……私が樹里ちゃんに出会えたのも、その葉介さんのお陰ですね!」

「はは、そーかもな。今度、機会があれば紹介してやるよ」

「ありがとうございます!」

 

 微笑ましすぎる。良いのかこれで、と思うほどに、だ。何処まで純情なのだろうか、あのバッドガール(笑)は。

 

「……まぁ、今は何もしない方が良いんでしょうね」

「だね。なんかあれはあれで可愛いし」

「……はい。他人の色恋に首を突っ込むとろくな事がない、と聞きました」

 

 なので、とりあえずスルーしておくことにした。とはいえ、だ。お泊まりはやり過ぎな気もする。見守る側としては何の問題も無いが、ファンに見られたらコトだ。

 とりあえず、年長者の夏葉が注意してみる事にした。

 

「でも、樹里。お泊まりは良くないわよ? やむを得ない場合以外はなるべく避けないと……」

「大丈夫だよ。あいつは絶対に変なことしねーから」

「いやそうじゃなくてね? それで周りに変な誤解を受けるのは嫌でしょ?」

「あー……そういうことか」

 

 一応、アイドルだし、それはあるかもしれない。

 

「……わーったよ。泊まりは控える」

「ええ」

 

 すると、プロデューサーがやって来たので、五人とも立ち上がった。これから仕事だ。アイドルとしての仕事も手抜きは許されない。

 心なしか疲れが増した気がする樹里は、何とか気を落ち着けて仕事に向かった。

 

 

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